シェヘラザードと蜿蜿長蛇

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シェヘラザードとスネークステップ

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「随分と縮こまるもんだな?」

 ロフトの下から聴こえたその声に、身体が先に反応した。ゴンっという鈍い音が狭い部屋に響き、その音を認知した後に頭頂部が痛む。

「えっ……って、痛あ……」
「おいおい。お前さんは自分の図体すら把握してねえのか?さっきまであんなに小さく丸まって、少しは可愛げがあったのに。そんな狭い所で急に起き上がったら、そりゃあ何処かしらぶつけるのはしょうがねえ。おっと、何でもかんでもしょうがねえで済ませちゃいけねえんだが、まあ、しょうがねえな」
 蛇兄さんは一人で納得した様に頷くと、自分で端に寄せたローテーブルをまた元の位置まで運び、その上に乗った俺の服をドサドサと床に落とした。やっぱり今日も「何してくれるんだ」とか「他人の服は普通そんな風に扱わない」とは言えず、ロフトから見下ろせる範囲を全て占拠し、テイクアウトしてきた牛丼をひろげ始めた蛇兄さんを黙ってみつめる。その背中はうきうきとしていて、それが無性に嬉しい。すでに牛丼に夢中になった蛇兄さんは背中を丸め、やっぱり牛丼を赤ピンクにしている。
「ねえ、俺の分は?」
「ん?お前さんも食べたきゃ買ってくれば良いだろ。牛丼っていうのは、そこら辺にやたらめったら落ちてるわけじゃないんだからな」
「そうやってワケのわかんないこと言えばいいと思って。ってかさ、それ、ちゃんと買ってきたってこと?」
「当たり前だろ。他にどうやって手に入れるんだよ?」
「ほら、他の誰かに……俺みたいに……とか?」
「何だそりゃ?」
「まじ、何だこれ……いや、ごめん。今言ったことはとりあえず忘れて」
 得体の知れない人、いや、人かどうかすら定かでない蛇兄さんに向かって、思わず嫉妬深い恋人みたいな物言いをしてしまった。

 同時に、一晩の過ちに似たそれが、寂しさのあまりに見た夢でなくて良かったと安堵した。
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