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第一部:役立たずと捨てられた建築士、隣国で「聖域」を造って無双する
第九話:使節団の再来と、冷徹なるおもてなし
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シグムンド様がゴミ捨て場へと消えてから数日後。今度は正式な軍装を纏った『母国使節団』が、レアルタ帝国の王都へと乗り込んできた。
中心にいるのは、王国ラングリスの筆頭宰相・バルド。父の代から私を「金食い虫の石細工師」と見下していた、頭の固い老人だ。
だが、門を潜った瞬間に彼の表情は凍りついた。
彼らが目にしたのは、死の瘴気を完全に克服し、陽光を反射して輝く『白亜の楽園』となった王都の姿だ。
「……アニエス。ここにいたか。王の命令だ、今すぐラングリスへ帰還せよ」
バルド宰相は、震える声を抑えながら強引に言い放った。
周囲の騎士たちも、隣国の圧倒的な繁栄と、漂う清涼な空気に気圧されているのが分かる。
「あら、宰相閣下。わざわざ瓦礫の山からお越しいただき、ご苦労様です。……して、帰還して何をするのですか?」
私はレオンハルト陛下に贈られた、魔導糸で編まれた最高級のドレスの裾を揺らし、優雅に問い返す。
「決まっている!城の崩壊を止め、王都のインフラを再構築するのだ。貴様の不始末のせいで、我が国は今、国家存亡の危機にあるのだぞ!」
「不始末?心外ですわ。私は命じられた通り、婚約破棄を受け入れ、私の私物であった『全術式』を回収して退去しただけ。……あれらはすべて、ラ・トール家が代々無料で提供していた『サービス』だったのですよ?」
私が冷ややかに告げると、バルド宰相の顔が屈辱で赤く染まった。
「……分かった。これまでの無礼は謝罪しよう。相応の報酬も約束する。だから、すぐに戻るのだ。もはや、王城は一部の塔が折れ、国王陛下も避難所での生活を余儀なくされているのだぞ!」
「お断りします」
食い気味に返した私の言葉に、宰相が絶句する。
「理由は三つ。一つ、私はすでにレアルタ帝国の国民であり、国家顧問であること。二つ、不浄な空気に満ちた場所では、私の繊細な図面は描けないこと。そして三つ目……」
私は一歩踏み出し、バルド宰相の目の前にある『空間』を指差した。
「そこ、私の『魔力探知結界』に触れていますわ。……三秒以内に離れないと、防衛システムがあなたを『建築資材』と誤認して、地下に埋めてしまいますけれど?」
「な、ななな……っ!?」
バルド宰相が慌てて飛び退いた瞬間。
彼の立っていた場所の石畳が、規則正しく反転し、巨大な『吸引穴』が開いた。
「……ああ、危なかったですわね。最近の王都は自動化が進んでおりまして、不純物には厳しいのです」
私はニコリと微笑んだ。
宰相は腰を抜かし、崩壊寸前の馬車に担ぎ込まれるようにして逃げ帰っていった。
「ふふ……。さて、陛下。そろそろ仕上げの第十話――もとい、第一部の締めくくりとして、彼らに『現実』を教えてあげましょうか」
私は隣で静観していたレオンハルト陛下の腕に手を添えた。
一方、敗走する使節団の背後では、彼らが通ってきたばかりの『王都へ続く唯一の橋』が、音を立てて崩れ始めていた。
もちろん、私がかけた『時限式契約解除』の結果である。
最後まで読んでいただきありがとうございます! 「続きが気になる!」「面白そう!」と思っていただけたら、 【お気に入り登録】と【感想やいいね】をいただけると執筆の励みになります!
中心にいるのは、王国ラングリスの筆頭宰相・バルド。父の代から私を「金食い虫の石細工師」と見下していた、頭の固い老人だ。
だが、門を潜った瞬間に彼の表情は凍りついた。
彼らが目にしたのは、死の瘴気を完全に克服し、陽光を反射して輝く『白亜の楽園』となった王都の姿だ。
「……アニエス。ここにいたか。王の命令だ、今すぐラングリスへ帰還せよ」
バルド宰相は、震える声を抑えながら強引に言い放った。
周囲の騎士たちも、隣国の圧倒的な繁栄と、漂う清涼な空気に気圧されているのが分かる。
「あら、宰相閣下。わざわざ瓦礫の山からお越しいただき、ご苦労様です。……して、帰還して何をするのですか?」
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「決まっている!城の崩壊を止め、王都のインフラを再構築するのだ。貴様の不始末のせいで、我が国は今、国家存亡の危機にあるのだぞ!」
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私が冷ややかに告げると、バルド宰相の顔が屈辱で赤く染まった。
「……分かった。これまでの無礼は謝罪しよう。相応の報酬も約束する。だから、すぐに戻るのだ。もはや、王城は一部の塔が折れ、国王陛下も避難所での生活を余儀なくされているのだぞ!」
「お断りします」
食い気味に返した私の言葉に、宰相が絶句する。
「理由は三つ。一つ、私はすでにレアルタ帝国の国民であり、国家顧問であること。二つ、不浄な空気に満ちた場所では、私の繊細な図面は描けないこと。そして三つ目……」
私は一歩踏み出し、バルド宰相の目の前にある『空間』を指差した。
「そこ、私の『魔力探知結界』に触れていますわ。……三秒以内に離れないと、防衛システムがあなたを『建築資材』と誤認して、地下に埋めてしまいますけれど?」
「な、ななな……っ!?」
バルド宰相が慌てて飛び退いた瞬間。
彼の立っていた場所の石畳が、規則正しく反転し、巨大な『吸引穴』が開いた。
「……ああ、危なかったですわね。最近の王都は自動化が進んでおりまして、不純物には厳しいのです」
私はニコリと微笑んだ。
宰相は腰を抜かし、崩壊寸前の馬車に担ぎ込まれるようにして逃げ帰っていった。
「ふふ……。さて、陛下。そろそろ仕上げの第十話――もとい、第一部の締めくくりとして、彼らに『現実』を教えてあげましょうか」
私は隣で静観していたレオンハルト陛下の腕に手を添えた。
一方、敗走する使節団の背後では、彼らが通ってきたばかりの『王都へ続く唯一の橋』が、音を立てて崩れ始めていた。
もちろん、私がかけた『時限式契約解除』の結果である。
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