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どんな姿になっても君を愛す PART2
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【問題】
あるところに、大変に仲睦まじいお金持ちの若い夫婦がいました。
特に夫は美しい妻を心の底より愛しており、この世界に彼女以上の女性なんていない。彼女のためなら、俺は地獄に落ちても構わない……と思っていました。
そんなある日のことです。
海でのリッチなバカンス中に、妻は突然の心臓発作を起こし、そのまま亡くなってしまいました。
冷たくなりゆく彼女の遺体を抱いたまま、夫は泣き叫びました。
愛しい者を失ってしまった彼の海よりも深い悲しみと愛が届いたのか、人外の存在が取引を持ち掛けてきました。
「ちょうどここに、偶然にも息絶えたばかりの人魚の死体がある。お前の愛する妻の上半身とこの人魚の下半身を繋げよう。さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」
夫は取引を行いました。
”どんな姿になっても君を愛す”と。
そして、お金持ちの夫は、人魚の姿へと変わった妻のために、自宅に海水を引き入れた巨大な水槽までをも用意したのです。
ですが間もなく、夫は愛する妻がいる水槽を見るのも、そして近づくのも嫌になってきました。
次第に足は遠のき、夫はついに水槽の中の海水を外へと流し、カラカラに乾いて呻く妻をミキサーに投げ込み、その体を粉砕してしまいました。
その後、夫は首を吊って自死しました。
さて、夫が最愛の妻にこのような仕打ちをした理由は何であったのでしょうか?
【質問と解答】
キクちゃん : ……何ですか、この話? 前回の「どんな姿になっても君を愛す PART1」に引き続き、最低な男シリーズなんでしょうか?
チエコ先生 : 確かに最低は最低だけど、今回の夫の仕打ちの理由は、前回とはまた違った種類の最低さよ。
キクちゃん : いや、でも……この殺害方法はエグいなんてモンじゃないです。人魚となってしまった妻を受け入れることができなかったなら、海に妻を逃がしてあげたら良かったと思います。それなのにこんなに酷い殺し方をするなんて、これはシンプルによくある話(?)で、夫に愛人ができて、その愛人と一緒になりたかったから、邪魔な妻を殺害したのでしょうか?
チエコ先生 : NO。愛人と一緒になるのが目的なら、夫は殺害後に自死したりはしないわ。
キクちゃん : ……うーん、それはそうですね。もしかして、人魚になった妻は人格が変わってしまったんでしょうか? 例えば、人肉を欲するようになったり、人々を惑わすような歌を歌うようになったり……外見も内面も変わってしまった妻に耐えきれなくなった夫は、愛していたはずの妻を殺すまでに追い詰められてしまったんでしょうか?
チエコ先生 : NO。妻の内面は何も変わっていない。でも、”愛していたはずの妻を殺すまでに追い詰められてしまった”というのは、いい線いっているわ。キクちゃん、もう一度、問題文をよく読んでみて。特に人外の存在が夫へと取引を持ち掛けた時の言葉をね。
キクちゃん :「ちょうどここに、偶然にも息絶えたばかりの人魚の死体がある。お前の愛する妻の上半身とこの人魚の下半身を繋げよう。さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」ですよね。人外の存在は、妻を人魚の姿に変えたとはいえ、生き返らせてくれたわけですし、特にひっかかる箇所はないのですが……
チエコ先生 : ……キクちゃん、人外の存在はキクちゃんが言うように”妻を生き返らす”と言っていたかしら?
キクちゃん : あ! ”生き返らす”とは一言も言っていないです。「さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」とは言ってはいますが、私がてっきりそれを”生き返らす”のだと解釈してしまっていただけでした。ということは……
チエコ先生 : そうよ。その調子よ。
キクちゃん : 妻は上半身と下半身で体を切断され、人魚の下半身にくっつけられた。妻も人魚もどちらの体の生命活動はもうすでに停止した後であり、動く死体、つまりはゾンビでしかない。妻がいくら夫に微笑みかけることができようと、その腐敗は止められない……遺体は日に日に傷んでいき、また海水の中でふやけてもいって、見るに堪えない有様になったんですね。愛する妻のこんな姿を見たくないと思った夫は、水槽の中の海水を抜いたけれども、すでに死んでいる妻は当然、死ぬことができずにカラカラに乾いたまま呻いていて……追い詰められてしまった夫は妻の体をミキサーの中に……
チエコ先生 : YES。正解よ。
キクちゃん : ………この話ですが、妻が心臓発作で亡くなってしまった時に別れを受け入れていれば、人外の存在の言葉に耳なんて傾けなければ、こんな悲劇にはつながらなかったはずですね。でも、その判断もできないほどに、夫は妻を愛していて、妻を失うことに耐えられなかったんですね。
チエコ先生 : 生きていく限り、愛する者との別れは避けて通れないわ。ましてや、それがあまりにも突然の別れにもなるとね。でも、今回の夫はそこを付けこまれ、人外の存在の”残酷な悪ふざけ”に利用されてしまったのよ。
(完)
あるところに、大変に仲睦まじいお金持ちの若い夫婦がいました。
特に夫は美しい妻を心の底より愛しており、この世界に彼女以上の女性なんていない。彼女のためなら、俺は地獄に落ちても構わない……と思っていました。
そんなある日のことです。
海でのリッチなバカンス中に、妻は突然の心臓発作を起こし、そのまま亡くなってしまいました。
冷たくなりゆく彼女の遺体を抱いたまま、夫は泣き叫びました。
愛しい者を失ってしまった彼の海よりも深い悲しみと愛が届いたのか、人外の存在が取引を持ち掛けてきました。
「ちょうどここに、偶然にも息絶えたばかりの人魚の死体がある。お前の愛する妻の上半身とこの人魚の下半身を繋げよう。さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」
夫は取引を行いました。
”どんな姿になっても君を愛す”と。
そして、お金持ちの夫は、人魚の姿へと変わった妻のために、自宅に海水を引き入れた巨大な水槽までをも用意したのです。
ですが間もなく、夫は愛する妻がいる水槽を見るのも、そして近づくのも嫌になってきました。
次第に足は遠のき、夫はついに水槽の中の海水を外へと流し、カラカラに乾いて呻く妻をミキサーに投げ込み、その体を粉砕してしまいました。
その後、夫は首を吊って自死しました。
さて、夫が最愛の妻にこのような仕打ちをした理由は何であったのでしょうか?
【質問と解答】
キクちゃん : ……何ですか、この話? 前回の「どんな姿になっても君を愛す PART1」に引き続き、最低な男シリーズなんでしょうか?
チエコ先生 : 確かに最低は最低だけど、今回の夫の仕打ちの理由は、前回とはまた違った種類の最低さよ。
キクちゃん : いや、でも……この殺害方法はエグいなんてモンじゃないです。人魚となってしまった妻を受け入れることができなかったなら、海に妻を逃がしてあげたら良かったと思います。それなのにこんなに酷い殺し方をするなんて、これはシンプルによくある話(?)で、夫に愛人ができて、その愛人と一緒になりたかったから、邪魔な妻を殺害したのでしょうか?
チエコ先生 : NO。愛人と一緒になるのが目的なら、夫は殺害後に自死したりはしないわ。
キクちゃん : ……うーん、それはそうですね。もしかして、人魚になった妻は人格が変わってしまったんでしょうか? 例えば、人肉を欲するようになったり、人々を惑わすような歌を歌うようになったり……外見も内面も変わってしまった妻に耐えきれなくなった夫は、愛していたはずの妻を殺すまでに追い詰められてしまったんでしょうか?
チエコ先生 : NO。妻の内面は何も変わっていない。でも、”愛していたはずの妻を殺すまでに追い詰められてしまった”というのは、いい線いっているわ。キクちゃん、もう一度、問題文をよく読んでみて。特に人外の存在が夫へと取引を持ち掛けた時の言葉をね。
キクちゃん :「ちょうどここに、偶然にも息絶えたばかりの人魚の死体がある。お前の愛する妻の上半身とこの人魚の下半身を繋げよう。さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」ですよね。人外の存在は、妻を人魚の姿に変えたとはいえ、生き返らせてくれたわけですし、特にひっかかる箇所はないのですが……
チエコ先生 : ……キクちゃん、人外の存在はキクちゃんが言うように”妻を生き返らす”と言っていたかしら?
キクちゃん : あ! ”生き返らす”とは一言も言っていないです。「さすれば再び、お前の愛する妻は再びお前に微笑みかけん」とは言ってはいますが、私がてっきりそれを”生き返らす”のだと解釈してしまっていただけでした。ということは……
チエコ先生 : そうよ。その調子よ。
キクちゃん : 妻は上半身と下半身で体を切断され、人魚の下半身にくっつけられた。妻も人魚もどちらの体の生命活動はもうすでに停止した後であり、動く死体、つまりはゾンビでしかない。妻がいくら夫に微笑みかけることができようと、その腐敗は止められない……遺体は日に日に傷んでいき、また海水の中でふやけてもいって、見るに堪えない有様になったんですね。愛する妻のこんな姿を見たくないと思った夫は、水槽の中の海水を抜いたけれども、すでに死んでいる妻は当然、死ぬことができずにカラカラに乾いたまま呻いていて……追い詰められてしまった夫は妻の体をミキサーの中に……
チエコ先生 : YES。正解よ。
キクちゃん : ………この話ですが、妻が心臓発作で亡くなってしまった時に別れを受け入れていれば、人外の存在の言葉に耳なんて傾けなければ、こんな悲劇にはつながらなかったはずですね。でも、その判断もできないほどに、夫は妻を愛していて、妻を失うことに耐えられなかったんですね。
チエコ先生 : 生きていく限り、愛する者との別れは避けて通れないわ。ましてや、それがあまりにも突然の別れにもなるとね。でも、今回の夫はそこを付けこまれ、人外の存在の”残酷な悪ふざけ”に利用されてしまったのよ。
(完)
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