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王太子ジュスタン
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「なんだ?なんか元気がないな?さすがのお前も自分の使い魔(使役魔法生物)以外に魔力を喰われ続けるのは疲れるか?」
魔術学園の王太子専用ルームで、この国の王太子であるジュスタンがリュートに話しかけた。
書類仕事をしていたリュートが書類に目を落としたままそれに答える。
「……いや?思っていたより消耗は少ないな。ミリアの奴、好みの魔力を持つ者からつまみ食いしているようだし」
「他にも使い魔を用いてるのにその余裕……相変わらずハンパない魔力量だな。じゃあなんでそんなに凹んでるんだよ?」
「……凹んでいるように見えるか?」
「他の者なら分からないだろうけど、俺たちは従兄弟で幼馴染で同志だからな。それくらいは分かるさ」
「なるほどな……アリスに……嫌いだと言われた」
ボソリと呟いたリュートの言葉に、ジュスタンは驚いた。
「あのアリスがっ?三度の食事よりも、ケーキよりもお前が好きな、あのアリスがそう言ったのかっ?」
「……ミリアから情報を引き出す時を見られた……結界を張っていたのにだ」
「相変わらず無自覚に凄いなアリスは。状況説明は……出来ないよな。相手がミリアなら、誓約魔法に抵触する。でもアリスに誤解されたままでいいのか?」
「アリスはともかく、それが本来の目的の一つでもある。奴らにも学園の者にも、ミリアに注目が行く方が都合がいいからな」
「アリスがフリーになるんじゃないかと密かに期待されてるぞ?争奪戦が起きるやもと」
「全員潰す」
「怖……」
ジュスタンのその呟きにリュートは全く意に介す様子もなく、また書類に目を落として作業を始めた。
それを見ながら、ジュスタンはある事を考えていた。
◇◇◇◇◇
今日の放課後も、アリスはアラベラと二人で“スィーツをとことん堪能する会”の活動に勤しんでいた。
今日は学園近くにあるベーカリーカフェで、
焼きたてラズベリーパイに舌鼓を打っている。
バター香るサクサクのパイ生地の中に熱々トロっトロのラズベリーフィリングがたっぷり閉じ込められていて、
それをバニラアイスクリームと一緒に食べるのだ。
熱々のパイとアイスクリームの冷たさが相まって、これがまた堪らない。
「ん~~!美味しーー♡」
「これはヤバいわね。アリスじゃないけど幾らでも食べられそう♪」
「本当ね!リュートにも食べさせてあげたいな~」
「あら?婚約者の事は嫌いになったんでしょ?それでもこの最高のパイを一緒に食べたいの?」
アラベラに指摘され、アリスはハッとして慌てて否定した。
「ち、違うわ!この下手したら火傷しそうなラズベリーフィリングでアチチッとなったリュートを見たいだけよっ!」
「アリスにリュート様を嫌うなんて無理だと思うけどなー。もうやめとけばいいのに」
「無理じゃないわ!もう嫌いになったんだもの!今も絶賛大嫌い中なんだから!」
「はいはい」
何を言っても余計にムキになるアリスを見て、ため息を吐きながらアラベラは紅茶を口に含んだ。
その時、アリスとアラベラが座るテーブル席に近付く影があった。
アラベラがその影にいち早く気付く。
「えっ……?お、王太子殿下っ!?」
アラベラは王太子ジュスタンの姿を認め、そして慌てて立ち上がり、礼を執る。
アリスも立ち上がり、軽く膝を折って略式の礼を執りつつジュスタンに尋ねた。
「王太子殿下におかれましては、以下略……何故こちらに?」
アリスもリュートと同じ、彼と幼い頃からの付き合いである。
ジュスタンは爽やかな笑顔をアリスとアラベラに向けた。
「やぁ、ご令嬢方。楽しそうに歓談している時にお邪魔して申し訳ないね。……アリス、久しぶりだね。挨拶を端折るのも相変わらずだ」
「非公式な場ですもの。殿下もラズベリーパイを召し上がりに来たのですか?」
「いや、僕はアリスにちょっと用があってね」
「わたしに?」
きょとんとするアリスにジュスタンは微笑んだ。
「それはそうとアリス。そろそろ帰らないとまた門限に遅れるよ?」
ジュスタンに言われ、
アリスは顎を突き出して毅然として答える。
「いいんですっ。わたしはもうリュートが決めた門限は守らないと決めたんですから」
「でもそうなるとまた、ドアに仕込まれた使い魔がリュートの元に飛んで行かないといけなくなるよ?体の小さな使い魔なのに可哀想だなー」
ジュスタンの言葉を聞き、アリスは驚いた。
「えっ!?そうなの?体の小さな使い魔なのね…それは……大変な思いをさせちゃうわね……」
「そうだよ。だからその使い魔の為にもう帰ってあげて?」
「それなら仕方ないわ。アラベラ、悪いんだけどもう帰りましょう」
アリスがそう言うと、アラベラも頷いて立ち上がった。
「それがいいわね。帰りましょう」
アラベラがアリスを連れ立って歩こうとすると、ジュスタンがアラベラに告げた。
「アリスはボクが連れ帰るよ。大切な従兄弟の婚約者だからね、責任を持って邸に送り届けるから」
「……では私はこれにて御前を失礼致しますわ。アリス、また明日ね」
「ええ、アラベラ。ごきげんよう」
アラベラが自分の馬車の方へと向かう姿を見送る。
アリスにジュスタンが言った。
「さ、じゃあ行こうかアリス」
エスコートをし始めたジュスタンにアリスは訊ねた。
「わざわざわたしを連れ帰る為に来たの?」
「いや。リュートが話せない事を僕が代わりに話に来たのさ」
アリスはリュートと同じく長身のジュスタンを見上げる。
「リュートが話せない事?」
「そう。誓約魔法は交わさせた方は話せるからね」
「……やっぱりリュートに誓約魔法を結ばせたのはジュスタン様だったのね」
「まぁ正確に言うと僕とリュートと使い魔の間でかな」
「え?使い魔も?」
「使い魔の召喚内容による魔導契約さ。その他政治的な事は王太子としての僕とね」
「魔導誓約……」
「この続きは馬車の中で。さぁ、行こうアリス」
「う、うん……」
そうやってアリスは王家の馬車に乗せられて帰路に就いたのであった。
その馬車の中でとある事を聞きながら……。
魔術学園の王太子専用ルームで、この国の王太子であるジュスタンがリュートに話しかけた。
書類仕事をしていたリュートが書類に目を落としたままそれに答える。
「……いや?思っていたより消耗は少ないな。ミリアの奴、好みの魔力を持つ者からつまみ食いしているようだし」
「他にも使い魔を用いてるのにその余裕……相変わらずハンパない魔力量だな。じゃあなんでそんなに凹んでるんだよ?」
「……凹んでいるように見えるか?」
「他の者なら分からないだろうけど、俺たちは従兄弟で幼馴染で同志だからな。それくらいは分かるさ」
「なるほどな……アリスに……嫌いだと言われた」
ボソリと呟いたリュートの言葉に、ジュスタンは驚いた。
「あのアリスがっ?三度の食事よりも、ケーキよりもお前が好きな、あのアリスがそう言ったのかっ?」
「……ミリアから情報を引き出す時を見られた……結界を張っていたのにだ」
「相変わらず無自覚に凄いなアリスは。状況説明は……出来ないよな。相手がミリアなら、誓約魔法に抵触する。でもアリスに誤解されたままでいいのか?」
「アリスはともかく、それが本来の目的の一つでもある。奴らにも学園の者にも、ミリアに注目が行く方が都合がいいからな」
「アリスがフリーになるんじゃないかと密かに期待されてるぞ?争奪戦が起きるやもと」
「全員潰す」
「怖……」
ジュスタンのその呟きにリュートは全く意に介す様子もなく、また書類に目を落として作業を始めた。
それを見ながら、ジュスタンはある事を考えていた。
◇◇◇◇◇
今日の放課後も、アリスはアラベラと二人で“スィーツをとことん堪能する会”の活動に勤しんでいた。
今日は学園近くにあるベーカリーカフェで、
焼きたてラズベリーパイに舌鼓を打っている。
バター香るサクサクのパイ生地の中に熱々トロっトロのラズベリーフィリングがたっぷり閉じ込められていて、
それをバニラアイスクリームと一緒に食べるのだ。
熱々のパイとアイスクリームの冷たさが相まって、これがまた堪らない。
「ん~~!美味しーー♡」
「これはヤバいわね。アリスじゃないけど幾らでも食べられそう♪」
「本当ね!リュートにも食べさせてあげたいな~」
「あら?婚約者の事は嫌いになったんでしょ?それでもこの最高のパイを一緒に食べたいの?」
アラベラに指摘され、アリスはハッとして慌てて否定した。
「ち、違うわ!この下手したら火傷しそうなラズベリーフィリングでアチチッとなったリュートを見たいだけよっ!」
「アリスにリュート様を嫌うなんて無理だと思うけどなー。もうやめとけばいいのに」
「無理じゃないわ!もう嫌いになったんだもの!今も絶賛大嫌い中なんだから!」
「はいはい」
何を言っても余計にムキになるアリスを見て、ため息を吐きながらアラベラは紅茶を口に含んだ。
その時、アリスとアラベラが座るテーブル席に近付く影があった。
アラベラがその影にいち早く気付く。
「えっ……?お、王太子殿下っ!?」
アラベラは王太子ジュスタンの姿を認め、そして慌てて立ち上がり、礼を執る。
アリスも立ち上がり、軽く膝を折って略式の礼を執りつつジュスタンに尋ねた。
「王太子殿下におかれましては、以下略……何故こちらに?」
アリスもリュートと同じ、彼と幼い頃からの付き合いである。
ジュスタンは爽やかな笑顔をアリスとアラベラに向けた。
「やぁ、ご令嬢方。楽しそうに歓談している時にお邪魔して申し訳ないね。……アリス、久しぶりだね。挨拶を端折るのも相変わらずだ」
「非公式な場ですもの。殿下もラズベリーパイを召し上がりに来たのですか?」
「いや、僕はアリスにちょっと用があってね」
「わたしに?」
きょとんとするアリスにジュスタンは微笑んだ。
「それはそうとアリス。そろそろ帰らないとまた門限に遅れるよ?」
ジュスタンに言われ、
アリスは顎を突き出して毅然として答える。
「いいんですっ。わたしはもうリュートが決めた門限は守らないと決めたんですから」
「でもそうなるとまた、ドアに仕込まれた使い魔がリュートの元に飛んで行かないといけなくなるよ?体の小さな使い魔なのに可哀想だなー」
ジュスタンの言葉を聞き、アリスは驚いた。
「えっ!?そうなの?体の小さな使い魔なのね…それは……大変な思いをさせちゃうわね……」
「そうだよ。だからその使い魔の為にもう帰ってあげて?」
「それなら仕方ないわ。アラベラ、悪いんだけどもう帰りましょう」
アリスがそう言うと、アラベラも頷いて立ち上がった。
「それがいいわね。帰りましょう」
アラベラがアリスを連れ立って歩こうとすると、ジュスタンがアラベラに告げた。
「アリスはボクが連れ帰るよ。大切な従兄弟の婚約者だからね、責任を持って邸に送り届けるから」
「……では私はこれにて御前を失礼致しますわ。アリス、また明日ね」
「ええ、アラベラ。ごきげんよう」
アラベラが自分の馬車の方へと向かう姿を見送る。
アリスにジュスタンが言った。
「さ、じゃあ行こうかアリス」
エスコートをし始めたジュスタンにアリスは訊ねた。
「わざわざわたしを連れ帰る為に来たの?」
「いや。リュートが話せない事を僕が代わりに話に来たのさ」
アリスはリュートと同じく長身のジュスタンを見上げる。
「リュートが話せない事?」
「そう。誓約魔法は交わさせた方は話せるからね」
「……やっぱりリュートに誓約魔法を結ばせたのはジュスタン様だったのね」
「まぁ正確に言うと僕とリュートと使い魔の間でかな」
「え?使い魔も?」
「使い魔の召喚内容による魔導契約さ。その他政治的な事は王太子としての僕とね」
「魔導誓約……」
「この続きは馬車の中で。さぁ、行こうアリス」
「う、うん……」
そうやってアリスは王家の馬車に乗せられて帰路に就いたのであった。
その馬車の中でとある事を聞きながら……。
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