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まほらの悶々とした休日

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「おねがいします!れんげちゃんとでーとさせてください!」

「孫にちょっかいかける男は叩き潰す……たとえ幼児園児といえども例外はないぞ。れんげと一緒にブランコ公園に行きたいのなら、この祖父じじを倒してからだ、この小童こわっぱがっ」

「はい!まけません!」

「その意気や良しっ!」

「父様っ!幼児園児にまで何やってるのっ!いい加減にしなさいっ!」

「しかしだな、のばらっ……」



休日の朝、アパートの外から聞こえる賑やかな声を聴きながら、まほらは洗濯物を干していた。

心地よい日差しに優しい風。
今日はカラッとしているので洗濯物もよく乾くだろう。

「はぁぁ~………」

そんな気持ちの良い朝に似つかわず、まほらは盛大なため息を吐いた。

ハウンドとラリサが疎遠になってしまったのは事件の所為だと何となくは予想していたが、思いの外ヘビーな内情に不躾に立ち入ってしまった事に後悔の念が押し寄せる。


───私が想像していたのよりずっとずっと複雑な関係だった……。

『ミリサは僕のために別れようとしていたんだ。離婚したラリサと、僕がやり直せるように』

昨日、ハウンドはそう言った。

そしてざっと表面的に話してくれた、彼と殺されたミリサとラリサ姉妹の関係についてまほらは頭の中で整理する。

───つまりは……ハウンドどラリサさんは互いが初恋の相手同士だった……。
それは当然側にいたミリサさんも知っていたけど、ラリサさんは親の決めた相手と結婚し、二人の初恋は実らなかった。
その後ハウンドさんはミリサさんと恋人関係になるも、ラリサさんが離婚するために家に戻ってきた……そしてラリサさんのために尽力するハウンドさんを見て、ミリサさんは彼がまだ自分の姉の事を想っているのだと考え、別れるつもりでいた。だから借金の問題も自分一人で何とかしようとコールガールになり殺されてしまったと……。


「はぁぁ~………」

これは……この問題はまほらの手には負えない。

魔法薬の鑑定ならまほらの分野だが、こと恋愛に関してはまほらは専門外だ。

───ハウンドさんもラリサさんも自分たちの所為でミリサさんが追い詰められ、誰にも頼る事が出来ないまま殺されてしまった事にかなり負い目を感じているのね……だからハウンドさんは必死に犯人を追い、ラリサさんは自分の幸せを捨てている……互いに会う事を禁じ、関係を絶った。

「でもそれって……」

逆に返せばそれが事実であったという事だ。
ミリサが二人の中に想いが残っていると判断したのが的を得ていたかこそ、二人はそれぞれ罪を感じ、自分たちを罰し続けている。


「うーん……」

ハウンドやラリサの心情も、身を引こうとしたミリサの心情も悲しくて辛い。

だからといってこの事に関してはまほらは部外者だ。
事件に関わりがあるようで関わりがない事に首を突っ込むわけにはいかない。

だけど気が付けば掃除をしながらも、作り置きのオカズを調理しながらも洗いものやアイロンがけをしながらも悶々とその事ばかりが考えてしまう。


「………市場にでも行って気分転換しよ」

まほらはさっと身支度を整えて、市場へと出かけた。

市場へ向かう道すがら、公園で遊ぶ子ども達を見て心を和ませたり花屋の店先に並ぶ花々を愛でながら歩く。

人の恋路で悶々鬱鬱としていた気持ちが軽くなる度にまほらの足取りも軽くなった。

散歩している近隣住民が連れている可愛い犬につい視線と意識が集中していたまほらが、前方から歩いて来た人物と軽く肩がぶつかってしまう。

「あ、ごめんなさい」

「いえお嬢さん、こちらこそ失礼した」

まほらがぶつかった相手に謝罪すると、相手は壮年の紳士で被っていた帽子を軽く上げて向こうも謝った。

───ん?

「ではこれで」

紳士はそう言って再び歩き出す。
まほらはそれをじっと見つめて見送った。

「今のって………」

ぶつかった紳士から漂ってきた香り。
はて、最近どこかで似たような香りを嗅いだような。
まほらはしばし考えて、やがてハッとした。


「スイカの香りだわ……」

先ほどの紳士から、違法魔法薬である催淫剤の主成分であるスイカの香りがしたのだ。

今の季節が夏であったのなら、あの紳士がスイカを食べたのであろうと気にはならなかっただろう。

だけど今の季節にスイカはない。

確信はない。
だが気の所為だと見過ごす事は出来ない。

何故かあの紳士を取り逃してはいけない、そんな気がしたのだ。


まほらはひらりと身を翻し、先ほどの紳士の後をつけて行った。








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