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二章 ――生まれの片一羽――
エピローグ『王家の使命』
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【エピローグ②】
「たった三つ?……少ないね」
私の前には異形の物体が三つ転がっていた。
その後ろには男が一人立っている。
「すまない……少し、問題が発生してな」
「問題? ……大丈夫なの?」
「気にしなくてもいい。後処理はした」
「いいけど、厄介事を持ち込まないでね」
球体の天井が広がる空間、落ちてくる星達を受け、私は男を睨み付ける。
男の後ろには転移石が輝きを放っている。
「じゃあこれ、いつもより少ないけど」
男は私が支払った金を受け取り、そそくさと転移石を使い、帰っていった。
『魔界』へと。
私と、私の前に転がる異形の物体だけが残される。
それは、“魔族”の子供だった。
動きを止めた小さな亡骸が、三体私の前に転がっていた。
私が父ホルマからこの役目を引き継いで、もう四年が経つ。早いものだ。
私が十二歳の頃、父に呼ばれ、エスタール王朝王族の秘密を伝えられた。
エスタール王族は、魔族の子を売買している。
元々の先祖をたどれば、『魔界』を繋ぐ扉を管理する守り手に過ぎなかったと聞く。
同盟国であるルスラン王国と、『魔界』の国を繋ぐ架け橋の役割を持っていた。
それが、いつしか、野心を持つようになる。
原因は『魔石』だった。
『魔石』の元である魔原石は魔族の心臓を抜き、精製する。
死んだ魔族の心臓はエスタールにより精製され、その魔原石をルスランが加工し、『魔石』にする。
そして人類は『魔法』という驚異的な未知の力を手にすることができていた。
しかし、過去のエスタール王族は考えた。
この魔原石を他に売れば、国は更に潤う……と。
『魔石』にせずとも、欠片でも特殊な力を見せる魔原石だ。買い手は幾らでも存在した。
魔界と人間界の移動には人数制限があるため、一回につき僅かながらの数しか手に入らなかったが、逆にそれが功を奏し、目立たぬよう続けていくことができた。
そして、ついに私にその役目が回ってきた。
これが、エスタールの秘密だ。
絶対に他人には知られてはいけない闇だ。
光には闇がついて回る。
純情で可憐な女の子なんて、どこにもいないように――
完全で無欠な男の子なんて、どこにもいないように――
純粋な人間なんてどこにもいない。
無垢な国なんて幻想の話でしか有り得ない。
どんなに良い国だと思えても、それはただ、そう魅せているだけだ。
物事の裏を返せば闇の一つや二つ、必ずある。
それが、これだった。私たちの国はこれだった。
王国には絶対知られてはいけない。そう、父からは念押しされている。
私だってそう思う。
転移石のことも、宝玉《オーブ》のことも、ルスランはとっくに知っている。
けれども私達の闇は、まだ知られていないはずだ。
特に、ロキには絶対に知られたくない。
知られないように、細心の注意を払ってきた。
そう、この秘密を守ることこそが、私達エスタールの王族が隠し持つ、真の使命だ。
『王家の使命』だ。
王子様は優しいから、例え異形の存在だとしても、子供の死体を見て良い気持ちにはならないだろう。
もしかしたら、止められるかもしれない。
汚い女だと罵られるかもしれない。
蔑まれ、私から、エスタールから離れていってしまうかもしれない。
それは、本当に怖い。
私は、ロキを愛している。
王子に魅せられている。
だから、ロキを失うことは、絶対に避けなくちゃいけないことだ。
私にとって何よりも恐れるべきことだ。
……それでも、私は自分のやっていることに後悔はしていない。
国には財源が必要だ。
立派な貯水池も、頑丈な水門も、このお金で作ったんだよ。
この魔族の子供を捌いて、皮を売って、角や翼を売って、……心臓を売って作ったお金なんだよ。
魔族は人間の敵。家畜以下の存在だ。
幼体だからって同情するのは筋違いだ。
でも、そんな優しい、ロキが好きだ。
初めて会った時期は怯えていたけれど、今はもう、私の心にはあの人だけが住んでいる。
ロキと一緒に暮らしていけるなら、私はどんなことだってできる。
エスタールは戦争に勝ってしまった。それも圧倒的な勝利だ。
民は勝利の味を覚え、気概が高まっていく。
この機会は逃したくなかった。
エスタールを救った英雄、ロキなら、エスタールの王族以外狂信しないエスタールの民でも納得するはずだ。
ロキを中心に一つにまとまる筈だ。
「ロキ……私は、貴方を王にする」
そのために、私はエスタールの闇を担う。
絶対に、私は誰にも、ロキをわたさない。
【帝国史】
エスタール公国の公女を得るため進軍した、モルドット卿率いる帝国軍レギオン部隊は公国領主ホルマの前に大敗を期した。
モルドット卿は失意のまま、エスタールの地に果てる。
帝国軍の生存者は数える程度、反して公国側の死傷者は百に満たない程度であった。
エスタール公国圧勝の噂は瞬くうちに大陸中へと広まっていく。
公国の隠された力を知った近隣諸国は、驚き、そして警戒を強めていった。
そして、それは帝国も同じだった。
暗雲が、徐々に大陸を覆っていく――
「たった三つ?……少ないね」
私の前には異形の物体が三つ転がっていた。
その後ろには男が一人立っている。
「すまない……少し、問題が発生してな」
「問題? ……大丈夫なの?」
「気にしなくてもいい。後処理はした」
「いいけど、厄介事を持ち込まないでね」
球体の天井が広がる空間、落ちてくる星達を受け、私は男を睨み付ける。
男の後ろには転移石が輝きを放っている。
「じゃあこれ、いつもより少ないけど」
男は私が支払った金を受け取り、そそくさと転移石を使い、帰っていった。
『魔界』へと。
私と、私の前に転がる異形の物体だけが残される。
それは、“魔族”の子供だった。
動きを止めた小さな亡骸が、三体私の前に転がっていた。
私が父ホルマからこの役目を引き継いで、もう四年が経つ。早いものだ。
私が十二歳の頃、父に呼ばれ、エスタール王朝王族の秘密を伝えられた。
エスタール王族は、魔族の子を売買している。
元々の先祖をたどれば、『魔界』を繋ぐ扉を管理する守り手に過ぎなかったと聞く。
同盟国であるルスラン王国と、『魔界』の国を繋ぐ架け橋の役割を持っていた。
それが、いつしか、野心を持つようになる。
原因は『魔石』だった。
『魔石』の元である魔原石は魔族の心臓を抜き、精製する。
死んだ魔族の心臓はエスタールにより精製され、その魔原石をルスランが加工し、『魔石』にする。
そして人類は『魔法』という驚異的な未知の力を手にすることができていた。
しかし、過去のエスタール王族は考えた。
この魔原石を他に売れば、国は更に潤う……と。
『魔石』にせずとも、欠片でも特殊な力を見せる魔原石だ。買い手は幾らでも存在した。
魔界と人間界の移動には人数制限があるため、一回につき僅かながらの数しか手に入らなかったが、逆にそれが功を奏し、目立たぬよう続けていくことができた。
そして、ついに私にその役目が回ってきた。
これが、エスタールの秘密だ。
絶対に他人には知られてはいけない闇だ。
光には闇がついて回る。
純情で可憐な女の子なんて、どこにもいないように――
完全で無欠な男の子なんて、どこにもいないように――
純粋な人間なんてどこにもいない。
無垢な国なんて幻想の話でしか有り得ない。
どんなに良い国だと思えても、それはただ、そう魅せているだけだ。
物事の裏を返せば闇の一つや二つ、必ずある。
それが、これだった。私たちの国はこれだった。
王国には絶対知られてはいけない。そう、父からは念押しされている。
私だってそう思う。
転移石のことも、宝玉《オーブ》のことも、ルスランはとっくに知っている。
けれども私達の闇は、まだ知られていないはずだ。
特に、ロキには絶対に知られたくない。
知られないように、細心の注意を払ってきた。
そう、この秘密を守ることこそが、私達エスタールの王族が隠し持つ、真の使命だ。
『王家の使命』だ。
王子様は優しいから、例え異形の存在だとしても、子供の死体を見て良い気持ちにはならないだろう。
もしかしたら、止められるかもしれない。
汚い女だと罵られるかもしれない。
蔑まれ、私から、エスタールから離れていってしまうかもしれない。
それは、本当に怖い。
私は、ロキを愛している。
王子に魅せられている。
だから、ロキを失うことは、絶対に避けなくちゃいけないことだ。
私にとって何よりも恐れるべきことだ。
……それでも、私は自分のやっていることに後悔はしていない。
国には財源が必要だ。
立派な貯水池も、頑丈な水門も、このお金で作ったんだよ。
この魔族の子供を捌いて、皮を売って、角や翼を売って、……心臓を売って作ったお金なんだよ。
魔族は人間の敵。家畜以下の存在だ。
幼体だからって同情するのは筋違いだ。
でも、そんな優しい、ロキが好きだ。
初めて会った時期は怯えていたけれど、今はもう、私の心にはあの人だけが住んでいる。
ロキと一緒に暮らしていけるなら、私はどんなことだってできる。
エスタールは戦争に勝ってしまった。それも圧倒的な勝利だ。
民は勝利の味を覚え、気概が高まっていく。
この機会は逃したくなかった。
エスタールを救った英雄、ロキなら、エスタールの王族以外狂信しないエスタールの民でも納得するはずだ。
ロキを中心に一つにまとまる筈だ。
「ロキ……私は、貴方を王にする」
そのために、私はエスタールの闇を担う。
絶対に、私は誰にも、ロキをわたさない。
【帝国史】
エスタール公国の公女を得るため進軍した、モルドット卿率いる帝国軍レギオン部隊は公国領主ホルマの前に大敗を期した。
モルドット卿は失意のまま、エスタールの地に果てる。
帝国軍の生存者は数える程度、反して公国側の死傷者は百に満たない程度であった。
エスタール公国圧勝の噂は瞬くうちに大陸中へと広まっていく。
公国の隠された力を知った近隣諸国は、驚き、そして警戒を強めていった。
そして、それは帝国も同じだった。
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