TRACKER

セラム

文字の大きさ
8 / 172
覚醒編

第7話 - 戦闘開始

しおりを挟む
「先生、私ね、月ちゃんが欲しいんだ」
「月島さんが……?」
「うん。好きなの。月ちゃんのこと」
「……そう」

 15歳の少女からの突然の告白に狼狽える。

「(一体何だっていうの? 突然幼なじみの女の子のことが好きって……。それと一連の殺人に何の関連があるっていうの?)」

「ふふ、冗談だと思ってる?」
「いや……」
「私の好きはただの好きじゃないんだよ」

 菜々美は徳田の視界から消え、後ろに回り込んで耳元で囁いた。

「月ちゃんの全部が欲しいんだよ。私の超能力ちからを使って。そして月ちゃんに群がる周りの人たちも全員消すんだ」
「(疾い……!!)」
「上野さん、あなたの超能力ちからは自分の身体能力を向上させるだけなはず」
「先生もう気付いてるでしょ? 私に別の超能力《ちから》があること。高校に入学する少し前に"病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ"を他人に打ったら私の言うこと聞いてくれるようになったんだ」
「(上野さんの月島さんへの歪んだ愛がサイクスに呼応して新たな超能力ちからを生んだ……?」
「その辺の人に注射打ってみて色々調べたんだけどさ、4時間で効力が切れちゃうんだ。けどね、3回、4回、5回……と繰り返すとね、皆んな自分から注射を求めるようになるんだ。麻薬のようにね。他にも色々試したんだよ」
「ドープとはよく言ったものね」
「でしょ? 私ネーミングセンスあるのかも」

 菜々美は笑みを浮かべて再び徳田の正面に立った。

「せんせ~、私嫉妬してたんだよ~? 月ちゃんとコソコソお喋りしてるからさっ。火曜日は先生午前中で授業終わりでしょ? んで今日は体力測定テストのお手伝いで有給取って帰っちゃった。先生とっ捕まえるには良い日でしょ?」
「初めから私を捕まえる気だったのね」
「そうそう。捕まえてみたらビックリしたよ。警察の人なんだもん」
「はぁ……その通りよ」
「でさ、私先生で試したいことがあるんだ」
「……何?」
「先生、明らかに戦闘タイプじゃないよね? でも警察の人って普通の人より訓練していてサイクスの扱いにも長けてる。じゃあさ、私たちと闘ってみようよ」

 菜々美は超能力を使って徳田を縛っていた縄を解いた。

「(確かに私は民間人よりもサイクスを使った戦闘訓練はこなしている。けど飛躍的に身体能力を向上させた3人を相手にするのは流石に分が悪い。何とか逃げ道を探さなきゃ)」

「子どもね」
「ん?」
「その余裕があなたの命取りになるかもしれないわよ」
「言うね」

––––"病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ"

 菜々美は注射器2本を具現化し、旧校舎の館長と受付の女性の首筋に打ち込み「あの女の人を殺せ」と囁いた。

 瞬間、徳田は部屋から脱しようと後ろの扉へ向かって走り出した。館長と受付の女性は左右に分かれ徳田を囲むように捕らえにかかる。

––––間に合わない

 徳田は立ち止まり、扉を塞いだ館長へと蹴りを見舞った。館長はそれを右手で受け止め、左拳を繰り出す。徳田は右手でガードし後ろへ回避した。
 着地を狙って受付の女性が上から踏み付けを試みる。それを察知した徳田は左手で身体を回転させ攻撃を躱した。

「ヒュー、さっすがは警察官さん」
「あなたは来ないの?」
「気が向いたらね~」

 菜々美はまだ自分の超能力を完全には把握しきれていない。サイクスの特性から考えて被験者に対して無限に注射が出来るとは考えにくい。
 被験者の許容するサイクス量はどのくらいなのか、また非戦闘要員である徳田を突破するにはどの程度の注射が必要なのか。ある程度のデータが欲しい。

––––罠? それとも条件?

 一方で徳田は2人の打撃を捌きながら思考していた。

「(もし、注射を打たれた者に指示を出した場合、自分は超能力ちからを発動できないとしたら? それとも私に仕掛けさせるための罠? そしてもう1つ……)」

 徳田は少し思考に気を取られ、脇腹に打撃を喰らう。

「(くっ……少し気を抜くとこうだ……。もう1つ、この人たちに意識はあるの?)」

*****

「"病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ"を他人に打ったら私の言うこと聞いてくれるようになったんだ」

*****

「(試してみるか)」

"超常現象ポルターガイスト"

 徳田はサイクスを指に溜めて椅子2脚にかざし、受付の女性の方へと投げ付けた。その直後、徳田は一気に館長との距離を詰めて目を合わせ、手の甲目掛けて蹴りを入れた。

––––完了

「(さて、どうなる?)」

 蹴りによるダメージはほぼ無い。しかし館長は動きを止めた。

––––"私とあなたの秘密シークレット・フェイス"

 靴という私物を徳田は館長と共有した。

「("病みつき幸せ生活ハッピー・ドープ"を刺された相手に上野が指示を出した場合、人名は上野の記憶から共有されるのか、注射を刺された相手の記憶からでしか認識されないのか。上野は命令する際、私の名前ではなく『あの女を殺せ』と命令した。これは館長と受付の女性が私と面識が無い場合を考慮した命令であると考えられる)」

 旧校舎の館長である江口えぐち 史郎しろうは徳田と面識がない。"私とあなたの秘密シークレット・フェイス"を仕掛けることで江口本人に刺激を与えた。江口は徳田の顔を受付の女性の顔と誤認。動きを止めた。

「どうしたの?」

 菜々美が少し驚きの表情を浮かべる。
 徳田は隙を突いて部屋を出ようと試みたが、注射器を自分に刺した菜々美が行く手を阻む。

「(使えるのか……)」

 少し笑みを浮かべる菜々美。徳田との距離を詰めようとしたその瞬間、部屋の外から少女の声が響いた。

「なっちゃーん? 徳田せんせー? 近くにいますかー?返事してー」

「月ちゃん、どうしてここに!?」


 菜々美に動揺が走る。


 徳田はその隙を見逃さなかった。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

竹林にて清談に耽る~竹姫さまの異世界生存戦略~

月芝
ファンタジー
庭師であった祖父の薫陶を受けて、立派な竹林好きに育ったヒロイン。 大学院へと進学し、待望の竹の研究に携われることになり、ひゃっほう! 忙しくも充実した毎日を過ごしていたが、そんな日々は唐突に終わってしまう。 で、気がついたら見知らぬ竹林の中にいた。 酔っ払って寝てしまったのかとおもいきや、さにあらず。 異世界にて、タケノコになっちゃった! 「くっ、どうせならカグヤ姫とかになって、ウハウハ逆ハーレムルートがよかった」 いかに竹林好きとて、さすがにこれはちょっと……がっくし。 でも、いつまでもうつむいていたってしょうがない。 というわけで、持ち前のポジティブさでサクっと頭を切り替えたヒロインは、カーボンファイバーのメンタルと豊富な竹知識を武器に、厳しい自然界を成り上がる。 竹の、竹による、竹のための異世界生存戦略。 めざせ! 快適生活と世界征服? 竹林王に、私はなる!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

神様の許嫁

衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。 神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。 一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。 ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。 神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。 *** 1部完結 2部より「幽世の理」とリンクします。 ※「幽世の理」と同じ世界観です。 2部完結 ※気まぐれで短編UP

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...