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夏休み後編
第102話 - 吉塚仁
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「それじゃあ駄目なんです!」
近藤を一蹴した柳に向かって和人が大声で告げる。
「え?」
柳は鈴村にコンテナ船から出るよう促されている和人の方を見て、そのただならぬ様子に少し驚いた顔で聞き返す。その後、和人の負傷状況を見て納得したかのように言葉を続ける。
「なるほど、可愛いBOY! あなたも怪我していて痛いのね? 私が後でしっかり治してあげるから少しだけ待っててちょうだい♡」
仁が片手を挙げながら柳を制し、和人の方へと近付いて尋ねる。
「どういう事か詳しく教えてくれるかの?」
優しく問いかけた仁だが、和人はその貫禄に緊張する。
「(この人が吉塚仁……! 俺のお祖父ちゃんと並ぶ最高峰の超能力者にして『霧島流心武源拳』の創始者の1人……!)」
和人はゴクリと唾を飲み込んで自分を落ち着けた後に近藤の超能力について説明を始める。
「奴の超能力は海中で最も力を発揮するものです。これまでの戦闘から考えると、液体を取り込んでそれをエネルギー源として魚雷や機雷で攻撃する超能力です」
仁の様子を注意深く観察しながら和人は続ける。
「僕の矢の超能力で致命傷を与えたのですが、海中から戻ってきた時にはほぼ完全に回復していました。瑞希が圧倒してしまいましたけど」
仁は顎を摩りながら思考し始める。
「フム……。先ほどの爆撃がその攻撃か。そこまでの攻撃力でないにも関わらず込めているサイクス量が少し多かったの。ただの雑魚か、その回復能力に相応のリスクがあるのかと言ったところか……」
後ろで柳が仁に告げる。
「でも仁先生、私の一喝で既に気を失ってましたよ?」
仁は溜め息をつきながら柳の方を振り返り、呆れたように答えた。
「水との親和性が高い超能力じゃ。海に入った途端に目を覚まして逃げてしまうかもしれんじゃろ。そうでなくても死んでしまってはいかんしのォ……」
#####
コンテナ船から200mほど離れた地点で近藤は落下する。
「(もう身体がボロボロや……。けど、海中に投げ出されたのは幸運やったな……。ここから逃げ出して一から出直しや。俺の力があれば何度でもやり直せる)」
入水してから30秒ほどして目を覚ました近藤はこれ以上戦闘することを諦め、近藤組を新設する考えに切り替えた。皆藤や中本など信用を置いていた友人を失ったものの自分の実力でまた這い上がる覚悟を決めていた。
「(あいつらがおかしいだけや。俺は強いはずなんや)」
近藤は負傷した身体を押してコンテナ船から離れようと試みる。
#####
「あら、結構遠くまで行っちゃいましたね」
柳は近藤が吹き飛ばされた方を遠い目で見ながら仁に告げる。
「ワシがやるわい。お前らは他の者たちの面倒を見ときぃ」
床で静かに眠っている瑞希に一瞬視線を移し、「みずのことも頼んだ」と一言だけ付け足した後に、近藤が落下した辺りに向けてその場から勢いよく跳躍した。
「(何をする気……?)」
花は仁を目で追いながら疑問に思っていた。それに気付いた鈴村が声をかける。
「大丈夫ですよ。仁さんが奴を捕らえてきます」
花は鈴村の言葉を聞きながら仁の行方を追う。
仁は近藤が落下した地点の真上に到達すると右手を下に向けたまま垂直に落下し始める。そのまま右手が海面に触れようとした瞬間、仁の身体に自然科学型サイクスが静かに滑らかに流れ始める。
––––"愛は海よりも深く"
仁の右手が海に触れた瞬間、海水はまるで布のように実体を持ち、仁によって掴まれる。仁はそのまま左手でも海水を掴んで身体を捻りながら足で海水を蹴り、再び宙へと身体を投げ出す。
その所作は短時間の内に行われたものの流麗で、見た者を仁とその周りの海水だけがゆっくりと時が流れているかのように錯覚させる。
「仁先生は流体を実体として捉えて掴むことも出来るのよ。他にも色々とできるけどね」
柳が呆気に取られている花と和人に告げる。その横で鈴村が言葉を続ける。
「更に……」
仁は空中で海水を掴みながら両手を捻り、海水の一部を球体として抜き取る。その中央には驚愕の顔を見せている近藤が水中で浮遊している。
「任意の立体図形を任意の大きさで抜き取ることも出来る」
その海水の球体は太陽の光も相まって蒼く水晶玉のように輝き、1つの芸術作品の様相を呈する。
「フム、これで十分じゃの」
仁は海水を掴んだままの両手で球体を岸壁の方へと投げ飛ばす。投げ飛ばされた球体がコンテナ船とは離れた場所へと向かったのを満足そうに眺めた後、そのまま落下し、海面を蹴って球体が向かった先へと跳躍した。
海水の球体が岸壁に衝突し、弾け飛ぶのとほぼ同時に仁は岸壁へと着地し、近藤の方に目をやる。
近藤はその衝撃を受けて再び気を失っており、横たわっていた。
「お見事です」
「結局は仁先生のお手を煩わせる事態にしたな、この馬鹿が」
柳が大きな拍手をしながら仁を讃えている様子を見て間髪入れずに鈴村が非難する。
「(何てデタラメな超能力なの……)」
強大なサイクスと圧巻の超能力を前にして言葉を失う花に仁はゆっくりと近付いて声をかける。
「警察の方で良いかの? そいつの後処理は任せたぞ」
そう言い残し、仁は瑞希の方へと向かう。町田は異不錠を片手に近藤の元へ向かい、手錠と共に掛ける準備に取りかかっていた。
––––ズズズズ……
その時、瑞希の周りを異質な黒いサイクスがドーム状に囲み、瑞希の胸付近から黒い渦が現れる。
「(このサイクスは瑞希の!? いや、違う者のサイクス!?」
その黒いサイクスの渦から両手が飛び出し、その後に頭部、そして身体全体が露わになる。
「やっほ~、お久しぶり~♡」
現れたのは不気味な仮面を装着した女、不協の十二音 第5音・"JESTER"。
仁はすぐさまJESTERの目の前へと移動し、指先にサイクスを集中させて横に一閃する。
その一閃は停泊する3隻の大型コンテナ船全てを横に真っ二つに切断した。
近藤を一蹴した柳に向かって和人が大声で告げる。
「え?」
柳は鈴村にコンテナ船から出るよう促されている和人の方を見て、そのただならぬ様子に少し驚いた顔で聞き返す。その後、和人の負傷状況を見て納得したかのように言葉を続ける。
「なるほど、可愛いBOY! あなたも怪我していて痛いのね? 私が後でしっかり治してあげるから少しだけ待っててちょうだい♡」
仁が片手を挙げながら柳を制し、和人の方へと近付いて尋ねる。
「どういう事か詳しく教えてくれるかの?」
優しく問いかけた仁だが、和人はその貫禄に緊張する。
「(この人が吉塚仁……! 俺のお祖父ちゃんと並ぶ最高峰の超能力者にして『霧島流心武源拳』の創始者の1人……!)」
和人はゴクリと唾を飲み込んで自分を落ち着けた後に近藤の超能力について説明を始める。
「奴の超能力は海中で最も力を発揮するものです。これまでの戦闘から考えると、液体を取り込んでそれをエネルギー源として魚雷や機雷で攻撃する超能力です」
仁の様子を注意深く観察しながら和人は続ける。
「僕の矢の超能力で致命傷を与えたのですが、海中から戻ってきた時にはほぼ完全に回復していました。瑞希が圧倒してしまいましたけど」
仁は顎を摩りながら思考し始める。
「フム……。先ほどの爆撃がその攻撃か。そこまでの攻撃力でないにも関わらず込めているサイクス量が少し多かったの。ただの雑魚か、その回復能力に相応のリスクがあるのかと言ったところか……」
後ろで柳が仁に告げる。
「でも仁先生、私の一喝で既に気を失ってましたよ?」
仁は溜め息をつきながら柳の方を振り返り、呆れたように答えた。
「水との親和性が高い超能力じゃ。海に入った途端に目を覚まして逃げてしまうかもしれんじゃろ。そうでなくても死んでしまってはいかんしのォ……」
#####
コンテナ船から200mほど離れた地点で近藤は落下する。
「(もう身体がボロボロや……。けど、海中に投げ出されたのは幸運やったな……。ここから逃げ出して一から出直しや。俺の力があれば何度でもやり直せる)」
入水してから30秒ほどして目を覚ました近藤はこれ以上戦闘することを諦め、近藤組を新設する考えに切り替えた。皆藤や中本など信用を置いていた友人を失ったものの自分の実力でまた這い上がる覚悟を決めていた。
「(あいつらがおかしいだけや。俺は強いはずなんや)」
近藤は負傷した身体を押してコンテナ船から離れようと試みる。
#####
「あら、結構遠くまで行っちゃいましたね」
柳は近藤が吹き飛ばされた方を遠い目で見ながら仁に告げる。
「ワシがやるわい。お前らは他の者たちの面倒を見ときぃ」
床で静かに眠っている瑞希に一瞬視線を移し、「みずのことも頼んだ」と一言だけ付け足した後に、近藤が落下した辺りに向けてその場から勢いよく跳躍した。
「(何をする気……?)」
花は仁を目で追いながら疑問に思っていた。それに気付いた鈴村が声をかける。
「大丈夫ですよ。仁さんが奴を捕らえてきます」
花は鈴村の言葉を聞きながら仁の行方を追う。
仁は近藤が落下した地点の真上に到達すると右手を下に向けたまま垂直に落下し始める。そのまま右手が海面に触れようとした瞬間、仁の身体に自然科学型サイクスが静かに滑らかに流れ始める。
––––"愛は海よりも深く"
仁の右手が海に触れた瞬間、海水はまるで布のように実体を持ち、仁によって掴まれる。仁はそのまま左手でも海水を掴んで身体を捻りながら足で海水を蹴り、再び宙へと身体を投げ出す。
その所作は短時間の内に行われたものの流麗で、見た者を仁とその周りの海水だけがゆっくりと時が流れているかのように錯覚させる。
「仁先生は流体を実体として捉えて掴むことも出来るのよ。他にも色々とできるけどね」
柳が呆気に取られている花と和人に告げる。その横で鈴村が言葉を続ける。
「更に……」
仁は空中で海水を掴みながら両手を捻り、海水の一部を球体として抜き取る。その中央には驚愕の顔を見せている近藤が水中で浮遊している。
「任意の立体図形を任意の大きさで抜き取ることも出来る」
その海水の球体は太陽の光も相まって蒼く水晶玉のように輝き、1つの芸術作品の様相を呈する。
「フム、これで十分じゃの」
仁は海水を掴んだままの両手で球体を岸壁の方へと投げ飛ばす。投げ飛ばされた球体がコンテナ船とは離れた場所へと向かったのを満足そうに眺めた後、そのまま落下し、海面を蹴って球体が向かった先へと跳躍した。
海水の球体が岸壁に衝突し、弾け飛ぶのとほぼ同時に仁は岸壁へと着地し、近藤の方に目をやる。
近藤はその衝撃を受けて再び気を失っており、横たわっていた。
「お見事です」
「結局は仁先生のお手を煩わせる事態にしたな、この馬鹿が」
柳が大きな拍手をしながら仁を讃えている様子を見て間髪入れずに鈴村が非難する。
「(何てデタラメな超能力なの……)」
強大なサイクスと圧巻の超能力を前にして言葉を失う花に仁はゆっくりと近付いて声をかける。
「警察の方で良いかの? そいつの後処理は任せたぞ」
そう言い残し、仁は瑞希の方へと向かう。町田は異不錠を片手に近藤の元へ向かい、手錠と共に掛ける準備に取りかかっていた。
––––ズズズズ……
その時、瑞希の周りを異質な黒いサイクスがドーム状に囲み、瑞希の胸付近から黒い渦が現れる。
「(このサイクスは瑞希の!? いや、違う者のサイクス!?」
その黒いサイクスの渦から両手が飛び出し、その後に頭部、そして身体全体が露わになる。
「やっほ~、お久しぶり~♡」
現れたのは不気味な仮面を装着した女、不協の十二音 第5音・"JESTER"。
仁はすぐさまJESTERの目の前へと移動し、指先にサイクスを集中させて横に一閃する。
その一閃は停泊する3隻の大型コンテナ船全てを横に真っ二つに切断した。
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