【毎月25日20:00更新】2025年版 ルノルマン・カードに導かれし物語たちよ!

なずみ智子

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2025年7月

Episode7 怖い手紙 ※胸糞注意 (「勇者、故郷に帰る。」シリーズ14作目)

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【一通目】

メアリー・ステイプルドン様

 お久しぶりですね。
 あなたと勇者様がご結婚されたという話が私が住んでいる町にまで届き、こうして手紙を書かせていただきました。
 見事、魔王を倒し故郷へと戻られた勇者様が花嫁に選んだ女性があなたであったとは正直、驚きを隠せない気持ちです。
 私は勇者様とは直接の面識はなく、是非一度お会いしてみたいと思っていました。
 それに私とあなたは幼い頃からの友人であるのに、結婚式にも呼んでくれなかったとは水臭いですね。
 まあ、あらかた私を嫌っている町の女たちから私は絶対に呼ぶなって言われていたんだと思いますが。
 私は昔から周囲の女たち妬みや嫉みを受けやすいタイプであるのは自覚しておりますが、あなたは他の女たちとは違っていつも私に温かく接してくれましたね。
 おとなしく引っ込み思案で、言いたいことが言えないところは昔から心配であったのですが、底抜けに優しくて人を疑うことを一切知らないのはあなたの美点です。
 きっと勇者様もあなたのそういったところに魅かれたのだと思います。
 いろいろ書いていたら、なんだか久しぶりにあなたに会いたくなりました。
 一度、私が今、住んでいる町まで遊びに来ませんか?
 勇者様もご一緒に……と言いたいところではありますが、私は昔から人の恋人や旦那様に好かれやすいもので、何かと誤解を受けることが多かったので今回はそういったことを防ぐためにも、是非あなた一人で私の家まで遊びに来てください。
 今は一人暮らしをしておりますので、そう広いとは言えない家に住んではいますが、昔からの大切な友人であるあなたを心よりおもてなしさせていただきたく思います。
 女同士、たくさん話しましょう。
 また会える日を楽しみにしております。

 ヘザー・クリーヴランド


【二通目】

メアリー・ステイプルドン様

 体調はいかがですか。
 せっかく私の家にまで来てくれたというのに、この間はごめんなさい。
 そして、本当になんとお詫びすればよいものなのか……。
 あなたが私の家に到着した時、私はたまたま不在でした。
 あなたを精一杯おもてなしするため、美味しい食材や綺麗なお花などをたくさん買いに行っていたのです。
 だから、その時……たまたま私の家に来ていた弟のロビンとその友人たちがあなたにあんな酷いことをするなんて、思ってもみなかったんです。
 私は弟の素行の悪さには以前から悩んでいましたし、主に弟が原因で元々住んでいた町を追い出されるような形になったのですが、まさか弟が友人二人と組んであなたを三人がかりで滅茶苦茶にしてしまうなんて……。
 弟に問いただすと、「久しぶりに会ったメアリーが前以上に綺麗になっていて……正直、前からずっとヤってみたかったし。ダチたちだって、『聞かされていた以上だな、すげえ美人』とかなんとか言って興奮し始めたから、しゃあねえだろ」と。
 昔から不思議だったのですが、あなたは特定の人にだけブッ刺さる容姿をしているようですね。
 あなたのことを「町一番の美人」だとか「まるで聖母様みたい」だなんて評しているワケの分からない人もいましたし、弟と友人二人もその特定の人の範疇に入ったのでしょう。
 それはさておき、あなたが弟たちを訴えないでいてくれたことにも姉としてお礼を申し上げます。
 第一、こんなことが勇者様に知れたら、離婚されてしまうかもしれませんものね。
 勇者様はあなたの身に起こったことの全てを知っても受け入れてくれるかもしれませんが、やはり言わなくていいことはありますし、知りたくないことだってあるのが人の心というものなのですから。

 ヘザー・クリーヴランド


【三通目】

メアリー・ステイプルドン様

 お元気ですか?
 あなたからの返信はなかったのですが、私はやっぱりあなたのことがとてもとても心配で再び手紙を書かせていただきました。
 ご出産おめでとうございます。
 勇者様ご夫妻に第一子誕生のお知らせが私の町にまで届きました。
 赤ちゃんがどうか健やかに育ちますように。
 幸せな一生を送ることができますように。
 離れた町からではありますが、応援させていただきます。
 なお、幸せいっぱいなところに水を差すようで申し訳ないのですが、一つだけ気になっていることがあります。
 あなたが私の家に来てくれた時、あなたの身に起こった”あのこと”はそう簡単に忘れられるようなことではないと思います。
 私は弟に聞いてみました。
 弟たちがあなたに酷いことをした際、あなたに対して”せめてもの気遣い”はしてあげたのか、と。
 それに対しての弟の返答はこうでした。
 「……は? ンなもん、俺もダチたちもそのまま中でぶちまけたに決まってんだろ」と。
 それを聞いた時、私は本当の本当の本当にあなたの身に起こったことを気の毒に思いました。
 あなたは四分の一の確率に賭け、全身全霊で神へとすがりながら出産当日を迎えたと思います。
 そして、昔から気が弱かったあなたは、今はさらに怯え続けていると思います。
 けれども、血は争えないものです。
 容姿というのは、あなたが産んだ子どもの体に流れている血を如実を現すものですよ。
 きっと時間が答えをくれるでしょう。
 あなたにとって、よりよい答えが現れることを心から願っております。

 ヘザー・クリーヴランド


【四通目】

メアリー・ステイプルドン様

 まさか、こんなことになってしまうとは思っていませんでした。
 実は私……あなたに謝りたくて、半年ぐらい前にあなたの様子をこっそりと町まで見に行っていたのです。
 あなたが抱っこしていた子どもを見た時、血のなせるわざであるのか私は一目で確信しました。
 子どもの父親は、私の弟、ロビン・クリーヴランドであるのだと。
 でも、感謝して欲しかったものです。
 勇者様のお顔も初めて見ましたけど、勇者様は功績こそ素晴らしいけれども、容姿は平均点ギリギリですし、正直、私の弟の方が容姿に関しては遥かに優れています。
 私の家系の者たちの容姿の良さは折り紙つきなのですから。
 綺麗ごとではなく、美しく生まれるのとそうでないのとでは人生は色々と変わってくると思います。
 それはさておき、あの子どもが無事に成長していくにつれ、周りだっておそらく気づいていたでしょう。
「あれ? あの子どもはなぜ、前に町にいたロビン・クリーヴランドに似ているんだ?」とヒソヒソされるのは、もはや時間の問題であったかと。
 いえ、もうすでに気がついていた者も何人かいたのかもしれませんね。
 産んでしまった子どもをお腹に戻すことはできないし、子どもが勇者様の種でさえあればあのことは悪夢であったとあなたは自分に言い聞かせることができたかもしれませんが、我が子の存在そのものが悪夢ではなく残酷な現実だったのだと。
 それゆえに、あなたの選択も責められるわけがありません。
 あなたが子どもとともに湖へと身を投げたことについては。
 この手紙はきっと今は天国にいるであろう、あなたへの手紙なのです。

 これがあなたへの最後の手紙になると思いますから、思いのたけをぶちまけさせていただきますね。
 私、あなたのことが世界で一番嫌いでした。
 面識などない魔王よりも、あなたの方が私にとっては遥かに目障りで憎い存在だったんです。
 それに、あなたが人を疑うことを一切知らないのは美点ではなく弱点ですよ。
 だから、その弱点を盛大につつかせていただくことにした次第です。

 新婚早々、まわされた気持ちはいかがでしたか。
 男に優しくしかされたことのない女が、どれだけ泣いても懇願しても止めてもらえず、散々に蹂躙された気持ちはいかがでしたか。
 なお、あなたはやはり最後の最後まで、私に対して反撃しなかったですね。
 昔からあなたは何かあっても、誰にも話さず、全て自分で抱え込んでしまう性質だと知っていましたから、想定通りの反応ではあったのですが。
 私が出した手紙にしたって、あなたはきっと泣きながら破り捨てたか、火にくべたのでしょう。

 何も知らぬは勇者様……いえ、”私の旦那様”ばかり。
 実は私、昨日に勇者様と結婚しました。
 周りからは「メアリーが子どもとともに自死してから、まだ半年も経っていないのに早過ぎはしないか?」なんて声もありましたけど、そんな騒音を気にしていては私は自分自身の幸せをつかめませんからね。
 せっかく生まれてきたのですから、幸せになってみせます。
 勇者様に「つらい思い出しか残っていない場所を離れて、新しい場所で私と一緒にやり直しましょう。きっと時間が全てを解決し、癒してくれるはずです」と言いましたら、すぐに首を縦に振ってくれました。
 正直、男としてはちょろすぎる人ではあるのですが、唯一無二の勇者の妻としての座は大変に魅力的ですから、これから先何があっても絶対に手放しませんよ。

 私たち夫婦は、綺麗な花に囲まれた郊外の閑静なお屋敷にて新婚生活を始めることにしました。
 あなたが自分一人だけで死んだのではなくて、子どもまで一緒に連れて行ってくれたことも大変に感謝します。
 私はあなたが産んだ子どもの生物学上の伯母であったのはさておき、私たち夫婦はコブ付きじゃなくて一からスタートできるのですから。

 ちなみに弟は、先月より外国に出稼ぎに行ったのでおそらく数年は帰ってこないと思います。
 私は正直なところ、いくら血が繋がった弟とはいえ、別にこのままもう一生会わなくてもいいとも思っているのです。
 あなたに対してのことはさておき、あいつは昔から私の足を引っ張ることの方が遥かに多かったですし。
 外国で適当な女と懇ろにでもなって、そこでそのまま骨を埋めてくれれば一番いいのですが。

 思ったのですが、やはり現実というのは物語のように勧善懲悪だったり、明確に白黒はつかないものですね。
 負けた者は負けたまま、犠牲者は犠牲者のまま、立ち位置は最期まで変わらない。
 まさに、あなたの人生がその証明ですよ。

 以上、大変に長い手紙となってしまいましたが、どうか安らかに眠ってください。
 さようなら、メアリー。
 永遠に。

 ヘザー・ステイプルドン(旧姓クリーヴランド)


(完)
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