127 / 147
四章 ―― 夢と空の遺跡 ――
遺跡3 『人生経験』
しおりを挟む
③
「ありがとう。もう大丈夫だから」
人の姿に戻ったテトラに水筒の水を渡す。
壁の背にもたれて喉を潤すテトラ。
落とし穴に落下した私たちはなんとか一命を取りとめ、モノトーンのタイルが並んだ通路の途中に腰を落ち着けていた。
さっき落ちてきた落とし穴は閉じられ、上に飛んで抜けることはできなそう。
「少しここで休んでて。私たちは抜け出せそうな場所を探してみるね」
ローブの隙間からテトラの身体を見てみたけど、大きなアザができてる。
内臓とか傷ついていないといいけど。
テトラはしばらく動けそうにない。さっきは助けてもらったし、今度は私たちが頑張らないと。
「すぐに戻ってくるからな。何かあったら声を上げろよ」
「ええ、ありがとう」
テトラに手を振り、私たちは通路をひたすら歩き続ける。奥の方にうっすらと灯りが見えるので、あそこまで行けば何か見つかるはず。多分。
「ったく、エアも碌なことしねーな」
「本当だよね。……ふたりとも無事だといいけど」
「だな。ま、悪運が強い二匹だから大丈夫だろ」
「だねー……で、この手はなに?」
フィリーの太い腕が私の肩に回され、引き寄せられている。
「あー……気にすんな」
「……気になる」
なんか強い力で引き寄せられて離れられないんだけど。気にするなって方が難しいんですけど。
「嫌か?」
「べ、別にぃ……」
「ならいいだろ」
強引か。フィリーの癖に。
なに急に。フィリーの癖に。
私の心配ばかりして。フィリーの癖に!
……。
「……う、うぁあああああ!!」
「な、なんだ!? どうした!?」
はぁ、はぁ……。ま、マズイ。気が動転して不思議ちゃん系のヤバい行動とった気がする。だめだ。落ち着けノエル。あなた元つばさでしょ。人間でしょ。
人生経験豊富なんだからこんなことで……取り乱し……人生、経験――
……。
「つばさの時もろくな経験無いじゃん!!!!」
「どうした!?」
はぁ、はぁ。もうやめよう。変な子だと思われる。でも叫んだらちょっと落ち着いた。
ホント、フィリーもやめてよ。私こういうの慣れてないんだよ。
しばらく道なりに歩いていると広いドーム状の空間に辿り着いた。
高い天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
見わたすと私たちが出てきたような出口が沢山並んでいた。
いくつもの道がこの空間に繋がっているのだろう。
「ノエル。オレの後ろに下がれ」
隣に立つ、フィリーの言葉は耳に入ってこなかった。
私はそれだけ、心を揺さぶられていた。
広場の中央はその部分だけ土台のようにせり上がっている。
そこに真っ黒のローブを着た存在が立っていた。
黒いローブの前には光り輝く物体が浮かび上がっている。
私は、その光る物体を知っていた。
この世界に生まれる前から、既に知っていた。
「“石碑”……? 嘘でしょ!?」
あの日、常見重工ビルの屋上で、私たちは謎の石碑に遭遇した。
砕かれて、小さくなっているけれど見間違えるわけがない。
目の大きな女の人の絵を見間違えるわけがない。
広場の中央には、私と悠人が転生する前に出現した、石碑の欠片が宙を浮いていた。
「なんで!?……なんでここにあるの!?」
「ノエル……なにか知ってんのか?」
フィリーの質問にも答えられない。それだけ動揺しているし、答える事ができない存在だ。
石碑の欠片にはあの日のように拳大の宝石が取り付けられている。
そこから眩い光がしじまのように発射されていて、黒いローブの伸ばした手に吸収されていた。
なんだろう……まるで、宝石の力を吸い取っているみたい。
しじまは黒いローブの全身を伝って消えていく。
ふいに、静寂が訪れた。
黒いローブが振り返り、私たちを確認した。深めのフードを被っていて顔はまるで見えない。
「ノエル、気をつけろ……何かしてくんぞ」
ローブの存在がまとう空気を読み取ったのか、フィリーは全身の力を込め、鉤爪を構える。
ローブの腕が高々と掲げられた。
ローブの手から赤い閃光が走り、壁を伝って出入り口の中に入り込んでいく。
あまりのまぶしさに私たちは身を低くしてその光をやり過ごす。
なにあの赤い電気っぽい魔法。雷魔法? でもいつかのゴブリンが撃ってきた雷魔法とは雰囲気が全然違う。よく分からないけど、あたったらマズイ気がする。
ぱっと、電気のスイッチを消すように赤い光がやんだ。
それと同時に出入り口から物音が湧き出てくる。
それは伝染し、出入り口の至る所から沸き上がってくる。
がしゃがしゃと、ずるりずるりと。
「糞が……」
フィリーの喉から、唾を飲む音が聞こえてきた。
そして、私は見た。
出入り口から鎧を着たトカゲが這い出てくるのを。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
「リザードマン……」
私の呟きに呼応するかのように、人の大きさをしたトカゲたちが続々と這い出てきた。
ボロボロの鎧を着込んでいて、剣やハンマーを持つトカゲ達もいる。
真っ黄色の目が次々に私たちを捕らえていく。
トカゲの集団が私たちに襲いかかってきた。
「ありがとう。もう大丈夫だから」
人の姿に戻ったテトラに水筒の水を渡す。
壁の背にもたれて喉を潤すテトラ。
落とし穴に落下した私たちはなんとか一命を取りとめ、モノトーンのタイルが並んだ通路の途中に腰を落ち着けていた。
さっき落ちてきた落とし穴は閉じられ、上に飛んで抜けることはできなそう。
「少しここで休んでて。私たちは抜け出せそうな場所を探してみるね」
ローブの隙間からテトラの身体を見てみたけど、大きなアザができてる。
内臓とか傷ついていないといいけど。
テトラはしばらく動けそうにない。さっきは助けてもらったし、今度は私たちが頑張らないと。
「すぐに戻ってくるからな。何かあったら声を上げろよ」
「ええ、ありがとう」
テトラに手を振り、私たちは通路をひたすら歩き続ける。奥の方にうっすらと灯りが見えるので、あそこまで行けば何か見つかるはず。多分。
「ったく、エアも碌なことしねーな」
「本当だよね。……ふたりとも無事だといいけど」
「だな。ま、悪運が強い二匹だから大丈夫だろ」
「だねー……で、この手はなに?」
フィリーの太い腕が私の肩に回され、引き寄せられている。
「あー……気にすんな」
「……気になる」
なんか強い力で引き寄せられて離れられないんだけど。気にするなって方が難しいんですけど。
「嫌か?」
「べ、別にぃ……」
「ならいいだろ」
強引か。フィリーの癖に。
なに急に。フィリーの癖に。
私の心配ばかりして。フィリーの癖に!
……。
「……う、うぁあああああ!!」
「な、なんだ!? どうした!?」
はぁ、はぁ……。ま、マズイ。気が動転して不思議ちゃん系のヤバい行動とった気がする。だめだ。落ち着けノエル。あなた元つばさでしょ。人間でしょ。
人生経験豊富なんだからこんなことで……取り乱し……人生、経験――
……。
「つばさの時もろくな経験無いじゃん!!!!」
「どうした!?」
はぁ、はぁ。もうやめよう。変な子だと思われる。でも叫んだらちょっと落ち着いた。
ホント、フィリーもやめてよ。私こういうの慣れてないんだよ。
しばらく道なりに歩いていると広いドーム状の空間に辿り着いた。
高い天井からホタルみたいな光が放たれ雪のように散っている。
見わたすと私たちが出てきたような出口が沢山並んでいた。
いくつもの道がこの空間に繋がっているのだろう。
「ノエル。オレの後ろに下がれ」
隣に立つ、フィリーの言葉は耳に入ってこなかった。
私はそれだけ、心を揺さぶられていた。
広場の中央はその部分だけ土台のようにせり上がっている。
そこに真っ黒のローブを着た存在が立っていた。
黒いローブの前には光り輝く物体が浮かび上がっている。
私は、その光る物体を知っていた。
この世界に生まれる前から、既に知っていた。
「“石碑”……? 嘘でしょ!?」
あの日、常見重工ビルの屋上で、私たちは謎の石碑に遭遇した。
砕かれて、小さくなっているけれど見間違えるわけがない。
目の大きな女の人の絵を見間違えるわけがない。
広場の中央には、私と悠人が転生する前に出現した、石碑の欠片が宙を浮いていた。
「なんで!?……なんでここにあるの!?」
「ノエル……なにか知ってんのか?」
フィリーの質問にも答えられない。それだけ動揺しているし、答える事ができない存在だ。
石碑の欠片にはあの日のように拳大の宝石が取り付けられている。
そこから眩い光がしじまのように発射されていて、黒いローブの伸ばした手に吸収されていた。
なんだろう……まるで、宝石の力を吸い取っているみたい。
しじまは黒いローブの全身を伝って消えていく。
ふいに、静寂が訪れた。
黒いローブが振り返り、私たちを確認した。深めのフードを被っていて顔はまるで見えない。
「ノエル、気をつけろ……何かしてくんぞ」
ローブの存在がまとう空気を読み取ったのか、フィリーは全身の力を込め、鉤爪を構える。
ローブの腕が高々と掲げられた。
ローブの手から赤い閃光が走り、壁を伝って出入り口の中に入り込んでいく。
あまりのまぶしさに私たちは身を低くしてその光をやり過ごす。
なにあの赤い電気っぽい魔法。雷魔法? でもいつかのゴブリンが撃ってきた雷魔法とは雰囲気が全然違う。よく分からないけど、あたったらマズイ気がする。
ぱっと、電気のスイッチを消すように赤い光がやんだ。
それと同時に出入り口から物音が湧き出てくる。
それは伝染し、出入り口の至る所から沸き上がってくる。
がしゃがしゃと、ずるりずるりと。
「糞が……」
フィリーの喉から、唾を飲む音が聞こえてきた。
そして、私は見た。
出入り口から鎧を着たトカゲが這い出てくるのを。
ぬめぬめした皮。身体は人間のように大きいけれど、顔はトカゲのそれ。目は真っ黄色で、口から細く長い舌をチロチロと出している。
「リザードマン……」
私の呟きに呼応するかのように、人の大きさをしたトカゲたちが続々と這い出てきた。
ボロボロの鎧を着込んでいて、剣やハンマーを持つトカゲ達もいる。
真っ黄色の目が次々に私たちを捕らえていく。
トカゲの集団が私たちに襲いかかってきた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
【完結】異世界転移したら騎士団長と相思相愛になりました〜私の恋を父と兄が邪魔してくる〜
伽羅
恋愛
愛莉鈴(アリス)は幼馴染の健斗に片想いをしている。
ある朝、通学中の事故で道が塞がれた。
健斗はサボる口実が出来たと言って愛莉鈴を先に行かせる。
事故車で塞がれた道を電柱と塀の隙間から抜けようとすると妙な違和感が…。
気付いたら、まったく別の世界に佇んでいた。
そんな愛莉鈴を救ってくれた騎士団長を徐々に好きになっていくが、彼には想い人がいた。
やがて愛莉鈴には重大な秘密が判明して…。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
SSS級の絶世の超絶美少女達がやたらと俺にだけ見え見えな好意を寄せてくる件について。〜絶対に俺を攻略したいSSS級の美少女たちの攻防戦〜
沢田美
恋愛
「ごめんね、八杉くん」
中学三年の夏祭り。一途な初恋は、花火と共に儚く散った。
それ以来、八杉裕一(やすぎ・ゆういち)は誓った。「高校では恋愛なんて面倒なものとは無縁の、平穏なオタク生活を送る」と。
だが、入学した紫水高校には《楽園の世代》と呼ばれる四人のSSS級美少女――通称《四皇》が君臨していた。
• 距離感バグり気味の金髪幼馴染・神行胱。
• 圧倒的カリスマで「恋の沼」に突き落とす銀髪美少女・銀咲明日香。
• 無自覚に男たちの初恋を奪う、おっとりした「女神」・足立模。
• オタクにも優しい一万年に一人の最高ギャル・川瀬優里。
恋愛から距離を置きたい裕一の願いも虚しく、彼女たちはなぜか彼にだけ、見え見えな好意を寄せ始める。
教室での「あーん」に、放課後のアニメイトでの遭遇、さらには女神からの「一緒にホラー漫画を買いに行かない?」というお誘いまで。
「俺の身にもなれ! 荷が重すぎるんだよ!」
鋼の意志でスルーしようとする裕一だが、彼女たちの純粋で猛烈なアプローチは止まらない。
恋愛拒否気味な少年と、彼を絶対に攻略したい最強美少女たちの、ちょっと面倒で、でも最高に心地よい「激推し」ラブコメ、開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる