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第三章

晴天の霹靂(グレアム目線)

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同時に二人の高位貴族令嬢との婚姻が決まったと
知らされたのは16になったばかりの事だった。

一人はハイラントの、もう一人は隣国の令嬢だと。
一年後、俺が17になったらそれぞれ嫁いで来るという。

何故いきなり二人?
その疑問を口にする前にすぐに悟った。

父上だ。

どうせ何も深く考えずに
一刻も早く次々代の後継の誕生を、とかなんとか
理由を付けて、面白がっているだけに違いない。

常に後宮にしか関心がなく
女を性欲の捌け口、玩具のようにしか見ていない
父上の考えそうな事だ。

正妃であった母は、
そんな父を見限って出て行った。
国王夫妻の離婚など前代未聞で国際的な醜聞になったが、父上は全く意に介さずであった。

それどころか五月蝿い正妃が居なくなったと
嬉々として、更に側妃や妾を増やした。

我が父ながら度し難い男だ……。

この頃は政務のほとんどを俺に振って来る。

17になれば更に外交面も全て任せると言い、
自分は玉座に座りながら遊び呆けるつもりらしい。


まぁいい。

それは願ったり叶ったりだ。

政治に無関心な国王の統治が続いた所為で
国政は腐りきり、民の暮らしは困窮している。

早いうちから任せるというのなら、少しずつ
腐った膿を出し切り、俺が即位した暁には全て
一新してやる。


そうして俺は17になり、
二人の妃が後宮入りをした。

せめてひと月ほど時間をずらして、
王太后おばあさまは父上に願い出たが、
父上は面倒臭そうに「否」と言っただけで
あったという。

王太后おばあさまは父上を姑に奪われ、
ご自分で育てる事が出来なかった事を心から
悔やまれていた。

自分が育てていたら、
耳掻き一杯分はマシな男だったかもしれないと。

俺はほとんど王太后おばあさまに育てて貰ったから、
耳掻き一杯分は父王よりマシという事なのだろうか。

結局同日に輿入れとなった二人の妃。

当然、初夜の儀をどうするかと問題になったが、
第一第二と序列を付けているのならと
その順に執り行う事となった。

そこにお互いの意思など必要ないと
言わんばかりの取り決めにウンザリしたが、
二人の妃に罪はない。

大切にして、守ってゆかねば……と心に誓った。

妃の名はマチルドとアマリア。

二人とも俺と同い年で
マチルドは控えめで大人しい性格。
アマリアは負けん気の強い、ハッキリとしたもの言いの女性だった。

この妃達の扱いは特に気を遣った。
どちらかを立てればどちらかの立場が悪くなる。

出来るだけ同じように接するように神経を使った。

“渡り”の回数も、一緒に食事をする回数も
贈り物の数も……

二人が争う事なく
穏やかに暮らせるように心を配った。

が、俺は後宮に住んでいるわけではないし
政務に忙殺されて四六時中見張っている
わけにはいかない。

王太后おばあさまや後宮女官長に
気にかけてくれるよう頼んでいるが、
それでも父上の側妃女狐達から完全に守りきる事が出来なかった。

父上の側妃達が二人の妃で賭けをしたり、
良からぬ入れ知恵をしていると報告を受け、
すぐさま側妃たちアイツらとの居住区域を
完全に分け、立ち入りを禁じた。

にも関わらずアイツらはあの手この手でマチルドとアマリアに嫌がらせを仕掛けてくるという。

その側妃を厳罰に処して後宮から追い出して
やりたいが、相手は父上の側妃。
勝手に裁くことも出来ず、ただ父上に厳重に
抗議する事しか出来なかった。

そんな事を繰り返すうちに、
マチルドの様子が様変わりしてきた。

俺に色目を使い、
気持ちの悪い香を焚き、趣味の悪い下着や
夜着を見に纏い出した。

そして媚びた上目遣いで俺を見る。

これは、まるで……父王の側妃たちそのもの
ではないか。

どうしたというのだ。

はっきり言って気持ち悪い……。

迂遠にやめるように言っても変わらなかった。


自分の妃だけでも
持て余しているというのに、
側妃達アイツら
俺が18になった途端に色目を使い、
擦り寄るようになって来やがった。

体をしならせ、媚びを売る……
王太子妃小娘には出来ない遊びを教えて差し上げるとか気持ちの悪い声で語りかけてくる。

ハッキリ言って反吐が出る。

今すぐ国外追放してやりたい。


そんな中、

父上はまたもや俺の婚姻を決められた。

相手はまだ9歳のジルトニア公女だという。

9歳?いや、王族同士の婚姻なら珍しい話では
ないが、それにしても何故いきなり……。

聞けばジルトニア大公たっての希望だったとか。
後から思えば、
大公は既に国内の不穏な空気を感じ取っておられたのかもしれない。
そして公女だけでも国外にと、この婚姻を推し進められたのだろう。


嫁いで来たジルトニア公女を出迎えた時、
ハッキリ言って驚いた。

まだわずか9歳という公女の美しさは
目を見張るものがあった。

しかも既に礼儀作法も完璧で、
少し話せば公女の聡明さがすぐにわかった。

これは……将来を期待してしまう。

この公女であれば、
後宮の主として正しく治めてくれるのではないかと。

なぜ出会ったばかりでそんな事を思ったのかは
わからないが、俺はなぜかそんな予感めいたものを感じた。

そんな俺の態度がマチルドを追い詰めたなんて
その時は思いもしなかった。


その後すぐにジルトニア事変が起こり、
俺はその対応に追われた。

やはり元公女イズミルは抜きん出て聡明だ。

今度ばかりはこの縁組を決めた父上に
感謝しなくてはならない。


その後の事後対応に加え数々の政務、

俺は多忙に多忙を極め、

後宮の事など頭からすっぽりと抜け落ちていた。


そんな時に後宮女官長から内密に報告があると
告げられた。

人払いを望まれたのでそれに応じる。
側近のランスロットには同席させたが。


女官長はかなり逡巡してから
やがて意を決して話し出した。

「……マチルド妃がご懐妊あそばされました……
只今、妊娠2ヶ月にございます」


「……!?」


女官長の言葉を聞き、
ランスロットは色めき立つ。

「それは……!
おめでとう存じます殿下!………え?」


そうだな。

おかしい。

どう考えても計算があわない。

俺はここ3ヶ月、ジルトニア事変の対応に追われ
後宮には渡っていない。



「……誰の子だ?」


俺が静かに問うと
女官長は目を閉じ、微かに震えながら言った。


「……陛下の、
国王陛下の御子にあらせられますっ……」


晴天の霹靂とはまさにこの事か。

俺はただ、
目の前で心痛な面持ちで俯く女官長の事を
呆然と見つめる事しか出来なかった。






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修正によるお詫びです。
時間の設定ですが、話を進めて、ちょっと計算が合わないと気づきました。

算数の時代から数字とは相性の悪い
作者……。
9年前を8年前に変えて修正しております。
ご迷惑おかけして申し訳ないです。













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