ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【4】

ゾンビの坩堝(35)

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『被収容者の皆さん、もうじきシャワータイムになります。北館、南館とも順番にシャワーを浴びてください』
 やっと、さっぱりできるのか……しかし勝手が分からず、自分はデイルームを横切って148号室近くまで戻った。それからフロアをうかがうと、どうやら東通路の部屋かららしく、そのうち北通路の向こうの部屋から被収容者が手ぶらで出ていき、クリーニングされた風情で戻ってくる。それがだんだんと近付き、角の149号室の番になった頃に隣室からウーパーがどこかに急ぎ、そのちょっと後にミッチーと出てきたジャイ公が室内に吠える。
「もたもたすんな、オカマ! ホルモン剤臭いんだよっ!」
 きっひっひ、とミッチーがせせら笑う。そして半歩、また半歩、と見えない鎖に引きずり出されてくるディア……だらりとした髪、眼窩から目玉がこぼれ落ちそうな顔……よれよれの姿は歩くのがやっとに見える。朝方よりもさらにひどい……そのうち、四つん這いになってもおかしくはなさそうだ……自分は焦点をずらし、隣室の面々が行くのなら自分もいいはず、と後に続いた。途中ですれ違った浴後の被収容者からは、むっとした薬品臭がする。それがあふれ出す室内に入っていくジャイ公たち……出入口そばでうかがう自分に指導員が気付き、横柄に手招きをした。
 遠慮がちに踏み入ったそこは、生暖かい脱衣所……ジャイ公とミッチーが脱いだものをリネンカートの袋に放り込み、男根丸出しの素っ裸で五室あるシャワールームの真ん中とその隣に入って、しゃっとカーテンを引く。全裸のディアも胸と股間を隠し、縮こまった前屈みでこそこそ端に入っていった。
 しゃしゃしゃとけち臭いシャワーを浴び、頭からがしがし洗うジャイ公たち……指導員に急かされた自分はそちらを背に裸になり、陰部を片手で隠しながらディアとは反対側の端に入った。
 トイレの個室並みに狭いそこは、消毒薬の臭いが立ちこめ、気管や肺まで殺菌されそうだった。ハンドルを回すと、臭いぬるま湯が防水仕様のウォッチにもかかってくる。濡れた青い肌はいっそう人間離れして見え、吐き気をこらえながら自分はシャワーを浴び続けた。
「お湯がもったいない!」指導員が声を尖らせる。「ぼけっとしていないで、早く洗って! シャンプーはプッシュし過ぎないように!」
 あたふたと自分は、シャワーラックのボトルから出したシャンプーで頭から顔、体とこすっていった。太ももから下を洗おうとして屈むと、よろっと倒れそうになる。しゃがんで足までやり、しゃわしゃわ流して……――
「洗い終わったら、さっさと出なさい」
 くぐもった指示に従ってハンドルを締め、出たところではジャイ公とミッチーがバスタオルでごしごし拭いている。血流が多少良くなったせいか、勃起したそれらから自分は目をそらし、脱衣所の棚に積まれたバスタオルを一枚取った。隅でこちらに背を向けたディアが、一秒でも早く逃げ出したい素振りで拭いていた。
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