ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【3】

ゾンビの坩堝(26)

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 ピィーッ、ピィーッ、ピィーッ――
 一斉に警告するウォッチ――さらにスピーカーから、くぐもった声のかみなりが落ちる。
『ウォッチを鳴らすんじゃない! 評価が下がってもいいのか!』
 羽目を外してしまった一同は首をすくめ、ジャイ公はいたずらを見とがめられた悪ガキ面ではにかんで、監視カメラにぺこっと頭を下げた。
「それじゃ、今日のキャンプはこれでお開きだ。解散っ!」
 ぱんぱん、とジャイ公が手を打ち、参加者はかすんだ目つきのままばらけていく。マール、マール、マール……自分も帰ろうとポケットに空包装を入れ、踏み出すや――
「おい! おいおいおいおいっ!」
 飛びかかってくるどら声――振り返ったそこには、ジャイ公の渋面があった。
「ちょっと来い、新入り」
 ジャイ公は自分をカウンターまで連れていき、タブレットに4、8、9、1、と入力して、表示された金額をふんと鼻で笑った。
「ま、金があったら北館にはいないもんな。生活支援金が入ったら払えよ、入会金と受講料」
 え、と聞き返すとミッチーが、当たり前だろ、とあきれる。
「タダなわけないだろ。この画面から、こうして、こうすると、被収容者間の金のやり取りもできるからな。ジャイ公さんに振り込むんだぞ。1945番に!」
 安くない請求額だった。左右から迫られているにもかかわらず、ウォッチは一向に鳴らない……と、ジャイ公は視線を転じ、エレベーターの方にかんしゃく玉を破裂させた。
「おい! そこで何してんだっ!」
 にらみつける先ではロバ先生がエレベーター横の操作パネルをいじっており、近くに立つウーパーがのっぺり顔をこわばらせる。
「いじってんじゃねえよ、先公! 壊れたらどうすんだっ!」
 尻にかみつかれたように驚き、よろよろ向き直ったロバ先生は、迫ってくるジャイ公とミッチーにいっそう青くなった。両名はやたら吠えておののかせ、あざ笑ってこちらを振り返った。
「それにしても、ひっでえ青さだよな! 色移りしそうだぜ!」
「こいつ、元は教師だか教授だったらしいぞ」ミッチーが情報通ぶる。「その筋から聞いた話によるとさ」
 自分は目を丸くした。先生というのは思いつきだったが、実際にそうだったとは……それが、今やこのざま……――
「おい、ブス!」ジャイ公が牙をむく。「ちゃんとお守りしてろっ! 何度も同じこと言わせんじゃねえっ!」
「言っとくけどな、転んで骨折とかしたらお前の責任だからな」ミッチーがねちねち続ける。「年寄りはひ弱だからよ。骨折って寝たきりになったら、お前が一生面倒見ろよな」
 うつむき、半端に腕を組んで縮こまったウーパーは、いっそう青ざめたロバ先生が壁にすがり、手すり伝いに逃げ出したのを見てあたふたと後を追った。その後ろ姿をジャイ公たちは、役立たずだの要領が悪いだのとこき下ろした。
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