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片思いの彼が異世界の救世主になった件について version1

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【問題文】

 ある日突然、高校生の若菜さんはクラスメイトの西田くんとともに、救世主を求める異世界のとある国のとある王様の前へと召喚されてしまいました。
 実は、密かに西田くんに片思いをしていた若菜さん。
 西田くんは、目立ってモテるタイプではありませんでしたが、顔立ちもよく見ると整っており、勉強も運動も相当にできましたがそれをひけらかすことは一切なく、誰にでも優しい裏表のない人だったからです。
 若菜さんは、女の子だし運動も苦手ということで、そのままお城に客人として残ることになったのですが、西田くんはこの異世界に害を成している悪しき存在を倒す旅に出ることになりました。
 約半年といった短期間で、悪しき存在をすんなりと倒した西田くんは名実ともに救世主となり、お城へと戻ってきました。
 その後の彼が手に入れることになったのは、異世界一とも言える絶大な権力です。
 いまや、誰もが彼にはひれ伏すでしょうし、彼は言葉一つで誰をも従わせられる存在になったということです。
 ですが若菜さんは、救世主となった西田くんへの思いがスウウッと冷めてしまったばかりか、彼のことが怖くもなってきました。
 さて、それはなぜでしょうか?


【質問と解答】

キクちゃん : 問題文のタイトルに「version1」とありますね。この異世界召喚シリーズ(?)は「version2」も用意されているのですか?

チエコ先生 : YES。作者に聞いたところ、「version3」も用意しているそうよ。3作とも2022年の年末までに公開できればいいな、とも言っていたわ。それはさておき、若菜さんはなぜ西田くんへの思いが冷めてしまったばかりか、怖くまでなってきたのだと思う?

キクちゃん : 今回の問題は、簡単に解けそうですよ。西田くんは異世界の救世主となり、異世界一と言っても過言ではない権力を手に入れた。その最高級の権力を笠に着て、横暴な振る舞いをするようになったのですか?

チエコ先生 : NO。

キクちゃん : となると、湯水のようにお金をジャブジャブ使いまくり、贅沢を極めに極めた生活を送るようになったのですか? もはや毎晩、酒池肉林ってほどに。

チエコ先生 : NO。

キクちゃん : その他に思いつくのは女性関連ですね。西田くんは、異世界の各国における選りすぐりの美少女や美女を集めての最高級のハーレムを、若菜さんがドン引きするほどの精力で作り上げていったのですか?

チエコ先生 : NO。

キクちゃん : ……横暴な振る舞いをするようになったわけでもなければ、お金や女性にだらしなくなり、好き放題にし始めたわけでもない。悪しき存在を倒したのは西田くん本人の努力もあったのだと思いますけど、俄かに絶大な権力を手に入れた人が陥ってしまいそうな行動って他に何があるだろう?

チエコ先生 : キクちゃん、思考の方向を少しだけ変えてみて。キクちゃんは、俄かに絶大な権力を手に入れてしまった人は、良くも悪くもというか、主に悪い方面で愚かな行動をしてしまうと考えているわよね。

キクちゃん : 私は権力を手に入れた人が陥ってしまいそうな行動ばかりを考えていたのですが、そもそもその思考自体が間違っていたと。……まさか、西田くんは異世界の救世主となった後も、何も変わらなかったのですか?

チエコ先生 : YES。誰もがひれ伏し、言葉一つで誰をも従わせられるような立場になった後も、彼は一切奢ることなく何も変わらなかったのよ。

キクちゃん : 滅茶苦茶いい人というか、人間ができた人だったのですね。異世界の救世主にこれ以上ないほどの人選だったじゃないですか。召喚した側も大当たりだと思ったはずです。でも、それならなぜ、若菜さんは「救世主となった西田くんへの思いがスウウッと冷めてしまったばかりか、彼のことが怖くもなってきました」となったのだろう? 怖くなる要素なんて何もないような……もしかして、若菜さんは西田くんが異世界一とも言える権力を手に入れた後も”何も変わらなかったことが怖かった”のですか?

チエコ先生 : YES。正解よ。西田くんは何も変わらなかった。その様子を見た若菜さんは思ったの。「これだけの権力を手に入れたなら、普通、少しは変わったりするもんじゃないの? 自分に逆らう人はいないし、望みは何でも叶うし、何でも手に入るのよ。なぜ西田くんは何も変わらないの? ……裏表がなさすぎるのも不気味だわ。本当に血の通っている人間なのかしら? この人、怖い」ってね。

キクちゃん : 絶大な権力を手に入れても何も変わらない姿を見て、ますます好きになっちゃうと言いますか、人間として尊敬すらしちゃうって人もいると思いますけど、若菜さんはそうじゃなかったんですね。しかも、明らかに理不尽冷めじゃないですか。勝手にこうなるだろうと思い込んじゃって……あ! それを言うなら、私もですね。


(完)
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