群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

承-下巻①<王子1> 『聖堂地下』

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 ――時は数分前に遡る。

 『夜のノカ』聖堂の中は荒れ果てていた。
 ワイバーンが暴れた結果、『森のノカ』の瓦礫が天井を貫通し、集会場を崩壊させている。
「昇降機の破損を確認し、すぐにここを出たのが功を奏したな。もうしばらくここに留まっていたら落ちてきた瓦礫の餌食になっていたかもしれない」
 隣に立つシルワが俺の言葉にうなずく。

「レオンも後片付けが大変ね。依頼されればオーレンも手伝うでしょうけど、普段は『教会』も私たちと距離を置いているから難しいでしょうね」
 まあそうだろうな。聖職者が好き好んでアウトロー達と関わるとは思えない。
 『夜のノカ』管理人レオンも、あんなキャラをしているが元は異端審問官インクィジターの一員だ。
 ……というか、

「レオンを知っているのか? どんな関係だ?」
 俺の質問にシルワがニヤリと妖しげな笑みを浮かべる。

「ただの知り合いよ。なぁに? 気になるのぉ?」

「……ただの好奇心だ。深い意味はない」

「心配しなくても、そちらの関係は無いわ。私の本職は情報屋よ。この町の色々な人と関わっているわ」

「そちらがどちらか分からないし、心配もしていない。……だが、なるほど、確かにオーレンが自信を持って進めてきた人材なだけあるな」
 相変わらず、やりにくい女だ。

「さってと、じゃあ私はレオンに挨拶してくるわ。王子様はどうするの?」
 レオンとエストアは歩いて『森のノカ』に行くと言い残し、別れて以来会っていない。

「まだ戻ってきていないんじゃないか? 『森のノカ』まで急いでも半日はかかると言っていた。まだ一日も経っていないが」

「『森のノカ』の聖堂までたどり着いたのなら、昇降機修理用の縄梯子があるわ。長ーいやつ。今頃それを使って昇降機を必死に修理しているんじゃないかしら」
 ああ、なるほどな。確かにあれだけの装置が作られているならば、当然メンテナンスを考えて設計されているだろう。
 行って、戻る時間で考えていたが、半日あれば『夜のノカ』から歩いて『森のノカ』に向かい、そこから『夜のノカ』に戻ってこれるというわけだな。

「レオンならば転移盤アスティルミの場所も分かるだろう。呼んできてもらえるか?」

「おやすいご用~。……なかなか戻らなくても、嫉妬しないでね」

「誰がするか! 早く行け!」
 軽口を叩きながら昇降機の方へと向かうシルワに別れを告げ、集会場を見わたす。

「……さて、ではとっとと、転移盤アスティルミへの道を探すとするか」

    *****

 気合いを入れて転移盤アスティルミへの道を探し始めたものの、進捗は芳しくなかった。
 壁に隠し部屋がないか、一部屋ずつ丁寧に調べるものの、何処にもない。

「……どこかの聖堂のように鍵が必要、とかだとお手上げだぞ」
 エスタール地方ホームに一つだけそんなところを知っているが、アレは宝玉オーブを使う転移石がある聖堂の話だ。
 森のノカにある、俺が出てきた転移盤アスティルミもたいした隠され方をしていなかったし、探せばどこかにある筈なんだが……。
 ……そういえば、俺が使った転移盤アスティルミへの道は、本棚の裏に隠されていたな。
 俺は先ほど調べた本棚のある部屋に向かい、本と本の間を丁寧に調べる。そして、それを見つけた。
「固定された本と本の間か。単純なギミックだ」
 本に挟まれたスイッチを入れると、本棚が勢いよく右側にスライドした。
 壁に備え付けられた特徴のない木の扉が現れる。

「さてと、何か痕跡があるといいけどな」
 もしかすれば隠れている魔族とご対面という羽目になるかもしれない。まあ、その時はその時だ。
「王子、どこ?」
 部屋の外からシルワの声が聞こえてきた。昇降機のある場所から戻ってきたようだ。

「集会場右の通路を進んで、三つ目の扉だ。転移盤アスティルミへの道を見つけた!」

「分かった、すぐに行くわ」
 これでシルワはすぐにここに辿り着くだろう。
 目の前に現れた扉を開くと、下へと降りる階段が目に映る。薄暗い奥の方に注目し、目を凝らすとうっすらと両開きの扉が見える。そう離れていない距離だ。
 ……ちょっと待て。階段の真ん中を通る、黒い染みはなんだ?
 扉の、あれは、なんだ?

 階段の真ん中を通るように、どす黒い染みが一本のラインを引いていた。これは……まるで、何かを引きずった跡のような……。

 さらに目を凝らすと、両扉の持ち手部分付近に、赤黒い模様が見える。あれは……まるで、人の手形のような……。

 俺はどす黒い染みを避けつつ階段を降りる。引き寄せられるように奥の扉へと近づいていく。
 それを目視できる位置まで近づいていく。

「……やはり、手形だな。それも……血の手形だ」
 持ち手のすぐ上にベットリと血の手形がこびり付いていた。血は乾ききっていて、付けられて時間が経っていることを証明していた。
 金属でできた持ち手にも血痕が付いていて、赤黒く汚れている。爪で擦ると簡単に剥がれ落ちた。

「ここで、何が起こった……これは、一体誰の血だ?」
 震える手で持ち手を捻る。乾いた血痕が俺の掌を汚し、パラパラと床に舞う。

 がこん、と音を立て、扉が開かれた。

「……花の匂い?」
 一瞬だけ、俺の鼻孔をくすぐる匂いを感じる。
 ラベンダーとローズを合わせたような、花の匂い。どこかで嗅いだような香りだ。
 不意に懐かしさが混み上がる。

 だがその匂いはすぐに収まり、変わりに鉄錆を撒き散らしたようなむせ返る臭気へと切り替わる。

「王子……これは……」
 いつの間にか、シルワが俺の後ろに立っていた。それに気がつけない程に、俺は放心していた。
 転移盤アスティルミの前に存在する物体に心を奪われていた。

 転移盤アスティルミの手前で、全裸の女が一人、逆さ吊りになっていた。足を縛られ両手がぶらりと垂れ下がっている。

「これは……これは、一体、どういうことだ!?」
 想像を遙かに超えた出来事を見つめ、俺はただただ、震える。
 吊られた女の腹は真一文字に切り裂かれていた。皮がめくれ、黒い肉を見せつけている。
 そして……その奥は空っぽだった。
 内臓は全て抜き取られていた。

 隣に立つシルワも、目の前の女を見つめ、青ざめた表情を浮かべている。

 女は、転移盤アスティルミに飾られるように存在した。

「……何故、……一体何故こんなところに……」
 この場に居る誰も答えられない。それが分かっていても、俺は続けざるを得なかった。

「一体何故、こんなところに、死体が・・・吊されているんだ・・・・・・・・!?」
 生を亡くした、見知らぬ女の瞳が、俺に無念を訴えかけてきた。

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