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2026年1月
Episode1 老農夫と老紳士
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今からお話するのは、雪のちらつくある夜に起こった出来事です。
空からの真っ白な雪が、静かに淡々と銀世界に積み重なっていくなか、とある老農夫の家の扉を叩く者がありました。
老農夫が扉を開けると、そこにはシルクハットとマントを身に着けた大変に身なりの良い老紳士が立っておりました。
老農夫は何十年にも渡る畑仕事のおかげか、足腰こそ頑強でありましたが、短躯でずんぐりむっくりの老農夫からすると、目の前の老紳士は見上げるほどの長身でありました。
優雅な手つきでシルクハットを脱いだ老紳士は言いました。
「突然であり不躾な申し出でもありますが、ご家族の皆様のご許可を得られれば、一晩だけで良いので寝床をお借りしたく思います。無論、迷惑料としてそれなりのお代は先にお支払いさせていただきますので」
元来、大変に人の良い老農夫ではありましたが、さすがに二つ返事で頷くわけにはいきません。
しかし、日の落ちた外でちらついている雪はこれからさらに降り積もっていくでしょう。
老農夫は考えました。
自分は男一人で暮らしているうえに年老いてもいる。
そのうえ、碌に財産だってないのはこの家を見れば分かることだし、この紳士が悪党であるなら別の家を狙うであろう。
何より雪がちらついている寒い夜に紳士を再び外へと追いやってしまうなんてことは、人として許されない……と。
老農夫は、老紳士を家へと招き入れました。
「冷え切っているでしょう。お口に合わねえかもしれませんが」と、老農夫は家にある数多くの食器から出来るだけ上等で綺麗な状態の物を探し、夕飯の残りであったスープを老紳士へと差し出しました。
正直、片付いているとはいえない老農夫の家には、やたらと物がたくさんありました。
何十年前から使っているのだろうと問いたくなるほど、今にも朽ち果てそうなテーブルや椅子、そして縁が欠けた食器なども捨てられることなく、彼の生活であり人生の一部となっていました。
紳士がそれらに目を止めると、「なにせ貧乏性なもので、見苦しいでしょうが勘弁してくだせえ」と老農夫は苦笑いするばかりでした。
素朴な味付けであるも温かなスープを飲み干した老紳士は、老農夫に丁重にお礼を言いました。
そして、続けました。
「本当にお一人暮らしなのですか? 奥様やお嬢様などはいらっしゃらないのですか?」と。
老農夫は訝しく思います。
なんだって、そんなことを……”この家に女がいるかいないのかを聞いてくるのか”という疑念だけでなくわずかばかりの恐怖も湧き上がりました。
そして、老農夫は”ある寓話”を思い出してもいました。
ある冬の日に、一人の農夫が寒さに凍えて今にも死にそうになっている蛇を見つけて可哀想に思い、自分の懐に入れてやったものの、温まって元気を取り戻した蛇は蛇としての本能と本性を露わにして農夫に襲い掛かってきたという寓話を。
蛇はやはり蛇でしかなく、親切心や善良な行動が必ずしも報われるとは限らないということをあの寓話は教えていたのです。
老農夫は老紳士を失礼にはならない程度に改めて観察しました。
年は自分とほぼ同じぐらいと思われ、身なりの良さや物腰の柔らかさは言うまでもなく、老人にしては背筋はシャンと伸び、元々整っていた容貌も良い感じに枯れていって今の姿として完成したのだろうと思われました。
けれども、親しみやすさよりも高貴さが前面に出ている老紳士の顔立ちと透けるほどに白いその肌は、どこか吸血鬼を連想させるものでした。
しかし、老紳士は生温かい血ではなく温かいスープを飲み干したという事実を老農夫は目の当たりにしております。
老農夫は老紳士の先ほどの言葉を追及しませんでした。
吸血鬼うんぬんなどといった馬鹿げた考察ではなく、仮にこの老紳士が女に良からぬことをしようと企んでいる悪人であったとしても、本当にこの家には金も碌に持っていない爺さんである自分しか暮らしておらず、被害者となりうる女自体が存在しないのだから、と……。
何よりも目の前の老紳士を”蛇の本性を隠した悪党”なのでは疑うのではなく、自分と同じ人間として信じようと老農夫は思ったのです。
明日の朝、老紳士は老農夫の家を発つとのことでした。
老農夫は使っていなかった部屋を老紳士のために取り急ぎ整え、「それではまた明日に」と互いに挨拶しあい、自分の部屋へと戻りました。
けれども……この親切で善良な老農夫に、明日の朝は永久にやってくることはありませんでした。
やはり、この家には蛇が入り込んでいたのです。
老農夫はそれに全く気づいていませんでした。
自身の頭蓋が砕かれゆく音と激痛で目を開けた老農夫が最期に見たものは、”返り血によって赤く染まった美しい天使の顔”でありました。
近くの部屋で浅い眠りについていた老紳士は、不審な物音と苦痛に満ちた呻き声によって目を覚ましました。
何かあったのかと急いで老農夫の部屋の扉を開けた老紳士の目に映った光景は……ランプのほのかな灯りのなか、頭を割られて事切れているあの親切な農夫と、その傍らで血だらけの置物を手にしたまま、農夫の返り血を浴びて佇んでいる……まるで天使か妖精のごとく美しい一人の娘”だったのです。
「ンだよ、そっちのジジイも起きちまったか? 寝ている時にあの世に送るつもりだったんだけどよ、見られちまったらしょうがねえよなぁ」
このうえなく美しい娘から発された声は耳障りな”だみ声”であり、吐き出された言葉には品性のかけらもなく、間違いなく下級階層のそれでした。
ぎょろりと目を光らせた娘は、蛇がグワッと牙をむくがごとく、唸り声とともに老紳士へと襲い掛かってきたのです。
自分は男で、相手は女。
だが、男であったとしても体力的に全盛期にあった頃と、老人である今とでは違います。
何より、目の前の娘は人を殺すということに一切の躊躇もない、明らかにタガの外れた怪物なのですから。
老紳士は戦うことよりも逃げることを選択しました。
「待ちやがれ!! ジジイィィ!!!」
頭部と左腕に大怪我を負ったものの、なんとか外へと逃げ出すことができた老紳士の背中を、娘の怒声と殺意が追いかけてきます。
冬の夜の闇。
着の身着のまま、傷つけられた左腕から滴る血で雪を”黒く”染め続けながらも必死で逃げ続けた老紳士はついに力尽き、雪の上に倒れ込んでしまいました。
しかし、老紳士の命の灯火はその夜に消えることはありませんでした。
老農夫は明日の朝を迎えることができませんでしたが、老紳士の方は近隣に住んでいる者たちに発見され、その体が完全に冷たくなってしまわないうちに手当てを受け、生者が歩む道へと戻って来ることができたのですから。
老紳士の話を……身も凍るほどに恐ろしい話を聞いて事件現場へと向かった者たちの話では、老農夫はやはり頭を割られて絶命しており、家の食料は食い散らかされ、老紳士の荷物も荒らされお金や貴金属もなくなっていたのことでした。
生傷と包帯だらけの痛々しい姿のまま、保護先のベッドに横たわる老紳士の脳裏にあの老農夫の顔が蘇ってきました。
こんなことにさえならなければ、あの老農夫とは次の日の朝にお礼と別れの挨拶を済ませ、やがて時とともに自身の記憶から消えていく人であったでしょう。
本来なら、たった一夜、交差するだけの出会いであり縁であったはずです。
生き残った者と殺されてしまった者に分かれてしまうとは、老紳士も老農夫も思いもしなかったのです。
体の傷も心の傷も癒えそうにない老紳士の前に、町の役人たちが事件当夜の詳しい話を聞きたいとのことでやってきました。
老紳士の話を聞く役人たちの顔は、一様に険しくなっていきました。
そして、役人たちは顔を見合わせ、頷きあいます。
「アリソン・ハインドマンの仕業だ……」と。
なんと、アリソン・ハインドマンなる娘は、複数の殺人容疑で手配されている連続殺人鬼であるとのことです。
殺人鬼のくせに、まるで天使か妖精か、清らかで嫋やかな百合の花のごとき美貌の持ち主であるとも……。
悪魔が神の隙をついて、この世にことさら美しく誕生させてしまった怪物のごとき娘であるとも……。
おそらく、アリソン・ハインドマンは飢えと寒さをしのぐため、逃亡中に見つけた今回の事件の被害者となった老農夫の家に忍び込んでおり、寝静まった頃を見計らい凶行に及んだものだと……。
その話を聞いた老紳士は後悔せずにはいられませんでした。
老紳士は気づいていたのです。
あの老農夫の家の扉を叩く前、家の周りの雪に明らかに老農夫のものより小さい真新しい靴跡が刻まれていたことや、掃除が行き届いているとは言えない家の床にも明らかに老農夫のものではない長い髪の毛が一本落ちていたことに。
それゆえに、あの老農夫に「本当にお一人暮らしなのですか? 奥様やお嬢様などはいらっしゃらないのですか?」と問うたのです。
老農夫が怪訝な顔をしたことに気づいた老紳士は、この親切な人の気分を害してしまったかと思ったため、それ以上は踏み込んで聞くことはしませんでした。
また、老農夫の方は老農夫の方で、老紳士を信じることを選んだため、質問の意味を問うことはありませんでした。
それにどちらかが聞いていたら、双方ともに助かっていたという確証もありません。
まさか、人と人とも思わぬ殺人鬼が家の中に蛇のようにスルリと入り込んでいるとは老農夫も老紳士も思いもしなかったのですから。
蛇は冬眠すれども、アリソン・ハインドマンは冬眠などしない。
アリソン・ハインドマンは、あの家の中のどこかで息を潜め、自分たちが寝静まり、殺せる隙をとぐろを巻いてうかがっていたのです。
(完)
【補足】
本作の殺人鬼「アリソン・ハインドマン」は、「2019年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ!」の「Episode10-A 刑罰」にも登場します。
今回の「老農夫と老紳士」は、上記の「刑罰」の数年前に彼女が起こした事件でありますね。「刑罰」にて彼女がどんな運命を辿るか、是非ともご確認くださいませ。
空からの真っ白な雪が、静かに淡々と銀世界に積み重なっていくなか、とある老農夫の家の扉を叩く者がありました。
老農夫が扉を開けると、そこにはシルクハットとマントを身に着けた大変に身なりの良い老紳士が立っておりました。
老農夫は何十年にも渡る畑仕事のおかげか、足腰こそ頑強でありましたが、短躯でずんぐりむっくりの老農夫からすると、目の前の老紳士は見上げるほどの長身でありました。
優雅な手つきでシルクハットを脱いだ老紳士は言いました。
「突然であり不躾な申し出でもありますが、ご家族の皆様のご許可を得られれば、一晩だけで良いので寝床をお借りしたく思います。無論、迷惑料としてそれなりのお代は先にお支払いさせていただきますので」
元来、大変に人の良い老農夫ではありましたが、さすがに二つ返事で頷くわけにはいきません。
しかし、日の落ちた外でちらついている雪はこれからさらに降り積もっていくでしょう。
老農夫は考えました。
自分は男一人で暮らしているうえに年老いてもいる。
そのうえ、碌に財産だってないのはこの家を見れば分かることだし、この紳士が悪党であるなら別の家を狙うであろう。
何より雪がちらついている寒い夜に紳士を再び外へと追いやってしまうなんてことは、人として許されない……と。
老農夫は、老紳士を家へと招き入れました。
「冷え切っているでしょう。お口に合わねえかもしれませんが」と、老農夫は家にある数多くの食器から出来るだけ上等で綺麗な状態の物を探し、夕飯の残りであったスープを老紳士へと差し出しました。
正直、片付いているとはいえない老農夫の家には、やたらと物がたくさんありました。
何十年前から使っているのだろうと問いたくなるほど、今にも朽ち果てそうなテーブルや椅子、そして縁が欠けた食器なども捨てられることなく、彼の生活であり人生の一部となっていました。
紳士がそれらに目を止めると、「なにせ貧乏性なもので、見苦しいでしょうが勘弁してくだせえ」と老農夫は苦笑いするばかりでした。
素朴な味付けであるも温かなスープを飲み干した老紳士は、老農夫に丁重にお礼を言いました。
そして、続けました。
「本当にお一人暮らしなのですか? 奥様やお嬢様などはいらっしゃらないのですか?」と。
老農夫は訝しく思います。
なんだって、そんなことを……”この家に女がいるかいないのかを聞いてくるのか”という疑念だけでなくわずかばかりの恐怖も湧き上がりました。
そして、老農夫は”ある寓話”を思い出してもいました。
ある冬の日に、一人の農夫が寒さに凍えて今にも死にそうになっている蛇を見つけて可哀想に思い、自分の懐に入れてやったものの、温まって元気を取り戻した蛇は蛇としての本能と本性を露わにして農夫に襲い掛かってきたという寓話を。
蛇はやはり蛇でしかなく、親切心や善良な行動が必ずしも報われるとは限らないということをあの寓話は教えていたのです。
老農夫は老紳士を失礼にはならない程度に改めて観察しました。
年は自分とほぼ同じぐらいと思われ、身なりの良さや物腰の柔らかさは言うまでもなく、老人にしては背筋はシャンと伸び、元々整っていた容貌も良い感じに枯れていって今の姿として完成したのだろうと思われました。
けれども、親しみやすさよりも高貴さが前面に出ている老紳士の顔立ちと透けるほどに白いその肌は、どこか吸血鬼を連想させるものでした。
しかし、老紳士は生温かい血ではなく温かいスープを飲み干したという事実を老農夫は目の当たりにしております。
老農夫は老紳士の先ほどの言葉を追及しませんでした。
吸血鬼うんぬんなどといった馬鹿げた考察ではなく、仮にこの老紳士が女に良からぬことをしようと企んでいる悪人であったとしても、本当にこの家には金も碌に持っていない爺さんである自分しか暮らしておらず、被害者となりうる女自体が存在しないのだから、と……。
何よりも目の前の老紳士を”蛇の本性を隠した悪党”なのでは疑うのではなく、自分と同じ人間として信じようと老農夫は思ったのです。
明日の朝、老紳士は老農夫の家を発つとのことでした。
老農夫は使っていなかった部屋を老紳士のために取り急ぎ整え、「それではまた明日に」と互いに挨拶しあい、自分の部屋へと戻りました。
けれども……この親切で善良な老農夫に、明日の朝は永久にやってくることはありませんでした。
やはり、この家には蛇が入り込んでいたのです。
老農夫はそれに全く気づいていませんでした。
自身の頭蓋が砕かれゆく音と激痛で目を開けた老農夫が最期に見たものは、”返り血によって赤く染まった美しい天使の顔”でありました。
近くの部屋で浅い眠りについていた老紳士は、不審な物音と苦痛に満ちた呻き声によって目を覚ましました。
何かあったのかと急いで老農夫の部屋の扉を開けた老紳士の目に映った光景は……ランプのほのかな灯りのなか、頭を割られて事切れているあの親切な農夫と、その傍らで血だらけの置物を手にしたまま、農夫の返り血を浴びて佇んでいる……まるで天使か妖精のごとく美しい一人の娘”だったのです。
「ンだよ、そっちのジジイも起きちまったか? 寝ている時にあの世に送るつもりだったんだけどよ、見られちまったらしょうがねえよなぁ」
このうえなく美しい娘から発された声は耳障りな”だみ声”であり、吐き出された言葉には品性のかけらもなく、間違いなく下級階層のそれでした。
ぎょろりと目を光らせた娘は、蛇がグワッと牙をむくがごとく、唸り声とともに老紳士へと襲い掛かってきたのです。
自分は男で、相手は女。
だが、男であったとしても体力的に全盛期にあった頃と、老人である今とでは違います。
何より、目の前の娘は人を殺すということに一切の躊躇もない、明らかにタガの外れた怪物なのですから。
老紳士は戦うことよりも逃げることを選択しました。
「待ちやがれ!! ジジイィィ!!!」
頭部と左腕に大怪我を負ったものの、なんとか外へと逃げ出すことができた老紳士の背中を、娘の怒声と殺意が追いかけてきます。
冬の夜の闇。
着の身着のまま、傷つけられた左腕から滴る血で雪を”黒く”染め続けながらも必死で逃げ続けた老紳士はついに力尽き、雪の上に倒れ込んでしまいました。
しかし、老紳士の命の灯火はその夜に消えることはありませんでした。
老農夫は明日の朝を迎えることができませんでしたが、老紳士の方は近隣に住んでいる者たちに発見され、その体が完全に冷たくなってしまわないうちに手当てを受け、生者が歩む道へと戻って来ることができたのですから。
老紳士の話を……身も凍るほどに恐ろしい話を聞いて事件現場へと向かった者たちの話では、老農夫はやはり頭を割られて絶命しており、家の食料は食い散らかされ、老紳士の荷物も荒らされお金や貴金属もなくなっていたのことでした。
生傷と包帯だらけの痛々しい姿のまま、保護先のベッドに横たわる老紳士の脳裏にあの老農夫の顔が蘇ってきました。
こんなことにさえならなければ、あの老農夫とは次の日の朝にお礼と別れの挨拶を済ませ、やがて時とともに自身の記憶から消えていく人であったでしょう。
本来なら、たった一夜、交差するだけの出会いであり縁であったはずです。
生き残った者と殺されてしまった者に分かれてしまうとは、老紳士も老農夫も思いもしなかったのです。
体の傷も心の傷も癒えそうにない老紳士の前に、町の役人たちが事件当夜の詳しい話を聞きたいとのことでやってきました。
老紳士の話を聞く役人たちの顔は、一様に険しくなっていきました。
そして、役人たちは顔を見合わせ、頷きあいます。
「アリソン・ハインドマンの仕業だ……」と。
なんと、アリソン・ハインドマンなる娘は、複数の殺人容疑で手配されている連続殺人鬼であるとのことです。
殺人鬼のくせに、まるで天使か妖精か、清らかで嫋やかな百合の花のごとき美貌の持ち主であるとも……。
悪魔が神の隙をついて、この世にことさら美しく誕生させてしまった怪物のごとき娘であるとも……。
おそらく、アリソン・ハインドマンは飢えと寒さをしのぐため、逃亡中に見つけた今回の事件の被害者となった老農夫の家に忍び込んでおり、寝静まった頃を見計らい凶行に及んだものだと……。
その話を聞いた老紳士は後悔せずにはいられませんでした。
老紳士は気づいていたのです。
あの老農夫の家の扉を叩く前、家の周りの雪に明らかに老農夫のものより小さい真新しい靴跡が刻まれていたことや、掃除が行き届いているとは言えない家の床にも明らかに老農夫のものではない長い髪の毛が一本落ちていたことに。
それゆえに、あの老農夫に「本当にお一人暮らしなのですか? 奥様やお嬢様などはいらっしゃらないのですか?」と問うたのです。
老農夫が怪訝な顔をしたことに気づいた老紳士は、この親切な人の気分を害してしまったかと思ったため、それ以上は踏み込んで聞くことはしませんでした。
また、老農夫の方は老農夫の方で、老紳士を信じることを選んだため、質問の意味を問うことはありませんでした。
それにどちらかが聞いていたら、双方ともに助かっていたという確証もありません。
まさか、人と人とも思わぬ殺人鬼が家の中に蛇のようにスルリと入り込んでいるとは老農夫も老紳士も思いもしなかったのですから。
蛇は冬眠すれども、アリソン・ハインドマンは冬眠などしない。
アリソン・ハインドマンは、あの家の中のどこかで息を潜め、自分たちが寝静まり、殺せる隙をとぐろを巻いてうかがっていたのです。
(完)
【補足】
本作の殺人鬼「アリソン・ハインドマン」は、「2019年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ!」の「Episode10-A 刑罰」にも登場します。
今回の「老農夫と老紳士」は、上記の「刑罰」の数年前に彼女が起こした事件でありますね。「刑罰」にて彼女がどんな運命を辿るか、是非ともご確認くださいませ。
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