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「ちょっと……まじ?」
「まじでございます」
神サマとコマの隙のない軽快なやり取りにようやく口を挟めたのはオースケだった。というか、オースケは口を挟まないではいられなかったのだ。
ボーイズグループ戦国時代に突入した昨今、この日本における『Reach a Stage of God.』というのは、非常に特別なパフォーマンスバトルだった。選ばれし六組しか参加できないこのバトル。その出場権でさえ得ることが難しいこのバトルに、これからデビューする彼らが挑戦するということなんざ夢のまた夢。ましてやそこでトップを獲ることを目標にするだなんて……そんなことをサラッと言ってのけれるのは、この神サマくらいなものだろう。
「今度の『Reach a Stage of God.』でトップを獲るのは至難の業だからね。だってシード権は絶賛三連覇中、絶対王者のElixirが持っているし。残りの五枠にはCHARTも入ってくるだろうな……それに、今年やってたオーディション番組からデビューするhackerなんて、もう既にものすんごい人気があるしね!出場権の獲得だけでも厳しいなあ……かぁっ、腕が鳴るね!」
「まあ、私たちも研究を重ねてきましたもので、すっかり詳しくなってしまいました……だからその難しさは理解できていると自負しております」
「ちょ、ちょっと待って。勝手に話を進めないでくださいよ……その、もう全部、色々と信じ難いんですけど……仮にですよ、神…サマたちの話が全部本当だったとしたら……僕たちじゃ役不足なんじゃ?だって、そもそも僕らはこれからデビューするんだし、バックボーンも何もないんです。しかも僕らはオーディション番組で選ばれたわけでもないからファンだってまだ一人もいないし、ダンスとかも三年前から始めて……」
「うんうん。その経緯はもちろん知ってるよ?キミたちがずっと一緒のチームでバスケをしていたことも、三年前に……ボーイズグループを結成してデビューを目指すことにした経緯も、全部ね……」
神サマはそれまでとは打って変わって穏やかな眼差しをハルとニコへと向けた。
元々ahornの五人は小さい頃から同じチームでバスケをしていた。一学年下のニコを除く四人が中三の夏に引退するまでは、彼らはバスケで全国大会優勝を目指していたのだ。
しかし、その夏……彼らの親友であり、ニコの兄でもある楓が亡くなったことで彼らの人生は一変した。
ニコと楓の兄弟はよちよち歩きの頃からダンスを習っていた。そして特に楓の実力は凄まじいものだった。
楓のダンスをみた人たちはもれなく全員、彼がプロの表現者になるということを確信したし、楓自身もそうなるものだと確信していた。
ニコはそんな兄の姿を間近でみていたせいか、小学生になると間もなくダンスを辞め、ハルたちの所属するミニバスのチームに入った。ハルたちと同じ学年だった楓と四人は、こうして出会い、ニコを含めた六人はすぐに意気投合。それ以来彼らは、種目こそ違えど「高みを目指している同士」として、固い絆を育んできた。
それなのに……ハルたちが中学校最後の夏、都大会を目前に控えていた暑い日、楓は呆気なく死んでしまった。
「キミたちが……楓くんの遺志を継ぐのは必然なのだろ?」
「まじで全部知って……?」
「もちろん。だから余計さ。彼のためにも頂きを共に目指そうじゃないか!」
彼らの事情を踏まえた上で彼らを選んだ神サマは、これでもかという程のドヤ顔でそこにいる全員の顔を見据える。
「え……どう、する?」
その顔面の圧に押されたahornのメンバーの心は傾きかけていた。
「もう一押しですよ、神サマ!」
その雰囲気を察知したコマがすかさずたたみかける。
「よしっ、じゃあ特別に、スペシャルなことを一つ教えてあげよう……あのね、キミたちはこのままデビューしても……売れないんだなぁこれがっ!」
「はあ?」
神サマのカミングアウトにいち早く反応したのはアンジだった。
「さっきと言ってることが違うじゃん!俺たちがブレイクすればこの神社が立てなおせるから、俺たちを偶像にしたいんでしょ?しかも次の『Reach a Stage of God.』に出て、トップを獲るとかまで言ってて……それなのに、初めから売れる見込みがない俺たちを選ぶとか、え、まじ意味わかんない!」
「まあまあ、最後までちゃんと聞きたまえ。キミたちが売れる見込みがないとは言っていないさ。私はねこのままではブレイクしないと言ったのだよ」
「どういうこと?」
「キミたちには欠けているモノ、それから持て余しているモノがある。そのバランスを取るためには五人ではダメなんだ……」
「五人じゃダメって……今から誰かが加入するってこと?ってかそんなのムリ。今から知らない人と組むなんてあり得ねえよ」
「知らない人でなければどうだろう?例えばそこに居る……」
神サマはこの展開を最初から予想していたかのように余裕の笑みを浮かべ、それまで黙りこくっていた賀成を指差した。
「お、俺?って……無理無理無理無理」
「そんなに拒否しなくても良いではないですか。私たちにはわかっていますよ。千宙さんが抱えている後悔も全て……」
「後悔?俺はやりきったから引退したんだ。後悔なんて……それに、こいつらと組むって言われても……てか、そもそも俺はもうアラサーだぞ?」
「くくくっ、そう言うと思ってたよ」
「ふふっ、本当に予想通りでいらっしゃる……ですから、神サマの出番なのです。ライムくんはさっき、キミたちに何のメリットがあるのか?とお聞きになられましたね?」
「あっ……はい」
「あなた方は千宙くんを加えた六人組でデビューすることで成功する。これは揺るぎない事実なのです。そして、神サマのお力をもってすればなんと……千宙さんを違和感なく加入させることができます」
「ええっ!?」
賀成本人も含め、全員の驚きが重なりこだました。
「おおっ、今日初めての良いリアクションじゃないか」
「だって、アラサっ……いや、それは流石に、ねえ?」
「そうだよ!そんなことができるんならさ、パパっと俺らをブレイクさせることもできるんじゃないの?」
「まあまあ、世の中そう上手くはいかないものなのです……」
「まじでございます」
神サマとコマの隙のない軽快なやり取りにようやく口を挟めたのはオースケだった。というか、オースケは口を挟まないではいられなかったのだ。
ボーイズグループ戦国時代に突入した昨今、この日本における『Reach a Stage of God.』というのは、非常に特別なパフォーマンスバトルだった。選ばれし六組しか参加できないこのバトル。その出場権でさえ得ることが難しいこのバトルに、これからデビューする彼らが挑戦するということなんざ夢のまた夢。ましてやそこでトップを獲ることを目標にするだなんて……そんなことをサラッと言ってのけれるのは、この神サマくらいなものだろう。
「今度の『Reach a Stage of God.』でトップを獲るのは至難の業だからね。だってシード権は絶賛三連覇中、絶対王者のElixirが持っているし。残りの五枠にはCHARTも入ってくるだろうな……それに、今年やってたオーディション番組からデビューするhackerなんて、もう既にものすんごい人気があるしね!出場権の獲得だけでも厳しいなあ……かぁっ、腕が鳴るね!」
「まあ、私たちも研究を重ねてきましたもので、すっかり詳しくなってしまいました……だからその難しさは理解できていると自負しております」
「ちょ、ちょっと待って。勝手に話を進めないでくださいよ……その、もう全部、色々と信じ難いんですけど……仮にですよ、神…サマたちの話が全部本当だったとしたら……僕たちじゃ役不足なんじゃ?だって、そもそも僕らはこれからデビューするんだし、バックボーンも何もないんです。しかも僕らはオーディション番組で選ばれたわけでもないからファンだってまだ一人もいないし、ダンスとかも三年前から始めて……」
「うんうん。その経緯はもちろん知ってるよ?キミたちがずっと一緒のチームでバスケをしていたことも、三年前に……ボーイズグループを結成してデビューを目指すことにした経緯も、全部ね……」
神サマはそれまでとは打って変わって穏やかな眼差しをハルとニコへと向けた。
元々ahornの五人は小さい頃から同じチームでバスケをしていた。一学年下のニコを除く四人が中三の夏に引退するまでは、彼らはバスケで全国大会優勝を目指していたのだ。
しかし、その夏……彼らの親友であり、ニコの兄でもある楓が亡くなったことで彼らの人生は一変した。
ニコと楓の兄弟はよちよち歩きの頃からダンスを習っていた。そして特に楓の実力は凄まじいものだった。
楓のダンスをみた人たちはもれなく全員、彼がプロの表現者になるということを確信したし、楓自身もそうなるものだと確信していた。
ニコはそんな兄の姿を間近でみていたせいか、小学生になると間もなくダンスを辞め、ハルたちの所属するミニバスのチームに入った。ハルたちと同じ学年だった楓と四人は、こうして出会い、ニコを含めた六人はすぐに意気投合。それ以来彼らは、種目こそ違えど「高みを目指している同士」として、固い絆を育んできた。
それなのに……ハルたちが中学校最後の夏、都大会を目前に控えていた暑い日、楓は呆気なく死んでしまった。
「キミたちが……楓くんの遺志を継ぐのは必然なのだろ?」
「まじで全部知って……?」
「もちろん。だから余計さ。彼のためにも頂きを共に目指そうじゃないか!」
彼らの事情を踏まえた上で彼らを選んだ神サマは、これでもかという程のドヤ顔でそこにいる全員の顔を見据える。
「え……どう、する?」
その顔面の圧に押されたahornのメンバーの心は傾きかけていた。
「もう一押しですよ、神サマ!」
その雰囲気を察知したコマがすかさずたたみかける。
「よしっ、じゃあ特別に、スペシャルなことを一つ教えてあげよう……あのね、キミたちはこのままデビューしても……売れないんだなぁこれがっ!」
「はあ?」
神サマのカミングアウトにいち早く反応したのはアンジだった。
「さっきと言ってることが違うじゃん!俺たちがブレイクすればこの神社が立てなおせるから、俺たちを偶像にしたいんでしょ?しかも次の『Reach a Stage of God.』に出て、トップを獲るとかまで言ってて……それなのに、初めから売れる見込みがない俺たちを選ぶとか、え、まじ意味わかんない!」
「まあまあ、最後までちゃんと聞きたまえ。キミたちが売れる見込みがないとは言っていないさ。私はねこのままではブレイクしないと言ったのだよ」
「どういうこと?」
「キミたちには欠けているモノ、それから持て余しているモノがある。そのバランスを取るためには五人ではダメなんだ……」
「五人じゃダメって……今から誰かが加入するってこと?ってかそんなのムリ。今から知らない人と組むなんてあり得ねえよ」
「知らない人でなければどうだろう?例えばそこに居る……」
神サマはこの展開を最初から予想していたかのように余裕の笑みを浮かべ、それまで黙りこくっていた賀成を指差した。
「お、俺?って……無理無理無理無理」
「そんなに拒否しなくても良いではないですか。私たちにはわかっていますよ。千宙さんが抱えている後悔も全て……」
「後悔?俺はやりきったから引退したんだ。後悔なんて……それに、こいつらと組むって言われても……てか、そもそも俺はもうアラサーだぞ?」
「くくくっ、そう言うと思ってたよ」
「ふふっ、本当に予想通りでいらっしゃる……ですから、神サマの出番なのです。ライムくんはさっき、キミたちに何のメリットがあるのか?とお聞きになられましたね?」
「あっ……はい」
「あなた方は千宙くんを加えた六人組でデビューすることで成功する。これは揺るぎない事実なのです。そして、神サマのお力をもってすればなんと……千宙さんを違和感なく加入させることができます」
「ええっ!?」
賀成本人も含め、全員の驚きが重なりこだました。
「おおっ、今日初めての良いリアクションじゃないか」
「だって、アラサっ……いや、それは流石に、ねえ?」
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「まあまあ、世の中そう上手くはいかないものなのです……」
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