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三章
安寧の消失(ミライ視点)
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『ミライ、無理に聖女を狙う必要はありませんよ?確実にアルバートだけを仕留めるのです』
「イルミナがいるから安心だけど、グランベルと万が一鉢合わせたらまずいもんね」
リリィ達はなるべく警戒して動かないはず。
アルバートの性格上はリリィを手元に置いておくはずだね。
じゃなきゃわざわざ王取り戦なんて選択はしないはずだもの。
「グランベルの奴、学園に入る前も優秀な剣士だったが、魔法も学べるようになってから実力が向上するのが早かった」
『それも全て精霊のおかげですけどね。彼の精霊をチラッと見ましたが、やはり虚ろな目をしてました』
『僕も昔はあんな感じで、グレコの元にいたんですね』
精霊契約の儀で縛り付けられた精霊の魔法はたかが知れてるけど、彼にはもともと持ってる剣術もある。
だからこそ警戒は必要だね。
「おい、ミラ。あれって・・・」
「え?」
グレイが指さす方を見る。
それはピンク色の髪をした少女。
アルバートと一緒にいると予想した少女。
「リリィッ!」
「アルバートがいる様子がねぇぞ」
アルバートがいないってのはどういうことだろう。
いや近くに隠れているのかも知れない。
「ふふっ。まずは二人みーつけた」
「リリィ様。奴は雷神です。お気を付けを」
「雷神・・・そう・・・後半で出てくるのがまさか今から出てくるなんて」
『あの聖獣、潰す』
横に居る聖獣が、リリィの余計なことを話す。
おじさんの言うとおり、あの聖獣あとでぶん殴るよ。
龍型だけど、巨体なのがお父さんを思い出す。
お父さんはボクのために基本人型でいてくれたけど、本来の姿は
でもあれが全属性を使えるって言う聖獣。
お母さんやおじさんが言ってたけど、全属性が使える聖獣は特に自尊心が強い。
なのにリリィを様付けしてる乗って理由は一体・・・
『リアスだ。グランベルと交戦開始』
「了解。ボクとグレイもリリィと交戦を開始したよ」
「アルバートは一緒じゃないみたいだ。そっちにいるかも知れないから注意してくれ」
『りょーかい』
グレイがボクが言い忘れたことを伝えてくれた。
リリィを見ると、あれだけ大きかった聖獣が手のひらサイズに変わってる
「精霊共鳴」
そう言うと、聖獣を胸に押しつけて体内へと入っていく。
精霊共鳴をしたあとのリリィは目が七色に輝いていた。
「やっぱ聖女も使えるんだ」
「やっぱってなに?」
「貴女が知る必要はないよ!韋駄天!」
手加減をする必要はない。
雷の雨を全力でたたき落とす。
「グレイ!アルバートを探して!グランベルをリアスくんが、リリィをボクが引き受けてるってことは、アルバートの護衛はグレイでも対処出来るはずだよ」
「わかった!」
「いやー、すごい効いた。雷神ってすごいのね」
グレイが走って路地に消えてく様子をみたあと、韋駄天を受けきったリリィが首を鳴らしてこちらに歩いてくる。
韋駄天が効かない?
それとも雷が効かない?
たしかに彼女には韋駄天が直撃はしていた。
でも結果は無傷。
雷魔法が効かないとみて間違いない。
ボクって雷魔法を防がれてばっかだなぁ。
『ファイアーボール!』
『真空波!』
ナスタリウムとおじさんがファイアーボールと真空波をそれぞれリリィに浴びせるけど、今度は空中に飛び上がって避けた。
やっぱり雷魔法が効かないのかな?
「ライトニングスピア!」
「危なっ!」
着地の瞬間にライトニングスピアを放ったら、身体を無理に曲げて避けた。
ライトニングスピアは避けた?
基準がわからない。
「天雷!」
『火炎放射!』
火炎放射は炎の上級魔法。
ナスタリウムは一応炎の上級精霊だから、上級魔法だって使える。
正面からくる火炎放射と、斜め前方から急カーブで迫ってくる最上級魔法天雷。
この二つをどう対処する!?
「セイントシールド」
彼女はシールドを展開した。
でも形状がボク達のシールドとは違う。
『セイントシールド・・・なんですかあの魔法』
「おじさんが知らない魔法?」
おじさんは魔法に詳しい。
そりゃ百年も生きてたらそうだろうけど、それでもおじさんがよくわからない魔法があった。
それがリアスくんが開発する魔法。
そのことから示されることって------
「転生者?」
「転生って単語が出てくるってことは、貴女も転生者なの?」
やっぱり転生者。
リアスくんはリリィはこの世界を何度も繰り返しているかも知れないって言ってたけど。
彼だけが見えるって言う九つの月は、この前闘った赤桐と言う男が言うには転生者の数だって言ってた。
そして赤桐はリアスくんと同じ日本人だった記憶がある転生者。
じゃあ彼女はどのタイプ?
元々この世界の人間で何度も人生を繰り返しているのか、それともリアスくんと同じ日本人か。
どっちだろう。
「転生者が相手はちょっと面倒だなぁ」
「ボクは転生者じゃないよ。会ったことがあるだけ。君は日本人?」
「会ったことがある?もしかしてレアンドロ?あいつ馬鹿なことやってるから、貴女も処女を奪われた質かしら?」
レアンドロ?
一体誰?
と言うかボクはまだ処女だよ!
リアスくんとは結契はしてるけど、結婚したわけじゃ無いから清い付き合いをしてるんだよ!
『あ、え、ガーデル様脱落です。残りアルバート殿下のメンバーは三人となりました』
「ガーデル、落ちたのね」
「リアスくんだね。さすが!ボクも負けてられないなぁ」
「わたしに勝とうしてる?よくライトノベルとかでよくいるバカ聖女じゃないからねわたし!」
ライトニングスピアを展開した!?
数は六つ。
ライトニングスピアの魔法陣であることはたしかだけど、本来魔法は腕一つにつき一つしか展開出来ない。
普通の人間は二つしか展開出来ないんだよね。
「固有魔法?」
『いいえ。あれは理論はわかります。複合魔法と同様、魔力コントロールが必要な技術です。あれは並列魔法』
「並列魔法?」
「雷神だものね。そりゃ精霊の言葉はわかるよね。そう、これは並列魔法!一つの魔法陣を細かく六つに分けた魔法技術だよ!」
細かく六つにわけるって、簡単に言ってるけど難しい。
韋駄天や天雷だって似たような技術ではあるけれど、そこには緻密な魔力コントロールがいる。
「喰らえ!これで落ちてくれると楽なんだけどなぁ!まぁラスボス相手にキツいわね!」
ラスボス?
ってことは彼女はリアスくんと同じタイプの転生者か。
赤桐はこの世界に転生してくる人間は、全員ゲーム・・・リアスくんのいうところによるこの世界の事前知識が同じで転生してくるとは限らないって言ってた。
リアスくんの場合、最初のラスボスはグレシアだって言ってた。
それにボクはリアスくんのゲームとやらには登場しなかったって言うし、彼女はリアスくんと同じタイプでも別の介錯でこちらの世界を見ているってことだよね。
おっと攻撃を避けないと。
シールドでいくつかを相殺し、防ぎきれなかったライトニングスピアは避ける。
思ったより威力は落ちてるよねこれ。
ってことは六つに分けた分威力も1/6になってる?
待って・・・もし並列魔法がその理論で展開されてるとしたら、シールドを分散させれば韋駄天を防げるかも知れない。
シールドは魔力量関係無く等しい防御力をしているんだから。
「考えてる余裕を持ってくれて助かるわ。隙アリだわ」
その一瞬だけ思考してしまった所為でボクは彼女の行動に対処が遅れた。
急に方向転換し、剣を構えて走り出した。
方向先はさっきリアスくんが見つけたって言ってたガーデルとパルバディが居た場所に刺突を始めた。
建物が砕けていく。
まさかリアスくんのところに!?
そんなことよりこのことを伝えないと!
「リアスくん!すごい勢いでリリィがそっちにいった!気を付けて!」
『これは団体戦!ミライ!後ろから韋駄天でも天雷でも放ちなさい!』
「うん韋駄天!」
『ファイアーボール!』
しかしそれ以上にリリィの速度が速すぎて魔法が届かない。
刺突に関しては、抜きん出た速度を持ってるんだ。
でもボクはどこかリアスくんならなんとかなると甘い考えを抱いていた。
なんでそんなことを思ったんだろう。
しかし後悔した時にはもう・・・遅かった。
『悪いみんな。やられちまった』
え、リアスくん?
やられた?
誰が?
『り、リアス選手脱落しました!これでグレシア様側のメンバーは残り四人となります』
「リアスくんが・・・脱落?」
『驚きました。リリィはミライのライトニングスピアをシールドで受け流しのは驚きましたが、まさか今の強襲でリアスがやられるなんて------』
嘘。
リアスが今のでやられるなんて。
もし現実なら、ボクの軽はずみな判断でリアスくんは命を落としてるんだ。
敵を甘く見てた。
『ミライ!今の放送って!ちょっと!?』
『グレシア落ち着け』
「リアスくんが倒された。多分ボクが逃したリリィに!」
多分リリィはボク達を精神的に落とすためにリアスくんを狙いに行ったんだ・・・
彼が落とされたらボク達が動揺することを確信して。
そしてそれは事実だ。
現にボクは戻ってくるリリィに対して、なんの警戒もなく迫られてるんだから。
『シャキッとしなさい!ミライ!』
クレセントおじさんの声で我に返る。
咄嗟に前方にシールドを展開した。
「はっ!シ、シールド!」
「やっぱりリアスを落として正解だったわ。雷神をこうして揺さぶれるんだからっ!」
初歩的なことだった。
リリィは剣を振り下ろしてきてるのに、ボクは物理魔法は防げないシールドの魔法を展開したのだから。
これじゃあやられると思ったところで、クレセントおじさんが風魔法でボクを後方へと飛ばしてくれた。
『ミライ!』
「ご、ごめんなさい!」
『チイッ!』
おじさんが珍しく余裕がない。
ボクもそうだけど、リアスくんの存在がどれだけ支えになっていたかはよくわかる。
リアスくんが落とされておじさんも焦ってるんだ。
『ナスタリウム!離脱します!今ぶつかり合ったらミライでも負ける可能性があります!』
『わ、わかりました!炎幕!』
「逃がさないわ!」
『風魔法:酸素パウダー』
ボクとリリィの間に炎が立ち上る。
更におじさんがその炎をリリィが抜けてこないように、大爆発させた。
どうやら追撃はやめたみたいだ。
『グレイ!しばらく身を潜めなさい!』
『どういうことだ!クレセント!』
『リリィの相手から離脱しました。彼女と当たれば今のあなたに勝ち目はない。好機を見て今は潜んでいなさい!』
おじさんはグレイの返答を聞かずに、ボクの通信機をオフにした。
そしておじさんの浮遊魔法でボクは一度この場所から立ち去った。
向かうのは恐らくイルミナとグレシアのトコロだよね。
でもボクの所為でリアスくんが落ちた・・・
グレシアも国外追放がかかってるのに!
どんな顔して会えば。
『ミライ。リアスが落ちたのは貴女の所為じゃない。気にすることありません。どうせ全力を出して目立つといけないとか思ったんでしょう。怠慢です』
『ご主人らしいですけどね』
「でもボクは・・・」
『しっかりしなさい。リアスが落ちた以上、リリィと闘えるのはもう貴女だけですよ。グランベルならばイルミナでもなんとかなります!でもリリィと闘えるのは貴女だけなんです!』
韋駄天が効かない相手で、しかも転生者かも知れない人間に勝てる?
前世の知恵はそれだけ強大。
リアスくんはその知恵で、上級魔法までしか使えないにも関わらずボクと互角なんだよ?
考えを巡らせてる間に、イルミナとグレシアが見えてきた。
「ミライ!」
『グレシア。リアスが落ちたことでリリィと闘える状態では無かったので連れてきました。最悪リリィとはイルミナが闘うことになりそうです。そうじゃなくてもイルミナにはグランベルを受け持ってもらいたいとイルミナに伝えて貰えますか?』
「イルミナ、グランベルトを倒して欲しいってクレセントが言ってるわよ」
「かしこまりました」
「グレシア・・・ごめん、ボクの所為でグレシアの国外追放が近づいちゃった・・・」
グレシアだって決闘を受けるときに、リアスくんと目配せしてた。
だからボクだけじゃ頼りないに決まってる。
せめてリリィと相討ちくらいにはならないとダメだ。
それがせめてもの------
「大丈夫よ。だってまだ貴女とイルミナ、それに少し頼りないけどグレイもいるもの。心配してないわ」
「グレシア!でもボクはリアスくんより頼りな------」
「リアスを頼っていたのは、私がアルバート様に婚約破棄されたあとの末路を知っているから。それだけよ。決闘を受けるときにリアスだけが味方じゃ、私は絶対に受けなかったわ」
そっとグレシアがボクの首の後ろに手を回し抱きしめてくる。
魔力体だけど、心臓の鼓動が波打ってる。
「貴女は強いわ。大丈夫。私を裏切ったアルバート様の女になんか負けない。絶対に負けないわ」
「グレシア・・・」
『無理にとは言いませんよ。貴女が闘わなければ、負ける可能性が高くなるだけです』
「クレセント!そんな言い方!」
わかってる。
結局のところリリィの現段階だけの評価でもリアスくんと同等の実力なんだ。
イルミナですら荷が重いのに、グレイやグレシアに戦えというのも酷な話だよね。
「闘えるのが、ボクだけなのはわかってるよ」
ニヤリと笑うおじさん。
おじさんはわざと嫌味ったらしく言ったのはわかってる。
「ミライ、大丈夫?」
「うん。実際にリアスくんの命が奪われたわけじゃないんたもん。だったら敵討ちする感覚で勝たないとね」
『これ以上追い込む必要もないですね』
「ありがとうおじさん。嫌な役押し付けた!」
これが命のやりとりだったら、リアスくんが死んじゃってたら多分一生後悔する。
でも生きてる。
これは決闘だけど命のやりとりじゃない!
「笑い話で済ますよ。ボクがリリィを倒す!イルミナもグランベル頼んだよ!」
「はいもちろんですよ。グレシア様の護衛は?」
「私はいいわよ。残り三人でしょ?アルバートなら、なんとか生き残ってみせるわ」
もしこれで負けたらボクの所為だよね。
ううん、負けたらなんてあとから考える。
今は勝つことに最善を尽くす。
それだけ。
「もしこれで負けたらリアスに馬鹿にされるわよ」
『それはないですね。私が言い負かしますので』
「そこは叱咤激励を!」
『もう大丈夫ですよ。リリィ相手なら、ミライは勝てるはずです』
頑張りなさいってことだよね。
勝つのは当たり前。
「ボクは雷神だもん。勝たないと!」
『彼女は精霊契約の儀の元凶の象徴です。負けるなんて許されないですからね!』
そうだ。
ここで負けたら、気持ち的に教会に負けたことになる。
そんなの許してくれないよねおじさんは。
お父さんの名に恥じないようにしないといけない!
「イルミナがいるから安心だけど、グランベルと万が一鉢合わせたらまずいもんね」
リリィ達はなるべく警戒して動かないはず。
アルバートの性格上はリリィを手元に置いておくはずだね。
じゃなきゃわざわざ王取り戦なんて選択はしないはずだもの。
「グランベルの奴、学園に入る前も優秀な剣士だったが、魔法も学べるようになってから実力が向上するのが早かった」
『それも全て精霊のおかげですけどね。彼の精霊をチラッと見ましたが、やはり虚ろな目をしてました』
『僕も昔はあんな感じで、グレコの元にいたんですね』
精霊契約の儀で縛り付けられた精霊の魔法はたかが知れてるけど、彼にはもともと持ってる剣術もある。
だからこそ警戒は必要だね。
「おい、ミラ。あれって・・・」
「え?」
グレイが指さす方を見る。
それはピンク色の髪をした少女。
アルバートと一緒にいると予想した少女。
「リリィッ!」
「アルバートがいる様子がねぇぞ」
アルバートがいないってのはどういうことだろう。
いや近くに隠れているのかも知れない。
「ふふっ。まずは二人みーつけた」
「リリィ様。奴は雷神です。お気を付けを」
「雷神・・・そう・・・後半で出てくるのがまさか今から出てくるなんて」
『あの聖獣、潰す』
横に居る聖獣が、リリィの余計なことを話す。
おじさんの言うとおり、あの聖獣あとでぶん殴るよ。
龍型だけど、巨体なのがお父さんを思い出す。
お父さんはボクのために基本人型でいてくれたけど、本来の姿は
でもあれが全属性を使えるって言う聖獣。
お母さんやおじさんが言ってたけど、全属性が使える聖獣は特に自尊心が強い。
なのにリリィを様付けしてる乗って理由は一体・・・
『リアスだ。グランベルと交戦開始』
「了解。ボクとグレイもリリィと交戦を開始したよ」
「アルバートは一緒じゃないみたいだ。そっちにいるかも知れないから注意してくれ」
『りょーかい』
グレイがボクが言い忘れたことを伝えてくれた。
リリィを見ると、あれだけ大きかった聖獣が手のひらサイズに変わってる
「精霊共鳴」
そう言うと、聖獣を胸に押しつけて体内へと入っていく。
精霊共鳴をしたあとのリリィは目が七色に輝いていた。
「やっぱ聖女も使えるんだ」
「やっぱってなに?」
「貴女が知る必要はないよ!韋駄天!」
手加減をする必要はない。
雷の雨を全力でたたき落とす。
「グレイ!アルバートを探して!グランベルをリアスくんが、リリィをボクが引き受けてるってことは、アルバートの護衛はグレイでも対処出来るはずだよ」
「わかった!」
「いやー、すごい効いた。雷神ってすごいのね」
グレイが走って路地に消えてく様子をみたあと、韋駄天を受けきったリリィが首を鳴らしてこちらに歩いてくる。
韋駄天が効かない?
それとも雷が効かない?
たしかに彼女には韋駄天が直撃はしていた。
でも結果は無傷。
雷魔法が効かないとみて間違いない。
ボクって雷魔法を防がれてばっかだなぁ。
『ファイアーボール!』
『真空波!』
ナスタリウムとおじさんがファイアーボールと真空波をそれぞれリリィに浴びせるけど、今度は空中に飛び上がって避けた。
やっぱり雷魔法が効かないのかな?
「ライトニングスピア!」
「危なっ!」
着地の瞬間にライトニングスピアを放ったら、身体を無理に曲げて避けた。
ライトニングスピアは避けた?
基準がわからない。
「天雷!」
『火炎放射!』
火炎放射は炎の上級魔法。
ナスタリウムは一応炎の上級精霊だから、上級魔法だって使える。
正面からくる火炎放射と、斜め前方から急カーブで迫ってくる最上級魔法天雷。
この二つをどう対処する!?
「セイントシールド」
彼女はシールドを展開した。
でも形状がボク達のシールドとは違う。
『セイントシールド・・・なんですかあの魔法』
「おじさんが知らない魔法?」
おじさんは魔法に詳しい。
そりゃ百年も生きてたらそうだろうけど、それでもおじさんがよくわからない魔法があった。
それがリアスくんが開発する魔法。
そのことから示されることって------
「転生者?」
「転生って単語が出てくるってことは、貴女も転生者なの?」
やっぱり転生者。
リアスくんはリリィはこの世界を何度も繰り返しているかも知れないって言ってたけど。
彼だけが見えるって言う九つの月は、この前闘った赤桐と言う男が言うには転生者の数だって言ってた。
そして赤桐はリアスくんと同じ日本人だった記憶がある転生者。
じゃあ彼女はどのタイプ?
元々この世界の人間で何度も人生を繰り返しているのか、それともリアスくんと同じ日本人か。
どっちだろう。
「転生者が相手はちょっと面倒だなぁ」
「ボクは転生者じゃないよ。会ったことがあるだけ。君は日本人?」
「会ったことがある?もしかしてレアンドロ?あいつ馬鹿なことやってるから、貴女も処女を奪われた質かしら?」
レアンドロ?
一体誰?
と言うかボクはまだ処女だよ!
リアスくんとは結契はしてるけど、結婚したわけじゃ無いから清い付き合いをしてるんだよ!
『あ、え、ガーデル様脱落です。残りアルバート殿下のメンバーは三人となりました』
「ガーデル、落ちたのね」
「リアスくんだね。さすが!ボクも負けてられないなぁ」
「わたしに勝とうしてる?よくライトノベルとかでよくいるバカ聖女じゃないからねわたし!」
ライトニングスピアを展開した!?
数は六つ。
ライトニングスピアの魔法陣であることはたしかだけど、本来魔法は腕一つにつき一つしか展開出来ない。
普通の人間は二つしか展開出来ないんだよね。
「固有魔法?」
『いいえ。あれは理論はわかります。複合魔法と同様、魔力コントロールが必要な技術です。あれは並列魔法』
「並列魔法?」
「雷神だものね。そりゃ精霊の言葉はわかるよね。そう、これは並列魔法!一つの魔法陣を細かく六つに分けた魔法技術だよ!」
細かく六つにわけるって、簡単に言ってるけど難しい。
韋駄天や天雷だって似たような技術ではあるけれど、そこには緻密な魔力コントロールがいる。
「喰らえ!これで落ちてくれると楽なんだけどなぁ!まぁラスボス相手にキツいわね!」
ラスボス?
ってことは彼女はリアスくんと同じタイプの転生者か。
赤桐はこの世界に転生してくる人間は、全員ゲーム・・・リアスくんのいうところによるこの世界の事前知識が同じで転生してくるとは限らないって言ってた。
リアスくんの場合、最初のラスボスはグレシアだって言ってた。
それにボクはリアスくんのゲームとやらには登場しなかったって言うし、彼女はリアスくんと同じタイプでも別の介錯でこちらの世界を見ているってことだよね。
おっと攻撃を避けないと。
シールドでいくつかを相殺し、防ぎきれなかったライトニングスピアは避ける。
思ったより威力は落ちてるよねこれ。
ってことは六つに分けた分威力も1/6になってる?
待って・・・もし並列魔法がその理論で展開されてるとしたら、シールドを分散させれば韋駄天を防げるかも知れない。
シールドは魔力量関係無く等しい防御力をしているんだから。
「考えてる余裕を持ってくれて助かるわ。隙アリだわ」
その一瞬だけ思考してしまった所為でボクは彼女の行動に対処が遅れた。
急に方向転換し、剣を構えて走り出した。
方向先はさっきリアスくんが見つけたって言ってたガーデルとパルバディが居た場所に刺突を始めた。
建物が砕けていく。
まさかリアスくんのところに!?
そんなことよりこのことを伝えないと!
「リアスくん!すごい勢いでリリィがそっちにいった!気を付けて!」
『これは団体戦!ミライ!後ろから韋駄天でも天雷でも放ちなさい!』
「うん韋駄天!」
『ファイアーボール!』
しかしそれ以上にリリィの速度が速すぎて魔法が届かない。
刺突に関しては、抜きん出た速度を持ってるんだ。
でもボクはどこかリアスくんならなんとかなると甘い考えを抱いていた。
なんでそんなことを思ったんだろう。
しかし後悔した時にはもう・・・遅かった。
『悪いみんな。やられちまった』
え、リアスくん?
やられた?
誰が?
『り、リアス選手脱落しました!これでグレシア様側のメンバーは残り四人となります』
「リアスくんが・・・脱落?」
『驚きました。リリィはミライのライトニングスピアをシールドで受け流しのは驚きましたが、まさか今の強襲でリアスがやられるなんて------』
嘘。
リアスが今のでやられるなんて。
もし現実なら、ボクの軽はずみな判断でリアスくんは命を落としてるんだ。
敵を甘く見てた。
『ミライ!今の放送って!ちょっと!?』
『グレシア落ち着け』
「リアスくんが倒された。多分ボクが逃したリリィに!」
多分リリィはボク達を精神的に落とすためにリアスくんを狙いに行ったんだ・・・
彼が落とされたらボク達が動揺することを確信して。
そしてそれは事実だ。
現にボクは戻ってくるリリィに対して、なんの警戒もなく迫られてるんだから。
『シャキッとしなさい!ミライ!』
クレセントおじさんの声で我に返る。
咄嗟に前方にシールドを展開した。
「はっ!シ、シールド!」
「やっぱりリアスを落として正解だったわ。雷神をこうして揺さぶれるんだからっ!」
初歩的なことだった。
リリィは剣を振り下ろしてきてるのに、ボクは物理魔法は防げないシールドの魔法を展開したのだから。
これじゃあやられると思ったところで、クレセントおじさんが風魔法でボクを後方へと飛ばしてくれた。
『ミライ!』
「ご、ごめんなさい!」
『チイッ!』
おじさんが珍しく余裕がない。
ボクもそうだけど、リアスくんの存在がどれだけ支えになっていたかはよくわかる。
リアスくんが落とされておじさんも焦ってるんだ。
『ナスタリウム!離脱します!今ぶつかり合ったらミライでも負ける可能性があります!』
『わ、わかりました!炎幕!』
「逃がさないわ!」
『風魔法:酸素パウダー』
ボクとリリィの間に炎が立ち上る。
更におじさんがその炎をリリィが抜けてこないように、大爆発させた。
どうやら追撃はやめたみたいだ。
『グレイ!しばらく身を潜めなさい!』
『どういうことだ!クレセント!』
『リリィの相手から離脱しました。彼女と当たれば今のあなたに勝ち目はない。好機を見て今は潜んでいなさい!』
おじさんはグレイの返答を聞かずに、ボクの通信機をオフにした。
そしておじさんの浮遊魔法でボクは一度この場所から立ち去った。
向かうのは恐らくイルミナとグレシアのトコロだよね。
でもボクの所為でリアスくんが落ちた・・・
グレシアも国外追放がかかってるのに!
どんな顔して会えば。
『ミライ。リアスが落ちたのは貴女の所為じゃない。気にすることありません。どうせ全力を出して目立つといけないとか思ったんでしょう。怠慢です』
『ご主人らしいですけどね』
「でもボクは・・・」
『しっかりしなさい。リアスが落ちた以上、リリィと闘えるのはもう貴女だけですよ。グランベルならばイルミナでもなんとかなります!でもリリィと闘えるのは貴女だけなんです!』
韋駄天が効かない相手で、しかも転生者かも知れない人間に勝てる?
前世の知恵はそれだけ強大。
リアスくんはその知恵で、上級魔法までしか使えないにも関わらずボクと互角なんだよ?
考えを巡らせてる間に、イルミナとグレシアが見えてきた。
「ミライ!」
『グレシア。リアスが落ちたことでリリィと闘える状態では無かったので連れてきました。最悪リリィとはイルミナが闘うことになりそうです。そうじゃなくてもイルミナにはグランベルを受け持ってもらいたいとイルミナに伝えて貰えますか?』
「イルミナ、グランベルトを倒して欲しいってクレセントが言ってるわよ」
「かしこまりました」
「グレシア・・・ごめん、ボクの所為でグレシアの国外追放が近づいちゃった・・・」
グレシアだって決闘を受けるときに、リアスくんと目配せしてた。
だからボクだけじゃ頼りないに決まってる。
せめてリリィと相討ちくらいにはならないとダメだ。
それがせめてもの------
「大丈夫よ。だってまだ貴女とイルミナ、それに少し頼りないけどグレイもいるもの。心配してないわ」
「グレシア!でもボクはリアスくんより頼りな------」
「リアスを頼っていたのは、私がアルバート様に婚約破棄されたあとの末路を知っているから。それだけよ。決闘を受けるときにリアスだけが味方じゃ、私は絶対に受けなかったわ」
そっとグレシアがボクの首の後ろに手を回し抱きしめてくる。
魔力体だけど、心臓の鼓動が波打ってる。
「貴女は強いわ。大丈夫。私を裏切ったアルバート様の女になんか負けない。絶対に負けないわ」
「グレシア・・・」
『無理にとは言いませんよ。貴女が闘わなければ、負ける可能性が高くなるだけです』
「クレセント!そんな言い方!」
わかってる。
結局のところリリィの現段階だけの評価でもリアスくんと同等の実力なんだ。
イルミナですら荷が重いのに、グレイやグレシアに戦えというのも酷な話だよね。
「闘えるのが、ボクだけなのはわかってるよ」
ニヤリと笑うおじさん。
おじさんはわざと嫌味ったらしく言ったのはわかってる。
「ミライ、大丈夫?」
「うん。実際にリアスくんの命が奪われたわけじゃないんたもん。だったら敵討ちする感覚で勝たないとね」
『これ以上追い込む必要もないですね』
「ありがとうおじさん。嫌な役押し付けた!」
これが命のやりとりだったら、リアスくんが死んじゃってたら多分一生後悔する。
でも生きてる。
これは決闘だけど命のやりとりじゃない!
「笑い話で済ますよ。ボクがリリィを倒す!イルミナもグランベル頼んだよ!」
「はいもちろんですよ。グレシア様の護衛は?」
「私はいいわよ。残り三人でしょ?アルバートなら、なんとか生き残ってみせるわ」
もしこれで負けたらボクの所為だよね。
ううん、負けたらなんてあとから考える。
今は勝つことに最善を尽くす。
それだけ。
「もしこれで負けたらリアスに馬鹿にされるわよ」
『それはないですね。私が言い負かしますので』
「そこは叱咤激励を!」
『もう大丈夫ですよ。リリィ相手なら、ミライは勝てるはずです』
頑張りなさいってことだよね。
勝つのは当たり前。
「ボクは雷神だもん。勝たないと!」
『彼女は精霊契約の儀の元凶の象徴です。負けるなんて許されないですからね!』
そうだ。
ここで負けたら、気持ち的に教会に負けたことになる。
そんなの許してくれないよねおじさんは。
お父さんの名に恥じないようにしないといけない!
応援ありがとうございます!
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