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【プロローグ】
誰も知らない俺の秘密
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俺、彼方剛には秘密がある。
「あのっ! 私と付き合ってください!」
春うらら。新緑は街路樹を彩り、新入学生もある程度大学生活に慣れてきたであろう五月。
人通りがほぼ無い校舎裏で会いたいと、俺は名前も知らない女の子から友人経由で呼び出しを受けていた。
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しいよ。けれど、今は誰かと付き合おうとは思っていないんだ。だから君とは友人として仲良くしていきたいな」
「ッ……! 失礼、します」
彼女は整えられた爪が手のひらに食い込みそうなほど拳を握りしめ、踵を返した。
今学期に入って何度目だろう。こうして想いを告げられるのは。
「ごーう。まーた告白断ってんの? やっぱりモテる男は違うね~」
彼女の背中が遠のいた後、友人である藤嶋文がどこからともなく出てきて、俺の肩に腕を回した。
「……文、揶揄うのはやめろって」
「揶揄ってねーよ。ただ素直にスゲーって思っただけ。本当、剛なら女選び放題だよな」
きっと彼はこの一連の流れを見ていたのだろう。
それもそうだ。この場を設けたのは文自身。どんな顛末を迎えるのか野次馬をしていたに違いない。
「ありがたいけど、今は女の子と付き合う気はないからさ」
「ふ~ん、そーなんだ。勿体ねー。俺が剛ならやりたい放題するけどな」
「確かに、文は女大好きだもんなー」
彼は女好きで有名だけど、彼女とはいつも長続きしなかった。
その上、モテたがればモテたがる程空回りをするある種残念な男だ。
ただし明朗快活な性格は人を惹きつけ、恋愛関係には発展しないものの、友人は沢山いる。俺もそのうちの一人だ。
「ご名答! 実際剛は女入れ食い状態だろ? 羨ましすぎるぜ、全くよー。なぁ~、剛。女紹介してくれよ~」
「文はそればっかりだな」
「剛は合コン誘ってもいっつも来ないもんな~。ダチの飲みとかの参加率バリ高いのに、合コンは全部断るもんな」
「そんなん、たまたまだって。タイミング悪ぃんだよな~いっつも」
そんな俺の言い訳に、文は完全に騙されているようだ。
けれどそれには気付かず、彼は話を続ける。
「それでもさ、見た目とのギャップが最高~って女子からも人気あるのマジで羨まし~。俺なんて断ったら『ブスのくせに調子乗んな』とか言われてさ。あーあ。いいよな~イケメンは」
「文だってイケメンだろ?」
彼は三白眼気味ではあるが、いつもニコニコとしてて愛嬌のあるタイプだ。
決して不細工ではない。顔のパーツだってはっきりしている。確かに突出したイケメンとは言えないが、清潔感があって好感が持たれるタイプだ。
「それ言える剛ってマジで性格よすぎ。顔も良くて性格も良し、勉強も運動も最強とか、神は一体剛に何物与えてるんだっつーの」
「大袈裟だって。ほーら、文、授業始まる。次の講義、出席、一分でも遅れたら遅刻扱いになるから急げって」
「そうだった、ヤベー!」
剛も早く来いよ! と文は駆け出した。
嘘だ。まだ授業開始には時間がある。
ただこの空気を変えたかっただけだ。
俺、彼方剛の秘密――それは、恋愛に奥手すぎる、童貞だという事だ。
「あのっ! 私と付き合ってください!」
春うらら。新緑は街路樹を彩り、新入学生もある程度大学生活に慣れてきたであろう五月。
人通りがほぼ無い校舎裏で会いたいと、俺は名前も知らない女の子から友人経由で呼び出しを受けていた。
「ありがとう。気持ちはすごく嬉しいよ。けれど、今は誰かと付き合おうとは思っていないんだ。だから君とは友人として仲良くしていきたいな」
「ッ……! 失礼、します」
彼女は整えられた爪が手のひらに食い込みそうなほど拳を握りしめ、踵を返した。
今学期に入って何度目だろう。こうして想いを告げられるのは。
「ごーう。まーた告白断ってんの? やっぱりモテる男は違うね~」
彼女の背中が遠のいた後、友人である藤嶋文がどこからともなく出てきて、俺の肩に腕を回した。
「……文、揶揄うのはやめろって」
「揶揄ってねーよ。ただ素直にスゲーって思っただけ。本当、剛なら女選び放題だよな」
きっと彼はこの一連の流れを見ていたのだろう。
それもそうだ。この場を設けたのは文自身。どんな顛末を迎えるのか野次馬をしていたに違いない。
「ありがたいけど、今は女の子と付き合う気はないからさ」
「ふ~ん、そーなんだ。勿体ねー。俺が剛ならやりたい放題するけどな」
「確かに、文は女大好きだもんなー」
彼は女好きで有名だけど、彼女とはいつも長続きしなかった。
その上、モテたがればモテたがる程空回りをするある種残念な男だ。
ただし明朗快活な性格は人を惹きつけ、恋愛関係には発展しないものの、友人は沢山いる。俺もそのうちの一人だ。
「ご名答! 実際剛は女入れ食い状態だろ? 羨ましすぎるぜ、全くよー。なぁ~、剛。女紹介してくれよ~」
「文はそればっかりだな」
「剛は合コン誘ってもいっつも来ないもんな~。ダチの飲みとかの参加率バリ高いのに、合コンは全部断るもんな」
「そんなん、たまたまだって。タイミング悪ぃんだよな~いっつも」
そんな俺の言い訳に、文は完全に騙されているようだ。
けれどそれには気付かず、彼は話を続ける。
「それでもさ、見た目とのギャップが最高~って女子からも人気あるのマジで羨まし~。俺なんて断ったら『ブスのくせに調子乗んな』とか言われてさ。あーあ。いいよな~イケメンは」
「文だってイケメンだろ?」
彼は三白眼気味ではあるが、いつもニコニコとしてて愛嬌のあるタイプだ。
決して不細工ではない。顔のパーツだってはっきりしている。確かに突出したイケメンとは言えないが、清潔感があって好感が持たれるタイプだ。
「それ言える剛ってマジで性格よすぎ。顔も良くて性格も良し、勉強も運動も最強とか、神は一体剛に何物与えてるんだっつーの」
「大袈裟だって。ほーら、文、授業始まる。次の講義、出席、一分でも遅れたら遅刻扱いになるから急げって」
「そうだった、ヤベー!」
剛も早く来いよ! と文は駆け出した。
嘘だ。まだ授業開始には時間がある。
ただこの空気を変えたかっただけだ。
俺、彼方剛の秘密――それは、恋愛に奥手すぎる、童貞だという事だ。
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