群像転生物語 ――幸せになり損ねたサキュバスと王子のお話――

宮島更紗/三良坂光輝

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三章  ――白色の王子と透明な少女――

  エピローグ    『正義の味方』

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⑯【ロキ:エピローグ】

○○節○○日
 今日、ロキ王子と約束をした。
 そこに泊まった男女は幸せになれるって噂のある宿に、好きになった相手を呼んだ。
 けれど彼には、二つ目の灰色で、としか伝えていない。

 彼には沢山考えて、来てもらいたいし、来てもらいたくない。
 来てしまったら、忘れることが難しくなってしまうから。

 彼と一夜を過ごせたら、それは幸せなことだと思う。
 けれど、同時に不幸が始まってしまう。

 彼は王族。それに比べて私はただの町人だ。
 私だっていい大人だ。王子とずっと一緒にいられるなんて、夢想するほど子供じゃない。

 それでも、彼がもし来たら、きっと私の心は喜ぶのだろう。

 好きになった相手と繋がって、経験したことのない体験におぼれて――

 もっと、もっと好きになってしまうのだろう。

 人はなんで、誰かを好きになるんだろう。
 好きになったら、駄目な相手をどうして好きになってしまうのだろう。

 もしも、生まれた時から好きな相手がいて、相手も私のことを好きでいてくれたなら……。
 それはどれだけ楽なことなんだろう。

 それなら、こんなに苦しむことはないのに。

 もっと人は、幸せになれるのに。


 私は今日、不思議な人間に出会った。
 年齢が、五百年を超えている人間に出会った。

 おそらく彼女が、私たちの求める魔族なのだろう。
 彼女はロキ王子と仲良く話していた。私は心のどこかでそれに嫉妬していた。

 だから、意地悪しよう。

 今日、もしも彼がここにきてくれたなら……
 私の愛を受け入れてくれたなら、

 彼が眠る前に、このことを話そうと思う。

 そして、私も眠って……優しく起こしてもらおう。

 次の日記がどうなっているのか、今から楽しみだ。

 彼がこの町に来てくれて、良かった。

 明日もまた、楽しみだ。


          *****


 転移石の放つ淡い光を燈《ともしび》に、俺は手に持つ手記の最後の文字が書かれたページを読み、シルワの手記を閉じた。
 シルワの思いは純粋で、子供のような無邪気さを持っていた。

 遅いながらも、思っていた通りの女だった。

「シルワ、お前の仇は取った。……安らかにな」
 ナルヴィの夢から引き戻された俺は、即座にソフィアと協力し、封印の箱を使った。
 ナルヴィの身体は封印の箱に引きずり込まれ、宙から光る鍵が現れた。

 その鍵は、俺が持っている。エスタールの自室にある引き出しの中に放り込んでおいた。
 箱はソフィアに持たせている。『夜のノカ』のどこか目立たない場所に置いてくるように伝えた。
 おそらくもう、ナルヴィが再び目覚めることはないだろう。

 消息をくらましたバルドルのことは気になるが、今回の一件で王族に殺意を向けたことが明確に判明してしまった。
 奴の立場は地に落ちている。もし仮に生きていたとしても、最早、誰も奴を助けようとしないだろう。

 一連の事件は、全て解決した。

 今回の一件で、俺は沢山のことを学んだ。

 信頼することを学んだ。
 それは人間に限らず、魔族も含まれる。

 魔族は人間の敵ではない。そう改めて思い知らされた。

 俺は今、ドーム状の天井を持つ転移石が置かれた空間にいる。
 転移石の向こうには、俺を救ってくれた女がいる。今日も恋人と幸せに過ごしているのだろう。

 俺は彼女に救われた。

 だから、俺は――

 扉が開かれ、思考が中断させられた。

 三人の男女が部屋の中に入ってくる。
 忠誠の騎士である『雷英』ガラハド、六年前に親子ともども俺と関わった『没落貴族』カロリーヌ、そして今回の一件の立役者である『チャラ導師』ことエメットだ。

 エメットは俺の姿を見つけ、大きく手を振る。

「おまたせ~、さあ、行こうか」
「行こうかって……まさか、お前も行くのか?」
「当然でしょう? 君が王族だからって、転移石を使わせるのは特例中の特例なんだからね」
「ちゃんと、王直筆署名付きの書類を叩きつけたんだろうな」
「当然。僕は君ら三人のお目付役だってさ」
「ったく……どうなっても知らないからな」
 ため息をつきながらも、お目付役が気楽な相手であることに喜びも覚えてしまう。


 ラーフィア山脈を超えた先に、ブルシャンという名の魔族の街がある。
 そこで人間の少年少女が保護された。

 調査の結果、背格好からターンブル帝国の皇太子であることが推測された。
 ターンブル帝国もその情報を掴み、大軍を揃えて既にラーフィア山脈越えに挑んでいると聞く。

 今回の俺の任務は、魔族の街へと向かい、帝国よりも先に皇太子を保護し、ルスラン王国へ連れていくことだ。

 だが、そんな任務は後回しだ。

 俺がこれから向かう魔族の街には、あの女が住んでいる。
 何も知らされず、人間の悪意に晒されてしまう。

 俺は魔族に救われた。

 だから、俺は――絶対に、魔族達を救ってみせる。


 帝国の好きには、絶対にさせない。



⑰【ソフィア:エピローグ】

「凄い凄い凄い凄い! テトラ凄い! ……って、うぁああああ!? 虹が出てる!? キレイ!」
「もー! ソフィア、うるさいよ」
「ふふ、ちゃんと捕まっててね」
 私はユニコーンのたてがみをしっかりと掴んで、流れる景色に目移りを繰り返す。

 前を見ると、薄紫色の道が空の果てまで続いている。
 後ろを見ると、虹が広がっている。

 下を見ると、草原と木々が小さく小さく映し出される。わぁ、王都が、玩具みたいに小さくなっている。

 王都を離れた私は、ユニコーンにまたがり、ちょっと重くなっちゃったメフィスを頭の上に乗っけて空を飛んでいた。
 目指すは私たちの住む場所、『森のノカ』だ。

 ナルヴィを封じた後、私とロキ王子はメフィスと彼のツガイ、テトラのこれからについて話し合った。
 って言っても、そんなに時間はかからなかったけれどね。

 コイツらと一緒に住むか? うん、一緒に暮らす!

 これだけだった。即答。

 だって、考えるまでもないよ。メフィスとずっと暮らせるなんて、こんな幸せなことない。
 その後、私はロキ王子からお母さんがどうなったのか、しっかり聞かされた。
 王子達の話を聞いてて、うっすらとは感じとっていたから、そこまで衝撃は受けなかったけれど、やっぱりその日は一日中泣いていた。

 メフィスとテトラに沢山心配かけた。

 けれど、悲しんでばかりもいられない。『森のノカ』には、私の帰りを待つマシューが居るんだから。
 家族二人っきりになっちゃったんだから、私がしっかりしないと駄目だ。
 そう自分に言い聞かせて、身体を無理矢理動かした。

 最初のうちは大変だろうけど、メフィスとテトラも色々協力してくれるみたいだし、きっとなんとかなるだろう。
 人間二人と魔族二匹。四人で力を合わせれば、できないことなんてない。

「あ、メフィス! 帰ってから眠るときには私の好きな夢見せて! 美味しいご飯に囲まれる夢!」
「また!? 僕の力使うなら、もうちょっと、ちゃんとしたことに使おうよ」
「ちゃんとしたことにも使うよ! それはそれ! これはこれ!」
 メフィスが帰ってきてくれて本当に良かった。
 私はメフィスに頼んで、沢山、沢山お母さんの夢を見た。

 私はいつでも、夢の中でお母さんに会える。
 そう思ったら立ち直ることができた。

「メフィス、また会えて嬉しいよ」
「僕は随分と、君に気に入られていたみたいだね」
 当然だ。私とメフィスは戦友だ。友達だ。

 ずっと一緒にいたい、相手だ。

「テトラも、これからよろしくね!」
「ええ、よろしく。……楽しくなりそうね」
 うん。絶対に、楽しくなる。

 魔族と人間は仲良くなれる。
 喧嘩もするかもしれないけれど、ずっと一緒に暮らしていける。
        

「四人で、頑張ろうね!!」
 そうだ。私の未来は、かがやきに溢れている。


 ふと、地上を見ると、旅の格好をした男の人が一人、お尻を地面につけていた。
 男の人を囲うように、ゴブリンが動き回っている。

「大変! テトラ、あの人のところに!」
「ええ!!」
 テトラも気がつき、男の人のところに急降下する。

「出ろ! 『大白鳩《シェバト》』!」
 背中にお馴染みの感覚が現れ、テトラから離れ男の人の前に降り立った。
 突然現れた私に、ゴブリン達が驚き、騒ぎはじめる。

「私はね、他人を危険な目に遭わせる、そんな存在を絶対に許さない」
「なに急に語り出してるの!?」
 頭の上のメフィスが騒ぎ出す。そっか、このメフィスは初めてだもんね。
 だったら――余計、私のこと、知ってもらわなきゃ。

「誰かを困らせる存在を許さない。絶対に見過ごしたりなんてしない」
 腰から細剣《レイピア》を抜き、ゴブリン達に向ける。

 そして――言った。















 そうだ、私はきっと、ずっと、――




【帝国史】
 突如、王都に現れた巨人はルスラン王国に暗い影を落とした。憶測が渦巻く中で対応に追われるルスラン王国の隙を突き、アレクシス率いる帝国軍は『魔界』へと進軍を開始する。
 一方、ルパート島近海では大きな衝突が起こっていた。
 ルパート島全土を占領した帝国に対抗するため、テュール王太子が重い腰を上げた。
 近海キューリア湾から外海への唯一の海路である、ワーダー海域を封鎖し、帝国商船に対し、関税を設けたのだ。
 それに反発した帝国は、ルパート島最大の拠点であるクフイーダにシセラ艦を集める。
 新たな戦いの影が、ルパート島を苗代に芽吹き始めていた。
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