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ゾンビの坩堝【5】
ゾンビの坩堝(47)
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奉仕活動が終わり、揺らめく視界にはあの忌まわしい引き戸……がらがら開けるとすぐ、鼻の奥まで臭いがえぐってきた。真ん中のトイレシートが黄色いのはいつものことだが、出したところが端だったので隣のシートまで汚れていた。
無駄にしやがって……――
毒づき、汚れた二枚ともバケツに放り込むそばで奥はぎりぎりとうなっている。パックの中のシートは残り少ない。なくなる前に注文しなければ……バケツを提げて出た自分に斉唱が押し寄せ、もやもやとした頭に立ちこめていく……――
昼食後、自分はかすんだ貼り紙に目を凝らし、壁腕立て伏せを始めた。甘えてはいられない……調子が落ちているのなら、なおさら努力しなければ……一……二……三……四……東の方からチンパンがナンバーを呼び、手紙や荷物のやり取りをして近付いてくる。十二……十三……十四……十五……こちらに寄る気配すらなく、行ってしまうカート……あえぎながら自分は気張ったが、目標の四十回どころか二十手前で厳しくなってきた。できるはずだ、もっと……だが、結局二十五回で壁にもたれてしまう。
入所初日は、できたのに……――
このまま衰えて、立ったり歩いたりどころか四つん這いになったら……寄せては返す奥のうめきに寒気がひどくなってくる。こんなところにはいられない……こいつなんかと一緒には……――
手すり伝いに逃げたデイルームでは、ケロノが自身に酔っていた。濁点多めの歌声によって、ワンパターンの徳念が引き立てられている。マール、マール、マール……他に人はおらず、共同電話も空いている。そういえば、何か用があったような……自分は視線をふらふらさまよわせ、カウンターの据え置きタブレットに目をとめて、しばらくぼんやりした。
ああ、そうだ……――
近付いてタッチし、購買部の注文画面を出す。2、5、4、0……ノラのナンバーを入力しただけでログインできてしまった。残金は雀の涙……部屋代や水道光熱費は差っ引かれているのだろう。相場よりも高い取扱商品からペット用トイレシートを注文した自分は、あんなノラにも国から支援金が振り込まれているのかと歯がみした。
「おい」
野太いどら声に振り返ると、ジャイ公がミッチーと挟み込むように立っていた。
「キャンプやるぞ。準備しろ」
嫌も応もなかった。血色の悪い顔の男たちの最前列で自分はハートマークを作り、アップテンポにしがみつきながらあえいだ。ノラみたいになってたまるか……やっとのことで終わって、へとへとのところに泥遊び後の獣じみた臭いが迫ってくる。
「ナイス、ナイス、頑張ったなあ!」親指を立て、サムズアップするジャイ公。「その調子で頑張れよ!」
ぽんぽんと肩まで叩かれた自分は、ぜえぜえしながらうなずいた。キャンプ参加者は若干増えて二十名超になっており、ご機嫌のジャイ公はまた差し入れ――今回は、チョコキャンディの詰め合わせを配り、端で歌声のボリュームを絞っていたケロノにも与えてぺこぺこさせた。
無駄にしやがって……――
毒づき、汚れた二枚ともバケツに放り込むそばで奥はぎりぎりとうなっている。パックの中のシートは残り少ない。なくなる前に注文しなければ……バケツを提げて出た自分に斉唱が押し寄せ、もやもやとした頭に立ちこめていく……――
昼食後、自分はかすんだ貼り紙に目を凝らし、壁腕立て伏せを始めた。甘えてはいられない……調子が落ちているのなら、なおさら努力しなければ……一……二……三……四……東の方からチンパンがナンバーを呼び、手紙や荷物のやり取りをして近付いてくる。十二……十三……十四……十五……こちらに寄る気配すらなく、行ってしまうカート……あえぎながら自分は気張ったが、目標の四十回どころか二十手前で厳しくなってきた。できるはずだ、もっと……だが、結局二十五回で壁にもたれてしまう。
入所初日は、できたのに……――
このまま衰えて、立ったり歩いたりどころか四つん這いになったら……寄せては返す奥のうめきに寒気がひどくなってくる。こんなところにはいられない……こいつなんかと一緒には……――
手すり伝いに逃げたデイルームでは、ケロノが自身に酔っていた。濁点多めの歌声によって、ワンパターンの徳念が引き立てられている。マール、マール、マール……他に人はおらず、共同電話も空いている。そういえば、何か用があったような……自分は視線をふらふらさまよわせ、カウンターの据え置きタブレットに目をとめて、しばらくぼんやりした。
ああ、そうだ……――
近付いてタッチし、購買部の注文画面を出す。2、5、4、0……ノラのナンバーを入力しただけでログインできてしまった。残金は雀の涙……部屋代や水道光熱費は差っ引かれているのだろう。相場よりも高い取扱商品からペット用トイレシートを注文した自分は、あんなノラにも国から支援金が振り込まれているのかと歯がみした。
「おい」
野太いどら声に振り返ると、ジャイ公がミッチーと挟み込むように立っていた。
「キャンプやるぞ。準備しろ」
嫌も応もなかった。血色の悪い顔の男たちの最前列で自分はハートマークを作り、アップテンポにしがみつきながらあえいだ。ノラみたいになってたまるか……やっとのことで終わって、へとへとのところに泥遊び後の獣じみた臭いが迫ってくる。
「ナイス、ナイス、頑張ったなあ!」親指を立て、サムズアップするジャイ公。「その調子で頑張れよ!」
ぽんぽんと肩まで叩かれた自分は、ぜえぜえしながらうなずいた。キャンプ参加者は若干増えて二十名超になっており、ご機嫌のジャイ公はまた差し入れ――今回は、チョコキャンディの詰め合わせを配り、端で歌声のボリュームを絞っていたケロノにも与えてぺこぺこさせた。
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