私の人生に、おかえりなさい。――都合のいい「お姉ちゃん」は、もうどこにもいません

しょくぱん

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第4章:タイトル回収。そして自分への「おかえりなさい」

第二十六話:痛みの返却

 国境を越え、ほうほうの体でローラン領へと逃げ帰った家族を待っていたのは、かつての華やかな屋敷ではなく、崩壊寸前の「現実」だった。

 アリアという防波堤を失ったローラン伯爵家には、彼女が十年以上にわたって一人で受け止めてきた「負の因果」が、濁流となって押し寄せていた。

「ああ、痛い……! 誰か、誰かこの火を消して!」

 ミレーヌは、昼夜を問わず叫び続けていた。彼女の全身を苛むのは、かつてアリアが「転移」させていたはずの、あらゆる怪我や病の苦痛だ。しかも、それはただの痛みではない。自分が他人に押し付けてきたという罪悪感が、魔法的な増幅器となって彼女の精神を削り取っていく。
 鏡を見るたびに、そこにはかつて自分が「泥」と呼んで蔑んだアリアの痣よりも、ずっと醜く歪んだ自分の姿が映っていた。

「……旦那様、奥様。もう、限界です」

 長年仕えてきた使用人たちが、一人、また一人と屋敷を去っていく。
 給料が払えないだけではない。アリアという「身代わりの器」を失った伯爵夫妻からは、隠しきれない邪悪な加齢臭と、他人を呪うような禍々しい気配が漏れ出していた。彼らと接するだけで気分が悪くなると、街の商人たちさえも門を叩かなくなった。

 父である伯爵は、酒に溺れた。
 しかし、いくら飲んでも酔うことはできない。かつてアリアが肩代わりしていた「肝臓への負担」が、今やダイレクトに彼を襲い、一口飲むごとに内臓を焼かれるような激痛が走るのだ。

「どうしてだ……。あいつは道具だったはずだ。道具が壊れたなら、直して使うのが当然だろう……!」

 彼はまだ、アリアが「人間」であることを理解していなかった。
 
 一方、母は狂ったようにアリアの私物を探し回ったが、何も見つからなかった。
 アリアは去る時、自分の名前が刻まれた銀のスプーン一本以外、何一つ残さなかったからだ。彼女の部屋には、冷たい風が吹き抜ける空間があるだけ。そこにあったはずの「忍耐」も「奉仕」も、すべて本人の元へと回収されていた。

 そして、最も悲惨だったのはレオンだった。
 彼はミレーヌを捨て、他の貴族令嬢に言い寄ったが、「呪われた家の元婚約者」という噂は瞬く間に広まり、誰一人として彼を相手にする者はいなかった。
 彼は夜な夜な、アリアがかつて自分に向けていた、あの静かで献身的な瞳を思い出し、後悔に身を焼かれることになる。

「僕が愛していたのは、ミレーヌではなく……あの光だったのか」

 失って初めて気づく愚かさ。
 だが、彼らがいくら涙を流し、血を吐こうとも、アリアの心に届くことは二度とない。

 彼らに返却されたのは、痛みだけではない。
 「自分自身から目を背け、他人を犠牲にしてきた」という、空っぽの人生そのものだった。
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