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エピローグ

後日談 - 才能

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「仁先生、やはり福岡を離れるのですね」

 鈴村圭吾と柳大雅の2人は恩師である吉塚仁の元を訪ね、自宅にてリビングのテーブルに向かい合いながら尋ねる。

「うむ」

 仁は言葉少なに答える。

「私たちも行きます」
「お主ら福岡での海洋生物の調査とかあるじゃろう? どうするつもりじゃ」

 仁の答えに対して鈴村が即座にTech-Padを取り出して資料を見せる。

「ご心配なく。私は既に第三地区大学と、柳はWMBRGとの話はつけてあります」

 そこには鈴村が第三地区大学での教授への任命を示した書類が表示され、また、スワイプすると柳は世界海洋生物研究グループ『World Marine Biological Research Group』の研究者として働くことを示す書類が表示されている。

「私たちの戦力ならばお孫さんたちをお守りするのにもお役に立てるかと」

 鈴村の一言に対して仁はピクリと眉を動かす。

「ふん、好きにせい」

 仁はそう言って緑茶を一口飲む。

#####

 東京第三地区高等学校の後期が始まってしばらくして、吉塚夫妻は東京へと引っ越して来た。2人は第3地区、月島姉妹と翔子の住む自宅から徒歩5分程度の場所に居を構えた。
 同じく鈴村と柳も第3地区に移住し、それぞれ職場に勤務することとなった。

 休日、月島宅に吉塚夫妻、柳、鈴村が揃う。

「お祖父ちゃん」

 銀色に輝くショートヘアをなびかせながら月島瑞希が仁に話しかける。

「何や?」

 仁はタブレットでニュースを見ながらぶっきら棒に返事をする。

「お祖父ちゃんって心武源拳っていう凄い技の偉い人なの?」
「何だ、そのふわっとした感じは……」

 適当にしか覚えていない瑞希に若干呆れながら答える。

「誰から聞いたんじゃ?」
「和人君が言ってたよ」

 仁の問いかけに対して即答する。

「(霧島のとこの孫か。余計なことを教えおって)」

 ちらっと孫娘に目をやると大きな瞳をキラキラと輝かせて興味津々に仁の言葉を待っている。

「まぁ、そうじゃが……。嫌じゃ」

 瑞希が何かを言いかけていることに気付いた仁は先に拒否する。

「まだ何にも言ってないじゃん!」
「教えてくれ言うんやろ? 断る。お前にはできん」
「何でよー。分かんないじゃん」
「せからしい。宿題でもしとれ」
「もう終わってるよー」

 頰を膨らませていじける瑞希は席を立ってリビングを後にし、トイレの方へと向かう。それを見送ってから柳が仁に尋ねる。

「仁先生、瑞希ちゃんに霧島流心武源拳を伝授するために戻られたのでは?」
「んなわけあるか」

 柳も鈴村も少し意外そうな顔をして仁を見る。仁が黙っているのを見て妻の伊代が口に手を当てながら品を感じさせる微笑みを浮かべて話す。

「仁さん、可愛い孫に痛いことなんてさせられるかっておっしゃってましたもんね」

 仁は顔を少し赤らめて黙ったままバツが悪そうに咳き込み、タブレットを操作する指を速める。柳はそれを見ながら笑い、「可愛いですもんね、瑞希ちゃん」と呟き、仁は「愛香もな」と小さく付け加える。

 瑞希はリビングに戻ってくると自分が不在の間に皆の様子が変わったことを何となく感じ取って、若干首を傾げながらも通り過ぎ、ソファに腰掛ける。

「!?」

 仁は瑞希が何となく手遊びをしてサイクスで遊んでいるのを見て驚きの表情を向ける。仁はテーブルから離れ、瑞希の側によって尋ねる。

「お前……それどうやって覚えた?」

 瑞希はキョトンとした顔をして仁の方を向いて「それって?」と聞き返す。

「その手のサイクスのことじゃ」

 瑞希は自分の手の方に目をやり「あーこれね」と笑いながら答える。

「暇潰しに最近やってるんだ~。体内のサイクスと体外のサイクスってそれぞれコントロールできるんだなって。ほらこんな感じで」

 瑞希は左手の周りにサイクスを集中させて、それと同時に体内のサイクスを右手側に移動させる。

「(こいつ……体内サイクスと体外サイクスを天然で感じ取って、しかも精密なコントロールをやってのけとるのか!?)」

 普通、フローとしてサイクスの分配を行う場合、体内のサイクスと体外に放出されているサイクスは同時に動かす。
 しかし、これは体内サイクス、体外サイクスとして分離して考えることが可能でそれぞれを異なる部位へと移動させることができる。

 この考え方は霧島流心武源拳の基本的な考え方となっており、その代表的な例が"鳴"である。アウター・サイクス (体外サイクス) とインナー・サイクス (体内サイクス) を同時に操作することでそれぞれの特性を生かした力を発揮する。
 この『体内サイクス』と『体外サイクス』を切り離して考えること自体が画期的な発想で、霧島流心武源拳を学ぶ者が最初にぶつかる関門である。

「(天才……! 瞳ですらこの発想を自らは持ち合わせていなかった……!)」

 愛香はこのサイクスのコントロール自体は既に会得しており、その修得の早さから仁は感嘆していたが、更にその上を行く瑞希の潜在能力ポテンシャルに身震いする。

「(教えるべきか? この子に)」

 仁はほんの数秒前まで霧島流心武源拳を教える気が無かったことが嘘のように現在、瑞希の才能に興味を持ってしまった自分に驚きと共に自分への嫌悪感を抱いてしまう。

––––自分が側で守る

 福岡での一件でそう決心し、東京へと数十年ぶりに戻ってきた。

「(目的を忘れるな)」

 仁はそう自分に言い聞かせた後、瑞希の頭を軽く撫でた後にテーブルへと戻る。瑞希は首を傾げながら「変なの」と呟き、テレビの電源を入れた。

#####

––––p-Phone内

「あぁ~楽しみだなぁ」

 右目は金色、左目は灰色のオッドアイを持ち、キジトラ模様の毛色に立ち耳の猫「ピボット」が呟く。

「まだまだまだまだ……」

 "ピボット"は一心不乱に唱え続ける。

「早く欲しいけど、まだ我慢。焦っちゃダメだ」

 "ピボット"は自分に言い聞かせるかのように呟く。 

「だって瑞希はボクのものだもの。瞳が約束してくれたんだもの」

 "ピボット"の周りから黒いサイクスが漏れ出る。

「瑞希が生きているのはボクのお陰なんだから」


––––ボクが貰っちゃっても良いよね?



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