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【第三話】
黄金の蜜より甘いくちづけ
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もう既に咲と会うのは四度目。歌舞伎町の裏路地にあるホテル街への道も迷わず進めるようになり、建物に入るのも以前よりはハードルが下がった。
相変わらず咲はいつも俺より早くホテルに居て、部屋を確保している。
そして部屋に着くころには、咲はシャワーを浴び終え、ゆったりとバスローブを身に纏いながら煙草を蒸しているのだ。
「咲! ごめん、待たせたか?」
「ぜーんぜん。今日は何を買ってきてくれたの?」
そうは言うものの、すでに三本の吸い殻が灰皿へと押し付けられていた。
それに気付かないふりをして、俺はテーブル上でケーキボックスを広げる。
「これ、美味しいっておすすめしてもらったはちみつのタルト!」
「ありがと。これ、中のクリームが黄金色で美しいね」
「そうなんだ。これを買った店、「abeille」って言うんだ」
「おしゃれな名前だね」
「そう。フランス語で蜂って意味なんだって。だからイチオシははちみつタルトって店員さんがスッゲー勧めてくれたんだ。だから咲と俺の分二つ買ってきたってワケ」
俺は自慢げにそんなことを言いながら、咲に紙製の皿とプラスティックのフォークを渡す。
二度目の密会の後、咲と会うときはそれらを必ず持ち歩くようにしていた。
咲は俺からカトラリーを受け取ると、別のケーキを指さした。
「うん、看板メニューに相応しい輝きだ。ちなみにあともう二種類入ってるこのケーキ達は?」
「こっちははちみつのベイクドチーズケーキ。で、こっちがハニーヨーグルトケーキ。ハニーヨーグルトの方はあっさりしてそうだから、咲でも二種類食べられるかなって思って」
「確かに、これなら僕も二つ食べられそう。じゃあまずはセックスする前にはちみつタルトを頂こうかな」
さらっと咲が爆弾を投下するから、俺は思わずむせてしまう。
「セッ……! けほっ、けほっ」
「本当に剛は直接的な言葉にまだ慣れないね~。まあ一ヶ月前まで童貞だったしそんなものかな。かわいいね、剛」
「別にっ、可愛くない。つか俺、男だぜ? 可愛いって言われても嬉しくねーし」
「あははっ、そうだったんだ? でも剛、耳真っ赤だよ?」
「うるせー! あーあ。俺、これでも学校じゃかっこいいって言われてるんだぜ? なのに咲の前ではカッコ付かないの、ホント、なんなんだろうな」
咲は事あるごとに俺を可愛いと言ってくる。
こんな図体のデカい男を捕まえて可愛いなんて言ってくるのヘンだろ、なんて思うのに、愉快そうに口角を上げられたら、俺は満更でも無くなってしまう。
「僕はそんな剛も可愛いと思うけどね」
「だーかーらー。可愛いって言うなって言ってるだろ!」
「はいはい。ほら、食べたら剛もシャワー浴びてきなよ。ゆっくりでいいからね」
「……‥俺、本当に咲にペースを握られっぱなしだな」
「そう? 僕はすごく楽しいけどね。それじゃあ剛に感謝して、いただきます」
「いただきまーす」
同梱されていたウエットティッシュで手を拭くと、咲はタルト生地を崩さず、ケーキにフォークを入れる。
それがものすごくホロホロしており、俺は絶対に真似できないな、なんて思ったから、手掴みでタルトを頬張った。
「んっまー! このフィリング、甘いのに全くくどくなくて、優しい味がする。それになんかこのハチミツ、フルーティーだよな。市販のやつとちょっと違う、雑味の無さって言うのかな。それにタルト生地。サクサクなのは勿論、ちょっとしょっぱいのが良い。フィリングとタルト生地、両方合わさると、甘さしょっぱさが最高のバランスを作り出してるな」
「剛ってものすごく美味しそうにものを食べるよね。食レポもうまいし。それってどこから仕入れた技術なの?」
「グルメ番組とか結構好きでさ。ただ「おいしい」っていうより、「ここが美味しい!」って言った方が、よりウマさが倍増する気がするんだよな。あ、でも鬱陶しかったらごめん」
「鬱陶しいなんてことは無いよ。楽しそうに食事をする人が傍に居ると、僕まで楽しくなってくるから、いいなぁって思っただけ」
「そうか? ほら、タルト以外もおいしそうだぜ? 早く食べよ!」
「はいはい。焦らなくてもケーキは逃げないよ」
なんて笑い合いながら一緒におやつを食べていると、幸福で心が満たされた。
身体だけじゃない、こういう時間ってすごく大切だと思うんだよな。
二人ともケーキを食べ終わり、本当はこのままずっと雑談をしていたいくらいだけど、咲はそれをよしとしない。
咲は二人分の食器を片付けながら、俺に身を清めるよう背中を押してきた。
「さ、お腹も満たされたことだし、今日も実践授業始めますか。剛、シャワー浴びておいで」
本当は少し物足りなかったけど、咲の瞳は有無を言わせないようだった。
だから俺もそのまま指示に従う。
「分かった。じゃあ行ってくるな」
「いってらっしゃ~い。僕を抱く準備、ちゃんとしてきてね」
「~~ッ! 行ってきます!」
その言葉と笑顔だけで身体が疼いてしまうのだから、俺は相当咲に惹かれている事を、改めて実感させられたのだ。
相変わらず咲はいつも俺より早くホテルに居て、部屋を確保している。
そして部屋に着くころには、咲はシャワーを浴び終え、ゆったりとバスローブを身に纏いながら煙草を蒸しているのだ。
「咲! ごめん、待たせたか?」
「ぜーんぜん。今日は何を買ってきてくれたの?」
そうは言うものの、すでに三本の吸い殻が灰皿へと押し付けられていた。
それに気付かないふりをして、俺はテーブル上でケーキボックスを広げる。
「これ、美味しいっておすすめしてもらったはちみつのタルト!」
「ありがと。これ、中のクリームが黄金色で美しいね」
「そうなんだ。これを買った店、「abeille」って言うんだ」
「おしゃれな名前だね」
「そう。フランス語で蜂って意味なんだって。だからイチオシははちみつタルトって店員さんがスッゲー勧めてくれたんだ。だから咲と俺の分二つ買ってきたってワケ」
俺は自慢げにそんなことを言いながら、咲に紙製の皿とプラスティックのフォークを渡す。
二度目の密会の後、咲と会うときはそれらを必ず持ち歩くようにしていた。
咲は俺からカトラリーを受け取ると、別のケーキを指さした。
「うん、看板メニューに相応しい輝きだ。ちなみにあともう二種類入ってるこのケーキ達は?」
「こっちははちみつのベイクドチーズケーキ。で、こっちがハニーヨーグルトケーキ。ハニーヨーグルトの方はあっさりしてそうだから、咲でも二種類食べられるかなって思って」
「確かに、これなら僕も二つ食べられそう。じゃあまずはセックスする前にはちみつタルトを頂こうかな」
さらっと咲が爆弾を投下するから、俺は思わずむせてしまう。
「セッ……! けほっ、けほっ」
「本当に剛は直接的な言葉にまだ慣れないね~。まあ一ヶ月前まで童貞だったしそんなものかな。かわいいね、剛」
「別にっ、可愛くない。つか俺、男だぜ? 可愛いって言われても嬉しくねーし」
「あははっ、そうだったんだ? でも剛、耳真っ赤だよ?」
「うるせー! あーあ。俺、これでも学校じゃかっこいいって言われてるんだぜ? なのに咲の前ではカッコ付かないの、ホント、なんなんだろうな」
咲は事あるごとに俺を可愛いと言ってくる。
こんな図体のデカい男を捕まえて可愛いなんて言ってくるのヘンだろ、なんて思うのに、愉快そうに口角を上げられたら、俺は満更でも無くなってしまう。
「僕はそんな剛も可愛いと思うけどね」
「だーかーらー。可愛いって言うなって言ってるだろ!」
「はいはい。ほら、食べたら剛もシャワー浴びてきなよ。ゆっくりでいいからね」
「……‥俺、本当に咲にペースを握られっぱなしだな」
「そう? 僕はすごく楽しいけどね。それじゃあ剛に感謝して、いただきます」
「いただきまーす」
同梱されていたウエットティッシュで手を拭くと、咲はタルト生地を崩さず、ケーキにフォークを入れる。
それがものすごくホロホロしており、俺は絶対に真似できないな、なんて思ったから、手掴みでタルトを頬張った。
「んっまー! このフィリング、甘いのに全くくどくなくて、優しい味がする。それになんかこのハチミツ、フルーティーだよな。市販のやつとちょっと違う、雑味の無さって言うのかな。それにタルト生地。サクサクなのは勿論、ちょっとしょっぱいのが良い。フィリングとタルト生地、両方合わさると、甘さしょっぱさが最高のバランスを作り出してるな」
「剛ってものすごく美味しそうにものを食べるよね。食レポもうまいし。それってどこから仕入れた技術なの?」
「グルメ番組とか結構好きでさ。ただ「おいしい」っていうより、「ここが美味しい!」って言った方が、よりウマさが倍増する気がするんだよな。あ、でも鬱陶しかったらごめん」
「鬱陶しいなんてことは無いよ。楽しそうに食事をする人が傍に居ると、僕まで楽しくなってくるから、いいなぁって思っただけ」
「そうか? ほら、タルト以外もおいしそうだぜ? 早く食べよ!」
「はいはい。焦らなくてもケーキは逃げないよ」
なんて笑い合いながら一緒におやつを食べていると、幸福で心が満たされた。
身体だけじゃない、こういう時間ってすごく大切だと思うんだよな。
二人ともケーキを食べ終わり、本当はこのままずっと雑談をしていたいくらいだけど、咲はそれをよしとしない。
咲は二人分の食器を片付けながら、俺に身を清めるよう背中を押してきた。
「さ、お腹も満たされたことだし、今日も実践授業始めますか。剛、シャワー浴びておいで」
本当は少し物足りなかったけど、咲の瞳は有無を言わせないようだった。
だから俺もそのまま指示に従う。
「分かった。じゃあ行ってくるな」
「いってらっしゃ~い。僕を抱く準備、ちゃんとしてきてね」
「~~ッ! 行ってきます!」
その言葉と笑顔だけで身体が疼いてしまうのだから、俺は相当咲に惹かれている事を、改めて実感させられたのだ。
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