【R15】白いケーキ【なずみのホラー便 第18弾】

なずみ智子

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白いケーキ

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 あ、タケ兄ちゃん。
 俺の様子、見に来てくれたんだ。


 ………………ごめん。
 やっぱ、タケ兄ちゃんには俺の仮病はしっかりバレてるってワケか。
 でも、俺さ……タケ兄ちゃんたち従兄弟一同で食事に行かなかったのは、皆のこと避けてるとか、嫌いとかじゃないんだ。
 俺はまだ未成年だからタケ兄ちゃんみたいに酒は飲めないけど、俺だってタケ兄ちゃんたちと美味しいモノいっぱい食べて、いろんな話をしたかったよ。
 それはホントだよ。信じてよ。


 え?
 ”なんか痩せたか”って?
 そう見えるかな?
 俺、オカンが作った飯や弁当はちゃんと食べてるっていうか……オカンが作った食事かインスタント食品ぐらいしか口に入れることができなくなっているからさ……”俺がこうなってしまう前”に比べたら、全体的な食事量は減ってるのは事実かもしれないけど……


 タケ兄ちゃん……そんなツラそうな顔しないでくれ。
 俺、別に虐めにあってるとか、高校の勉強についていけなくなったわけでもないんだ。
 ダチだってそれなりにはいるし、成績だってトップクラスってワケでもないけど、落ちこぼれる寸前なワケでもない。
 ま、普通だよ、普通。


 ………………分かったよ、全部話す。
 うちのオトンやオカンに話したとしても、精神科へと連れていかれるのが関の山だから言えなかったんだよ。オカンなんか絶対に隠れて泣きじゃくるだろうし。
 でも、タケ兄ちゃんなら、信じてくれるよな。
 昔から優しくて頼もしかったもんな、タケ兄ちゃんは。
 俺は一度も会ったことはないけど、”タケ兄ちゃんの彼女サン”だって、タケ兄ちゃんみたいな男と付き合えて本当に幸せだと思うよ。



 俺がおかしくなったのは、半年前の事故がきっかけなんだ。
 俺、その日の学校帰りにチャリ立ちこぎしてたらさ、チャリのチェーンがいきなり外れて、そのままバランスを崩して近くのフェンスに激突したんだ。

 タケ兄ちゃんもあの事故のことは知ってるよな。
 うちのオカンがパニック起こして、おばさん(タケ兄ちゃんのオカン)に電話しまくってたらしいし。

 俺、フェンスに激突した時にさ、頭打っちゃって少しの間、気ィ失ってたんだ。
 目が覚めた時、俺は病院のベッドにいたよ。事故の一部始終を見ていた人が救急車を呼んでくれたらしい。
 頭を打っていたから検査も受けたけど、頭蓋骨骨折も頭蓋内出血も見られなかった。だから、擦り傷と打撲の手当だけ受けて家に戻ってきたんだ。
 それに事故ったとはいえ俺単独で事故ったわけで、人を巻き込まなかったことはホント不幸中の幸いだったと思う。


 入院することもなく、俺はその日のうちに家に帰ることができたわけだけど……俺が”最初の光景”を見たのは夕飯の時だったんだ。
 いつもよりかなり遅くなった夕飯だけど、食卓の上には俺の好物が並んでたんだ。
 親――特にオカンにこうして心配や迷惑をかけたのに、叱られるどころか、こんなに俺の好物を用意してくれたなんて……って俺、思わず涙ぐみそうになったんだよ。

 その時だった。
 俺のこの2つの目は、確かに食卓の上に並んでいる夕飯たちをしっかりと映していたんだ。
 それは間違いない。
 でも、俺、この時、本来の2つの目の他に”第3の目”みたいな存在を眉間の間に突如、感じてさ。
 その強烈な”第3の目”は、2つの目と違う光景を俺に強引に見せてきたんだよ。
 ”俺の命が無事であったことや、後遺症が残るほどの外傷も受けなかったことをご先祖様に感謝して、ポロポロ泣きながら夕飯を作っているオカンの姿”を――


 その光景はあまりにもリアル過ぎた。
 だから、俺、オカンに言ったんだよ。「オカン、心配かけてごめんな。オカンは俺が無事だったことをご先祖様に感謝して、泣きながらこの料理作ってたんだろ」って。
 オカンは一瞬ギクリとしてたが、すぐにいつものオカンに戻ってさ、「何、バカなこと言ってんのよ。いいから早く食べな。後片付けしなきゃいけないんだから」ってはぐらかされけど。


 そうだよ、タケ兄ちゃんの言う通り、あの事故がきっかけとなり、俺は”第3の目”の存在を常に眉間の間に感じるようになった。
 その”第3の目”は、俺の意志にかかわらず、俺に光景を見せてくるんだ……


 すごいって? 
 まるで”サイコメトラー”みたいじゃないかって?
 いや、そんなにカッコいいもんじゃないよ。 

 第一、俺はその力をコントロールできないんだ。
 仮に俺の”第3の目”にスイッチがあったとしても、そのオンオフを選択することもできないし、映し出している光景をシャットダウンすることもできない。
 俺は残留思念が残っている物質に触れているわけでもないのに、単に”俺の元々の2つの目に映していた”だけなのに、勝手に”第3の目”で光景が再生されるんだ。
 自分で力をコントロールできずに、力に振り回されている超能力者なんてお笑いでしかないだろ?
 それに…………俺のこの”第3の目”はある一定のカテゴリーにしか、反応しないんだよ。


 その”ある一定のカテゴリー”ってのは何なのか、タケ兄ちゃんも予測はつくだろ?
 そう……”食事”だよ。
 ”食事”っていっても、インスタント食品とかには俺の”第3の目”は反応しないんだ。
 人の手によって直に調理された食事……つまりは、その”食事を作っていた人”の心の内や調理光景が強引に映し出されてくるんだ。



 えっ?
 ”それだけだったら”役に立つわけでもないけど、そう害はなくて、単に勝手に再生されるのがウザいだけじゃないかって? 
 うん、俺だって最初のうちはそう思っていたよ。
 町の飲食店とかだって、例外はあるかもしれないけど衛生管理はきちんとしているし、それに”客に出す食事を作っている人の機嫌”がたまたま悪くて、他のこと(対人問題、金銭問題、恋愛問題等)に気を取られイライラしていたとしても、まあ人間だからいつも同じ上機嫌とはいかないのは当たり前だしって具合にさ。


 でも、この”第3の目”は、とんでもない光景まで俺に見せてきやがったんだ……

 あのさ、タケ兄ちゃん。
 俺、さっき、”ダチはそれなりにいる”って言ったよね。
 今から話するのは、そのダチの話なんだ。というか、そのダチの彼女についての話……

 俺のそのダチの名前はA介っていうんだ。
 A介の奴、彼女ができたんだ。
 彼女のB子は、学年でもかなり有名な可愛い子でさ。
 俺もB子とは別のクラスだったけど、B子の顔と名前は高校に入学して間もない頃に知ってたんだ。B子自身、”かなり珍しい名字”ってこともあったしね。
 B子は背は高くもなく低くもなく華奢な体型で、何より色が透けるように白くて……他の女たちと並んでいるところなんて見ると、より一層、まるで内側から肌が白く輝いてるみたいで……A介はずっとB子のこと「可愛い、可愛い」って言ったし、付き合うことになった時は、ホント有頂天って感じだった。初めての彼女があんな可愛い彼女でうれしいんだろうけど、ちょっとは周り見ろよって思うぐらいだったよ。


 あ、もしかして、タケ兄ちゃん……俺がB子のこと好きだって思った? 
 まさか、そんなわけないよ。
 飛び抜けて可愛いにしても、単にそれだけで女として好きになるわけないし。それに俺、B子とは一度だって言葉を交わしたこともないし。
 というか、B子はもう俺の視界に一ミリだって入れたくないほどに身の毛がよだつ女なんだ。
 学校の廊下でたまにすれ違う時だって、俺、必死で吐き気をこらえているよ。



 ごめん、肝心なこと話さなきゃ、タケ兄ちゃんだってワケが分からないよね。
 今から、ちゃんと話すよ。

 先月の11月、A介の誕生日の日のことだった。
 その日の俺らは、他のダチたちと一緒に屋上で弁当を食ってたけど、A介は初めての彼女と迎える自分の誕生日にテンションマックスだったよ。
 B子と(肉体関係的な意味で)どこまでいってるかは知らないけど、もうすでにA介はB子の家にまで遊びに行ったことがあるみたいでさ、「B子の2人のお姉さんも、すげえ美人で可愛くてよぉ。まさに美人三姉妹!」って、俺たちに得意気に話してきたんだ。
 他のダチたちは、是非その美人三姉妹について詳しく聞きたい、と興味津々みたいだったけど、俺は”またのろけかよ”と苦笑いでスルーして、オカンが作ってくれた弁当をも黙々と食べてたわけ。

 と、その時だった。
 なんとB子が屋上に姿を現したんだ。手提げカバンを肩に下げ、白い箱を両手で大切そうに抱えてさ。

 B子の姿に気づいたA介の両目は瞬時にハートマークとなるし、他のダチたちは学年でも有名な美少女を前にして、平静を装いつつも内心ドギマギしてるようだった。

 微笑みながら、俺たちのところに歩いてきたB子は、その両手で大切そうに持っていた白い箱をA介にスッと手渡したんだ。

「A介くん、お誕生日おめでとう。これ、私が昨日の夜、”お姉ちゃんたちと一緒に作ったケーキ”なの。私の家にお招きして一緒に食べるために作ったんだけど……私たち急用ができちゃって、今日の放課後は一緒に過ごせなくなったのよ。本当にごめんね。だから、学校にこのケーキを持ってきて、さっきまで調理室の冷蔵庫の中に置かせてもらってたの……」

 A介は、B子(&彼女の姉2人)とB子の家で過ごせなくなったことは、本当に残念そうだった。
 でも、こうしてB子から誕生祝いの言葉、誕生祝いの手作りケーキ、そして、そのケーキを”彼女のいない他のダチたち”の前でプレゼントされるという優越感をことごとくくすぐるシチュエーションに気を相当に良くしたようだった。
 B子もそれが分かったみたいで、A介ににっこりと微笑むだけでなく、傍らの俺たちにも微笑んで、こう言ったんだ。

「”これ”……もし、よかったらA介くんのお友達も一緒にどうぞ。私もお姉ちゃんたちもはりきって、結構ボリュームのあるケーキになっちゃったから」と。

 美少女、いいや”(実際にその姿は見てないが)美人三姉妹”の作ったボリューム満点のケーキに、ダチたちも、そして正直、俺も興味があったよ。
 それに、B子が実際にケーキが入っている、その白い箱を開けるとさぁ……まさに玄人はだしの白いホールケーキが俺たちの目に飛び込んできたんだ。

 俺はお菓子作りなんてしないから、詳しいことはよく分からないけどさ……なんていうんだろ、真っ白な生クリームっていうよりかは、ちょっとバタークリームっぽい色で……その上部一面が色とりどりの淡い色の花たちでデコレーションされてたんだ。
 まさに今、咲かんとしているような”花びらの開き具合”と言い、そんなにケーキに興味のない俺でも、そのデコレーションの素晴らしさには思わず感嘆しちゃうぐらいのね。

 でも、俺、ちょっと意地悪な気持ちが芽生えたんだ。
 このあまりにも完成度の高い白いケーキは、本当に素人が作ったものかってね。
 もしかして、どこかのお店で買った、あるいは特注したものをB子は、自分たち三姉妹の手作りなの、だなんて言ってるんじゃないかって……

 そう、もうタケ兄ちゃんも分かったと思うけど、俺は2つの目が映しているこの白いケーキの製造光景を”第3の目”で見ることができれば、って思ったんだ。
 目の前の白いケーキの真実を知るためにね。
 もし、仮にこれが市販のものであっても、別に俺はA介にチクる気なんてないし、それにのぼせあってるあいつは俺の言うことなんて信じやしないだろうから、ホントに興味半分でしかなかったよ。
 でも、やめときゃよかった。
 本当にやめときゃよかった。
 適当に言い訳して、早く屋上から逃げ出してりゃよかった。


 俺の”第3の目”は、白いケーキの製造風景を鮮明に映し出したよ。
 そこにはB子がいた。
 そして、B子の姉らしき2人もいた。
 白いケーキは市販のものなんかじゃなくて、噂通りの美人三姉妹の手作りであることも間違いなかった。
 けど、”あいつら”は、信じられないモンを白いケーキに混入させてたんだ!


 えっと、自分の唾や血、髪の毛、磨り潰した爪なんかを入れてたのかって?
 それらも相当嫌だけど、正直、それらの方がまだマシだったよ。
 じゃあ、ペットの毛とかかって?
 いや、そうじゃない。違う。
 あいつらは………”下半身は全員裸だった”あいつらは……自分たちの”白い恥垢”を白いクリームの中に入れて、鼻歌を歌いながらホイッパーで練ってたんだ!!


 本当だよ!
 嘘なんか、ついてない!

 俺は童貞だけど、女のアソコって、ある程度は足を開かないとヒダの間の恥垢って取れないもんだろ。
 あいつら全員とも、ニタニタ笑いながら足を開いて、各自の白い恥垢を人差し指ですくって、白いクリームの中に入れてたんだ!!!


 俺、その場で吐きそうだった。
 ”腹が急に痛くなった”とか言い訳して、屋上から逃げたよ。
 その後、トイレに行ってゲーゲー吐きまくったよ。
 オカンが作ってくれた弁当だって、全部便器に吸い込まれていったよ。

 口をハンカチで押さえたまま、教室の席にいた俺のところに、A介含むダチたちが戻ってきた。
 A介だけじゃなくて、他のダチたちも本当にうれしそうだった。
 そう、皆、あの白いケーキを美味しくいただいたってワケ……

 なんと、B子が肩から下げていた手提げカバンには、ケーキナイフと紙皿と紙フォークって具合に、まるでA介以外の男に食べさせることを前提としたような道具たちが揃ってたって。
 当のB子は「私はダイエット中だから」なんて言って、ケーキには一口も口をつけず、A介やダチたちがそれはそれは美味しそうにケーキをほおばっているところをニコニコしながら眺めていたってさ……
 それだけじゃない。
「みんなが美味しそうにケーキ食べているところ、お姉ちゃんたちにも見せたいから、写真撮っていい?」なんて言って、スマホで写真撮影までしてたって……
 さらに、まだあるんだ。
「来月はクリスマスだね。私もお姉ちゃんたちも、”腕によりをかけて”ケーキを作るからね♪ ”ボリュームたっぷり”の美味しいクリスマスケーキをね♪」とも、言ったらしいんだ!

 俺、その言葉聞いて、またしてもトイレに猛ダッシュしたよ。
 空っぽの胃の中から胃液の一滴に至るまで残さず、絞り出すように吐き続けていたよ。


 あれ以来、俺はオカンが作った飯とインスタント食品以外は食べられなくなったんだ。
 食の楽しみだって、正直、かなり減ったよ。
 でも、あんなケーキを知らずに食べさせられるより、ずっとマシだ。
 それに俺、”第3の目”の中とはいえ、女のアソコを生で見たのは初めてだったんだ。でも、グロくて気持ち悪くて汚いとしか思えなかった。
 もう、俺は彼女なんて作れやしない。女なんて愛せやしない。

 あと少しでクリスマスだから、A介やダチたちはB子三姉妹の”美味しいケーキ”を楽しみにしているみたいだけど、俺は絶対に食べるもんか! 食べさせられてたまるか!
 正直、B子の顔が視界に入ると、あの”白い恥垢入りケーキ”を瞬時に思い出してしまうんだ。
 ほぼ毎日、俺は必死で吐き気をこらえているよ。



 ごめん。
 タケ兄ちゃん、狂った性癖を持つ気持ち悪い三姉妹の話なんかしちゃってさ。
 でも、誰にも言えなかったけど、タケ兄ちゃんがこうして聞いてくれたことで、俺も少しだけ救われた気がする。
 ホント、ありがとう、タケ兄ちゃん。

 ん?
 どうしたんだよ、タケ兄ちゃん。
 顔、真っ青だぞ。
 かなり気持ち悪い話だったモンな。改めて謝るよ。ホント、ごめん。

 え?
 ”タケ兄ちゃんの彼女サン”も、三姉妹だって?
 そして、タケ兄ちゃんによく三姉妹で作ったケーキを差し入れしてくれるって?
 それに……それに”タケ兄ちゃんの彼女サン”の一番下の妹の名前はB子だって?!

 え? え? え?
 あ、あっと……B子の名字を教えてくれって?
 い、い、いや、教えることはできるけど……B子の名字ってかなり珍しくて、たぶんこの県じゃ一世帯ぐらいしかないんじゃないかってレベルの珍しさで……

 わ、分かったよ。教えるよ。
 B子の名字は……名字は……×××××だよ。


 わあああっ!!!
 タケ兄ちゃん、ここで吐いちゃダメだ!!!
 俺、すぐにビニール袋、持ってくるから、だから…………!!!



―――fin―――
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