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ゾンビの坩堝【8】
ゾンビの坩堝(72)
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「……奥の子、落ち着かないわね」
えっ、と眉を曲げ、自分は奥をうかがった。そういえば、昨日辺りからもぞもぞしているような……適当にうなずくと、ディアはさらに続けた。
「ずっとうめいて、つらそうよね……どうにかしてあげたいけど……先生はどう? 朝食は、ちゃんと食べた?」
ええ、まあ……――
半分くらい残したのは、こちらのせいじゃない……横顔を向けると、テレビがじゃりじゃりと騒がしくなる。奥からまたうめき声がし、あちらへと寝返った。
「……どうなるのかな、選挙……」
つぶやきなのか、問いかけなのか……何とはなしに自分は、壁際のほこりに目を細めた。部屋の掃除はディアに任せており、やった後は一応きれいになっているのだが、いつのまにか繊維クズやら毛髪やらがたまってしまう……――
どうして、介護の仕事なんかやってたんですか……――
選挙の話を避けようとそんな問いをし、口にしてしまってから、なんか、というのはまずったと思ったが、ディアは質問そのものに意表を突かれたらしく、目を沈めてしまった。
「……向いているとは、思ってなくて……」
か細い声はテレビにかき消されそうだったので、自分はそちらに耳を傾けざるを得なかった。
「……そういう仕事しかなかったから……いまだに無資格だけど、経験があるからってあの子の世話を任されたの……」
ディアは奥をちらっと見て、眉間のしわを悩ましげに深めた。
「……今でも正直、好きでやっているとは言えない……だけど、放ってもおけなくてね……ごめんなさい……」
それは懺悔にも聞こえた。どう返したらいいのか分からず、自分は黙っているしかなかった。それは、そうだろう……他人の下の世話やら何やら、そんなものを喜んでやる人間がいるものか……ましてや、ロバ先生やノラみたいな相手なら……ふと、101号室での足音がよみがえる。あれがディアだったとしたら、罪悪感からではないか……顔を巡らせた自分は、浮かび上がった目と合った。
「……あなたが手伝ってくれるから、こうしてやっていられるんだと思う。独りだったら、きっとまた……」
自分は、ぎこちなく視線を外した。こっちは、あんたを利用しているだけだ……ノラとかかわりたくない、ロバ先生とも縁を切りたいんだ……いたたまれなくなり、トイレに行く振りをして通路に出るや、マール、マール、マール……徳念がこの行き止まりに押し寄せてくる。それはどこかはずみ、胎動していると感じられ、手すりにつかまった自分を運んでいった。
えっ、と眉を曲げ、自分は奥をうかがった。そういえば、昨日辺りからもぞもぞしているような……適当にうなずくと、ディアはさらに続けた。
「ずっとうめいて、つらそうよね……どうにかしてあげたいけど……先生はどう? 朝食は、ちゃんと食べた?」
ええ、まあ……――
半分くらい残したのは、こちらのせいじゃない……横顔を向けると、テレビがじゃりじゃりと騒がしくなる。奥からまたうめき声がし、あちらへと寝返った。
「……どうなるのかな、選挙……」
つぶやきなのか、問いかけなのか……何とはなしに自分は、壁際のほこりに目を細めた。部屋の掃除はディアに任せており、やった後は一応きれいになっているのだが、いつのまにか繊維クズやら毛髪やらがたまってしまう……――
どうして、介護の仕事なんかやってたんですか……――
選挙の話を避けようとそんな問いをし、口にしてしまってから、なんか、というのはまずったと思ったが、ディアは質問そのものに意表を突かれたらしく、目を沈めてしまった。
「……向いているとは、思ってなくて……」
か細い声はテレビにかき消されそうだったので、自分はそちらに耳を傾けざるを得なかった。
「……そういう仕事しかなかったから……いまだに無資格だけど、経験があるからってあの子の世話を任されたの……」
ディアは奥をちらっと見て、眉間のしわを悩ましげに深めた。
「……今でも正直、好きでやっているとは言えない……だけど、放ってもおけなくてね……ごめんなさい……」
それは懺悔にも聞こえた。どう返したらいいのか分からず、自分は黙っているしかなかった。それは、そうだろう……他人の下の世話やら何やら、そんなものを喜んでやる人間がいるものか……ましてや、ロバ先生やノラみたいな相手なら……ふと、101号室での足音がよみがえる。あれがディアだったとしたら、罪悪感からではないか……顔を巡らせた自分は、浮かび上がった目と合った。
「……あなたが手伝ってくれるから、こうしてやっていられるんだと思う。独りだったら、きっとまた……」
自分は、ぎこちなく視線を外した。こっちは、あんたを利用しているだけだ……ノラとかかわりたくない、ロバ先生とも縁を切りたいんだ……いたたまれなくなり、トイレに行く振りをして通路に出るや、マール、マール、マール……徳念がこの行き止まりに押し寄せてくる。それはどこかはずみ、胎動していると感じられ、手すりにつかまった自分を運んでいった。
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