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シェヘラザードとスネークステップ
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十二月十七日 夜、宮下公園で蛇兄さんに出逢った。
その人は陽が落ちきった暗闇に紛れるように俯いたまま座っている。
その姿は俺だけに見えているのか、はたまた皆気付いていても気付かないふりをしているだけなのか、あきらかに目立っているはずその人は、何故か「誰からも見えないモノ」のように扱われていた。
ボサボサの黒髪、真っ黒のスウェット上下、前髪が鼻の辺りまで伸びているうえ、下を向いたまま微動だにしないのだから、若いのか、年寄りなのかもわからなかった。
俺は突拍子もないことができるタイプじゃないし、危ない橋も渡らない。
なのにその姿にどうしようもなく惹かれ、気が付いた時には声を掛けないわけにはいかない程の距離にまで近付いていた。
「……どん」
すると微動だにしないままのその人は、ほとんど空気みたいな声で何かを呟いている。
項垂れたままの頭頂部を見下ろしてみてわかったことといえば、その耳には左右合わせて五つのピアスが嵌っていて、持て余したように組んだ細長い指には何かのタトゥーが彫られているということだけ。
「牛丼が食いてえ……」
やはりカカワッテはいけない人だった。
そう思った矢先にご所望されたのは、一番意外で、でも、俺にも用意できそうなものだった。
その人は陽が落ちきった暗闇に紛れるように俯いたまま座っている。
その姿は俺だけに見えているのか、はたまた皆気付いていても気付かないふりをしているだけなのか、あきらかに目立っているはずその人は、何故か「誰からも見えないモノ」のように扱われていた。
ボサボサの黒髪、真っ黒のスウェット上下、前髪が鼻の辺りまで伸びているうえ、下を向いたまま微動だにしないのだから、若いのか、年寄りなのかもわからなかった。
俺は突拍子もないことができるタイプじゃないし、危ない橋も渡らない。
なのにその姿にどうしようもなく惹かれ、気が付いた時には声を掛けないわけにはいかない程の距離にまで近付いていた。
「……どん」
すると微動だにしないままのその人は、ほとんど空気みたいな声で何かを呟いている。
項垂れたままの頭頂部を見下ろしてみてわかったことといえば、その耳には左右合わせて五つのピアスが嵌っていて、持て余したように組んだ細長い指には何かのタトゥーが彫られているということだけ。
「牛丼が食いてえ……」
やはりカカワッテはいけない人だった。
そう思った矢先にご所望されたのは、一番意外で、でも、俺にも用意できそうなものだった。
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