後宮よりこっそり出張、廃妃までカウントダウンですがきっちり恩返しさせていただきます!

キムラましゅろう

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第三章

家族の墓前で

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「リズル」


その名を呼ばれた娘の肩がビクッと跳ね上がる。

侍女たちが集まる控え室に姿を現した
イズミルの姿を見て、リズルは緊張した面持ちでイズミルの元へと行った。

「イ、イズー…さん……」

「少し話しがあるの、いいかしら?」

「は、はい……」

そう返事して、リズルはイズミルの後に続いた。

中庭の隅に二人で腰を下ろす。


「リズ…「申し訳ありませんでしたっ!!」

イズミルが話しかけようとしたと同時に
リズルが凄い勢いで頭を下げて謝罪してきた。

「わたし……いくら命じられたからといって、イズーさんにあんな事をっ……許されるなんて思ってません、でもどうか、謝罪だけはさせてくださいっ……!」

ぎゅっと目を閉じ、リズルは頭を下げたままイズミルにそう告げた。

「リズル、わたしは怒ってなんかないわよ?」

「えっ……でもわたし、あんな酷い事を……」

「でもアレはあなたじゃなく、元第二王子が仕出かした事よ」

「でもっ……」

「本当にいいのよ。あなたが気に病む事をじゃないわ。それよりリズル、あなたはこれからどうするの?」

「え?どうするって……?」

「お城の仕事は辞めなくてもよくなったとは聞いたわ」

「それは、ええ、はいそうです」

「あなた、このままここで働きたい?」

リズルはイズミルには全てお見通しなのだと思った。

確かに城は辞めなくてもよい。
でもいくら正しい行いをしたからといって、主を裏切った曰く付きの侍女として
今は鼻つまみ者扱いになっている状態なのだ。

でも他に働く当てもないリズルは黙って耐えるしかないと諦めている。


イズミルはリズルに言った。

「リズル、ハイラントへ来ない?」

「え?」

「ハイラントの後宮にいる、イズミル妃の侍女として働いてみない?」

「ええっ!?、こ、公女さまのっ!?
で、でもわたしなんかっ……」

「なぜ?同じジルトニア出身というだけでもイズミル妃は喜ぶわよ?お給料もここより少しだけ増えるんじゃないかしら」

「で、でもっ……やっぱりわたしなんか」

「じつはもうイズミル妃はあなたを侍女にするって決めているのよね」

「え、ええぇっ!?そ、そんないつの間に!?」

「だから諦めて、ハイラントに来て欲しいの。リズルはイズミル妃の侍女として働くのは嫌?」

「め、めっそうもないです!
わたしなんかが公女様にお仕え出来るなんて夢のようですっ……!」

「じゃあ決まりね。ハイラントに着いたら、まずは太王太后宮を訪ねてこの手紙を渡して。そうすれば太王太后様が全て取り計らって下さるから」

「た、太王太后様になんてそんな畏れ多いですっ」

「大丈夫よ。お優しい方だから」

「ど、どうしてわたしにそんなに優しくして下さるんですか……?」

リズルのその問いに、
イズミルは優しく微笑んだ。

「多分、わたし達が似ているからよ」

「似てる?わたしとイズーさんがですかっ!?あ、あり得ない……」

「同じジルトニア出身で家族はいない天涯孤独の身というところがね」

「イズーさんもご家族が……」

「だからあなたがハイラントに来てくれたらすごく嬉しい!そうすればいつでも会えるもの」

「イズーさん……!」

リズルはハイラント行きを承諾してくれた。

そして城を辞めて、一度孤児院に戻ってから必ず行くと約束してくれたのだ。


ハイラントでの再会を楽しみにしていると告げ、イズミルはリズルと別れ、そしてそのまま荷物を手にする。


イコチャイア視察五日目、今日はいよいよハイラントへ向けて帰国する日である。

しかしイズミルは当初の予定通り大公家の墓所へ立ち寄るべく、侍従長に断りを入れてから10年ぶりにジルトニアへと向かう。
グレアム達の出発に合わせて、一人別行動を取るのだ。

イコチャイアから乗合馬車に乗りジルトニアに入る。

時折届くジルトニアにいる元侍女からの手紙で属州となった元祖国の様子は聞いていたものの、実際に目の当たりにすると全然違う。

今や州都となった大公家の居城があった街アリスタリアは活気に満ち溢れ、
グレアムの治世の下、皆穏やかに暮らしているのが手に取るようにわかった。

〈みんな幸せそう。良かった……
グレアム様には本当に感謝しかないわ〉

イコチャイアから乗って来た乗合馬車が
広場の停車場で止まる。

そしてイズミルは10年ぶりに祖国の地を踏む。


感動で胸が震える。

まさかたった一人、供も付けずに行動するなど10年前には想像もつかなかった事だ。

それだけこの10年で全てが様変わりしてしまったという事だ。

なんとも言えない複雑な胸の内を抱えながら、まずは大公家の居城があった場所へと向かう。

城は焼け落ちたまま、そのまま放置をされて……
は、いなかった。

石造りの土台や壁の一部を残したまま、
この国の歴史の遺産として大切に保存されていた。
石碑に書かれた文字を読む。
久しぶりに目にする、祖国の文字だ。
石碑には民の有志により、この城址の保全がされている事、ハイラント国民になってもジルトニア大公家への敬愛は忘れないと書いてあった。


石碑にぽたぽたと涙の雫が降りかかる。


嬉しかった。
亡き父や母や兄を変わらず愛してくれる
民たちの気持ちが、本当に嬉しかった。

きっと父たちも喜んでいるに違いない、
イズミルは心からそう思った。


夢で見た懐かしいブランコはもう無かったが、ブランコを吊っていた大きな木は
燃えずに無事に残っていた。

イズミルは木の幹に手を当てそっと目を閉じる。

「良かった……」

その時、風が吹いて木が大きく葉を揺らす。
木とこの地の風の精霊シルフィールがおかえりと言ってくれているようだ。

イズミルは額を木の幹に付け、そっと呟いた。

「……ただいま、ここに戻るのがずいぶん遅くなってしまってごめんなさい」

風に揺らされる木の葉音がイズミルを優しく包み込んでくれた。

そして大公家の墓所がある場所へと向かう。
途中で花屋に寄り、母が好きだった花を買った。


そして大公家の墓所へと足を踏み入れたイズミルがはっと息を飲む。

「……!」

そこは……色とりどりの花々で溢れていた。
沢山の花が植えられ、また沢山の花が大公家一家の墓へと手向けられている。

ここも元大公国民の手によって守られていたのだ。

イズミルはゆっくりと歩いて行き、墓前に座る。

ずっと来れなくてごめんなさい。
自分は変わらず元気だと。
グレアムへの恩義は必ず返すから見届けて欲しいと、
家族に語りかける。

やはりここに来て良かった。

家族に会いに来られて良かった。


そして後宮を後にしたらまた必ず来ると約束して、イズミルは墓所を後にした。




ハイラントへの帰路は
一度隣国のイコリスへ出る事にした。

長距離馬車を利用するのなら、イコリス発着の乗り合い馬車なら安全だと事前に侍従長に教えて貰ったからだ。

その為に一度イコリスへと入国する。

ここで一晩宿泊してから明日の朝一番に
出発するつもりだ。

イコリスは治安が良いので、女性一人でも安心なのだ。


今日の宿屋を探そうと停車場から
宿屋街へと向かおうと歩き出すイズミルの背後にふと人の気配を感じた。

驚いて後ろを振り返ると、更に驚いた。


「な、なぜ………?」


夢でも見ているのだろうか、

なぜ彼がここにいるのかイズミルには理解出来ない。


ハイラントに戻られたはずでは!?


「へ、陛下……?」

驚きで目を丸くするイズミルの目の前には仁王立ちで腕を組み、明らかな怒気を放ってこちらを睨みつけているグレアムの姿があった。


「こんの……っ、バカもんがぁぁっ……!」
















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