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第二章
まさかの人妻宣言 ④
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定刻通りに始まった王室規範改定会議は順調に進んでいった。
今は規範の書の状態についての報告だ。
イズミルが会議室の最奥にある発言席に立って
説明をしている。
「……と、お手元の資料にありますように、規範の書自体に呪詛が掛けられていると判断致しました」
イズミルは手袋をはめ、厳重な結界が施されている保管箱から規範の書を取り出した。
それは見たところなんの変哲もないただの書物にしか見えなかった。
とても呪詛が掛けられているようには見えない。
グレアムだけが規範から漏れる魔力に眉を顰めている。
「アリスタリアシュゼットシュタイン嬢、一体どのような呪詛が掛けられていると言うのです?」
ランスロットが挙手をしてイズミルに質問した。
「ここに記されている文字は一見ただのエンシェントスペルに見えますが、じつはコレ、この一文字一文字に呪物が取り憑いているのです。このまま素直に翻訳しても、本来書かれている内容とは別の歪められたものへと導かれてしまいます」
イズミルが規範の書を見開いて掲げると皆一様に驚いて声を上げた。
「なんて嫌がらせじみた呪いなんだ……」
誰かがゲンナリした顔で呟いた。
「そういう嫌な気分にさせるのが目的の呪いでしょうから……。皆さん、近くでご覧になられます?」
イズミルが言うと、興味を示した数名がわらわらと近くに寄って来た。
呪いが掛けられていると知って近づこうとしない者も当然いる。
「どこからどう見てもただの文字に見えるが……でもまぁ確かに特殊な魔力は感じる」
グレアムが訝しげに規範を見つめた。
あまりに顔を近づけ過ぎるのでイズミルが注意を促す。
「それ以上は近づかないで下さいませ。言うまでもないとは思いますが、決してお手も触れないようにお願いします」
イズミルのその言い方が気に入らなかったのか、
グレアムはムっとした表情で規範から顔を離した。
(あらま、感じ悪い)
それでもイズミルは笑顔という武装を貼り付けたまま皆が順番に見終わるのを待った。
「解呪の方法はあるのか?」
グレアムが腕を組みながらイズミルを見下ろし様に問いかけた。
「幾つかございます。本来ならば呪いの質を見極め、無力化させる方法を何通りか検討するのですが、ページ数を考えるとあまり時間をかけたくありません。短時間で解呪する方法を用いたいと思います」
イズミルが答えると今度はバイワールが聞いてきた。
「危険はないのか?強力な解呪返しが掛けられている可能性は?」
その問いにイズミルは頷きながら答えた。
「確かにその可能性は高いと思われます。でも問題ありません、解呪返しよりも強力な術で封じ込めてしまえば良いのです」
「簡単に言うようだが、それはやはり危険ではないのか」
バイワールが更に警戒を強めて言う。
「そうですね、簡単ではありませんがやるしかありません。本来書かれている文字から呪物を引き剥がし、滅しないとどうにもなりませんから」
「それをアリスタリアシュゼットシュタイン嬢が
行うというのか?」
バイワールが怪訝そうに言うのを聞きながら
イズミルは制するように手を上げた。
「あの、一旦、お話の途中で失礼しますが……いちいち面倒ではありませんか?」
「は?」
不意に話題が変えられて、皆がイズミルを見た。
「アリスタリアシュゼットシュタインと……呼びにくいでしょう?皆さま、どうかわたくしの事はイズーとお呼びください」
イズミルがそう言うと、「いやしかし……
いきなりファーストネームで呼ぶなど……」
「でもホントは長くて呼びにくいなと思っていたんだ。そう呼んでよいのなら助かるが……」
と、各々が一様に戸惑いを見せる。
「だって長いでしょう?家名が……皆さん器用に噛まずに仰られていますが、いずれ噛みますわよ?その時お互い気まずいではありませんか。それならもういっそのことイズーとお呼びください」
しかし、即座にグレアムが一蹴した。
「噛まない。それに別に面倒ではない。(ホントは面倒くさい名だと思っているが)なんと言われようが女性のファーストネーム呼びなど御免被る。すぐに適切な距離感を崩されて馴れ馴れしくなるのは目に見えている」
けんもほろろに切り捨てたグレアムにイズミルはふわりと優しく微笑む。
「左様でございますか。では陛下はそのままで。わたくしの長~い家名をそのまま噛む事なくお呼び下さいませ。他の方はどうぞこれからはイズーとお呼び下さいね」
「……」
押し黙るグレアム。
優しげな笑顔だったが言葉の真意はなかなかに
有無を言わせない迫力があり、皆は空気を読んでコクコクと頷くしかなかった。
「では本題に戻りますね」
そう言ってイズミルは近日中に解呪の作業に入る事を告げた。
今は規範の書の状態についての報告だ。
イズミルが会議室の最奥にある発言席に立って
説明をしている。
「……と、お手元の資料にありますように、規範の書自体に呪詛が掛けられていると判断致しました」
イズミルは手袋をはめ、厳重な結界が施されている保管箱から規範の書を取り出した。
それは見たところなんの変哲もないただの書物にしか見えなかった。
とても呪詛が掛けられているようには見えない。
グレアムだけが規範から漏れる魔力に眉を顰めている。
「アリスタリアシュゼットシュタイン嬢、一体どのような呪詛が掛けられていると言うのです?」
ランスロットが挙手をしてイズミルに質問した。
「ここに記されている文字は一見ただのエンシェントスペルに見えますが、じつはコレ、この一文字一文字に呪物が取り憑いているのです。このまま素直に翻訳しても、本来書かれている内容とは別の歪められたものへと導かれてしまいます」
イズミルが規範の書を見開いて掲げると皆一様に驚いて声を上げた。
「なんて嫌がらせじみた呪いなんだ……」
誰かがゲンナリした顔で呟いた。
「そういう嫌な気分にさせるのが目的の呪いでしょうから……。皆さん、近くでご覧になられます?」
イズミルが言うと、興味を示した数名がわらわらと近くに寄って来た。
呪いが掛けられていると知って近づこうとしない者も当然いる。
「どこからどう見てもただの文字に見えるが……でもまぁ確かに特殊な魔力は感じる」
グレアムが訝しげに規範を見つめた。
あまりに顔を近づけ過ぎるのでイズミルが注意を促す。
「それ以上は近づかないで下さいませ。言うまでもないとは思いますが、決してお手も触れないようにお願いします」
イズミルのその言い方が気に入らなかったのか、
グレアムはムっとした表情で規範から顔を離した。
(あらま、感じ悪い)
それでもイズミルは笑顔という武装を貼り付けたまま皆が順番に見終わるのを待った。
「解呪の方法はあるのか?」
グレアムが腕を組みながらイズミルを見下ろし様に問いかけた。
「幾つかございます。本来ならば呪いの質を見極め、無力化させる方法を何通りか検討するのですが、ページ数を考えるとあまり時間をかけたくありません。短時間で解呪する方法を用いたいと思います」
イズミルが答えると今度はバイワールが聞いてきた。
「危険はないのか?強力な解呪返しが掛けられている可能性は?」
その問いにイズミルは頷きながら答えた。
「確かにその可能性は高いと思われます。でも問題ありません、解呪返しよりも強力な術で封じ込めてしまえば良いのです」
「簡単に言うようだが、それはやはり危険ではないのか」
バイワールが更に警戒を強めて言う。
「そうですね、簡単ではありませんがやるしかありません。本来書かれている文字から呪物を引き剥がし、滅しないとどうにもなりませんから」
「それをアリスタリアシュゼットシュタイン嬢が
行うというのか?」
バイワールが怪訝そうに言うのを聞きながら
イズミルは制するように手を上げた。
「あの、一旦、お話の途中で失礼しますが……いちいち面倒ではありませんか?」
「は?」
不意に話題が変えられて、皆がイズミルを見た。
「アリスタリアシュゼットシュタインと……呼びにくいでしょう?皆さま、どうかわたくしの事はイズーとお呼びください」
イズミルがそう言うと、「いやしかし……
いきなりファーストネームで呼ぶなど……」
「でもホントは長くて呼びにくいなと思っていたんだ。そう呼んでよいのなら助かるが……」
と、各々が一様に戸惑いを見せる。
「だって長いでしょう?家名が……皆さん器用に噛まずに仰られていますが、いずれ噛みますわよ?その時お互い気まずいではありませんか。それならもういっそのことイズーとお呼びください」
しかし、即座にグレアムが一蹴した。
「噛まない。それに別に面倒ではない。(ホントは面倒くさい名だと思っているが)なんと言われようが女性のファーストネーム呼びなど御免被る。すぐに適切な距離感を崩されて馴れ馴れしくなるのは目に見えている」
けんもほろろに切り捨てたグレアムにイズミルはふわりと優しく微笑む。
「左様でございますか。では陛下はそのままで。わたくしの長~い家名をそのまま噛む事なくお呼び下さいませ。他の方はどうぞこれからはイズーとお呼び下さいね」
「……」
押し黙るグレアム。
優しげな笑顔だったが言葉の真意はなかなかに
有無を言わせない迫力があり、皆は空気を読んでコクコクと頷くしかなかった。
「では本題に戻りますね」
そう言ってイズミルは近日中に解呪の作業に入る事を告げた。
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