だから言ったのに! 〜婚約者は予言持ち〜

キムラましゅろう

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第二章

そして忘れられないデビュタントとなった ②

今夜は俺が成人王族としてデビューする夜会だ。
(この国ハイラムでは15歳で成人となる)

同い年のジュリも本来なら今夜デビュタントの筈だが、

もう既に俺という婚約者がいるというのにわざわざ社交界で、
ランバード辺境伯の娘が年頃で可愛くて素敵な令嬢に育ったと知らしめる必要などない。

本当は今夜の俺の晴れ舞台を側で見ていて欲しいし、一緒に今日という日を迎えたい。

でも今夜、俺は各国や国内の重鎮たちとの挨拶や、王太子としてデビュタントを迎えた上位貴族の娘と踊らなくてはならない決まりがあるため超多忙だ。

当然ジュリの側にはほとんど居られない。

そんな状況で……
もし俺が目を離してるうちに……
ジュリが他の男にちょっかいを出されたらと思うと……

耐えられない!!!


誰か側に付けておいたとしても、

突拍子もない行動を突然する事もあるジュリを四六時中見張り続けれる者など早々いない。

では陰で暗部でもつけるか……
とも思ったが、そんな大事になるなら今夜のジュリのデビュタントを見送ればいいという結論に至った。

今夜でなければ俺も時間が取れる。

その時に万全を期して
ジュリをデビュタントさせればいいだけの話だ。

そのつもりでいる事をジュリには話していないが
夜会が終わったら、もう寝ていたとしても叩き起こして話してやろう。
怒るだろうが今夜だけだ。

俺のこの盛装姿も見たいだろうしな。


そんな事を考えるうちに夜会開始の時間となった。

結局今夜俺がエスコートするのは
バレンシュタイン侯爵令嬢となった。

彼女も今夜だけは王族の控え室にいる。

デビュタントする令息と令嬢は
招待客全員が会場入りしてから
名前を呼び上げられて
会場に入る決まりだ。


爵位の上位順から名を呼ばれるので
当然、俺と彼女の会場入りが一番となる、ので王族専用控え室ここで待機してもらっていたのだ。

俺の婚約者でもないのに
何故か全身サファイアブルーでキメている彼女を怪訝な目で見ながら、
会場入り口付近まで移動した。

扉の前で手を差し出してエスコートする。

そして俺と彼女の名が呼び上げられて会場入りをした。

感嘆の声と共に
皆、俺たちをうっとりするような目で見て「お似合いだ」「彼女が本命では?」「でなければエスコートなどしないだろう」「ウチの娘は王太子殿下のお気に入りでしてなぁ!」とか好き勝手言ってる声が聞こえるが、彼女は俺の婚約者じゃいからな?
エスコートは今夜だけだからな?

……バレンシュタイン侯爵令嬢、
少し体を寄せ過ぎでは?

やはり特定の令嬢のエスコートをするのは不味かったか?

そんなこんなで
名を呼ばれ次々と会場入りしてくる令息と令嬢たち。

今年のデビュタントはやたら多い。

俺のデビュタントに合わせた者もいると聞く。

ややあって

侯爵位クラスの会場入りがそろそろ終わる頃、
信じられない名を耳にした。


「ランバード辺境伯令嬢、
シュ・ジュリ=ランバード!!」



「……………………は?」








ジュリとイトコのリアムがデビュタント達の控え室に入ると

予想以上の人出でごった返していた。

「今年ってこんなに多いの!?」

とジュリがびっくりして声を上げている。

やがて会場内から
「ハイラム=オ=ジル=アルジノン王太子殿下!並びにバレンシュタイン侯爵令嬢アリア=ロウ=バレンシュタイン!」

と高らかに名を読み上げる声が聞こえた。

デビュタント達の会場入りの始まりだ。


結局、“アルジノンにエスコートされる権利”はアリアが勝ち取ったようだ。

爵位にものを言わせたのか?



「ド、ドキドキするわね…!」

ジュリが胸に手を当ててリアムに言うとリアムは

「ジュリでも緊張なんかするんだな、震えてるじゃないか武者震いか?」

と言った。

「乙女に向かって失礼な、興奮で少し震えているだけよ」

「それを武者震いって言うんだよ」

そんな会話をしているうちに
とうとう名を呼ばれる順番になった。

ジュリはリアムにエスコートされ、

扉の前に立つ。

〈ジノン様はどんな顔をするのだろうか、怒られる?それとも呆れられる?
ま、どうでもいいけど〉


そして名を読み上げられる。


「ランバード辺境伯令嬢
シュ・ジュリ=ランバード!」


それを聞き、リアムにエスコートされたジュリが滑るように歩き出した。

これでも毎日王妃教育として

最上のマナー教育をされているジュリだ。

立ち姿も歩く姿も優雅で洗練されており、
そして今日という日のために仕立て上げられたドレスを身に纏うジュリは一瞬で会場全員の目を釘付けにした。

可憐にして清楚。
まだ何色にも染まっていない年若い令嬢の初々しい瑞々しさに、誰もが魅了された。

ただ一人を除いては。


ジュリは会場入りして直ぐにアルジノンを見つけた。

王族として玉座に近い場所におり、

そして誰よりも目を引く美しさ。

成人王族の仲間入りをしたという
堂々たる立ち姿だ。

この日のための白を基調とした盛装も本当によく似合っている。


〈大きくなって…!〉 

感慨深過ぎて一瞬ウルッとしたが、
当のアルジノン本人の驚愕に満ちた顔が面白すぎて一瞬で涙が引っ込んだ。

〈ふふ。驚いてる驚いてる。ざまぁだわ〉

今この瞬間で、
デビュタントさせて貰えないと知った時からの数々の溜飲が下がった。

〈大丈夫かな?わたし、ちゃんとキレイかな?ジノン様に変だと思われてないかな?〉

さっきまで何も気にならなかったのに、
ジノンの姿を見ると突然に不安になる。


気になってジノンの方をちらと見ると

膝から崩れ落ちて、
侍従や近衛騎士が駆け寄ってる姿が見えた。 

ジュリの侍女のタバサの完全勝利の瞬間だった。

〈?どうしたのかしら、誰かに膝カックンでもされた?〉



やがてデビュタント全員の会場入りが終わり、本格的に夜会が始まる。


ファーストダンスはもちろん国王夫妻で、


そしてその後アルジノンとアリアが踊る。


優雅に踊る二人の姿はまるで一枚の絵画のようで、会場の全員がウットリと見つめていた。

でも当のアルジノンはアリアを見ずにジュリばかりに目を向けている。

あれで体勢を崩さずに踊れるのだから不思議だ。


それが終わると、あとは皆諸々に踊り出す。

ジュリもリアムと共にファーストダンスを踊るためにホールへと向かった。

まさか公の場での
ファーストダンスの相手がイトコのリアムとは……

〈人生って何があるかわからないわよね。もしかして将来、リアムと結ばれたりして?〉

アルジノンが運命の相手と結ばれた後に

自分は誰と結ばれるのか、気にならないはずがない。

そんな事を考えてるうちに曲が始まろうとしていた。


その時である、

ダンスポーズを取るためにリアムの肩に手を置こうとしたジュリの手を横から掬う者がいた。

その手は流れるようにジュリの体を攫い、
一瞬でリアムの手からジュリを奪った。

「!!」

がっちりと腰をホールドされながら顔を見上げると、

そこには悔しいけど大好きな顔があった。


「ジノン様!?」

よく見るとジノンは肩で息をしている。

アリアとのダンスが終わり、すぐさま駆け付けたようだ。

額には薄らと汗が滲んでいる。


「……ジュぅぅリ、説明してもらおうか?何故ここに?エスコート役のそこの男は誰だ?」

顔は笑顔なのに目が笑ってない。

器用だなと思っているとリアムが二人に声をかける。

「曲が始まります、このままお二人で踊りながらお話されては?」

「「……。」」

アルジノンとジュリは無言でダンスポーズを取った。

そして曲が始まる。


幼い頃からずっと互いを練習相手に踊って来た二人だ。

癖もタイミングも互いの体温も
全て体に染み付いている。

流れるように踊る二人の姿に
誰もが目を奪われていた。


「それで?何故ここにいるんだ?
今夜のデビュタントを許した覚えはないが?」

アルジノンが威圧感増し増しで問う。

「婚約者としては許してもらってないけれど、ランバードの娘としてはお父さまに許しを貰っているもの」

「ランバード伯めぇ……、ではあの男は?」

「イトコのリアム、国境騎士団所属の16歳。来月正騎士の試験を受ける準騎士よ。今夜のエスコート役を引き受けてくれたの」

「っくそ!」

「まぁお行儀が悪いわよアルジノン。それよりわたしなんかと踊っていていいの?お偉いサマ方との挨拶や他のご令嬢と踊らなくてはいけないんじゃないの?」

「わかっているなら何故今夜デビューした。お前のデビュタントは他の日にちゃんとするつもりだったのに」

「そんな事初耳なんですが」

「今、言ったからな」

「遅いわ!」

「俺がバカだった……お前が素直に俺の言うことを聞くはずがなかった……」

ジノンの頭がガックリと項垂れる。

ジュリの肩に当たるか当たらないかの距離が余計にこそばゆい。


「いい匂いがする」

「変態か!……タバサが香油で磨き上げてくれたの」

「そうか……」

何故そんな嫌そうな顔をする!?

失礼過ぎるだろ。

ジュリは心の中で憤慨した。

「……エスコートは出来なかったし、ジュリのその姿を一番に見たのが俺でなかった事が腹立たしく死にそうだか、せめてお前のファーストダンスだけは誰にも譲りたくなかったんだ」

「それでスケジュールを無視して?」

「俺には重要な事だ」

「……ジノン様、成人王族としてこの日を迎えられました事、誠にお喜び申し上げます。これからもジノン様に幸多き人生とならん事をお祈り申し上げております」

「なんだ藪から棒に。気色の悪い」

「人が心を込めてお祝いの言葉を述べてるのに気色わるいとはなによ……ジノン様はもう立派な王太子、立派な運命の王子となられました。もう一人ぼっちのモヤシ乙女ではなく、周りに人も沢山います、とくにご令嬢方が」

「それはジュリがみんなに優しく愛想良くしろといったからだろ」

「はい、申し上げました。結果は上場です」

「……何が言いたい?」

「ジノン様はもう大丈夫です。わたしが側にいなくてもちゃんとやってゆけます。どうかもう、わたしを領地へ返して下さい。予言の約束の日には必ず会いに参りますから」


「……ダメだ」

「何故です?ジノン様がわたしに抱く感情は恋情というより雛の擦り込みの様なものだと思いますよ?一番最初の友達たがら、執着してるだけだと思いますよ?」

「違う」

「違わないと思うけどなぁ。だってあなたには他にちゃんと結ばれるべき人がいるんですから」

「またそれか」

「またそれです。でもまごうことなきイグリードの予言です」

「イグリードが何を言おうが俺は絶対に諦めない。でもジュリは諦めろ」

「なんなのよそれは」 

「俺と別れるのを諦めろ。お前は一生俺の側だ」

「わたしに側室になれと?」

「なぜそうなる」

「だってジノン様の運命の人が正室になるわけでしょ?それ以外なら側室か愛妾しかないじゃない、お断りです」

「勝手に決めつけるな」

「わたしはね、ジノン様。父と母みたいになりたんです。貴族の娘が何言ってるんだと思われるかもしれないけど、でもやっぱり、お互いに唯一と思い合える人と結ばれたいの」

「俺とそうなればいいじゃないか」

「だーかーらぁ、ジノン様のその相手はわたしではないと何度言えばわかるんですか」

「何度言われても理解してするつもりはない」

「出たよ我儘王子」

「我儘上等。とにかく俺はお前を離すつもりはない。領地に逃げ帰っても兵を差し向けてでも連れ戻す」

「国境騎士団を相手に?」

「お前やランバード伯が私用で団を動かすとは思えんがな」

「……でもジノン様は私用で動かすと?」

「俺は王太子だからな」

「暴君か!」

「とにかく諦めろ。予言なんか俺が覆してやる。俺は自分の心を信じる。俺にはお前だけだ」

「………。」

「ジュリ?」

「ずるい。そんな風に言われて、喜ばない女なんていない」

「そうか」

「……3年後、彼女が現れても同じ事が言えるなら信じてあげる」

「彼女?」


〈アルジノン様の運命の相手。

決して多言は出来ないけど

イグリードにより、脳内に刻み込まれているその人の特徴。

鮮やかなオリーブグリーンの髪とルビーの瞳を持つ少女。

彼女が現れたら、
わたしはイグリードに託された予言を彼女に告げる。

それでお終い。

その時になってもまだジノン様がわたしを必要としてくれているのなら、
その時は……〉


結局その後ジノンはジュリと二曲続けて踊り、
婚約者アピールをしっかりしてから
招待客への相手に戻って行った。


ジュリは再び合流したリアムに謝罪を述べた後に改めて一曲踊り、

美味しい物を食べ、

美味しい果実水をガブ飲みし、

時々絡んでくるイヤミ令嬢達を舌戦で完膚なきまでに叩きのめし、

とことん夜会を楽しんだ。



イグリードと約束した日まで3年を切った。

あと何回、こんな日が過ごせるのだろう。

それでも今夜がジュリの人生の中で

一番忘れられない夜会となったのは

間違いないだろう。





















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