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第二章
そして忘れられないデビュタントとなった ①
お茶会での事があったその日の夜。
アルジノンは
ジュリの自室の扉をノックした。
すると直ぐにジュリの専属侍女のタバサが扉を開けた。
「ジュリと少し話がしたんいんだが」
「ジュリ様はもうお休みになられています」
「もう?」
時計の針はまだ8時を差したところだ。
確かに田舎育ちのジュリの就寝時間は早い。
王都で暮らすようになって5年、それだけは何故か変わらぬ習慣であった。
に、しても早すぎる。
「……怒っていたか?」
アルジノンが様子を伺うようにこっそり聞くと、
二人より7歳年上のタバサはこう言った。
「怒っておられましたね。ずるい、身勝手だ、ク○ヤローだと仰っていました」
「ク○ヤロー……」
「なぜジュリ様のデビュタントをお許しにならないのです?」
「必要ないからだ」
「それだけですか?」
「……。」
「アルジノン殿下」
タバサはアルジノンの乳母の娘で、幼い頃からの付き合いだ。
その気安さからか、わりとなんでも話せてしまう。
それはジュリも同じらしい。
「嫌なんだよ。ジュリを他の奴に見せるのが。あんなに可愛いんだ。下半身が脳みそと直結してる輩の目に晒したくない」
「じゃあ一生人前に出さずにいるおつもりですか?とんだヘタレチキンヤローですね」
「……お前、そんな性格だったか?すっかりジュリに感化されてるじゃないか」
「主従のキズナが深いものですから。とにかく、ジュリ様とお会いしたいならデビュタントを認めて差し上げたらよいかと」
「それなら夜会が終わるまでは我慢する。それにその方がジュリも大人しく引っ込んでるだろうしな」
この男……○✖︎☆◇△□ヤローが!
タバサは心の中で罵った。
そして誓った。
夜会当日はジュリを頭の先から爪の先まで磨き上げて、
それを見たアルジノンがエスコート出来なかった悔しさで膝から崩れ落ちるくらいに美しく仕上げてやる!と。
そしてやってきた夜会当日。
あのお茶会騒動から3日、
ジュリとアルジノンは一度も顔を合わせていなかった。
ジュリはこっそりデビュタントすることを悟られたくなかったし、
アルジノンは夜会に出たいとジュリに騒がれるのが嫌だった為、二人は互いを避けまくっていた。
そして準備として
ジュリは朝からバスタブに放り込まれ、
全身の毛穴の中まで綺麗に磨き上げられた。
そしていい香りのする香油でマッサージをされた後に
軽く食事をしてからメイクとヘアアレンジに取り掛かる。
今日のジュリのドレスは、
秘密裏に娘のデビュタントを聞いたランバード伯が、
イトコのリラムに「金に糸目はつけないから素晴らしいドレスを作ってやってくれ」と言いながら小切手を差し出したという逸話付きのドレスだ。
そうして半年以上前から
リラムと相談しながらドレスを作り上げたのだ。
まさかジノンがデビュタントに反対するとは思わず、
下手するとお蔵入りになっていたかもしれないドレスが日の目を見て本当によかったとジュリは思う。
ドレスのデザインは、
デビュタントの令嬢らしく白…ジュリはオフホワイトにしたが、短めのパフスリーブで胸下から切り替えでAラインにふんわり広がるシフォンドレスだ。
胸下の切り替え部分は太めのリボンで飾られており、
色はランバードのエメラルドグリーンだ。
それに合わせてイヤリングもネックレスも全てエメラルドにした。
靴もエメラルドグリーンで統一し、
ゆるくひとつに編み込んでからサイドに流した髪にも小さなエメラルドの粒が無数に散りばめられている。
オフホワイトのシフォンドレスとエメラルドグリーンのバランスが絶妙であり、
我ながらいい仕事をしたとリラムと互いを褒め称え合った。
もしエスコート役が婚約者(仮)のアルジノンだったのなら、
アルジノンの瞳の色のサファイアで統一していただろう。
〈ふん、だってエスコートしてくれなかったんだもの〉
でも同じランバードの血を引くイトコのリアムの瞳がエメラルドグリーンなので、これで良かったなと思うことにした。
涙を浮かべて大絶賛したのが、
協力してくれたイトコのリラムと侍女のタバサである。
黙っていれば美少女のジュリだが、
普段の行いのせいでどうしてもその印象が薄らぐ。
でも今日のジュリはどこからどう見ても妖精の姫君かと見紛うほどの美しさであった。
白くきめ細やかな肌に興奮で少し上気した頬。
さくらんぼのような唇はぷるんと艶めいており、
女性でもそそられるような色気があった。
これで喋らなければ
きっとジュリが今年のデビュタントの令嬢の中で
一番美しいだろうと、容易に想像出来た。
アルジノンは既に支度を終え、
王族専用の控え室に行っているという。
会いに来られても
こんな姿を見せるわけにもいかないから困るが、
盛装した姿を見せようと少しは思ってくれてもいいじゃないかと考えてしまう。
アルジノンは口で言うほどジュリの事が好きではないのでは?
なんて、そう思ってしまう自分が悔しい。
アルジノンの大バカ野郎。
今日はアンタの事なんか頭から追い出して、バッチリ楽しんでやる!
ジュリは固く決意をして拳を握りしめた。
「ジュリ様、その姿で拳を突き上げるのはおやめください」
「あ、はい」
「リアム様がお迎えに来て下さいましたよ」
タバサが扉を開けると、
そこには盛装してバッチリキメたリアムが立っていた。
国境騎士団に籍を置くリアムは
長身で痩身でありながら筋肉で引き締まった体躯の持ち主である。
ランバードの男子特有の紺色にも見える黒髪にエメラルドグリーンの瞳。
イトコの贔屓目を差し引いてもかなりの美男子だと思う。
そんな見目も良く、気心の知れたリアムがエスコート役を引き受けてくれて本当に良かったとジュリは思う。
ジュリの姿を認めたリアムは
綻んだような笑顔を向けてくれる。
「……キレイだ……!ジュリ、俺は幸運だな。こんなにキレイなイトコの一生に一度のデビュタントのエスコート役を任されるなんて」
「大袈裟よ」
お世辞でも嬉しかった。
だってやっぱりジュリだってオンナノコだもん。
「でもホントにいいのか?王太子殿下に黙ってこんな事……。ランバード家のお取り潰しに繋がるなんて事には……」
「なるわけないでしょ」
「ジュリがいいならいいんだが……。じゃあジュリ、参りますか」
そう言ってリアムが手を差し伸べた。
「ええ。参りましょう」
ジュリはリアムに手を重ねて促されるままに歩き出した。
ジュリの忘れられないデビュタントの始まりであった。
つづく☆
アルジノンは
ジュリの自室の扉をノックした。
すると直ぐにジュリの専属侍女のタバサが扉を開けた。
「ジュリと少し話がしたんいんだが」
「ジュリ様はもうお休みになられています」
「もう?」
時計の針はまだ8時を差したところだ。
確かに田舎育ちのジュリの就寝時間は早い。
王都で暮らすようになって5年、それだけは何故か変わらぬ習慣であった。
に、しても早すぎる。
「……怒っていたか?」
アルジノンが様子を伺うようにこっそり聞くと、
二人より7歳年上のタバサはこう言った。
「怒っておられましたね。ずるい、身勝手だ、ク○ヤローだと仰っていました」
「ク○ヤロー……」
「なぜジュリ様のデビュタントをお許しにならないのです?」
「必要ないからだ」
「それだけですか?」
「……。」
「アルジノン殿下」
タバサはアルジノンの乳母の娘で、幼い頃からの付き合いだ。
その気安さからか、わりとなんでも話せてしまう。
それはジュリも同じらしい。
「嫌なんだよ。ジュリを他の奴に見せるのが。あんなに可愛いんだ。下半身が脳みそと直結してる輩の目に晒したくない」
「じゃあ一生人前に出さずにいるおつもりですか?とんだヘタレチキンヤローですね」
「……お前、そんな性格だったか?すっかりジュリに感化されてるじゃないか」
「主従のキズナが深いものですから。とにかく、ジュリ様とお会いしたいならデビュタントを認めて差し上げたらよいかと」
「それなら夜会が終わるまでは我慢する。それにその方がジュリも大人しく引っ込んでるだろうしな」
この男……○✖︎☆◇△□ヤローが!
タバサは心の中で罵った。
そして誓った。
夜会当日はジュリを頭の先から爪の先まで磨き上げて、
それを見たアルジノンがエスコート出来なかった悔しさで膝から崩れ落ちるくらいに美しく仕上げてやる!と。
そしてやってきた夜会当日。
あのお茶会騒動から3日、
ジュリとアルジノンは一度も顔を合わせていなかった。
ジュリはこっそりデビュタントすることを悟られたくなかったし、
アルジノンは夜会に出たいとジュリに騒がれるのが嫌だった為、二人は互いを避けまくっていた。
そして準備として
ジュリは朝からバスタブに放り込まれ、
全身の毛穴の中まで綺麗に磨き上げられた。
そしていい香りのする香油でマッサージをされた後に
軽く食事をしてからメイクとヘアアレンジに取り掛かる。
今日のジュリのドレスは、
秘密裏に娘のデビュタントを聞いたランバード伯が、
イトコのリラムに「金に糸目はつけないから素晴らしいドレスを作ってやってくれ」と言いながら小切手を差し出したという逸話付きのドレスだ。
そうして半年以上前から
リラムと相談しながらドレスを作り上げたのだ。
まさかジノンがデビュタントに反対するとは思わず、
下手するとお蔵入りになっていたかもしれないドレスが日の目を見て本当によかったとジュリは思う。
ドレスのデザインは、
デビュタントの令嬢らしく白…ジュリはオフホワイトにしたが、短めのパフスリーブで胸下から切り替えでAラインにふんわり広がるシフォンドレスだ。
胸下の切り替え部分は太めのリボンで飾られており、
色はランバードのエメラルドグリーンだ。
それに合わせてイヤリングもネックレスも全てエメラルドにした。
靴もエメラルドグリーンで統一し、
ゆるくひとつに編み込んでからサイドに流した髪にも小さなエメラルドの粒が無数に散りばめられている。
オフホワイトのシフォンドレスとエメラルドグリーンのバランスが絶妙であり、
我ながらいい仕事をしたとリラムと互いを褒め称え合った。
もしエスコート役が婚約者(仮)のアルジノンだったのなら、
アルジノンの瞳の色のサファイアで統一していただろう。
〈ふん、だってエスコートしてくれなかったんだもの〉
でも同じランバードの血を引くイトコのリアムの瞳がエメラルドグリーンなので、これで良かったなと思うことにした。
涙を浮かべて大絶賛したのが、
協力してくれたイトコのリラムと侍女のタバサである。
黙っていれば美少女のジュリだが、
普段の行いのせいでどうしてもその印象が薄らぐ。
でも今日のジュリはどこからどう見ても妖精の姫君かと見紛うほどの美しさであった。
白くきめ細やかな肌に興奮で少し上気した頬。
さくらんぼのような唇はぷるんと艶めいており、
女性でもそそられるような色気があった。
これで喋らなければ
きっとジュリが今年のデビュタントの令嬢の中で
一番美しいだろうと、容易に想像出来た。
アルジノンは既に支度を終え、
王族専用の控え室に行っているという。
会いに来られても
こんな姿を見せるわけにもいかないから困るが、
盛装した姿を見せようと少しは思ってくれてもいいじゃないかと考えてしまう。
アルジノンは口で言うほどジュリの事が好きではないのでは?
なんて、そう思ってしまう自分が悔しい。
アルジノンの大バカ野郎。
今日はアンタの事なんか頭から追い出して、バッチリ楽しんでやる!
ジュリは固く決意をして拳を握りしめた。
「ジュリ様、その姿で拳を突き上げるのはおやめください」
「あ、はい」
「リアム様がお迎えに来て下さいましたよ」
タバサが扉を開けると、
そこには盛装してバッチリキメたリアムが立っていた。
国境騎士団に籍を置くリアムは
長身で痩身でありながら筋肉で引き締まった体躯の持ち主である。
ランバードの男子特有の紺色にも見える黒髪にエメラルドグリーンの瞳。
イトコの贔屓目を差し引いてもかなりの美男子だと思う。
そんな見目も良く、気心の知れたリアムがエスコート役を引き受けてくれて本当に良かったとジュリは思う。
ジュリの姿を認めたリアムは
綻んだような笑顔を向けてくれる。
「……キレイだ……!ジュリ、俺は幸運だな。こんなにキレイなイトコの一生に一度のデビュタントのエスコート役を任されるなんて」
「大袈裟よ」
お世辞でも嬉しかった。
だってやっぱりジュリだってオンナノコだもん。
「でもホントにいいのか?王太子殿下に黙ってこんな事……。ランバード家のお取り潰しに繋がるなんて事には……」
「なるわけないでしょ」
「ジュリがいいならいいんだが……。じゃあジュリ、参りますか」
そう言ってリアムが手を差し伸べた。
「ええ。参りましょう」
ジュリはリアムに手を重ねて促されるままに歩き出した。
ジュリの忘れられないデビュタントの始まりであった。
つづく☆
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