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三章 ――白色の王子と透明な少女――
転-上巻①<少女1> 『楽しい時間』
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「約束?」
「ああ……それはね――」
私の前にいるお兄ちゃんが、しゃがみ込み、赤い瞳で私をみつめてくる。
私の両手が握り締められ、心まで暖かい温もりに包まれる。
「これから君は、沢山の苦労をするだろう。嫌な思いも沢山する。……悲しくて、辛くて自分が嫌になってしまうときが来るかもしれない」
「嫌だ……そんなの」
もうこんな、嫌な思いなんてしたくない。
悲しい気持ちなんて、なくなってしまえばいいんだ。
「……そんな時は、俺を思い出せ。今日俺は君と一緒に、お母さんに謝りにいく。同じように……どうしようもないときも、周りを見わたせば仲間はいる。手助けをしてくれる相手はどこかにいる。希望を信じて、友達を信じて手を差しのばしてみな。……その相手を見つけることが、俺と君との約束だ」
えっと……。
仲間がどこかにいる? 希望を、信じる?
……。
「……よく分からない」
正直な私の感想に、白い髪のお兄ちゃんはちょっとだけ困った顔をみせる。
少しだけ考え込んで、私に笑いかけながら、こう言った――
①【ソフィア】
浮かぶ島に乗り、なんとか『森のノカ』近くまで戻ってきた私達は、なんとか自宅まで辿り着いた。
その後、私はすぐにお風呂に入り、メフィスと一緒に自室で眠っていたところをマシューに起こされ、帰ってきた王子様と一緒に食事をすることになった。
「お母さん、今日も帰ってこないんだね。折角沢山作ったのに」
マシューが不満そうにスープを啜る。
今日の晩ご飯も王子様とマシュー、私三人での食事だ。
今日の晩ご飯はマシューが一人で作ってくれた。マシューも昼間の冒険で疲れているはずなのに、今はもうすっかり元気だ。味はイマイチだけど晩ご飯作ってくれたのは本当に嬉しい。後でお礼しなきゃ。
「……お母さんは忙しいみたいだね。きっと、明日には帰ってくるよ」
もう今日にはいなくなってるかもしれないと思っていた王子様もちゃんと帰ってきてくれた。
今日も相変わらず白銀の髪とお顔の辺りが輝いている。ホント、ずっといてくれていいのに。
「ねぇねぇ、王子様はいつ帰るの?」
マシューが丁度気になっていたことを尋ねてくれる。
よしよし、弟よ、良い仕事をした。
「……もう少し、予定が長引きそうだ。その間はこの家にご厄介になるよ。君らには迷惑をかけてしまうけれどね」
いえいえ! 是非! 是非ともいて下さい!
「ふーん……王子様は何をしにこの町に来たの?」
「詳しくは言えないけれど……とある目的のために、『黒いローブの男』を探しているんだ。……君たちはどこかで見かけたことがないかな?」
王子様が私とマシューを交互に見つめる。
「見たことないー!」
「私も、見たことないですね」
黒いローブの男……そんな目立つ格好していたら否が応でも目に付くだろうし、覚えていると思う。
「そうか……もし見かけたらすぐに知らせてもらいたい。どんな情報でも構わないよ」
王子様の笑顔に、私達は頷《うなず》く。
そうか、王子様は人捜しにやってきたんだ。ずっと見つからないでいてもらいたいな。
そしたらそれだけ長く一緒にいられるから。
「ねぇ、王子様ってお母さんいるの?」
唐突に、マシューが尋ねる。いるに決まってるじゃない。
王子様だってこんなに神々しいけれど人間だよ。
なんか花のつぼみから生まれててもおかしくないけど、私達と同じだよ。
「王都にいるよ。もうしばらく話をしていないけれどね」
「ふーん、なんか普通だね」
マシューの反応に王子が笑う。
「普通だよ。王子って身分だけど、中身はただの人間だ。……君らのお母さんはどんな人なのかな?」
どんな人って……普通の人? あれ? 普通ってなんだろう。
「僕には優しいけれど、ソフィアにはちょっと厳しい」
マシューが思いのまま口にする。ちょっと、誤解されるからやめて。
「そうなのかい?」
「うん。すぐ叩いたり、怒ったり。だからそんな時はちょっと嫌い」
「それはなぜ? どちらもお母さんの子供なのに」
王子の疑問に、マシューは「分かんない」と首を振る。
……。
……どうすんのよこの暗い雰囲気。王子様も気を遣って黙っちゃったし。
……仕方ない。私が引き継ごう。
「多分母は、私がお姉さんだから厳しく育てているんだと思います。今はそうじゃないのですが、王都にいた頃は習い事なども沢山させられていましたし」
剣術もその一環だ。まあ、私の興味は剣術一本になっちゃって、それが目に見えて態度に現れていたし、結果も出ていたから今はもうそんなにうるさく言ってこない。
「そうか。君は嫌っていたり、恨んでいたりとかはしないのか?」
「お母さんをですか?」
王子の頷《うなず》きに考える。嫌うとか考えたことない。お母さんはお母さんなんだから、好きとか嫌いとかそういう感情とはまた別だ。
「……叩かれるのは嫌ですね。悲しくなります。けれど、優しいときもあるので、これが当たり前のことだと思っています。お母さんってこういうものだと思っています。だからお母さんのことは嫌いじゃないです」
お母さんだって、人間なんだから機嫌悪いときだってある。
怒るときだってある。
でも、それはお母さんだけが悪いわけじゃない。
私が悪い時だって沢山あった。私のために怒ってくれてるんだから、それで恨むのは筋違いだ。
「そうか。……それはすまなかった」
……すまなかった?
「……なぜ、謝るのですか?」
「いや。気にしなくていい」
それからはマシューが話題を変え、王都の美味しいお店の話で食卓が持ちきりになった。
王子様は練った芋を丸めた粒がたくさん入った牛乳紅茶が好みなんだって。
どんな味がするのか想像もつかない。
機会があれば連れてってくれるらしい。
ずっと続いてもらいたい楽しい時間が、あっという間に過ぎ去っていった。
「ああ……それはね――」
私の前にいるお兄ちゃんが、しゃがみ込み、赤い瞳で私をみつめてくる。
私の両手が握り締められ、心まで暖かい温もりに包まれる。
「これから君は、沢山の苦労をするだろう。嫌な思いも沢山する。……悲しくて、辛くて自分が嫌になってしまうときが来るかもしれない」
「嫌だ……そんなの」
もうこんな、嫌な思いなんてしたくない。
悲しい気持ちなんて、なくなってしまえばいいんだ。
「……そんな時は、俺を思い出せ。今日俺は君と一緒に、お母さんに謝りにいく。同じように……どうしようもないときも、周りを見わたせば仲間はいる。手助けをしてくれる相手はどこかにいる。希望を信じて、友達を信じて手を差しのばしてみな。……その相手を見つけることが、俺と君との約束だ」
えっと……。
仲間がどこかにいる? 希望を、信じる?
……。
「……よく分からない」
正直な私の感想に、白い髪のお兄ちゃんはちょっとだけ困った顔をみせる。
少しだけ考え込んで、私に笑いかけながら、こう言った――
①【ソフィア】
浮かぶ島に乗り、なんとか『森のノカ』近くまで戻ってきた私達は、なんとか自宅まで辿り着いた。
その後、私はすぐにお風呂に入り、メフィスと一緒に自室で眠っていたところをマシューに起こされ、帰ってきた王子様と一緒に食事をすることになった。
「お母さん、今日も帰ってこないんだね。折角沢山作ったのに」
マシューが不満そうにスープを啜る。
今日の晩ご飯も王子様とマシュー、私三人での食事だ。
今日の晩ご飯はマシューが一人で作ってくれた。マシューも昼間の冒険で疲れているはずなのに、今はもうすっかり元気だ。味はイマイチだけど晩ご飯作ってくれたのは本当に嬉しい。後でお礼しなきゃ。
「……お母さんは忙しいみたいだね。きっと、明日には帰ってくるよ」
もう今日にはいなくなってるかもしれないと思っていた王子様もちゃんと帰ってきてくれた。
今日も相変わらず白銀の髪とお顔の辺りが輝いている。ホント、ずっといてくれていいのに。
「ねぇねぇ、王子様はいつ帰るの?」
マシューが丁度気になっていたことを尋ねてくれる。
よしよし、弟よ、良い仕事をした。
「……もう少し、予定が長引きそうだ。その間はこの家にご厄介になるよ。君らには迷惑をかけてしまうけれどね」
いえいえ! 是非! 是非ともいて下さい!
「ふーん……王子様は何をしにこの町に来たの?」
「詳しくは言えないけれど……とある目的のために、『黒いローブの男』を探しているんだ。……君たちはどこかで見かけたことがないかな?」
王子様が私とマシューを交互に見つめる。
「見たことないー!」
「私も、見たことないですね」
黒いローブの男……そんな目立つ格好していたら否が応でも目に付くだろうし、覚えていると思う。
「そうか……もし見かけたらすぐに知らせてもらいたい。どんな情報でも構わないよ」
王子様の笑顔に、私達は頷《うなず》く。
そうか、王子様は人捜しにやってきたんだ。ずっと見つからないでいてもらいたいな。
そしたらそれだけ長く一緒にいられるから。
「ねぇ、王子様ってお母さんいるの?」
唐突に、マシューが尋ねる。いるに決まってるじゃない。
王子様だってこんなに神々しいけれど人間だよ。
なんか花のつぼみから生まれててもおかしくないけど、私達と同じだよ。
「王都にいるよ。もうしばらく話をしていないけれどね」
「ふーん、なんか普通だね」
マシューの反応に王子が笑う。
「普通だよ。王子って身分だけど、中身はただの人間だ。……君らのお母さんはどんな人なのかな?」
どんな人って……普通の人? あれ? 普通ってなんだろう。
「僕には優しいけれど、ソフィアにはちょっと厳しい」
マシューが思いのまま口にする。ちょっと、誤解されるからやめて。
「そうなのかい?」
「うん。すぐ叩いたり、怒ったり。だからそんな時はちょっと嫌い」
「それはなぜ? どちらもお母さんの子供なのに」
王子の疑問に、マシューは「分かんない」と首を振る。
……。
……どうすんのよこの暗い雰囲気。王子様も気を遣って黙っちゃったし。
……仕方ない。私が引き継ごう。
「多分母は、私がお姉さんだから厳しく育てているんだと思います。今はそうじゃないのですが、王都にいた頃は習い事なども沢山させられていましたし」
剣術もその一環だ。まあ、私の興味は剣術一本になっちゃって、それが目に見えて態度に現れていたし、結果も出ていたから今はもうそんなにうるさく言ってこない。
「そうか。君は嫌っていたり、恨んでいたりとかはしないのか?」
「お母さんをですか?」
王子の頷《うなず》きに考える。嫌うとか考えたことない。お母さんはお母さんなんだから、好きとか嫌いとかそういう感情とはまた別だ。
「……叩かれるのは嫌ですね。悲しくなります。けれど、優しいときもあるので、これが当たり前のことだと思っています。お母さんってこういうものだと思っています。だからお母さんのことは嫌いじゃないです」
お母さんだって、人間なんだから機嫌悪いときだってある。
怒るときだってある。
でも、それはお母さんだけが悪いわけじゃない。
私が悪い時だって沢山あった。私のために怒ってくれてるんだから、それで恨むのは筋違いだ。
「そうか。……それはすまなかった」
……すまなかった?
「……なぜ、謝るのですか?」
「いや。気にしなくていい」
それからはマシューが話題を変え、王都の美味しいお店の話で食卓が持ちきりになった。
王子様は練った芋を丸めた粒がたくさん入った牛乳紅茶が好みなんだって。
どんな味がするのか想像もつかない。
機会があれば連れてってくれるらしい。
ずっと続いてもらいたい楽しい時間が、あっという間に過ぎ去っていった。
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