ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【6】

ゾンビの坩堝(53)

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 マール、マール、マール、マール……真っ暗な大画面を背に、いかめしく腕組みのヘッド……寒色半纏の自治会長、ギンガムチェック柄の黒ヤマネコら南の主立った被収容者による、すかすかの輪……その左右に立つ指導員、外側に散らばっている見物人……じき消灯時刻のデイルームに集まったそれら数十人の、普段はろくに合わせることのない目に囲まれた自分の左手首では、4891の表示にひびの走ったウォッチが外れないままだった。
「……つまり――」スモークシールド越しの、ヘッドのくぐもった冷笑。「食事中にうんこをされてブチ切れた、それに間違いないな」
 あちこちから漏れる、失笑……火に炙られているかのように苦しく、にもかかわらず震えの止まらない自分は、かじかんだ青い爪先を見つめていた。
「4891番、君の気持ちは分からなくもない」
 右にゆがむ自治会長が腕組みで言い、いかにも嘆かわしそうにため息をついた。
「だが、その部屋のことはそこの者で解決する、それがルールなんだ。確かに大変だろう、2540番の世話は。だからといって、勝手を許すわけにはいかない」
 そして自治会長は、自身がこれまで仕事でいかに苦労し、それに耐えて努力してきたかを語った。淡々とした口調ながら、それは賞状やトロフィーを誇るようだった。
「それに比べたら、これくらいで音を上げるのは、いささかだらしないのではないかな」
 鼻先が上向いた老ヒツジ面の横で、黒ヤマネコが深くうなずく。そう思うなら、代わりにやってみたらいい……こみ上げてきたものはしかし、声にするのもしんどいだるさに絡め取られた。もう、どうだっていい……どんな形でもいいから、逃れたい……この病からもノラからも、何もかもから……――
「自治会長のおっしゃることは、ごもっともです」
 黒ヤマネコがそちらをちらと見て、それからこちらに、これはあなたの課題です、と講釈を垂れる。病衣のギンガムチェック柄が、網にかけてくるようだった。
「すべては必然、あなたの成長に必要なことなのです。投げ出してはいけません」
 それらしいことが並べ立てられた後、ヘッドと自治会の面々とのやり取りを経て、くぐもった声のガベルが振り下ろされる。
「ペナルティとして、101号室入りとする」
 判決直後の法廷さながらにデイルームは静まり返り、マール、マール、マール……斉唱が冷厳に響き続ける。101号室……ノラが一晩放り込まれた……――
「警察に突き出されないだけ、ありがたいと思ってもらわないとな。そうそう、壊したウォッチの分は、生活支援金から分割で引かせてもらうぞ」
 左右から指導員に挟まれた自分は、ゆらゆらと道を空けるストライプ柄の間を歩かされた。見えない十字架を背負い、デイルームを出て北館に入るほど、けいれんみたいに震えてくる。マール、マール、マール、マール……――
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