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第三部:知略と闇の胎動
最終話:世界で一番幸福な「構造体」
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一年後。
かつて泥濘と呪いに沈んでいた旧ラングリスの更地には、今や世界中から商人と職人が集う、輝かしい魔導都市「アニエス・ガーデン」が完成していた。
中心にそびえるのは、威圧的な城ではなく、ガラスと魔導石が光を反射し合う、植物と共生する美しい離宮。そこは、世界で最も「安全」で、世界で最も「愛」に満ちた場所として知られている。
今日は、その離宮の完成披露会。そして、レアルタ帝国皇帝レオンハルトと、帝国筆頭建築士アニエス・ラ・トールの成婚式の日である。
「アニエス、準備はいいか?」
控え室の扉が開き、正装に身を包んだレオンハルト陛下が現れた。
私は、自らデザインした「魔導純白シルク」のドレスを纏い、鏡の中に映る自分を見つめる。そのドレスには、防御結界の術式がレースの模様として編み込まれており、宝石のように輝く魔力触媒が散りばめられていた。
「ええ。この日のために、離宮の地盤は百万年の荷重に耐えられるよう補強済みですわ。私たちの誓いが、重力によって揺らぐことはございません」
「ふっ、相変わらず君らしいな。だが、今日くらいは数式ではなく、私だけを見てくれないか?」
陛下が私の手を取り、その指先にそっと唇を寄せる。
かつて母国を追放され、冷たい石壁に囲まれて「自分はただの部品だ」と思っていた日々。それが、この人と出会い、この人のために土台を築くことで、私の人生そのものが一つの完璧な「設計図」へと昇華されたのだ。
---
式典の会場となる空中庭園へ進むと、そこには帝国の民、そして世界各国から集まった賓客たちの喝采が渦巻いていた。
参列者の中には、かつて私を「地味」だと笑った貴族たちもいたが、彼らは今や、私の造った建物のライセンスを得るために必死で頭を下げている。
誓いの言葉を交わし、私たちがバルコニーに立ったその時。
はるか眼下の街角で、汚れたボロを纏った二人の男女が、衛兵に追い払われているのが見えた。
片や、石化した指で地面のパン屑を拾う男。
片や、壊れた人形のように笑いながら、空に向かって虚ろな祈りを捧げる女。
シグムンド様とクロエ様。
彼らにはもう、この美しい離宮に入る権利も、私の名を呼ぶ資格もない。
彼らは、自らが築いた「傲慢」という名の欠陥住宅の瓦礫の中で、永遠に悔恨という泥を啜り続けるのだ。
「アニエス、見てくれ。空が、君の計算通りに輝いている」
陛下の指差す先、空に打ち上げられたのは、炎の魔導による大輪の花火。
それは、大気の屈折率を完璧に計算した私が設計した、「世界で最も美しい色彩の爆発」だった。
「陛下。……いいえ、レオンハルト様。私、ようやく分かりましたわ」
私は、彼の胸にそっと寄り添い、幸福な溜息をついた。
「どんなに頑丈な石壁よりも、どんなに精緻な結界よりも……あなたの隣という、この『居場所』こそが、私の人生で最高傑作の建築物ですわ」
喝采が空に溶け、新緑の風が私たちの頬を撫でる。
追放された天才建築士の物語は、ここで一旦の完成を見る。
だが、私たち二人が築く未来の設計図は、まだ第一段階の定礎が終わったばかりなのだ。
――建築士アニエス・ラ・トールの幸福な再建計画、これにて全工程、完了。
【完結】
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
地味だと虐げられた建築士が、その技術と情熱で愛と復讐を勝ち取る物語、いかがでしたでしょうか。
もしよろしければ、この物語の「お気に入り登録」や「感想」をいただけると、作者としてこれ以上の喜びはございません!他の作品もぜひお願いいたします!
かつて泥濘と呪いに沈んでいた旧ラングリスの更地には、今や世界中から商人と職人が集う、輝かしい魔導都市「アニエス・ガーデン」が完成していた。
中心にそびえるのは、威圧的な城ではなく、ガラスと魔導石が光を反射し合う、植物と共生する美しい離宮。そこは、世界で最も「安全」で、世界で最も「愛」に満ちた場所として知られている。
今日は、その離宮の完成披露会。そして、レアルタ帝国皇帝レオンハルトと、帝国筆頭建築士アニエス・ラ・トールの成婚式の日である。
「アニエス、準備はいいか?」
控え室の扉が開き、正装に身を包んだレオンハルト陛下が現れた。
私は、自らデザインした「魔導純白シルク」のドレスを纏い、鏡の中に映る自分を見つめる。そのドレスには、防御結界の術式がレースの模様として編み込まれており、宝石のように輝く魔力触媒が散りばめられていた。
「ええ。この日のために、離宮の地盤は百万年の荷重に耐えられるよう補強済みですわ。私たちの誓いが、重力によって揺らぐことはございません」
「ふっ、相変わらず君らしいな。だが、今日くらいは数式ではなく、私だけを見てくれないか?」
陛下が私の手を取り、その指先にそっと唇を寄せる。
かつて母国を追放され、冷たい石壁に囲まれて「自分はただの部品だ」と思っていた日々。それが、この人と出会い、この人のために土台を築くことで、私の人生そのものが一つの完璧な「設計図」へと昇華されたのだ。
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式典の会場となる空中庭園へ進むと、そこには帝国の民、そして世界各国から集まった賓客たちの喝采が渦巻いていた。
参列者の中には、かつて私を「地味」だと笑った貴族たちもいたが、彼らは今や、私の造った建物のライセンスを得るために必死で頭を下げている。
誓いの言葉を交わし、私たちがバルコニーに立ったその時。
はるか眼下の街角で、汚れたボロを纏った二人の男女が、衛兵に追い払われているのが見えた。
片や、石化した指で地面のパン屑を拾う男。
片や、壊れた人形のように笑いながら、空に向かって虚ろな祈りを捧げる女。
シグムンド様とクロエ様。
彼らにはもう、この美しい離宮に入る権利も、私の名を呼ぶ資格もない。
彼らは、自らが築いた「傲慢」という名の欠陥住宅の瓦礫の中で、永遠に悔恨という泥を啜り続けるのだ。
「アニエス、見てくれ。空が、君の計算通りに輝いている」
陛下の指差す先、空に打ち上げられたのは、炎の魔導による大輪の花火。
それは、大気の屈折率を完璧に計算した私が設計した、「世界で最も美しい色彩の爆発」だった。
「陛下。……いいえ、レオンハルト様。私、ようやく分かりましたわ」
私は、彼の胸にそっと寄り添い、幸福な溜息をついた。
「どんなに頑丈な石壁よりも、どんなに精緻な結界よりも……あなたの隣という、この『居場所』こそが、私の人生で最高傑作の建築物ですわ」
喝采が空に溶け、新緑の風が私たちの頬を撫でる。
追放された天才建築士の物語は、ここで一旦の完成を見る。
だが、私たち二人が築く未来の設計図は、まだ第一段階の定礎が終わったばかりなのだ。
――建築士アニエス・ラ・トールの幸福な再建計画、これにて全工程、完了。
【完結】
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!
地味だと虐げられた建築士が、その技術と情熱で愛と復讐を勝ち取る物語、いかがでしたでしょうか。
もしよろしければ、この物語の「お気に入り登録」や「感想」をいただけると、作者としてこれ以上の喜びはございません!他の作品もぜひお願いいたします!
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