金20時更新「人生は彼女の物語のなかに」生真面目JKの魂が異世界の絶世の美人王女の肉体に?!運命の恋?逆ハーレム?それどころじゃありません!

なずみ智子

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第7章 ~エマヌエーレ国編~

―95― 彼はあまりにも強すぎた(14) 超久しぶりに「彼」が登場編

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「ひぃんぎゃあああああ! いやあああああああ! おろして! おろしてぇえええ!」

 先ほどまでのかわいこぶりっ子な声はどこへやら、地声で喚き、暴れまくる女性。
 フレディは慌てて女性を押さえようとしたも、その暴れっぷりがあまりにも激しかったためか、女性を落っことしてしまった。

 ドサッと地面に転がった女性はすぐさま立ち上がり、くじいていたはずの足の痛みすらもどこへやらといった感じに一目散に逃げていく。

 そればかりか、ヴィンセントもフレディの顔を見て、息を吞んでいた。
 「?」とフレディは、思わず自身の顔に手を触れる。
 いつもと何ら変わらない。
 血が流れているというわけでもなさそうだが……。

「と、とにかく、皆と合流いたしましょう。後で話します」

 ヴィンセントがフレディの腕を取った。
 二人の青年は、セピア色の世界を駆けた。
 先ほどまでとは一変したトーンとなった世界を。 
 いったい何が起こっているんだ?
  
 ヴィンセントとフレディは、何十人もの男たちが体を支え合いながらムカデのように連なっている場に行き当たった。
 これは……?! と思ったが、その先頭にいるのが他ならぬピーター・ザック・マッキンタイヤーであることに気づいた。
 ピーターの鼻の下と口回りには血がこびりついている。
 彼の苦悶の表情と体勢を見れば、空の白髪頭の爺さんを何らかの術で……額縁に封じ込めるかのようにして、全身全霊でどこかへ追いやろうとしているのだと分かった。
 そして、彼に連なる民の男性たちの額や首に滲んでいる脂汗を見れば、自分たちの保有している体力というかエネルギーをピーターに注ぎ込んでくれているのだとも。
 この判断が是か非かはさておき、ピーターは一人きりで戦っているのではない。
 民たちの思いによって今の戦闘体勢となっているのだ。

 そして、アダムとミザリーは魔導士である彼らにしかできないことで空にいる敵を迎え撃とうとしている。
 ミザリーの姿を……といっても中身はミザリーであるらしいのだが、なかなか慣れることのできない黒髪美女の姿を見たヴィンセントは察した。

 今のこのセピア色となった世界は、主にミザリーと融合している女性魔導士クリスティーナの力というか得意分野の術なのだと。
 クリスティーナは霊媒師のような力の使い方をする魔導士だと聞いている。
 だから、先ほどフレディの顔に骸骨が重なったように見えたのかもしれない。

 何はともあれ、この場にはアダム、ヴィンセント、フレディの三人が……そして、民たちの避難誘導を終えたらしいルークとディラン、宿舎から駆け付けたトレヴァーとダニエルの姿も見た。
 すなわち、希望の光を運ぶ者たち七人全員が集結したこととなる。


※※※

 
 宿舎にて、レイナとジェニーは窓から見える光景をただただ見ていることしかできなかった。
 彼女たちの手は滲みゆく汗で徐々に冷えていく。
 ジェニーの瞳は今にも泣きだしそうなほどに潤んでいた。

 禍々しい空は二転三転と、その色を変えた。
 その下で何が起こっているかは全く分からない。
 ただ皆の無事を祈ることしかできない。
 海(ペイン海賊団の襲撃時)でもそうだった。
 同じ女性であっても、現場に向かったミザリーとノルマはその力で皆の役に立つことができようも、この旅は自身の無力さを幾度となく突きつけられる旅であったのかもしれない。

 ふと、レイナは立ち眩みに襲われた。
 こんな時に倒れては隣にいるジェニーだけでなく、他の人たちにも迷惑をかけてしまう。 
 今はそれどころじゃないのに、私の体調なんて一番最後にしていいことだと、生真面目なレイナはなんとか意識を保とうとした。
 だが、彼女の体は彼女の心の命令を聞いてくれない。
 そのうえ、この体の異変には既視感があった。
 船の中で……ヴィンセントに似ているけれども、ヴィンセントではない者の声を聞いた時のようだ。

 レイナの異変に気付いたジェニーがレイナの名を呼んだ。
 しかし、レイナはそれに応えることすらできず、その場にドサリと崩れ落ちた。
 誰かに手を引かれていくかのように、レイナの魂だけが空高く浮かび上がり、魔導士たちがまさに交戦中である現場へと導かれていった。
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