月蝕の令嬢 〜妹の偽りの光を暴き、夜の王に溺愛される〜  嘘つきの妹に成敗を、ざまあ

しょくぱん

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断罪と奈落の出会い

第1話:聖石の暴走と残酷な嘘

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 年に一度の『星聖祭』。この国の安寧を司る聖石せいせきに魔力を捧げ、豊穣を祈るもっとも神聖な儀式。その最中に、悲劇は起きた。

「……っ、あ、あ、あああああ!」

 神殿の中央に鎮座する巨大な聖石が、突如として禍々まがまがしい黒色に変色した。捧げられた魔力が何らかの不純物によって反転し、猛毒のエネルギーとなって溢れ出したのだ。

 周囲にいた神官たちが次々と吐血して倒れ、逃げ惑う。祭壇の近くにいた私の最愛の妹、セリナもまた、恐怖に顔を白くさせて立ち尽くしていた。

(このままじゃ、セリナが死んでしまう!)

 私は反射的に駆け出していた。公爵家の長女として、そして何より、類まれなる「光の加護」を持つ妹を陰から支える「楔」の役目を持つ者として。

「セリナ、離れて!」

 私は妹を突き飛ばすと、剥き出しになった黒い魔力の奔流に向かって、両腕を突き出した。私の固有能力【星の楔】。それは、世界に溢れる負の魔力を自らの肉体にという、地味で、そして苦痛を伴う能力。

 ――ジジッ、ジリリッ!

「……っ、あああああああ!」

 肉が焼ける音がした。聖石から溢れ出す漆黒の毒が、私の右腕を侵食していく。指先から手首、そして肘のあたりまで。肌は瞬時に炭のように黒く焼け爛れ、血管を熱い鉛が流れるような激痛が全身を駆け抜ける。

 視界が真っ赤に染まる。それでも私は、右腕が炭化していく激痛を堪え、毒をすべて自分の体へと吸い込み続けた。数分後、聖石は元の清らかな輝きを取り戻し、広間に静寂が訪れる。

「はぁ、はぁ……っ……」

 私はその場に膝を突いた。右腕はもう、自分のものとは思えないほど無残な姿になり、どす黒い煙を上げている。けれど、これでよかった。セリナが助かったのなら、私の役目は果たせたはずだ。

「お姉様……なんてことをしてくれたの」

 震えるような声が聞こえた。顔を上げると、そこには床に座り込み、涙を溜めたセリナがいた。助かったことを喜んでくれるのだと思った。だが、彼女の瞳に宿っていたのは、私への感謝ではなく、冷酷な底意地そこいじの悪さだった。

「ひどい……ひどいわ、お姉様! 私が聖石を清めようとしていたのに、お姉様がを混ぜたから、聖石が壊れてしまったんだわ!」

「え……? 何を、言って……セリナ?」

 呆然とする私を無視して、セリナは駆け寄ってきた人々に泣きついた。その中には、私の婚約者である第一王子、カイルの姿もあった。

「カイル様、お姉様が……お姉様が石を呪ったのです! 私の聖なる光を邪魔して、国を滅ぼそうとしたのです!」

「なんだと……?」

 カイル様が、セリナを優しく抱き寄せながら私を睨みつけた。その瞳に宿っているのは、かつての慈しみではなく、明らかな嫌悪けんおだ。

「エレナ、それは本当か。その腕を見ろ。清らかな聖域で、そのような不気味な黒い痣を晒すなど……お前は、魔女にでも魂を売ったのか?」

「違います、カイル様! これは、セリナを守るために、私が毒を……っ」

「言い訳は聞きたくない」

 カイル様は、私の焼け焦げた右腕を汚物でも見るような目で見下ろすと、冷酷に告げた。

「セリナの清らかな光を、その薄汚い腕で汚した大罪人。……エレナ、お前との婚約を今この瞬間、破棄する。汚らわしい不浄の女め、二度と私の前に現れるな」

 激痛と衝撃で、私の思考は停止した。泣き叫ぶセリナの肩を抱くカイル様の背中越しに、私は見てしまった。

 妹が、私に向かって向けた――この世のものとは思えないほど、醜悪しゅうあくで勝ち誇ったようなを。

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