10 / 14
激情の魔女
「うっ……ふっ……うぅぅ……」
仄暗い空間の中、ジュジュは泣いていた。
その涙の粒がクラムの頬に落ちてゆく。
クラムは驚いた顔をしてジュジュを見上げていた。
「クラムの……クラムのバカぁ……」
今、ジュジュの心はぐちゃぐちゃに潰れてしまっている。
子供みたいに泣きじゃくる自分が情けなくて悲しい。
こんな自分じゃそりゃ大人の健康的な色気を持つピンクブロンドに勝てるはずがない。
でも、それでも……自分の知らない所であんな事をしていたなんて。
ジュジュがなかなか越えられないと苦悩した一線をいとも簡単にあの人と……。
それが悔しくて悲しくて、ジュジュは延々と涙を零し続けた。
クラムに馬乗りになったままで。
あの時、ジュジュは怒りのあまりクラムの胸ぐらを掴んだまま無意識に転移魔法を用いて飛んでいた。
往路は森の魔力を借りて1回で辿り着く転移も、復路は自身の魔力のみで何地点かを経由して森まで戻らねばならない。
だがジュジュは激情のあまり一度の転移だけで古の森まで戻ってきたのであった。
きっと潜在する魔力までも一気に出力したに違いない。
まぁ残念ながら森までは一歩及ばず、届いてはいないが。
ここは森のすぐ側にある湖の畔だ。
その畔に何故かクラムを引き連れて転移した。
到達の瞬間にバランスを崩し、咄嗟に自分の身を下にしてジュジュを庇ったクラムに馬乗りになる形でそのまま接地したのだ。
そしてその状況を理解する余裕も無く、ジュジュは激情のままに泣き出したのであった。
クラムは訳がわからないまま呆然としてジュジュを見つめている。
自分が何をしたのかまるでわかっていないような、そんな戸惑いを隠しきれない顔をしていた。
こんな時は流石に表情筋も仕事をするのかとジュジュは腹立たしかった。
涙を流しながら苦渋に満ちた顔をするジュジュにクラムが問いかける
「どうした?ジュジュ、なぜ泣いている?なぜ王都に?」
「よくもそんなっ……よくもあんなっ……」
まるで要領を得ない様子で訊いてくるクラムにジュジュの怒りが余計に募ってゆく。
「クラムの裏切りものっ……」
「裏切り?なんのことだ」
「とぼけないでよっ、私が何も知らないと思ったら大間違いなんだからっ」
「知っている?何を」
「無記名の手紙が届いたんだからっ、クラムが、王都で素敵な人と出会ったってっ……」
「出会い?誰と」
「さっき部屋にいたピンクの髪の人とよっ!写真も入っていたのよっ、仲良く寄り添っているのと、後ろから抱きつかれている写真が!」
「さっき部屋にいた?ピンクの髪?ちょっと待て」
「待たないっ!もうイヤっ!わかったわよっ!婚約を解消してあげるわよっ!それで満足でしょうっ!」
ジュジュはそう言ってクラムから身を離し駆け出した。
「待てっ!ジュジュっ!」
クラムは慌てて起き上がり、ジュジュの後を追う。
しかし森の一番外れにある木を越えたジュジュに向け、クラムが手を伸ばしたその瞬間の事であった。
バチンッと何か跳ね返すような大きな音がして、ジュジュを捕まえようと伸ばしたクラムの手を弾いた。
「っ!?」
「……っ!」
弾かれた衝撃はかなりのものだったのだろう。
クラムが顔を顰めて手を押さえていた。
「これは……」
森がクラムを拒絶した。
ジュジュがクラムを拒絶したのだ。
そのため、クラムは森に弾かれた。
古の森の魔女が認めない者は森に入ることすら許されない。
ジュジュが完全にクラムを拒絶したのに森が応じ、クラムが足を踏み入れる事を許さなかったのだ。
二人の境界線は見えない森の境界線。
ジュジュが、古の森の魔女が許さない限り、クラムは二度と森に入る事は出来ない。
その状況を即座に判断したクラムが焦りの表情を浮かべる。
「ジュジュ、話を聞いてくれ」
ジュジュは泣き疲れた顔をしてそれに答えた。
「もう何も話す事なんてないわ。あなたは他の人に心を移し、私との結婚の約束を反故にした、それだけのことよ」
「違う。そんな事はしていない」
「無理しなくていいのよクラム。本当はピンクと結ばれたいんでしょう?だってプロポーズしていたものねっ……」
「それをどこでっ……」
ジュジュの言葉を聞き、途端に焦燥感を露わにするクラムにジュジュはもう乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
「……見たのよ、王都の食堂で。手紙が届いてすぐにあなたに本当の事を聞きたくて王都に行ったの。でもそこで見たのは、あなたがあのピンクの髪の人に跪いてプロポーズをする場面だった」
「違うっ、それは違うぞジュジュ」
「何が違うというの?だってあなた、花を手渡しながら真剣な表情で告げていたじゃない……でも、もうどうでもいいわ……」
「どうでもいいとは?」
「だってもう婚約は解消するんだもの。せめてクラムの赤ちゃんを生みたくて頑張ったけと、それももういいわ」
「ジュジュっ」
「もうどうでもいい。誰でもいい。とにかく子を産んで血を繋げればいいんでしょ?」
「何を言っているっ!?」
「それもクラムにはもう関係ないことよ……今日はごめんなさい、邪魔をして……協会には私の方から連絡しておくから……だから……もう」
「ジュジュ……?」
ジュジュはクラムを見据えながらゆっくりと後退りをした。
クラムはジュジュが見た事もないような顔をして、一心にこちらを見ている。
「そんな顔もするんだね……」
別れを受け入れた途端に彼の色んな表情を目にする事になるなんて皮肉なものだなとジュジュはどこか遠くにそれを感じていた。
「ジュジュ、待て」
「………クラム」
「ジュジュっ!」
「この二年、楽しかった。本当にありがとう……」
これで終わるんだ。
この言葉を告げたらもうそれでお終い。
呆気ない幕切れ。
「さよなら……さよならクラム………」
そう言ってジュジュは踵を返し駆け出した。
「ジュジュっ!!」
悲鳴に近いクラムの声。
その声を背中に受け、ジュジュが森の深部へ入っていこうとしたその時、凄まじい破裂音が辺りに響いた。
「えっ……!?」
その音に驚いたジュジュが振り返り、クラムの方を見る。
するとそこには、
森の強烈な結界に体当たりをし、自らの魔力で無理やり結界を乗り越えようとするクラムの姿があった。
「ク、クラムっ!?」
仄暗い空間の中、ジュジュは泣いていた。
その涙の粒がクラムの頬に落ちてゆく。
クラムは驚いた顔をしてジュジュを見上げていた。
「クラムの……クラムのバカぁ……」
今、ジュジュの心はぐちゃぐちゃに潰れてしまっている。
子供みたいに泣きじゃくる自分が情けなくて悲しい。
こんな自分じゃそりゃ大人の健康的な色気を持つピンクブロンドに勝てるはずがない。
でも、それでも……自分の知らない所であんな事をしていたなんて。
ジュジュがなかなか越えられないと苦悩した一線をいとも簡単にあの人と……。
それが悔しくて悲しくて、ジュジュは延々と涙を零し続けた。
クラムに馬乗りになったままで。
あの時、ジュジュは怒りのあまりクラムの胸ぐらを掴んだまま無意識に転移魔法を用いて飛んでいた。
往路は森の魔力を借りて1回で辿り着く転移も、復路は自身の魔力のみで何地点かを経由して森まで戻らねばならない。
だがジュジュは激情のあまり一度の転移だけで古の森まで戻ってきたのであった。
きっと潜在する魔力までも一気に出力したに違いない。
まぁ残念ながら森までは一歩及ばず、届いてはいないが。
ここは森のすぐ側にある湖の畔だ。
その畔に何故かクラムを引き連れて転移した。
到達の瞬間にバランスを崩し、咄嗟に自分の身を下にしてジュジュを庇ったクラムに馬乗りになる形でそのまま接地したのだ。
そしてその状況を理解する余裕も無く、ジュジュは激情のままに泣き出したのであった。
クラムは訳がわからないまま呆然としてジュジュを見つめている。
自分が何をしたのかまるでわかっていないような、そんな戸惑いを隠しきれない顔をしていた。
こんな時は流石に表情筋も仕事をするのかとジュジュは腹立たしかった。
涙を流しながら苦渋に満ちた顔をするジュジュにクラムが問いかける
「どうした?ジュジュ、なぜ泣いている?なぜ王都に?」
「よくもそんなっ……よくもあんなっ……」
まるで要領を得ない様子で訊いてくるクラムにジュジュの怒りが余計に募ってゆく。
「クラムの裏切りものっ……」
「裏切り?なんのことだ」
「とぼけないでよっ、私が何も知らないと思ったら大間違いなんだからっ」
「知っている?何を」
「無記名の手紙が届いたんだからっ、クラムが、王都で素敵な人と出会ったってっ……」
「出会い?誰と」
「さっき部屋にいたピンクの髪の人とよっ!写真も入っていたのよっ、仲良く寄り添っているのと、後ろから抱きつかれている写真が!」
「さっき部屋にいた?ピンクの髪?ちょっと待て」
「待たないっ!もうイヤっ!わかったわよっ!婚約を解消してあげるわよっ!それで満足でしょうっ!」
ジュジュはそう言ってクラムから身を離し駆け出した。
「待てっ!ジュジュっ!」
クラムは慌てて起き上がり、ジュジュの後を追う。
しかし森の一番外れにある木を越えたジュジュに向け、クラムが手を伸ばしたその瞬間の事であった。
バチンッと何か跳ね返すような大きな音がして、ジュジュを捕まえようと伸ばしたクラムの手を弾いた。
「っ!?」
「……っ!」
弾かれた衝撃はかなりのものだったのだろう。
クラムが顔を顰めて手を押さえていた。
「これは……」
森がクラムを拒絶した。
ジュジュがクラムを拒絶したのだ。
そのため、クラムは森に弾かれた。
古の森の魔女が認めない者は森に入ることすら許されない。
ジュジュが完全にクラムを拒絶したのに森が応じ、クラムが足を踏み入れる事を許さなかったのだ。
二人の境界線は見えない森の境界線。
ジュジュが、古の森の魔女が許さない限り、クラムは二度と森に入る事は出来ない。
その状況を即座に判断したクラムが焦りの表情を浮かべる。
「ジュジュ、話を聞いてくれ」
ジュジュは泣き疲れた顔をしてそれに答えた。
「もう何も話す事なんてないわ。あなたは他の人に心を移し、私との結婚の約束を反故にした、それだけのことよ」
「違う。そんな事はしていない」
「無理しなくていいのよクラム。本当はピンクと結ばれたいんでしょう?だってプロポーズしていたものねっ……」
「それをどこでっ……」
ジュジュの言葉を聞き、途端に焦燥感を露わにするクラムにジュジュはもう乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
「……見たのよ、王都の食堂で。手紙が届いてすぐにあなたに本当の事を聞きたくて王都に行ったの。でもそこで見たのは、あなたがあのピンクの髪の人に跪いてプロポーズをする場面だった」
「違うっ、それは違うぞジュジュ」
「何が違うというの?だってあなた、花を手渡しながら真剣な表情で告げていたじゃない……でも、もうどうでもいいわ……」
「どうでもいいとは?」
「だってもう婚約は解消するんだもの。せめてクラムの赤ちゃんを生みたくて頑張ったけと、それももういいわ」
「ジュジュっ」
「もうどうでもいい。誰でもいい。とにかく子を産んで血を繋げればいいんでしょ?」
「何を言っているっ!?」
「それもクラムにはもう関係ないことよ……今日はごめんなさい、邪魔をして……協会には私の方から連絡しておくから……だから……もう」
「ジュジュ……?」
ジュジュはクラムを見据えながらゆっくりと後退りをした。
クラムはジュジュが見た事もないような顔をして、一心にこちらを見ている。
「そんな顔もするんだね……」
別れを受け入れた途端に彼の色んな表情を目にする事になるなんて皮肉なものだなとジュジュはどこか遠くにそれを感じていた。
「ジュジュ、待て」
「………クラム」
「ジュジュっ!」
「この二年、楽しかった。本当にありがとう……」
これで終わるんだ。
この言葉を告げたらもうそれでお終い。
呆気ない幕切れ。
「さよなら……さよならクラム………」
そう言ってジュジュは踵を返し駆け出した。
「ジュジュっ!!」
悲鳴に近いクラムの声。
その声を背中に受け、ジュジュが森の深部へ入っていこうとしたその時、凄まじい破裂音が辺りに響いた。
「えっ……!?」
その音に驚いたジュジュが振り返り、クラムの方を見る。
するとそこには、
森の強烈な結界に体当たりをし、自らの魔力で無理やり結界を乗り越えようとするクラムの姿があった。
「ク、クラムっ!?」
あなたにおすすめの小説
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
冷酷公爵と呼ばれる彼は、幼なじみの前でだけ笑う
由香
恋愛
“冷酷”“無慈悲”“氷の貴公子”――そう恐れられる公爵アレクシスには、誰も知らない秘密がある。
それは、幼なじみのリリアーナの前でだけ、優しく笑うこと。
貴族社会の頂点に立つ彼と、身分の低い彼女。
決して交わらないはずの二人なのに、彼は彼女を守り、触れ、独占しようとする。
「俺が笑うのは、お前の前だけだ」
無自覚な彼女と、執着を隠しきれない彼。
やがてその歪な関係は周囲を巻き込み、彼の“冷酷”と呼ばれる理由、そして彼女への想いの深さが暴かれていく――
これは、氷のような男が、たった一人にだけ溺れる物語。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
【本編完結】笑顔で離縁してください 〜貴方に恋をしてました〜
桜夜
恋愛
「旦那様、私と離縁してください!」
私は今までに見せたことがないような笑顔で旦那様に離縁を申し出た……。
私はアルメニア王国の第三王女でした。私には二人のお姉様がいます。一番目のエリーお姉様は頭脳明晰でお優しく、何をするにも完璧なお姉様でした。二番目のウルルお姉様はとても美しく皆の憧れの的で、ご結婚をされた今では社交界の女性達をまとめております。では三番目の私は……。
王族では国が豊かになると噂される瞳の色を持った平凡な女でした…
そんな私の旦那様は騎士団長をしており女性からも人気のある公爵家の三男の方でした……。
平凡な私が彼の方の隣にいてもいいのでしょうか?
なので離縁させていただけませんか?
旦那様も離縁した方が嬉しいですよね?だって……。
*小説家になろう、カクヨムにも投稿しています
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。