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2025年8月
Episode8 勇者よ、お前を故郷には帰さない (「勇者、故郷に帰る。」シリーズ15作目)
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光あれば闇あり。
栄光という光の影には、必ず敗北者がいる。
そう、クリフの奴が魔王を倒したことで、俺はまさにその敗北者になっちまった。
しかし、ここでお決まりのツッコミがお前らから入るのも俺は承知のうえだ。
「あんたはクリフと……いや、勇者クリフ様と同じパーティーにいたんだろう? あんただって、勇者クリフ様と一緒に魔王を倒した勇気ある素晴らしい男たちの一人じゃないか?」ってよ。
ああ、確かに俺はずっとクリフたちと行動を共にしていた。
あいつが魔王を倒しちまった時にも、俺は当然のごとく、その場に居合わせていた。
ただ、ほんの少しばかり俺は止めの剣を振ることに遅れを取ったというか何というか、わずかなタイミングのズレでクリフの剣が魔王の心臓を貫いたんだ。
それゆえに勇者はあいつで、俺はその”おまけ”――勇者様ご一行のうちの一人――になっちまった。
え?
実際に魔王を倒したのはクリフ様であっても、皆、クリフ様の仲間たちにだって感謝しているし、尊敬だってしているって?
世の人々はあんたらのことだって皆、英雄だと思っているんだからって?
分かっちゃいないなぁ。
それで満足できる男もいるんだろうけど、俺は我慢ならない。
やっぱり目立つのはセンターだろ?
まずは皆、センターに目がいくだろ?
俺はセンターのおこぼれなんかを受ける存在じゃない。
俺こそが……いや、”俺だけ”が栄光の光も脚光も、すべてを一身に浴びるべき優れた存在なんだ。
よって、俺は密かにクリフならびに俺以外の勇者一行の野郎どもを故郷に帰るまでに抹殺する計画を立てた。
クリフ含め、あいつらは今、ほっと一息をついて緩みまくっている。
達成感と勝ち取った平和という幸せによる副作用かよ。
ずっと張りつめていた緊張の糸も切れ、隙も随所に見せまくりだ。
だから殺るのは簡単……と思いきや、なかなか難しい。
そのうえ、一人一人殺っていくんじゃなくて、一気に全員を潰す必要がある。
それに、俺の仕業だとバレたら、俺は絞首台へと一直線だ。
ごく自然な流れで、俺だけが勇者パーティーの唯一の生き残りとなる必要がある。
シンプルに毒殺が良いか?
いや、毒殺自体、自然とは言い難いな。
悩み続けていた俺だったが、なんと強力にも程がある協力者が現れたのだ。
その協力者の力を借りれば、絶対に俺の仕業だとバレない……俺に疑いが向くことがないうえに、確実に俺以外の勇者一行を葬り去れる。
故郷に帰るまでに、俺たちは船に乗らなければならない。
その船による帰郷は、相当な長旅となる。
え? そこで勇者を海へと突き落とすってのか?
そんなベタな方法を思いつくのは凡人中の凡人だ。
俺はその船には乗るつもりもないし、乗ったら”最期”だ。
それなのに、どうやったら殺せるのかって?
その協力者とやらに暗殺させるのかって?
協力者について、詳しく話してやろう。
殺意やその他諸々が膨れ上がり、今にも爆発寸前になっていたある夜、俺の夢に「カサンドラ」と名乗る赤いローブを羽織った途轍もなく美しい女が現れたんだ。
カサンドラはこう言った。
「わらわは人ならざる者じゃ。そのことは、わらわのこの美しさから察することができるであろう? そなたが抱いている殺意とわらわが抱いている殺意の波長があったため、わらわはそなたの夢に現れることができたのじゃ」
向ける相手は違えども強烈な殺意のマッチングにより、俺とカサンドラは結びついたらしい。
カサンドラは続けた。
「そなたに手を貸してやろう。勇者一行の乗った船に、最大級の災いをもたらしてやろうぞ」
「最大級の災い? 嵐でも起こしてくれるのか? 勇者だろうが何だろうが、自然の前では無力な人間であることを知らしめてくれるってのか?」
「そんなありきたりな方法を取るつもりはないぞえ」
ニタ~ッと笑ったカサンドラは、俺に自身が立てている計画について話をしてくれた。
俺は二つ返事でそれに乗った。
どんな計画か気になるか?
よし、お前らだけに特別に話してやろう。
船というのはいわば一種の密室だろ。
そこをうまく利用するんだ。
船には俺を除いた勇者一行だけじゃなくて、給仕とかその他諸々、至れり尽くせりと世話を焼いてくれる一般人たちだって同船する。
その至れり尽くせりの中には、アダルトな夜の要素も含まれている。
若くて綺麗な踊り子たちも同船する予定だ。
ま、踊り子というのは名目上であり、指名を受けたなら寝台で別の踊りも淫らに、そして濃厚に披露してくれるような売女どもだ。
その踊り子の中に一人、カサンドラが猛烈に気に食わない女がいるらしい。
気に食わないというか、その踊り子に殺意までも抱く理由については詳しく話さなかったも、「たかが人間のくせに、わらわを凌ぐほどの……」とか何とか言っていたから、おおかた、その踊り子の生まれ持った美貌が気に食わんといった理由であるだろう。
人間の女には「加齢」という決して抗うことのできぬ荒波が押し寄せてくるのだから、しばらく待てば良いのとは思ったが、あえて言わなかった。
カサンドラは、自分が一番でないと気が済まない性分らしい。
厄介な女だ。
ちなみに、その踊り子の名は「リュキスカ」と言っていた。
やや古めかしく聞きなれぬその名前は、おそらく芸名だろう。
カサンドラは、自分に惚れていて自分の言うことなら何でも聞いてくれるという死神を唆し、その「リュキスカ」とやらにイタズラさせるつもりであると。
そのイタズラとは性犯罪的な意味でのイタズラじゃない。
まさに船に乗って出港する日に、カサンドラの命を受けた死神はリュキスカの身にきわめて感染率と致死率の高い、人類史上、類を見ない伝染病の菌を授けるとのことだ。
「目障りな女だが、一思いに殺してはつまらぬからのう。あの顔も体も、ドロドロのグチャグチャに崩してやろうぞ。原形を留めていないあの女の骸が棺の中へと突っ込まれた時が今から楽しみじゃ。それに勇者が巻き込まれようがどうなろうが、わらわの知ったことではないぞえ」
さっきも言ったが、船は密室だ。
あいつ……クリフがリュキスカを気に入って自分の寝台へと誘わなくとも、実際にリュキスカと直に性行為をしなくとも、同じ船内にて病原菌は増殖し、広がっていくだろう。
故郷の大地へと辿り着く前に船内にてくたばっちまうか、仮にくたばらなかったとしても勇者様から一転、病原菌扱いだ。
途中の港でも感染拡大を恐れて下船を拒まれるだろうし、俺以外の勇者一行の乗った船は死のワルツを踊るがごとく海面を漂い続けることになるかもしれない。
やがて、その船は巨大な棺桶と化すだろう。
まあ……運悪く同じ船に乗っていた無関係な奴らも一連托生の運命となるが仕方ない。
運が悪かった。
ただ、それだけのことだ。
俺以外の勇者ご一行様の物語は思わぬ悲劇で締めくくられ……俺は運よく唯一の生き残りとして、世の中から脚光を一身に浴びことになる。
あいつらは皆、墓の中から俺の活躍を見るしかなくなるんだ。
※※※
出港当日。
クリフたちならびに死神の息を吹きかけられた踊り子・リュキスカを乗せた船は無事に出港した。
人類史上、最凶にして最悪の伝染病の始祖となった女を乗せた船が。
俺はと言えば、「ちょっと体の具合が悪くて、迷惑かけたらいけないから明日の船でお前たちを追いかけるさ。なあに、途中の港で二泊する予定だと聞いているし、その時に俺はお前らの船に移らせてもらうからさ」と、いかにも残念無念といった感じを見事に装った。
クリフ一行を見送った港にて、俺は大笑いせずにはいられなかった。
アーハッハッハーだとかダーハッハッハーとだとか笑い転げていた。
周りにいた奴らは、俺をキ○○イでも見るような目で見ていたようだけど構やしない。
勇者クリフよ、お前を故郷には帰さない。
いや、帰れないの間違いか。
とにかく、俺の勝利は決まった。
今日は俺の記念すべき日だ。
良い気分の俺は酒をたらふく買い込み、宿へと戻った。
宿の主人か誰かが気を利かせてくれたのか、娼婦を一人派遣してくれたようだ。
へべれけに酔っていたためか、肝心の娼婦の顔はよく見ていなかったが、とにかく柔らかくて良い香りのするすべらかな肌であったことは覚えている。
俺は数回ほど女の体を堪能しまくり、その後は泥のように眠りについた。
※※※
翌朝。
俺は自分の傍らで眠っている若い娼婦の顔を見て驚いた。
こいつは、なんちゅう美人なんだ!
俺の好みドンピシャの女ではあるも、もはやこの女の美貌は個人の好みなんてレベルは超越した美人だ。
夢の中で出会ったあのカサンドラとて息が止まるほどに美しかったが、この女はカサンドラとほぼ同等か、いやそれ以上かもしれない。
カサンドラは人外の者に該当するから超絶美貌にも頷こうと思えば頷ける気がするが、この娼婦はただの人間であるだろう。
人間のくせに、これほどの美貌の者が実在していたとは……!
娼婦の顔から目が離せなくなっている俺であったが、娼婦本人はそんな反応はもはや慣れっこって感じだ。
「お目覚めですか? 気に入っていただけましたなら、”本日出港する船に乗った後も”私をお召しくださいませ。存分にご奉仕させていただきますわ」
「……俺と同じ船に乗るのか?」
「ええ、そうですの。私も同じ船に乗って、先に出発した同僚たちを追いかける予定ですし」
同僚たち……?
なんだか嫌な予感がする。
俺のこめかみから、粘ついた汗が伝ってきた。
「私は勇者クリフ様から言付かり、昨夜、あなた様の元へとやってまいりました。勇者クリフ様ったら、私はあなた様の好みに違いないだろうから、そばにいて慰めてやってくれとのことで…………他の方々は『おい! あんな超絶美女をあいつに独り占めさせちまうのか!?』とかおっしゃられていましたけど、勇者クリフ様は『あいつも戦いで頑張ってくれたろう? あいつあってこその俺たちだ。俺はあいつをねぎらってやりたいんだよ』とおっしゃられていて、本当に仲間思いのお優しい方ですのね……なお、私は一応、踊り子という名目で仕事をしておりますが、歌や踊りはイマイチなことは自覚しております。ですから、”こちら”こそが私の本業なのですわ」
かたわらで喋っているはずの女の声が、どこか遠くで聞こえていた。
酒に酔っていたとはいえ、俺は昨夜、この女と何回ヤった?
何回、濃厚に接触した?
一回、二回、三回……確実に三回はヤっている。
俺は女の名前を聞かずにいられなかった。
聞いてしまったら最後どころか最期、絶望へ始まりの扉が開かれると分かっていながら……。
女は大輪の花のような笑顔で答えた。
「リュキスカですわ」
(完)
栄光という光の影には、必ず敗北者がいる。
そう、クリフの奴が魔王を倒したことで、俺はまさにその敗北者になっちまった。
しかし、ここでお決まりのツッコミがお前らから入るのも俺は承知のうえだ。
「あんたはクリフと……いや、勇者クリフ様と同じパーティーにいたんだろう? あんただって、勇者クリフ様と一緒に魔王を倒した勇気ある素晴らしい男たちの一人じゃないか?」ってよ。
ああ、確かに俺はずっとクリフたちと行動を共にしていた。
あいつが魔王を倒しちまった時にも、俺は当然のごとく、その場に居合わせていた。
ただ、ほんの少しばかり俺は止めの剣を振ることに遅れを取ったというか何というか、わずかなタイミングのズレでクリフの剣が魔王の心臓を貫いたんだ。
それゆえに勇者はあいつで、俺はその”おまけ”――勇者様ご一行のうちの一人――になっちまった。
え?
実際に魔王を倒したのはクリフ様であっても、皆、クリフ様の仲間たちにだって感謝しているし、尊敬だってしているって?
世の人々はあんたらのことだって皆、英雄だと思っているんだからって?
分かっちゃいないなぁ。
それで満足できる男もいるんだろうけど、俺は我慢ならない。
やっぱり目立つのはセンターだろ?
まずは皆、センターに目がいくだろ?
俺はセンターのおこぼれなんかを受ける存在じゃない。
俺こそが……いや、”俺だけ”が栄光の光も脚光も、すべてを一身に浴びるべき優れた存在なんだ。
よって、俺は密かにクリフならびに俺以外の勇者一行の野郎どもを故郷に帰るまでに抹殺する計画を立てた。
クリフ含め、あいつらは今、ほっと一息をついて緩みまくっている。
達成感と勝ち取った平和という幸せによる副作用かよ。
ずっと張りつめていた緊張の糸も切れ、隙も随所に見せまくりだ。
だから殺るのは簡単……と思いきや、なかなか難しい。
そのうえ、一人一人殺っていくんじゃなくて、一気に全員を潰す必要がある。
それに、俺の仕業だとバレたら、俺は絞首台へと一直線だ。
ごく自然な流れで、俺だけが勇者パーティーの唯一の生き残りとなる必要がある。
シンプルに毒殺が良いか?
いや、毒殺自体、自然とは言い難いな。
悩み続けていた俺だったが、なんと強力にも程がある協力者が現れたのだ。
その協力者の力を借りれば、絶対に俺の仕業だとバレない……俺に疑いが向くことがないうえに、確実に俺以外の勇者一行を葬り去れる。
故郷に帰るまでに、俺たちは船に乗らなければならない。
その船による帰郷は、相当な長旅となる。
え? そこで勇者を海へと突き落とすってのか?
そんなベタな方法を思いつくのは凡人中の凡人だ。
俺はその船には乗るつもりもないし、乗ったら”最期”だ。
それなのに、どうやったら殺せるのかって?
その協力者とやらに暗殺させるのかって?
協力者について、詳しく話してやろう。
殺意やその他諸々が膨れ上がり、今にも爆発寸前になっていたある夜、俺の夢に「カサンドラ」と名乗る赤いローブを羽織った途轍もなく美しい女が現れたんだ。
カサンドラはこう言った。
「わらわは人ならざる者じゃ。そのことは、わらわのこの美しさから察することができるであろう? そなたが抱いている殺意とわらわが抱いている殺意の波長があったため、わらわはそなたの夢に現れることができたのじゃ」
向ける相手は違えども強烈な殺意のマッチングにより、俺とカサンドラは結びついたらしい。
カサンドラは続けた。
「そなたに手を貸してやろう。勇者一行の乗った船に、最大級の災いをもたらしてやろうぞ」
「最大級の災い? 嵐でも起こしてくれるのか? 勇者だろうが何だろうが、自然の前では無力な人間であることを知らしめてくれるってのか?」
「そんなありきたりな方法を取るつもりはないぞえ」
ニタ~ッと笑ったカサンドラは、俺に自身が立てている計画について話をしてくれた。
俺は二つ返事でそれに乗った。
どんな計画か気になるか?
よし、お前らだけに特別に話してやろう。
船というのはいわば一種の密室だろ。
そこをうまく利用するんだ。
船には俺を除いた勇者一行だけじゃなくて、給仕とかその他諸々、至れり尽くせりと世話を焼いてくれる一般人たちだって同船する。
その至れり尽くせりの中には、アダルトな夜の要素も含まれている。
若くて綺麗な踊り子たちも同船する予定だ。
ま、踊り子というのは名目上であり、指名を受けたなら寝台で別の踊りも淫らに、そして濃厚に披露してくれるような売女どもだ。
その踊り子の中に一人、カサンドラが猛烈に気に食わない女がいるらしい。
気に食わないというか、その踊り子に殺意までも抱く理由については詳しく話さなかったも、「たかが人間のくせに、わらわを凌ぐほどの……」とか何とか言っていたから、おおかた、その踊り子の生まれ持った美貌が気に食わんといった理由であるだろう。
人間の女には「加齢」という決して抗うことのできぬ荒波が押し寄せてくるのだから、しばらく待てば良いのとは思ったが、あえて言わなかった。
カサンドラは、自分が一番でないと気が済まない性分らしい。
厄介な女だ。
ちなみに、その踊り子の名は「リュキスカ」と言っていた。
やや古めかしく聞きなれぬその名前は、おそらく芸名だろう。
カサンドラは、自分に惚れていて自分の言うことなら何でも聞いてくれるという死神を唆し、その「リュキスカ」とやらにイタズラさせるつもりであると。
そのイタズラとは性犯罪的な意味でのイタズラじゃない。
まさに船に乗って出港する日に、カサンドラの命を受けた死神はリュキスカの身にきわめて感染率と致死率の高い、人類史上、類を見ない伝染病の菌を授けるとのことだ。
「目障りな女だが、一思いに殺してはつまらぬからのう。あの顔も体も、ドロドロのグチャグチャに崩してやろうぞ。原形を留めていないあの女の骸が棺の中へと突っ込まれた時が今から楽しみじゃ。それに勇者が巻き込まれようがどうなろうが、わらわの知ったことではないぞえ」
さっきも言ったが、船は密室だ。
あいつ……クリフがリュキスカを気に入って自分の寝台へと誘わなくとも、実際にリュキスカと直に性行為をしなくとも、同じ船内にて病原菌は増殖し、広がっていくだろう。
故郷の大地へと辿り着く前に船内にてくたばっちまうか、仮にくたばらなかったとしても勇者様から一転、病原菌扱いだ。
途中の港でも感染拡大を恐れて下船を拒まれるだろうし、俺以外の勇者一行の乗った船は死のワルツを踊るがごとく海面を漂い続けることになるかもしれない。
やがて、その船は巨大な棺桶と化すだろう。
まあ……運悪く同じ船に乗っていた無関係な奴らも一連托生の運命となるが仕方ない。
運が悪かった。
ただ、それだけのことだ。
俺以外の勇者ご一行様の物語は思わぬ悲劇で締めくくられ……俺は運よく唯一の生き残りとして、世の中から脚光を一身に浴びことになる。
あいつらは皆、墓の中から俺の活躍を見るしかなくなるんだ。
※※※
出港当日。
クリフたちならびに死神の息を吹きかけられた踊り子・リュキスカを乗せた船は無事に出港した。
人類史上、最凶にして最悪の伝染病の始祖となった女を乗せた船が。
俺はと言えば、「ちょっと体の具合が悪くて、迷惑かけたらいけないから明日の船でお前たちを追いかけるさ。なあに、途中の港で二泊する予定だと聞いているし、その時に俺はお前らの船に移らせてもらうからさ」と、いかにも残念無念といった感じを見事に装った。
クリフ一行を見送った港にて、俺は大笑いせずにはいられなかった。
アーハッハッハーだとかダーハッハッハーとだとか笑い転げていた。
周りにいた奴らは、俺をキ○○イでも見るような目で見ていたようだけど構やしない。
勇者クリフよ、お前を故郷には帰さない。
いや、帰れないの間違いか。
とにかく、俺の勝利は決まった。
今日は俺の記念すべき日だ。
良い気分の俺は酒をたらふく買い込み、宿へと戻った。
宿の主人か誰かが気を利かせてくれたのか、娼婦を一人派遣してくれたようだ。
へべれけに酔っていたためか、肝心の娼婦の顔はよく見ていなかったが、とにかく柔らかくて良い香りのするすべらかな肌であったことは覚えている。
俺は数回ほど女の体を堪能しまくり、その後は泥のように眠りについた。
※※※
翌朝。
俺は自分の傍らで眠っている若い娼婦の顔を見て驚いた。
こいつは、なんちゅう美人なんだ!
俺の好みドンピシャの女ではあるも、もはやこの女の美貌は個人の好みなんてレベルは超越した美人だ。
夢の中で出会ったあのカサンドラとて息が止まるほどに美しかったが、この女はカサンドラとほぼ同等か、いやそれ以上かもしれない。
カサンドラは人外の者に該当するから超絶美貌にも頷こうと思えば頷ける気がするが、この娼婦はただの人間であるだろう。
人間のくせに、これほどの美貌の者が実在していたとは……!
娼婦の顔から目が離せなくなっている俺であったが、娼婦本人はそんな反応はもはや慣れっこって感じだ。
「お目覚めですか? 気に入っていただけましたなら、”本日出港する船に乗った後も”私をお召しくださいませ。存分にご奉仕させていただきますわ」
「……俺と同じ船に乗るのか?」
「ええ、そうですの。私も同じ船に乗って、先に出発した同僚たちを追いかける予定ですし」
同僚たち……?
なんだか嫌な予感がする。
俺のこめかみから、粘ついた汗が伝ってきた。
「私は勇者クリフ様から言付かり、昨夜、あなた様の元へとやってまいりました。勇者クリフ様ったら、私はあなた様の好みに違いないだろうから、そばにいて慰めてやってくれとのことで…………他の方々は『おい! あんな超絶美女をあいつに独り占めさせちまうのか!?』とかおっしゃられていましたけど、勇者クリフ様は『あいつも戦いで頑張ってくれたろう? あいつあってこその俺たちだ。俺はあいつをねぎらってやりたいんだよ』とおっしゃられていて、本当に仲間思いのお優しい方ですのね……なお、私は一応、踊り子という名目で仕事をしておりますが、歌や踊りはイマイチなことは自覚しております。ですから、”こちら”こそが私の本業なのですわ」
かたわらで喋っているはずの女の声が、どこか遠くで聞こえていた。
酒に酔っていたとはいえ、俺は昨夜、この女と何回ヤった?
何回、濃厚に接触した?
一回、二回、三回……確実に三回はヤっている。
俺は女の名前を聞かずにいられなかった。
聞いてしまったら最後どころか最期、絶望へ始まりの扉が開かれると分かっていながら……。
女は大輪の花のような笑顔で答えた。
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