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片思いの彼が異世界の救世主になった件について version2

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【問題文】

 ある日突然、大学生の鈴美(すずみ)さんは同じ大学に通っている幼馴染の東吾(とうご)さんとともに、救世主を求める異世界のとある国のとある王様の前へと召喚されてしまいました。
 鈴美さんと東吾さんは同い年ですが、少し頼りないところがある東吾さんにとって自分は頼りになる姉ポジションであるだろうと鈴美さんは思っていました。
 ですが、鈴美さんは東吾さんのことが異性として好きでした。
 家も近所ですし、彼のことなら幼稚園時代から何でも知っているし、覚えています。
 鈴美さんは男勝りな性格のうえ、運動能力も非常に高かったため、東吾さんと一緒にこの異世界に害を成している悪しき存在を倒す旅の一団に加わりたいと強く希望し同行しました。
 約半年といった短期間で、悪しき存在を倒した東吾さんは名実ともに救世主となりました。
 鈴美さんも彼の成功を大いに喜びました。
 その後の彼が手に入れることになったのは、異世界一とも言える絶大な権力です。
 いまや、誰もが彼にはひれ伏すでしょうし、彼は言葉一つで誰をも従わせられる存在になったということです。
 その後、鈴美さんは東吾さんの密かな命令により、暗殺されてしまいました。
 さて、それはなぜでしょうか?


【質問と解答】

キクちゃん : 今回の鈴美さんは暗殺されているじゃありませんか。しかも、片思いの彼である東吾さんの命令によって……。もしかして、「少し頼りないところがある」とされている東吾さんは”真の異世界の救世主”ではなかったのではないですか? 本当に悪しき存在を倒したのは「男勝りな性格のうえ、運動能力も非常に高かった」鈴美さんで……彼女は東吾さんのことが好きだったから、彼に花を持たせてあげたいとその手柄を譲った。東吾さんは口封じのため、”真の異世界の救世主”である鈴美さん暗殺の命令を出したのですか?

チエコ先生 : NO。悪しき存在を倒したというか、とどめをさしたのは東吾さんよ。それにね、鈴美さんの運動能力は女性にしてはかなり高い方だったんだけど、やっぱり男女の体力差や力の差を埋められるほどのレベルではなく、旅の一団に加えてもらった後も主に食事係として働いていたのよ。食事係も、旅において必要不可欠な存在であることには変わりないけどね。

キクちゃん : 異世界の救世主となったのは東吾さんだけど、鈴美さんも”縁の下の力持ち”として彼の成功を支えていたといいますか、立派な仲間じゃないですか。幼馴染であり仲間でもある彼女を暗殺するほど理由って何だろう……? うーん……?

チエコ先生 : キクちゃん、今回はまず鈴美さんと東吾さんの関係に注目してみて。

キクちゃん : 彼女たちは幼馴染であり、鈴美さんは東吾さんを異性として好きなのですよね。でも、東吾さんが鈴美さんのことをどう思っているかは問題文中には書かれていませんね。東吾さんも鈴美さんのことを異性として好きでしたか?

チエコ先生 : NO。

キクちゃん : タイトルに「片思いの彼」とある通り、鈴美さんの片思いでしかなかったということですね。……東吾さんは鈴美さんを異性として見てはいなくとも、幼馴染として好感は持っていましたか?

チエコ先生 : NO。そもそも、昔からずっとNOだったのよ。東吾さんにとって「頼りになる姉ポジション」だと思っていたのは、鈴美さんだけだったの。鈴美さんにとってはショックだろうけどね。

キクちゃん : 異世界の救世主となった今なら、言葉一つで誰をも従わせられるし、例え殺人であっても揉み消せると考えたんでしょうね。だから、鈴美さんの思いを昔から疎ましく思っていた東吾さんは、ついに暗殺の命令を出したのですね? 

チエコ先生 : ……厳密に言うとNOね。東吾さんは”鈴美さんの思い”を疎ましく思って、暗殺の命令を出したわけではないわ。彼に最後の一線を越えさせたのは、鈴美さんの行動にあったの。

キクちゃん : 行動にですか? ……まさか、鈴美さんは色仕掛けの捨て身で東吾さんに迫ったんでしょうか?

チエコ先生 : NO。……今回の問題はちょっと難しいから、ヒントをあげるわね。鈴美さんは「彼のことなら幼稚園時代から何でも知っているし、覚えています」と問題文中にはあるわよね。この”何でも”と言うのは、東吾さんにとって良いことばかりだと思う? それとも……?

キクちゃん : あ! 東吾さんにとって、あまり良くないことも……例えば汚点とまではいかなくとも、失敗した場面とか恥ずかしい場面とかも鈴美さんには見られているし、鈴美さんはしっかり覚えているということですよね?

チエコ先生 : そう、覚えているだけならまだしも、そんなことを周りに言いふらされたらどう思う?

キクちゃん : 東吾さんは、自分の言いふらして欲しくない過去を周りに言いふらす鈴美さんに我慢できなくなって、暗殺の命令を出したのですね?

チエコ先生 : YES。正解よ。鈴美さんは、「いまや救世主となった東吾だけど、昔はガリガリの泣き虫だったし、時折おねしょもしていたわ。小学校三年生の時なんて、二年生の男子に喧嘩で負けたのよ。それにね……」と色んな人に言いふらしていたの。これには救世主も形無しよね。まあ、鈴美さんにとっては、「この異世界でも誰よりも東吾のことを知っているのは私なのよ。私と東吾の間にはあなたたちの断ち切れない絆があるんだから、ふふん」というアピールであったのでしょうけどね。

キクちゃん : 鈴美さんが暗殺されて当然までとは言いませんが、東吾さんの気持ちをもっと考えてあげていたなら防げた悲劇ですね。


(完)
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