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一章 ――王家の使命――
幕間 『占領の風景』
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【幕間②】
滾る日差し、熱風と呼ぶに相応しい風を受け、ターンブル兵は各々、流す汗水を汚れきった布で拭き取る。
夏は暑い、冬はもっと暑いと揶揄されたエスタール地方の洗礼を身に染みて受けた状況であった。
公爵警護という名目で配属されたクラウディア軍団長率いるレギオン軍団兵の総数は丁度六千。
これは古来より決められたレギオン軍の最大総数であり、これ以上を一つでも越えると内紛が起こり自壊すると言われている。
その六千人の兵が警護という名目のまま、禄に説明も受けられずエスタール公国へと攻め入っていた。
内情を知る者は、公爵と軍団長であるクラウディア。そしてクラウディアの側近のみであったが、彼女持ち前の厳しい規律と訓練の賜物により、大きな混乱も生まずにエスタールを攻め落としていた。
ただ、戦果を上げようと、意気揚々乗り込んだ一部兵は肩透かしを受けていた。何故ならクラウディアの軍が何処に攻めようとも、どう動こうともエスタール側の軍らしき軍は出てこない。
それどころか、兵一人、ましてや戦おうとする者一人出てこない始末だ。
民衆は攻められたと分かると蜘蛛の子を散らすように逃げ、荷物一つ持っていかない有様だ。
王国《ルスラン》が『戦う価値すらない』と皮肉を出したことにも納得させられる抵抗の無さだった。
それでも多少の抵抗はあった。
町で一際目立つ、大きな屋敷に攻め込み、エスタール領主を捕らえて程なく、エスタールの水が全て止まったのだ。
上流の川より流れる水は水路を通り、見事なまでに計算された道筋により沢山の家に届くよう誘導されていた。
その上流の川と水路を繋ぐ一部が堰き止められたようだった。
幸いにも町中央には井戸があり、飲み水は確保することができる。
だが念の為にクラウディアは、水路の回復を図るため千人隊を上流の川へと送り出していた。
残る五千の兵の内二千は井戸周辺に集まり身体を休める。
どの屋敷に入っても熱気がこもっている為、野外に出ていた方が良いと判断していた。
それでも強い日差しはあるが、井戸周辺には広く日陰を作る傘のようなものがいくつも設置されており、芯の部分にはおあつらえ向きに自動で動く風車が設置されていた。
地水を使って動いているらしく、どの屋敷の風機も動かないことに腹を立てていた兵士達の溜飲を下げる役割を果たしている。
残る三千の兵は散り散りに分かれ探索に当たっている。
彼らはたった一人の女を捜していた。
エスタール公国公女ファティマ。
混乱に紛れ、姿を消したエスタールの姫であった。
一万は居たはずの民衆達も消え、もぬけの殻になった町並みを兵士達が空しく歩き回る。
【幕間③】
「あっちぃな、しかし。まだ終わらねーのかよ」
「あのオッサンも粘ってるみたいだな。ここに来て三日か。いい加減、風呂に入りてぇもんだ」
「ずっと先に貯水池があっただろ? やけに立派なやつ。堰き止められているけど。泳いでくれば?」
「んな危機感ねーことやってたら出世に響くだろ。この扇風機が無けりゃ地獄だったな。……にしても、なんでこんな所にこんなデカい扇風機がゴロゴロ置かれているんだ? 日差し避けの傘までよ」
「女の戦場は井戸端会議って言うだろ? どうせ、お前の嫁みたいな気の強い女が井戸の周りを快適にしろとか言ったんだろ」
「つうか、お前の嫁も似たようなもんだろう。知ってんだぞ、家では尻に敷かれていることくらい」
「まぁな、あー……でも、そんな嫁でも恋しくなることがあるんだな。早いところ帝都に帰りたいぜ」
「同感。……でもよ、ちょっと気になってる事があるんだ」
「なんだよ。勿体ぶってねーで、早く言え」
「昨日この辺りを見て回ったんだけど、この辺りだけ妙に窪んでんだ」
「窪んでる?」
「そう、アレだ、匙でガツンと掬った後のような感じ?」
「例えが分かり辛えよ。井戸の近辺が他と比べて低い位置にあるってことだろ? ……例えば雨水を集める為だとか、水はけの関係とか、そんなんじゃねーの?」
「まあ、気にしすぎかもだけど、洪水にでもなったらこの辺りガッツリ沈むよ」
「馬鹿かお前。この糞暑い国でそんなもん起きるかよ。むしろ洪水にでもなって貰いたい位だぜ。風呂の変わりにできる」
「だな。あー、もうすぐ交代の時間か。人っ子一人居ない町並みウロウロしてても何も楽しくねーしな」
「ド田舎国家つーだけあるぜ。歩けど歩けど、ボロボロの家か荷車ばかり。いい加減飽きが来たぜ」
「荷車って言えば、妙に多いよな。歩けばゴロゴロ荷車が置いてあんじゃねーか。それも馬鹿でかいやつばかり」
「そうそう、俺も気にはなってた。妙に頑丈そうなやつばかりな。普段はアレに乗って移動してんじゃねーの? 汗水垂らしてさ。流石は田舎国家だぜ」
「金の使いどころ間違えてんな。ホント、田舎は嫌だね。何処行っても糞の匂いがこびり付いた田舎くさい物ばかり。帝都が恋しいぜ」
「と、千隊長来たぜ。交代の時間だ」
「あーあ、面倒くせえ。……早く終わらねーかな」
「ホント、お偉いさん方は何やってんだかな」
滾る日差し、熱風と呼ぶに相応しい風を受け、ターンブル兵は各々、流す汗水を汚れきった布で拭き取る。
夏は暑い、冬はもっと暑いと揶揄されたエスタール地方の洗礼を身に染みて受けた状況であった。
公爵警護という名目で配属されたクラウディア軍団長率いるレギオン軍団兵の総数は丁度六千。
これは古来より決められたレギオン軍の最大総数であり、これ以上を一つでも越えると内紛が起こり自壊すると言われている。
その六千人の兵が警護という名目のまま、禄に説明も受けられずエスタール公国へと攻め入っていた。
内情を知る者は、公爵と軍団長であるクラウディア。そしてクラウディアの側近のみであったが、彼女持ち前の厳しい規律と訓練の賜物により、大きな混乱も生まずにエスタールを攻め落としていた。
ただ、戦果を上げようと、意気揚々乗り込んだ一部兵は肩透かしを受けていた。何故ならクラウディアの軍が何処に攻めようとも、どう動こうともエスタール側の軍らしき軍は出てこない。
それどころか、兵一人、ましてや戦おうとする者一人出てこない始末だ。
民衆は攻められたと分かると蜘蛛の子を散らすように逃げ、荷物一つ持っていかない有様だ。
王国《ルスラン》が『戦う価値すらない』と皮肉を出したことにも納得させられる抵抗の無さだった。
それでも多少の抵抗はあった。
町で一際目立つ、大きな屋敷に攻め込み、エスタール領主を捕らえて程なく、エスタールの水が全て止まったのだ。
上流の川より流れる水は水路を通り、見事なまでに計算された道筋により沢山の家に届くよう誘導されていた。
その上流の川と水路を繋ぐ一部が堰き止められたようだった。
幸いにも町中央には井戸があり、飲み水は確保することができる。
だが念の為にクラウディアは、水路の回復を図るため千人隊を上流の川へと送り出していた。
残る五千の兵の内二千は井戸周辺に集まり身体を休める。
どの屋敷に入っても熱気がこもっている為、野外に出ていた方が良いと判断していた。
それでも強い日差しはあるが、井戸周辺には広く日陰を作る傘のようなものがいくつも設置されており、芯の部分にはおあつらえ向きに自動で動く風車が設置されていた。
地水を使って動いているらしく、どの屋敷の風機も動かないことに腹を立てていた兵士達の溜飲を下げる役割を果たしている。
残る三千の兵は散り散りに分かれ探索に当たっている。
彼らはたった一人の女を捜していた。
エスタール公国公女ファティマ。
混乱に紛れ、姿を消したエスタールの姫であった。
一万は居たはずの民衆達も消え、もぬけの殻になった町並みを兵士達が空しく歩き回る。
【幕間③】
「あっちぃな、しかし。まだ終わらねーのかよ」
「あのオッサンも粘ってるみたいだな。ここに来て三日か。いい加減、風呂に入りてぇもんだ」
「ずっと先に貯水池があっただろ? やけに立派なやつ。堰き止められているけど。泳いでくれば?」
「んな危機感ねーことやってたら出世に響くだろ。この扇風機が無けりゃ地獄だったな。……にしても、なんでこんな所にこんなデカい扇風機がゴロゴロ置かれているんだ? 日差し避けの傘までよ」
「女の戦場は井戸端会議って言うだろ? どうせ、お前の嫁みたいな気の強い女が井戸の周りを快適にしろとか言ったんだろ」
「つうか、お前の嫁も似たようなもんだろう。知ってんだぞ、家では尻に敷かれていることくらい」
「まぁな、あー……でも、そんな嫁でも恋しくなることがあるんだな。早いところ帝都に帰りたいぜ」
「同感。……でもよ、ちょっと気になってる事があるんだ」
「なんだよ。勿体ぶってねーで、早く言え」
「昨日この辺りを見て回ったんだけど、この辺りだけ妙に窪んでんだ」
「窪んでる?」
「そう、アレだ、匙でガツンと掬った後のような感じ?」
「例えが分かり辛えよ。井戸の近辺が他と比べて低い位置にあるってことだろ? ……例えば雨水を集める為だとか、水はけの関係とか、そんなんじゃねーの?」
「まあ、気にしすぎかもだけど、洪水にでもなったらこの辺りガッツリ沈むよ」
「馬鹿かお前。この糞暑い国でそんなもん起きるかよ。むしろ洪水にでもなって貰いたい位だぜ。風呂の変わりにできる」
「だな。あー、もうすぐ交代の時間か。人っ子一人居ない町並みウロウロしてても何も楽しくねーしな」
「ド田舎国家つーだけあるぜ。歩けど歩けど、ボロボロの家か荷車ばかり。いい加減飽きが来たぜ」
「荷車って言えば、妙に多いよな。歩けばゴロゴロ荷車が置いてあんじゃねーか。それも馬鹿でかいやつばかり」
「そうそう、俺も気にはなってた。妙に頑丈そうなやつばかりな。普段はアレに乗って移動してんじゃねーの? 汗水垂らしてさ。流石は田舎国家だぜ」
「金の使いどころ間違えてんな。ホント、田舎は嫌だね。何処行っても糞の匂いがこびり付いた田舎くさい物ばかり。帝都が恋しいぜ」
「と、千隊長来たぜ。交代の時間だ」
「あーあ、面倒くせえ。……早く終わらねーかな」
「ホント、お偉いさん方は何やってんだかな」
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