群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

文字の大きさ
48 / 147
二章    ――生まれの片一羽――

エピローグ『王家の使命』

しおりを挟む
【エピローグ②】
「たった三つ?……少ないね」
 私の前には異形の物体が三つ転がっていた。
 その後ろには男が一人立っている。

「すまない……少し、問題が発生してな」

「問題? ……大丈夫なの?」

「気にしなくてもいい。後処理はした」

「いいけど、厄介事を持ち込まないでね」
 球体の天井が広がる空間、落ちてくる星達を受け、私は男を睨み付ける。
 男の後ろには転移石が輝きを放っている。

「じゃあこれ、いつもより少ないけど」
 男は私が支払った金を受け取り、そそくさと転移石を使い、帰っていった。

 『魔界』へと。

 私と、私の前に転がる異形の物体だけが残される。

 それは、“魔族”の子供だった。
 動きを止めた小さな亡骸が、三体私の前に転がっていた。

 私が父ホルマからこの役目を引き継いで、もう四年が経つ。早いものだ。
 私が十二歳の頃、父に呼ばれ、エスタール王朝王族の秘密を伝えられた。

 エスタール王族は、魔族の子を売買している。

 元々の先祖をたどれば、『魔界』を繋ぐ扉を管理する守り手に過ぎなかったと聞く。
 同盟国であるルスラン王国と、『魔界』の国を繋ぐ架け橋の役割を持っていた。

 それが、いつしか、野心を持つようになる。

 原因は『魔石』だった。
 『魔石』の元である魔原石は魔族の心臓を抜き、精製する。
 死んだ魔族の心臓はエスタールにより精製され、その魔原石をルスランが加工し、『魔石』にする。
 そして人類は『魔法』という驚異的な未知の力を手にすることができていた。

 しかし、過去のエスタール王族は考えた。
 この魔原石を他に売れば、国は更に潤う……と。

 『魔石』にせずとも、欠片でも特殊な力を見せる魔原石だ。買い手は幾らでも存在した。

 魔界と人間界の移動には人数制限があるため、一回につき僅かながらの数しか手に入らなかったが、逆にそれが功を奏し、目立たぬよう続けていくことができた。

 そして、ついに私にその役目が回ってきた。

 これが、エスタールの秘密だ。
 絶対に他人には知られてはいけない闇だ。

 光には闇がついて回る。

 純情で可憐な女の子なんて、どこにもいないように――
 完全で無欠な男の子なんて、どこにもいないように――

 純粋な人間なんてどこにもいない。
 無垢な国なんて幻想の話でしか有り得ない。

 どんなに良い国だと思えても、それはただ、そう魅せているだけだ。

 物事の裏を返せば闇の一つや二つ、必ずある。

 それが、これだった。私たちの国はこれだった。

 王国には絶対知られてはいけない。そう、父からは念押しされている。
 私だってそう思う。

 転移石のことも、宝玉《オーブ》のことも、ルスランはとっくに知っている。
 けれども私達の闇は、まだ知られていないはずだ。

 特に、ロキには絶対に知られたくない。
 知られないように、細心の注意を払ってきた。

 そう、この秘密を守ることこそが、私達エスタールの王族が隠し持つ、真の使命だ。

 『王家の使命』だ。

 王子様は優しいから、例え異形の存在だとしても、子供の死体を見て良い気持ちにはならないだろう。
 もしかしたら、止められるかもしれない。
 汚い女だと罵られるかもしれない。
 蔑まれ、私から、エスタールから離れていってしまうかもしれない。
 それは、本当に怖い。

 私は、ロキを愛している。
 王子に魅せられている。
 だから、ロキを失うことは、絶対に避けなくちゃいけないことだ。
 私にとって何よりも恐れるべきことだ。

 ……それでも、私は自分のやっていることに後悔はしていない。
 国には財源が必要だ。
 立派な貯水池も、頑丈な水門も、このお金で作ったんだよ。
 この魔族の子供を捌いて、皮を売って、角や翼を売って、……心臓を売って作ったお金なんだよ。

 魔族は人間の敵。家畜以下の存在だ。
 幼体だからって同情するのは筋違いだ。

 でも、そんな優しい、ロキが好きだ。
 初めて会った時期は怯えていたけれど、今はもう、私の心にはあの人だけが住んでいる。
 ロキと一緒に暮らしていけるなら、私はどんなことだってできる。

 エスタールは戦争に勝ってしまった。それも圧倒的な勝利だ。
 民は勝利の味を覚え、気概が高まっていく。

 この機会は逃したくなかった。
 エスタールを救った英雄、ロキなら、エスタールの王族以外狂信しないエスタールの民でも納得するはずだ。
 ロキを中心に一つにまとまる筈だ。

「ロキ……私は、貴方を王にする」
 そのために、私はエスタールの闇を担う。


 絶対に、私は誰にも、ロキをわたさない。



【帝国史】
 エスタール公国の公女を得るため進軍した、モルドット卿率いる帝国軍レギオン部隊は公国領主ホルマの前に大敗を期した。
 モルドット卿は失意のまま、エスタールの地に果てる。

 帝国軍の生存者は数える程度、反して公国側の死傷者は百に満たない程度であった。
 エスタール公国圧勝の噂は瞬くうちに大陸中へと広まっていく。
 公国の隠された力を知った近隣諸国は、驚き、そして警戒を強めていった。

 そして、それは帝国も同じだった。

 暗雲が、徐々に大陸を覆っていく――



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜

伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。 ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。 健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。 事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。 気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。 そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。 やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜

沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」 中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。 それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。  だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。  • 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。  • 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。  • 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。  • オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。  恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。 教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。  「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」  鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。 恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!

処理中です...