乙女ゲーのガヤポジションに転生したからには、慎ましく平穏に暮らしたい

茶坊ピエロ

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三章

魔術学園の保険医

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 放課後、俺とミラとイルミナとセミール先生は保健室に向かっていた。
 アルナが寝ているからだ。
 剣術の授業で、セミール先生がアルナを使って剣術の実践を行い、痛烈な一撃を何度も放たれて、見事魔力切れを起こして気絶にまで追い込んだ。

「セミール先生。あんたが授業の初めにアルナをボコるからですよ」

「仕方ないでしょう。剣術の授業を雑に行う人が多い。魔術学園なのになんで剣術って。だからアルナさんには人柱になってもらいました。貴方だってそうなんですからね!他の生徒だと恐怖心で剣術の授業を二度と受講しなくなるんですよ」

「だったら俺やイルミナを選べよ・・・」

「教師相手には敬語を使いなさい。あなた達二人だと逆に自信を無くされるんですよ!もう少し自分達の身体能力の高さを考えてください」

「そりゃあんたの殺気は、本気で俺を殺しに来るようで怖いんだよ!生徒に向ける殺気じゃねぇだろ!」

「うるさい!敬語を使いなさい!何事も真剣にでしょう!」

「こっちは慎ましく学園生活を送りたいんだよ!」

「それにしてはリアスくん、結構派手に動いてると思うけどね」

「ジノア様と懇意にしてる時点でそんな夢は等の昔に消えてるますよ!」

「うっ・・・」

 一理ある。
 俺とイルミナはセミール先生相手には力を隠す余裕がない。
 魔法を使えばまた話は違ってくるかもしれないが、剣術の授業で剣術の指南相手に魔法を使って勝っても、それは自分達の益にはならないから身体強化すらも使わずに相手してる。
 ていうか、意外と帝国の戦力舐めてたわ。
 ゴードンにしてもそうだが、陛下はゴードン以上の魔法使いらしいし。
 イルミナみたいに卓越した才能でも無ければ、魔法無しで勝てない人間は少なくないだろう。
 セミール先生は剣聖の弟子だと言う。
 彼女は、俺やイルミナと互角。
 つまり少なくとも、剣聖は俺達より強い可能性が高い。 
 だとしたらグランベルも、それなりの才能を受け継いでいるのでは無いかと思った。

「ボク的には、先生が一番生徒達の自信を奪ってると思うんですけど・・・」

「私は所詮騎士爵の出の平民です。ここに通う貴族達の大半は自分の身分を着せて、あれやこれやと正当性を持ってこようとするのですよ」

 こいつミラを無視しやがった!
 たしかにアルバートを筆頭にして、上位貴族である公爵と侯爵と伯爵の令息や令嬢達は、何かと教師に対して自分の身分でマウントを取っている。
 自分達は貴族の子息ってだけで、偉いのは当主である親なのをわかってるのかねぇ。

「舐められないためってのはわかります。ですがわたし達を使って自信を付けようとしても逆効果ですよ?大体の貴族達はジノア様と懇意にしてるリアス様をよく思っていないのか、嫌がらせが酷いですし」

 俺の席にはいつも生ゴミが置かれている。
 休み時間とかに少し席を離れただけで、そう言った行為を行うバカが多い。
 いくら俺がガヤポジで皇子相手に分不相応だからって、やって良いことと悪いことがあるだろう。

「嫌がらせを受けてるのはリアスくんだけでしょう?例年そう言った狙われる人はいるんですよ。でも今年はすごいですね。保険医のあいつから愚痴がこぼれてなかったのです」

「え、保健室に世話になるような事もやってるんですか?」

「そうですよ。特にイルミナさんは完全に平民ですからね。真っ先にターゲットにされかねないです。しかし何故彼女に矛先が向かないか」

 俺の肩で居眠りかましてたクレが、あくびをしながらセミール先生の代わりに答える。

『ふぁぁぁ・・・報復が怖いからですねぇ・・・』

「報復か・・・」

「そうです。あなた達は身分を傘にしなく皇子と懇意にしています。更に加えて、私の動きに合わせて攻防を行える実力者でもある。あなた達の関係者に手を出せばどういった報復があるかわからない。イルミナさんはもちろん、婚約者であるミライさんや妹のアルナさんに手を出すと、確実に報復に合うのは彼らもわかっているのです」

「許せませんね。まるでわたし達が報復しないみたいな言い方を」

「リアスくんが我慢してるから、ボクたちも我慢してるのに、ちょっと一度報復に行ってこようかな?かな?」

 当然二人の報復を恐れない理由はない。
 いや、俺が止めることも考えての行動か?
 そんな頭ないか。

「そういや側近騎士を連れてる子息もいるじゃん!それはどうなんだ?」

「あなた達の使用人のメルセデスが、授業に顔を出すことができるのはジノア様が直々に許可を出したからでしょう?だとしても放課後とかにもそう言った過度な嫌がらせを行わないのは、側近騎士達が貴方と闘いたくないから主人の子息達に対して釘を刺しているからなんですよ」

「俺と?」

「陛下の側近のゴードンが子供相手に手も足も出ずに負けたことって、わりと周知の事実でしてね」

 ゴードンとの会合。
 あれは不意を突いた攻撃だし、手も足も出ないは大袈裟な。
 これじゃあ悪目立ちしないか俺?
 たしかに聡明な判断のある側近がいる子息はいいが、アホな貴族。
 例えばアルバート当たりが難癖付けてきたらすごくめんどくさい。
 まぁあいつらは普段から難癖付けてくるんだけどな。

「あんなの不意を着いただけだぞ?」

「事実として手も足も出なかったことが重要です。実践で油断なんて、言い訳でしかないですからね」

「それはたしかに」

 もし命のやりとりだったなら、100回闘って99回勝てようとも最初の一回で命を落としたらそれで終わりだ。
 そこに実力差なんて関係ない。
 勝てば官軍、負ければ賊軍のただそれだけ。

「だから側近達も出来るだけ闘いたくないわけですよ。いざとなれば身を訂して主を守る騎士ですが、別に命を進んで差し出すような事はしたくないでしょうしね」

「俺は別にちょっかいかけられても命までは取らんぞ?」

「リアスくんは殺人した後ヘタレになるもんねー」

「もう少し胆力を鍛え方がよろしいかと」

「二人とも酷いなぁ。仕方ないだろ」

 どうしても日本の価値観が残ってるんだから。
 闘いとは無縁な生活を三十年も続けてたんだ。
 たった六年でその価値観を変えれる育ち方はしなかった。

「これは意外です。この前の帝都襲撃事件では、あなた方は主犯を殺したと聞いていましたが」

「あれは仕方なかった。あと誰が聞いてるかわかんないから、この話はタブーな」

「そうでしたね」

 帝都襲撃事件は、イルシア先輩とグレシアの父ゾグニの側近が、ヒャルハッハ王国の裏組織の道の薬を使い魔物化、更には過去に存在したという魔族の王の赤桐を復活させ、帝都を危険に巻き込んだ事件の名前だ。
 かつて、このライザー帝国の歴史の中では一度も帝都や領民を巻き込んだによる襲撃は一度もなかった。
 だから今回の事件は帝国民にとっては衝撃的な事件だったのだ。
 俺達はイルシア先輩を公爵にするための演説で、平民の生徒達に実力を晒してしまったからな。
 噂って言うのは箝口令でもしかない限り、すぐに拡散してしまう。
 まぁ箝口令を敷けばイルシア先輩の公爵としての立場もあやふやになるし仕方ないんだけど。
 それでも平民の生徒だけだったから、貴族たちに俺達の実力を知られなかったのはよかった。

「いつか全力の貴方とも闘わせてくださいね」

「全力じゃなきゃセミール先生は止められねぇよ」

「勝つ気の闘いですよ。気づいてますよ。貴方達、私と相手する時魔法を使ってないですもの」

「そりゃお互い様だろ。あんたも手加減してんだろ?」

「さすが。将来が楽しみですよ。久々に逸材に出会えました。剣術の才があれば、私が鍛え上げたかったのですが、非常に残念です」

 セミール先生みたいな強い人に実力を認められるのは、結構嬉しいもんだな。

「さて、着きましたよ。付き合わせてごめんなさいね」

 本当だ。
 あんたがアルナを昏倒させるまでいじめるからだ。

「アルナのことは迎えにくるつもりでしたし大丈夫ですよ。ほらリアスくんもむすっとしない」

「キニシテマセンヨ」

「リアス様、みっともないです」

「はいはい。まぁあんたとの雑談も楽しかったし、気にしてないってのは本当だ。ただアルナには謝れよ」

「わかっていますよ」

 保健室に入ると、なんとバルドフェルド先輩がアルナと談笑していた。
 これは驚いた。

「兄貴!それミライちゃんにイルミナ!」

「おう、元気そうだなアルナ」

「アルナちゃーん大丈夫ー?」

「ご無沙汰しております」

 俺達はそれぞれアルナに挨拶する。
 俺たちに気がついたバルドフェルド先輩が、顔をこちらに向けた。

「あぁ、リアスか。アルナの迎えか?」

「まぁそんなところです。セミール先生」

「あ、はい。まずはアルナさん。今日は申し訳ありませんでした。私の裁量ミスで、アルナさんを保健室送りにしてしまいました」

 まぁアルナにもいい薬になっただろう。
 入学前のアルナなら、いくら相手が実力者でも捕まるヘマしなかっただろうに。
 最近あんまり朝練してないだろうし、今度休日にイルミナに指導してもらうように言っとくか。

「あ、兄貴が何か企んでる顔してるので私は大丈夫ですわ・・・」

「失礼なこと言うなよ。ちょっとアルナのことをイルミナに指導を任せようかなーとか思ってただけなのに」

「お任せください」

「ほら!やっぱりだ!いーやーだー!イルミナの指導って鬼なんですもの!バル様、どうにか兄貴を止めてくださいまし」

 お、なんだ?
 アルナの奴、バルドフェルド先輩のことを愛称で呼んでる。
 二人はそういう仲なのか?

「リ、リアス。アルナもそう言って------」

「我儘にいちいち付き合ってたらダメにします!なんならバルドフェルド先輩も、イルミナに胸を借りてはどうですか?」

「え、俺も!?」

 これは二人の仲を進展させるためにもチャンスだ。
 それにバルドフェルド先輩もイルシア先輩の親友ってことから、命を狙われる可能性も増えてくるだろうし。
 今、イルシア先輩は正式に爵位を授与されたから忙しくて学園に来れてないけど、そのうち視察とか同行する機会もあるだろう。
 もしかしたら父のように、辺境警備隊に選ばれるかもしれないしな。
 辺境はこの帝国では出世枠だ。
 名誉であり、領地の運営のために支給される資金も上がる。

「鍛えて損はないでしょ?イルミナはどう?」

 イルミナは二人をサンドバックにする気が満々だ。
 指をポキポキ鳴らしてる。
 とても女性がする行動じゃない。

「リアス様?」

「そんな人を射殺すような視線で俺の方を見るな」

「いえ、失礼なことを言われたような気がしたので」

「リアスくん顔に出るからねー」
 
「ま、待てよリアス。それ、俺に必要か?」

「もちろんですよ。バルドフェルド先輩はもうただの男爵じゃないですからね」

 公爵の親友っていうのは、公爵令息の親友とは訳が違う。
 それを今自覚させるためにも、イルミナの扱きは受けてもらう必要がある。
 バルドフェルド先輩がふんぞり返ってる貴族になるとも思えないが、まぁ細かいことは気にしない。

「バルドフェルドくん、頑張ってくださいね。イルミナさんは私でも苦戦しますので」

「う、嘘だろ。セミール教諭でも苦戦する相手と闘わないといけないのかよ・・・」

「バル様、セミール先生の授業が可愛く見えるかもしれませんわ」

「ふふふっ。アルナ様は今までの修練内容にご不満のご様子」

 イルミナはS、サジストの素質ががあるからなぁ。
 どれだけ苦しい思いをするか楽しみではある。

「ま、待ってイルミナ!話せばわかるのよ?話をしましょう?ね?」

「はい、拳で話をしましょう。今日は幸い週末です」

「ボクも二人に魔法のノウハウを叩き込もうかな?」

 ただでさえ悪魔の宣告があるのに、天使の施しまで来てしまった。
 二人にとっては最悪の展開だろう。
 ミラは魔法の腕は俺達の中でもだいぶ強いからな。

「あ、あぁ!セミール先生にやられた部位が急に痛みだ------」

「あぁ、うっせぇなぁ!俺様の城で何騒いでやがる?」

 なんだこのイケメンは・・・
 ミラの綺麗な緑とは違い、黒寄りな緑の髪の毛をしてる。
 同じ色ってだけでも羨ましいのに、寝起きが板につくむかつく見た目だ。
 花そそでは、学園パートがありながら教師のほとんどが声だけで細かい設定もあまりない。
 セミール先生なんかもそうだ。
 だから保険医の教師の名前も顔も俺は知らない。

「ローウェイ、またサボってたのですか?」

「あー、セミールか。今回はサボりじゃねーよ。お前の所為で仕事が増えたから、その休憩だ。マナ欠乏症は面倒なんだぞ?」

「はいはい、サボってた言い訳にしては苦しいですよ」

 セミール先生と親しい間柄か?
 そういやさっきも保険医のあいつとか言ってたな。

「彼よ。私相手に魔法を使わないで闘う馬鹿は」

「おぉ、こいつが!ってことはアルナ嬢の兄貴か。初めましてアルゴノート子息!俺はローウェイ・ウォッチャー。この学園の保険医をしている」

 なんか急に元気になったぞ?
 俺が困惑してるのを他所に、腕を握りブンブンと揺すってくる。

「お前が嫌がらせの大半を受けてくれるおかげで、新入生の脱落者が少なくなったんだ!子爵男爵の意識改革も行ったらしいな!今年はクソ皇子が入学式早々やらかしてたから、過去最悪だと思ってたんだよ!」

 早い、早いよ。
 自分の趣味のことになると早口になるオタクみたいだわ!
 要約すると、いじめの対象を自ら引き受けてくれた俺に感謝ってことでいいのか?
 なんだ、ちゃらちゃらした見た目の割にちゃんと仕事してるんだな。

「マジで仕事減ったから、昼寝の時間増やせて助かってる」

 前言撤回。
 こいつはクズだ。

「あぁーそうそう。アルナ嬢は肉体的傷は一切ないから安心しろ。もし、セミールのことで何か言い訳したら仮病だ」

「ほぅ、話聞いてたんだな。情報提供感謝する」

「ちょ、ローウェイ先生!?」

 アルナの悲痛な声は無視して、俺はローウェイという男を見つめる。

「お、おい。そんなじろじろ見るなって。照れんだろうがよ!」

 身体をくねくねさせながら、頬を真っ赤に染めるな。
 気持ち悪い。
 もしかしてこいつホモか?ゲイか?ゲイなのか!?

「あ、先に言っとくぞ。よく勘違いされるが、俺は女の子が大好きだ。特に15歳はゾクゾクする。たまに学園の生徒を抱くこともあるが、締まりがよく------」

「セクハラはんたーい!!」

 セミール先生に何やらぶつけられて、頭をさすりながら抗議の目を向けるローウェイ先生。

「なんだよ処女の癖に羨ましいのか!」

「処女なのは当たり前ですよ!婚姻前の女性なんですよ!?」

「28にもなって結婚できてないのは、むしろ何かしらの原因があるんだよ!お前もう結婚適齢期とっくに過ぎてんだからな!」

 この世界の結婚適齢期は15歳から23歳だ。
 28歳は喪女と呼ばれる、行き遅れた女性を意味してる。
 日本ならむしろ適齢期だと思うけどなぁ。

「ろ、ろ、ろ、ローウェイのバカァ!」

 セミール先生はドアを勢いよく開けてそのまま保健室を後にした。
 廊下は走らないようにな。

「ふんっ!勝った」

「何が勝っただよヤリ○ン。お前この部屋で唯一味方になってくれそうなやつ追い出したんだぞ?」

「は、何を言って?」

 辺りを見回したところで、ローウェイ先生が初めて青い顔をする。
 そりゃミラとイルミナの殺気と鬼形相を見て、平然と立ってられる奴はいるか?
 多分俺が知る限り見たことがない。

「お、おい。なんであの二人あんな怖い顔してるんだ?」

「ヤリ○ンって女の敵だろ?女の敵をあいつらは許さない」

「ふふっ、イルミナの様な可哀想な女の子が量産される前に、潰さないとね」

「僭越ながら協力しますミライ様」

「ひ、ヒィィィイイ!」

 その日、保健室は原因不明の爆発を起こした。
 見つかったのは、服を脱がされて髪がボサボサになったローウェイの姿だった。
 腹に油性ペンで不能という文字が書かれていたため、しばらく学園では噂の的になるのだが、それは別の話。
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