ゾンビの坩堝

GANA.

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ゾンビの坩堝【7】

ゾンビの坩堝(57)

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 寝込みを砲撃されたように飛び起き、うろたえた自分は、それが毎朝の蹂躙だとようやく分かった。ほっとする身から漂う、生命感のない臭い……そうか、シャワーを浴びて……寝床で眠ってしまったのか……くすぶった頭で間仕切りカーテンを開けたところ、壁際の薄い人影にぎょっとする。肩身の狭そうなディアが瞬きし、伏し目がちに頭を下げる。そういや、そうだった……まだしっくりこない自分は奥のうなりを耳にし、洗面用具を手に黙って部屋を出た。
 スピーカーからのアップテンポにせき立てられ、洗面所から戻っては並んでいく病衣姿……その終わり頃に悠々と並ぶジャイ公、ミッチーの隣には新顔があった。キツネじみた中年男の、その他大勢を小馬鹿にするような薄ら笑い……――
 こいつが、昨夜収容されたという……――
 それとなく横目でその新入り――フォックスをうかがっていると、重たげに背中を曲げ、腹の前で両腕を組んだウーパーの縮んだ影が入ってくる。そして自分を挟んで反対側、行き止まりのそばには、半死人じみたディアがようやく立った。
 やっと生きているディアに引きずられそうで、シェアを後悔しないでもなかった。とはいえ、奥にかかわりたくない自分としては、配下膳と排泄物の処理をやってもらえるのはありがたい……のろ臭いものの、やることはきっちりしている。それだからなおさら自分は、壁際で寝起きするディアに居心地が悪くなってきた。脱衣所から拝借したバスタオルを敷き、たたんだフェイスタオルを枕代わり……硬く冷たい床ということも考えれば、湿気ってノミかダニが巣くう寝床でもずいぶんましだろう。だからといって、このシングルサイズでくっつきたくはない……重症化リスクのこともあるのだし……結局その日もディアは壁際、バスタオルの上で体を丸め、自分は間仕切りカーテンの中で消灯を迎えた。奥からは、途切れ途切れのうめき声……寝付けずにいたところ、足下側でくしゃみがあって思わず身が縮まった。
 101号室に比べたら……――
 この部屋、床だって……かぶった掛け布団越しに奥のうめきが聞こえ、暗がりをやたらと胸苦しくさせた。だが、仕方ない……一日でも早くここを出るには……―
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