上 下
3 / 67
第1章 入学前

3話 高次元世界

しおりを挟む
 ゴトンゴトン

 電車の窓に映るのは暗闇だけ。
 俺たちは今、どうやら高次元世界というところに向かっているらしい。

 あたりを見回すと、車両内には同じ年くらいの人がいる。
 おそらく俺達と同じように、チューベローズの入学試験を受ける人達だろう。

 入学試験……? あ、そうだ! 今日は試験だった、勉強しないと。

 高次元世界について考えるのをやめ、俺は再びノートを見返しはじめた。


 ◇◇◇


「はあ……」

 電車を乗って1時間ほど経ったとき、急にフィアスの元気がなくなった。

「フィアス、大丈夫?」

「ごめん……。ちょっと体調が悪くて……」

「フィアス、辛ければ横になってもいいですわよ」

「ありがとう……」

 フィアスは一番端の席に座り、しんどそうに壁にもたれかかっている。乗り物酔いだろうか、さっきまでは普通だったのに。

 それから間もなくして、雪夜の様子も変わり始めた。

「これは一体……。目がおかしくなったのでしょうか」

「どうしたの雪夜まで、乗り物酔い? ……って、どうしたのその髪!?」

「え……?」

 雪夜の髪は深い青色に染まっていた。
 なんと瞳まで青くなっている、まるでサファイアのように。

「はあ……。この感覚は、乗り物酔いとかではありませんわ。こう、見えてはいけないようなものが見えているような…。そしてそれを見ていると気分が悪くなるというか……」

 よく分からないが、嘘を言っているようには見えない。
 高次元世界に近づくことで、環境のようなものが変わりつつあるのだろうか。いや、もしかするとすでに高次元世界に入っているのかもしれない。

 二人の様子を見ていると、だんだん高次元世界に恐怖を抱き始めた。

 電車はものすごい速さで走っているように感じるが、景色はずっと暗闇のまま。ところどころ駅に止まっているようだけど、一体どこを走っているのだ。

『まもなく、水仙道。水仙道。お忘れ物の無いようお降りください』

 プシューーーーーッ

 1時間半の電車旅を終え、ようやく目的地の水仙道駅に到着した。乗っていた学生らしき人が次々と降りて行く。

「フィアス、着いたけど降りられる?」

「うん、ありがとう……」

 フィアスは俺の肩に捕まり、ふらふらと立ち上がった。
 フィアスは明らかな体調不良だったが、雪夜はそういうわけではないらしい。ずっと不気味な感覚に苛まれているのだと。

 電車を降りると、そこは乗った時と同じような地下鉄のホームだった。

 人の流れに身を任せ、ランタンで灯された暗い道を歩く。
 そこにはやはり、エレベーターの扉があった。

「一人ずつお入りください」

 警備員さんが誘導している。
 一人、また一人と扉の中へ入って行く。

「はい、次」

 ようやく俺の番だ。
 恐る恐る、再び真っ暗で狭いエレベーターに入る。

 ガーーーーーーーー

 エレベーターだと分かってしまえば、すごい速さで上昇しているのを明らかに感じた。一体どれだけ地下深くに潜っていたのだろう。

 ガタン!!

 エレベーターを出た先は、行きと同じような役所の中。
 そこに雪夜とフィアスが待っていた。

 そして、三人で役所の外へ出る。



 外の風が吹き抜ける。

 目の前には都会が広がっているが、街並みがまるで異なっている。近未来的でありながら、西洋風の骨董とした建物も並んでいた。

「おおっ、すごっ! 綺麗!!」

 初めて外国に来た観光客のように、テンション上げ上げで雪夜とフィアスに笑いかける。

 しかし、二人は立ち止まって呆然としていた。

「黒い……。なんですの……この感覚は……」

「……情報が多すぎる……目と頭が疲れる……」

「え?」

 やはり二人とも乗り物酔いではなかったようだ。

 そういえば、雪夜が『感覚の鋭い人には不思議な世界に見える』って言ってたけど、もしかすると雪夜とフィアスは常人より感覚が鋭くて、高次元世界の何かを感じ取っているのかもしれない。

 俺は全く何も感じないけども。

「受験票の地図にはここから西って書いてある。この近くにチューベローズ行きのバスが出ているみたいだからそれに乗ろう。雪夜も荷物持つよ」

「糸、ありがとうございます。私もこの変な感覚になれるまで、貴方に頼らせて頂きますわ」

 俺は雪夜とフィアスの荷物を持ち、バス停に向かってゆっくりと歩き始めた。

 フィアスはふらふらしながら俺の服の袖を掴んでいる。
 少し歩くと、地図に書かれた通りバス停のあるロータリーへ到着した。しかし、試験当日ということもあってか、学生で混んでいる。

 プシューーーーー

 バスには乗れたものの、満席だ。

 仕方ないので立っていると、フィアスが不思議そうに言った。

「糸、どうして立ってるの?」

「どうしてって、満席じゃないか」

「なに言ってるの、あそこいっぱい空いてるじゃん」

「え、どこ」

 フィアスは俺の服の袖を引いてトコトコ後部へ歩いていく。
 するとなんと、後部の窓をすり抜け、たくさんの空席がある空間に出た。

「一体どうなってるんだ」

 外から見たバスの形からは考えられない広さだ。
 間違いなく道路にはみ出してるぞ。

「ふぇっふぇっふぇ。教えてやろうかの?」

「あ、あなたは?」

「ただのじじいじゃよ」

 突然、席に座り杖をついたおじいさんに話しかけられた。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ヘビイチゴを食べてヘビになった女の子の話(完結・楽しく読める挿し絵入り)

児童書・童話 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:2,585

【完結】20あなたが思っている通りにはいきませんわ。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:872

神蛇の血

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

侵蝕 〜とあるマンションの怪異〜

ホラー / 完結 24h.ポイント:468pt お気に入り:2

一隅を照らす

青春 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1

異次元の弁当屋

O.K
ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...