神世界と素因封印

茶坊ピエロ

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54.氷の時計塔と雷帝降臨

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 なんだこれは・・・。目の前の少年はかつての同僚、真壁忠澄の息子だ。彼はひたすら計算高い人間だったが、お世辞にも強いとは言えなかった。彼の嫁である真壁静枝のが戦闘力が高いほどだ。そしてこの少年も殿下に対して無礼極まりないが、パッとみた感じ強者のオーラを感じなかった。下手したら父親よりも弱いくらいだと思っていた。だから捕虜が規律を破っていたから斬りかかった俺の攻撃がまさか受けとめられるとは思っていなかった。


「どういうつもりですか。雨宮大将?」


「こちらこそ聞きたいな?ルールを守らなかった捕虜は死刑。当たり前のことだろう?」


 内心驚いているのを悟られないようにオレは言葉を紡いでいく。オレの斬撃を予測して止めただけではなく、放たれるエネルギー量が跳ね上がった。この感じはアンデルちゃんと同じ技か!しかしアンデルちゃんは技を出しているときはエネルギーを感じさせなかったが、こっちはエネルギーがダダ漏れだ。考えなしなのかそれとも我流だからなのか。しかし次の言葉によりオレは思考をやめた。


「ふざけんなよ!あんたは自分の隊の者が全滅したからその憂さ晴らしがしたいだけだろうが!」


「お前・・・いいだろう。お前から先に刑執行だ。職務執行妨害、並びに国家反逆罪だ。喜べ大将自らがお前を死刑にしてやる」


 気づいたらオレは子供相手に、怒りにまかせてブレードを振るっていた。


◇◆◇◆◇


 俺は右から来る斬撃をしゃがむことで躱す。大太刀の間合いは広いが速度は遅い。
 しかしさすが帝国軍大将。斬撃の鋭さは一級品だ。だけど速度がこれでは致命的だ。イヴさんやアンデル師匠の扱きを耐えてきた俺には、<未来視フューチャーアイ>を使わずともよく見える。
 しかもなんだかんだ冷静じゃなかったのだろう。動きが単調で絡め手を挟んでこない。いや大将なんだ。これはそういった思考へと持っていこうというフェイク。確かめてみるか。


「この程度か!頭が無能なら部下も無能になるわな。無能が負けるのは自明の理」


「貴様ぁ!俺だけでなく大事な部下まで愚弄するか!」


「大事だった・・・だろう?」


 満面の笑みを作りながら俺は挑発する。これは本心ではない。心苦しいが、この人の頭の堅さをなおすためだ。あとで誠心誠意部下の人達には謝ろう。


「カズくん・・・何もそこまで言わなくても」


「いいんだミナ。あいつだって本心ではそう思っていないだろうさ」


「でも・・・」


「それよりもミナはあいつのケアのことを考えてやれ。どうせ悪口を言った罪悪感で凹むだろうからな」


 ルナトのやつよくわかってるじゃないか。今でも結構罪悪感はすごい。しかし集中しないとな。怒りで剣速が上がってきた。俺は大太刀を忌纏を纏う腕で受けとめ、そのまま間合いに入る。


「全力で防御しないと内蔵破裂しますよ。メアリーさんがいるからって痛いのはいやでしょう?」


 そして腹部を思い切り殴り、彼を吹き飛ばした。最早十八番となったな、腹部へのパンチ。おまけで電撃を流したから、今は想像絶する痛みだろう。しかし俺の攻撃は効いていないのか、彼は立ち上がった。


「うぐっ・・・。なんだこの拳は・・・」


 ダメージはあるようだ。自動車やバイクくらいは、吹き飛ばせる勢いで殴ったんだ。むしろ立ち上がる方がおかしい。


「ただの・・・パンチ?」


「ただのパンチなわけあるか。くそこんな餓鬼にぃ・・・」


 <未来視>で俺自身が凍る未来が視えた。この人のブレードは氷属性か。俺は思いきり飛び退き避けた。


「ふんぬっ!」


 俺が凍らないと見るや否や、氷を砕いて潰を飛ばしてきた。くそっ!それが狙いか!
 別に俺の魔眼には、アンデル師匠のような再使用時間リキャストタイムはない。けれど一秒後すぐに発動なんてできない。仮に常に発動していたら、俺は2秒後に2秒前の攻撃を処理しているようなもの、目隠しをしている情態と何ら変わらない。
 俺は飛ばしてきた氷の礫避けずに喰らう。忌纏をしているからこの程度ダメージというダメージにはならない。


「これも効かないだと!ふざけるなぁ!うぉおおお」


 ブレードを前方に構えて突撃してくる。雨宮の刺突を左に身体を反らして避け、そのまま背中を押す。こんなの未来を視るまでもない。頭に血が上りすぎだ。
 しかし俺はその油断を後悔する。俺の上方向に氷の柱ができた。柱と言ってもパリにあるビックベンのような形と大きさのでかい氷だ。正気かこの人


「喰らえ!氷の時計塔リョートクレムリン


 やっぱり落下してくるか!さすがに大将。切り札も恐ろしいな。でもここ学園だぞ。なんて攻撃をしてくるんだ。俺の大技は獄炎氷花フレイムブリザードくらいだ。しかもルナトがいないと使えない。
 こうなったらぶっつけ本番でやるのは怖いけどあれをやるしかないか。俺は雷属性で電撃を生み出していく。今の俺なら電磁砲だって再現できるんじゃないだろうか?まぁ電磁砲の構造を知らない俺がそれっぽい感じで使用しても失敗して大けがをするのが関の山だけど。まぁこれもイヴさんとの修行の成果か。


「カズさんは何をやっているんですの?」


「ブレードを使って電撃を貯めているな。今のあいつは雷属性に関しては人間の中では右に出る者はいないんじゃないか?」


「カズスミっちってそんなすごい人だったんだ」


「全くあなた達この状況でよく落ち着いていられるわね。和澄くんったら、普通男子って言ったけど撤回するわ。あれは普通男子ができるようなことじゃないわよ」


「カズくん・・・」


 皆が各々何か言っている。ミナだけは俺を心配そうに見つめている。これは俺が負けるとかそういった心配じゃないな。焦った顔はしていない。


「ミナ、心配するな!俺は居たって正気だ!雨宮を殺す気はないし、この攻撃も止めるから安心してくれ」


「・・・!うん!」


 ミナに笑顔が戻った。やっぱり俺が負ける心配なんてミナはしていないと思ったんだ。


「以心伝心だな。お前達は良い夫婦になるぞ」


「ワタクシ達も見習わないとですわね」


「ルナトくん!ティア!」


 ミナは顔を真っ赤にしている。下手したら巻き込まれるかも知れないのに、お前ら案外余裕だな。
 まぁ充電も完了したことだしいきますか。


「いくぜ。先駆放電ステップトリーダー!」


 俺は弱い光がみえる程度の電撃を氷に向かって放つ。


目標固定ターゲットロックオン!」


 そして俺は内包した電気をすべて込めてる。


雷帝降臨テレヴルアドベント!」


 電撃が走った。イヴさんの鳴神ほどじゃないけど相当な熱量なはずだ。氷は跡形もなく消えた。
 名前のセンスはどうよ。ちょっとかっこいいとか思ったんだよ。


「バカな!?氷は電気を通さないはずだ!」


「水一滴も落ちてこないだろ?それだけの熱量を生んだんだ。これは自然現象じゃないんだぞ?」


 そう、これはブレードを使用して生み出した電撃だ。それも神の全力を受けとめられるほど雷属性を操れる人間の。俺が強いかどうかはわかんない。けれど、こと雷属性に至っては今は負ける気がしない。


「あり得ないあり得ない」


 雨宮は唱えるようにありえないといっている。それだけの切り札、奥の手だったのだろう。大将に、血が上っていたとはいえ奥の手を使わせた。更にそれを防いだんだ。少しは自信がつく。


「事実だ!受けとめろ」


「クソがぁぁぁぁ」


 雨宮は刺突を繰り返す。もうダメだな。雨宮もそれだけ精神的に追い詰められたということだろう。もうブレードを使用しなくても勝てるレベルの動きだな。俺は何度か刺突を避けたがずっと繰り返しで拉致があかないのでブレードを掴み奪い取る。


「少し頭を冷やせ」


 俺は忌纏を解除し足を払って、空中で横向き情態の雨宮の鳩尾に、一発肘打ちをたたき込んだ。地面に降り立った雨宮は気絶した。雨宮が冷静に本来の力を出せていたら結果は変わっていたかも知れない。


「ごめんなさいメアリーさん。雨宮さんの治療をお願いします」


「あら、雨宮のこと呼び捨てだったのにさん付けに戻したわね」


「思う所もありますけど、年上ですし敵って訳でもないですからね」


 それに実際ルールを破ったのはベロニカだ。極端なことを言っていたのは柔軟性が足りないとしか言えないけどさ。すべてが間違ってるとは俺も言えなかった。だから対立した。それだけのことだった。メアリーさんが治療を始めると続々こっちにくる。


「ふふふ。いずれは雨宮も部下になるんだ。呼び捨てでも構わない・・・」


「カズくんお疲れ様!」


「ミナよ私の言葉を遮るんじゃ・・・」


「カズさんすごいですわね!大将を倒すなんて」


「だからさえ・・・」


「カズスミっちホントゴメンありがとう!」


「あぁぁぁお前らぁぁ!」


 珍しくルナトがキレた。まぁ三回も遮られちゃ・・・。


「まぁ落ち着けってルナト。キャラ崩れてんぞ」


「ふふふっあははは。殿下って立場なのに立つ瀬ないねルナト」


 俺は宥めようとするが、モルフェさんが追い打ちをかけた。実際俺もそう思うけどさ。


「モルフェ殿まで・・・。くそ、いつもは矛先が和澄に向くのに!」


 そういってルナトは俺を睨み付けた。解せぬ。なぜ擁護しようとした俺が睨まれるんだ。
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