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二章 ――生まれの片一羽――
ノエル4 『断罪の崖』
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「やあやあ、よく集まってくれました」
芝居がかった口調でエアがフィリーを迎える。
フィリーの横ではエアのツガイである、ケット・シーのリレフが醒めた目でエアの事を見つめていた。
「ねえ、エア。ボク、君がどうしても採れたての山菜スープ飲みたいって言うからここに来たんだよね」
「うん、気にするな」
「しかも君、私行けないから、フィリーと沢山取ってきてって言ってたよね」
「うん、気にするな」
「なんでここに居るの?」
「うん、気にするな」
~~ 僕たち魔族が暮らす第三区街、ブルシャンの北部には一面に草原が広がっている。そして、その先にはドラゴン山脈がそびえたっているんだ。
ドラゴンが住んでいるからドラゴン山脈。そのままだよね。
この山脈はブルシャンの北部全体を覆う様にして、先が見えない程長く伸びている。そして、麓の一部は自然を満喫できる散歩道として開放されているんだ。
その入り口が、今キミが立っているこの場所さ。
なんと、この散歩道に生えている薬草や山菜なんかは自由に採って帰っていいんだ。
みんな、沢山持って帰って、お父さんやお母さんをビックリさせようね!
ただ、まれに毒草も生えていたりするから、よーく観察して気をつけて採ってね。
それともう一つ。老若オスメス大小いろんな魔族に愛されているこの散歩道だけど、美味しい山菜を狙っているのはなにも魔族だけじゃないんだ。怖~い魔物だって出るかもしれない。
魔物避けはしてあるけれど、もし出会ってしまったら、絶対に戦っちゃダメだよ。一目散に逃げるようにね。お兄さんとの約束だよ ~~
『ブルシャン環境保護団体』
私はこのハイキングコース入り口前で、そんな説明が書かれた看板を見ながらドキドキしていた。なんだ、おかしい。フィリーの顔が見れないぞ。
……ち、違う。勘違いしないで。そういう事じゃない。
私達の誕生日から五日が経過していた。その間、私はフィリーの顔も見ていない。私が起きたらフィリーは朝ご飯も食べずに仕事に出かけていて、晩ご飯は外で。深夜にコッソリ帰ってくる。
これはもう、露骨に避けられてるよね。
だから今日こうしてフィリーが来てしまうと、本当に今、この時点で会って大丈夫だったのかという思いが先に出てしまう。
エアが私とフィリーを仲直りさせるために考えた作戦。
名付けて『サプライズ!! Wデートでドッキドキ!? 大作戦』がついに決行されてしまった。
……いや、私は止めたんだよ。やりたくなかったんだよ。でも目をキラキラさせたエアが多少の事で自分の意見を引っ込める筈もなく、結局気迫に押されてしまった。
「やーぐーぜんだねぇ、君たち。私たちも丁度山菜採りに来たのさー(棒)」
「いやだからエアさ。ねぇ、ボクの話聞いてる?」
「ちょうどよい。君たちも私たちと一緒に大自然のめぐみをタンノウしようじゃないかー(棒)……いいよね。フィリー」
「……ふんっ勝手にしろ」
ここまで来たからにはしょうがない、茶番に付き合ってやる。って考えてるよね。分かります。痛いほどよく。
「はぁ……まあ別にいいけどね。ところでノエル、久しぶりだね。色々話は聞いて--ギャフッ」
フィリーの肘鉄がリレフの脳天を直撃する。
「ふふぅん……オス二人で何の話をしてたのかなー? 聞きたいなぁー」
「うるせぇ! とっとといくぞ」
スタスタとアーチになった入り口を潜るフィリーとそれに纏わり付くエア。「ねぇねぇ、何の話?」とニヤニヤ訪ねてひっぱたかれそうになってる。気が気じゃない。
山菜採りは順調に進んだ。え? フィリーと会話? あるわけないじゃん(泣)。
ハイキングコースを外れちょっと木々の中に入り込むと、 出るわ出るわキノコに薬草。リレフが匂いで食用かどうかを見極め、皆でわいわいそれを採る。
だが私とフィリーは話さない。
エアとリレフ二人で話が盛り上がってる。 けどやっぱり私らは話さない!
私は私で気まずさが先に出てフィリーに話しかけられないし、フィリーも思うところが有るのか、私に壁を作っている。
「なんか思ってたより早く集まったねー」
フィリーが持つ採集品をかき集めた袋はもうパンパンになってた。軽く二十人前の料理が作れそうだ。
「この前雨降って天気が続いてたからね。時期がよかったのかも」
リレフも満足げだ。
「一応、私お弁当作ってきたけど、もう食べる?」
「そうだねー……よし! リレフ、帰ろうか」
「へ!?」
「エ、エアちゃん!?」
いやいやいや、ここはちょっと早いけど食べようかって流れでしょ。なに唐突に言ってんの。
「あーでも折角ノエルが早起きして作ってくれたお弁当が無駄になるのかー(棒)優しい誰かさんが食べてくれるといいけどねー(棒)……二人っきりで」
「いや、お腹空いてるしボクも食べたいんだけど」
「しっ! 空気読みなさいよ!」
「あ゛ぁ! お前ら何時までその茶番劇続けてんだ!」
ついにフィリーが突っ込みましたよ。ないす。私もそろそろ限界だった。
「ったく、……おら、ノエル。弁当箱貸せ」
サンドウィッチの詰まったバスケットをフィリーが私の手から奪い取る。
「あーあ、お前が朝から何か作ってたから、そんとき気が付きゃよかった」
「……あー……ごめんね。エアちゃんに口止めされてて」
「フィリーぃ、荷物持ってあげるなんて優しいねぇ。ちょーっと遅いけどね」
「手ぶらの奴に言われたくねぇよ」
「残念でしたー。私、手が翼だから物持てませーん」
「うっぜぇ」
「ほらほら、ふたりとも行くよ。あ、ノエル。あの辺りとかイイんじゃないかな?」
結局四人で、広場になっているスペースに座り込み早めの昼食を取る。
一度話せば、後は成り行き、私とフィリーは多少ぎこちなさはあるものの、それなりに会話が出来た。エアの策略通りだ。
「うん? ……なんか臭い」
サンドウィッチを頬張りながらリレフが突然呟いた。え、もしかして痛んでた?
「ごめん、味おかしかったら捨てていいよ」
「あっ違うよ。サンドウィッチじゃなくて……」
クンクン空に向かって鼻を動かすリレフ。リレフは種族特性で犬並に鼻が利くらしい。猫だけど!
「あれだ……」
リレフが指を指す方角を見る。
ドラゴン山脈が続く途中、削り取った様に断層が露わになった崖が見える。その崖は山脈の他の部分よりも遙かに高く。てっぺんは雲に覆われて見えない。
「……ああ、なんか白い煙が登ってんな」
フィリーが目をこらしている。言われてみれば、うっすらとそんな煙が見えなくもない。
「でも、あそこってアレでしょ?」
エアがリレフに問う。
「断罪の崖……だね。どうしよっか」
リレフがポリポリと頭を掻いた。
断罪の崖。魔族は絶対にそこに近づくなとされている場所。
……とは言っても、「近くまで行ってみたよー」って言っている魔族の大人は何人も居る。
別に死んだり呪われたりだとかはしないけど、ジンクス的なもの。
元の世界で言うと心霊スポットの様な感じかな。何となく不吉だから近寄っちゃ駄目。そう言われている場所だ。
その近くで上がる白い煙を巡って議論する私たち。
「別に放っときゃあいいんじゃねーか?」
フィリーは面倒だから行きたくない派。
「んーでもさ、もし山火事だったら大事になる前に消さなきゃ」
リレフは調べた方がいいよ派。
「あの辺ってモンスター居るんでしょ? 下手に近づかない方がいいんじゃない?」
エアが珍しく正論言ってるよ派。
「そのモンスターに襲われて、誰かが救助を求めてる……とかは?」
私は狼煙なんじゃないか派。
議論の末、結局近くまで飛行して向かい、大事になりそうならその場で対処する。という結論になった。
リレフはエアの足にしがみつき、私はフィリーに抱えられ、森の上空をプカプカ浮かぶ。
「……フィリー、お腹がキツい」
「ちったぁ我慢しろ」
片腕を私の腹に回して飛んでいるので私の全体重が腹に集中する。
お姫様だっことは言わないけどさ。もうちょっとどうにかならなかったのか。
「あ、見えてきたよ」
リレフが大声を上げる。崖の真下に森が少し開けて草が生い茂ってるスペースが見えた。そこに、一際目立つ残骸が見える。うん? あれは……
「あれって馬車?」
私の質問に誰も答えない。当然だ。
車輪のある乗り物なんて、魔族の街では一度も見かけた事がないからだ。
芝居がかった口調でエアがフィリーを迎える。
フィリーの横ではエアのツガイである、ケット・シーのリレフが醒めた目でエアの事を見つめていた。
「ねえ、エア。ボク、君がどうしても採れたての山菜スープ飲みたいって言うからここに来たんだよね」
「うん、気にするな」
「しかも君、私行けないから、フィリーと沢山取ってきてって言ってたよね」
「うん、気にするな」
「なんでここに居るの?」
「うん、気にするな」
~~ 僕たち魔族が暮らす第三区街、ブルシャンの北部には一面に草原が広がっている。そして、その先にはドラゴン山脈がそびえたっているんだ。
ドラゴンが住んでいるからドラゴン山脈。そのままだよね。
この山脈はブルシャンの北部全体を覆う様にして、先が見えない程長く伸びている。そして、麓の一部は自然を満喫できる散歩道として開放されているんだ。
その入り口が、今キミが立っているこの場所さ。
なんと、この散歩道に生えている薬草や山菜なんかは自由に採って帰っていいんだ。
みんな、沢山持って帰って、お父さんやお母さんをビックリさせようね!
ただ、まれに毒草も生えていたりするから、よーく観察して気をつけて採ってね。
それともう一つ。老若オスメス大小いろんな魔族に愛されているこの散歩道だけど、美味しい山菜を狙っているのはなにも魔族だけじゃないんだ。怖~い魔物だって出るかもしれない。
魔物避けはしてあるけれど、もし出会ってしまったら、絶対に戦っちゃダメだよ。一目散に逃げるようにね。お兄さんとの約束だよ ~~
『ブルシャン環境保護団体』
私はこのハイキングコース入り口前で、そんな説明が書かれた看板を見ながらドキドキしていた。なんだ、おかしい。フィリーの顔が見れないぞ。
……ち、違う。勘違いしないで。そういう事じゃない。
私達の誕生日から五日が経過していた。その間、私はフィリーの顔も見ていない。私が起きたらフィリーは朝ご飯も食べずに仕事に出かけていて、晩ご飯は外で。深夜にコッソリ帰ってくる。
これはもう、露骨に避けられてるよね。
だから今日こうしてフィリーが来てしまうと、本当に今、この時点で会って大丈夫だったのかという思いが先に出てしまう。
エアが私とフィリーを仲直りさせるために考えた作戦。
名付けて『サプライズ!! Wデートでドッキドキ!? 大作戦』がついに決行されてしまった。
……いや、私は止めたんだよ。やりたくなかったんだよ。でも目をキラキラさせたエアが多少の事で自分の意見を引っ込める筈もなく、結局気迫に押されてしまった。
「やーぐーぜんだねぇ、君たち。私たちも丁度山菜採りに来たのさー(棒)」
「いやだからエアさ。ねぇ、ボクの話聞いてる?」
「ちょうどよい。君たちも私たちと一緒に大自然のめぐみをタンノウしようじゃないかー(棒)……いいよね。フィリー」
「……ふんっ勝手にしろ」
ここまで来たからにはしょうがない、茶番に付き合ってやる。って考えてるよね。分かります。痛いほどよく。
「はぁ……まあ別にいいけどね。ところでノエル、久しぶりだね。色々話は聞いて--ギャフッ」
フィリーの肘鉄がリレフの脳天を直撃する。
「ふふぅん……オス二人で何の話をしてたのかなー? 聞きたいなぁー」
「うるせぇ! とっとといくぞ」
スタスタとアーチになった入り口を潜るフィリーとそれに纏わり付くエア。「ねぇねぇ、何の話?」とニヤニヤ訪ねてひっぱたかれそうになってる。気が気じゃない。
山菜採りは順調に進んだ。え? フィリーと会話? あるわけないじゃん(泣)。
ハイキングコースを外れちょっと木々の中に入り込むと、 出るわ出るわキノコに薬草。リレフが匂いで食用かどうかを見極め、皆でわいわいそれを採る。
だが私とフィリーは話さない。
エアとリレフ二人で話が盛り上がってる。 けどやっぱり私らは話さない!
私は私で気まずさが先に出てフィリーに話しかけられないし、フィリーも思うところが有るのか、私に壁を作っている。
「なんか思ってたより早く集まったねー」
フィリーが持つ採集品をかき集めた袋はもうパンパンになってた。軽く二十人前の料理が作れそうだ。
「この前雨降って天気が続いてたからね。時期がよかったのかも」
リレフも満足げだ。
「一応、私お弁当作ってきたけど、もう食べる?」
「そうだねー……よし! リレフ、帰ろうか」
「へ!?」
「エ、エアちゃん!?」
いやいやいや、ここはちょっと早いけど食べようかって流れでしょ。なに唐突に言ってんの。
「あーでも折角ノエルが早起きして作ってくれたお弁当が無駄になるのかー(棒)優しい誰かさんが食べてくれるといいけどねー(棒)……二人っきりで」
「いや、お腹空いてるしボクも食べたいんだけど」
「しっ! 空気読みなさいよ!」
「あ゛ぁ! お前ら何時までその茶番劇続けてんだ!」
ついにフィリーが突っ込みましたよ。ないす。私もそろそろ限界だった。
「ったく、……おら、ノエル。弁当箱貸せ」
サンドウィッチの詰まったバスケットをフィリーが私の手から奪い取る。
「あーあ、お前が朝から何か作ってたから、そんとき気が付きゃよかった」
「……あー……ごめんね。エアちゃんに口止めされてて」
「フィリーぃ、荷物持ってあげるなんて優しいねぇ。ちょーっと遅いけどね」
「手ぶらの奴に言われたくねぇよ」
「残念でしたー。私、手が翼だから物持てませーん」
「うっぜぇ」
「ほらほら、ふたりとも行くよ。あ、ノエル。あの辺りとかイイんじゃないかな?」
結局四人で、広場になっているスペースに座り込み早めの昼食を取る。
一度話せば、後は成り行き、私とフィリーは多少ぎこちなさはあるものの、それなりに会話が出来た。エアの策略通りだ。
「うん? ……なんか臭い」
サンドウィッチを頬張りながらリレフが突然呟いた。え、もしかして痛んでた?
「ごめん、味おかしかったら捨てていいよ」
「あっ違うよ。サンドウィッチじゃなくて……」
クンクン空に向かって鼻を動かすリレフ。リレフは種族特性で犬並に鼻が利くらしい。猫だけど!
「あれだ……」
リレフが指を指す方角を見る。
ドラゴン山脈が続く途中、削り取った様に断層が露わになった崖が見える。その崖は山脈の他の部分よりも遙かに高く。てっぺんは雲に覆われて見えない。
「……ああ、なんか白い煙が登ってんな」
フィリーが目をこらしている。言われてみれば、うっすらとそんな煙が見えなくもない。
「でも、あそこってアレでしょ?」
エアがリレフに問う。
「断罪の崖……だね。どうしよっか」
リレフがポリポリと頭を掻いた。
断罪の崖。魔族は絶対にそこに近づくなとされている場所。
……とは言っても、「近くまで行ってみたよー」って言っている魔族の大人は何人も居る。
別に死んだり呪われたりだとかはしないけど、ジンクス的なもの。
元の世界で言うと心霊スポットの様な感じかな。何となく不吉だから近寄っちゃ駄目。そう言われている場所だ。
その近くで上がる白い煙を巡って議論する私たち。
「別に放っときゃあいいんじゃねーか?」
フィリーは面倒だから行きたくない派。
「んーでもさ、もし山火事だったら大事になる前に消さなきゃ」
リレフは調べた方がいいよ派。
「あの辺ってモンスター居るんでしょ? 下手に近づかない方がいいんじゃない?」
エアが珍しく正論言ってるよ派。
「そのモンスターに襲われて、誰かが救助を求めてる……とかは?」
私は狼煙なんじゃないか派。
議論の末、結局近くまで飛行して向かい、大事になりそうならその場で対処する。という結論になった。
リレフはエアの足にしがみつき、私はフィリーに抱えられ、森の上空をプカプカ浮かぶ。
「……フィリー、お腹がキツい」
「ちったぁ我慢しろ」
片腕を私の腹に回して飛んでいるので私の全体重が腹に集中する。
お姫様だっことは言わないけどさ。もうちょっとどうにかならなかったのか。
「あ、見えてきたよ」
リレフが大声を上げる。崖の真下に森が少し開けて草が生い茂ってるスペースが見えた。そこに、一際目立つ残骸が見える。うん? あれは……
「あれって馬車?」
私の質問に誰も答えない。当然だ。
車輪のある乗り物なんて、魔族の街では一度も見かけた事がないからだ。
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