２０２０年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ！

Episode１０ 今月も1,000字内のオムニバスショートホラー６品（全て女主人公）をお届けいたします。

Episode１０－D 本当に長かった。

　私は三つ子姉妹の末っ子として生まれた。

　私たちの瓜二つというか”瓜三つ”ぶりときたら、実の両親ですら見分けるのが困難なほどであった。
　よって、両親は見分る方法として服の柄を活用することにしたのだ。

　一人目には花柄の服を着せ、二人目には星柄の服を着せ、三人目には蛇柄の服を着せるといった具合に。
　なんと末っ子の私に蛇柄が割り当てられてしまった。

　幼稚園児や小学生で、蛇柄――パイソン柄――という辛口ファッションのカッコ良さを理解できるものは極めて少ないだろう。
　案の定、私は「蛇女」として同級生たちから虐められるようになってしまった。

　私だって、ラブリーでフェミニンな花柄な服やポップでカラフルな星柄の服を着てみたい。それが許されないのなら、せめて無地の服を……と幾度も両親に泣いて訴えたも無駄だった。

　私は両親を憎んだ。
　そして、私と同じ顔なのに、花柄や星柄の服を着て微笑んでいる姉二人をも憎まずにはいられなかった。

　で、お約束のごとく思いついた。
　姉たちのどちらかがいなくなれば、私が花柄や星柄の服を着ることができるんじゃないかって。
　だが、普通の人間がそう簡単にあっさりサクッと人殺しなんてできるはずがない。
　私がそれを実行に移すまで相当な年月を要することになるであろうことは自分でも予測していた。


　けれども、ついに殺（や）ることができた。
　ちなみに私がこの手で殺めたのは一人だけじゃない。姉二人ともだ。
　これでやっと、私は花柄の服も星柄の服もどちらも自由に着ることができる！

　全く同じ顔ならびに同じ形相で事切れた姉たちの血まみれの死体を前にした両親は、気も狂わんばかりであった。
　けれども、あんたたちが蒔いた種だ。
　種を蒔かなければ、花は咲かない。
　その花が血まみれの花であっても同じことだ。
　三つ子姉妹のうち二人を殺人被害者に、一人を殺人加害者に”させてしまった”のは、他ならぬあんたたちだ。


「何も殺さなくても良かったろう！　そんなに嫌だったんなら、なぜお前は家を出て行かなかったんだ？！」

「そうよ！　だって、あなたはもう六十四才なんだから！」

　もう九十代前半にもなってしまっている両親は、涙を滝のように流し喚き続けた。

　そう、私たち三つ子姉妹は誰一人として家を出ることはなく、それぞれ花柄、星柄、蛇柄の服を着続けたまま、ほぼ同じスピードで老けていっていたのだ。

　今日という日まで長かった。本当に長かった。


（了）