4 / 11
とんでもない事を聞いてしまいました。
今日、このカフェに一緒に来るはずだったけど一緒に来れなかった人の声。
私の大好きな恋人の声がふいに耳に届いたんです。
え?まさか……と思って私は声のした方へと視線を巡らせました。
するとやはりそこには……私が座っている席からわりと離れた後方の席に座る、見ただけで貴族のご令嬢だとわかるお方の前に立つセオノアが居たのです。
そしてその貴族と思しき女性に向かってセオノアはこう言いました。
「ミナリラお嬢様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
それは仕事口調の抑揚のない生真面目な声でした。
私はセオノアが「ミナリラお嬢様」と呼んだ方が彼が勤める男爵家のご令嬢であるとすぐにわかりました。
問題はなぜ、私との約束をキャンセルしてまでそのカフェでご令嬢と会っているのか。
お待たせしましたと謝罪を口にするという事はご令嬢と待ち合わせをしていたという事ですよね?
それに、ご令嬢の席の側に立つセオノアの隣には、私が知らない金髪碧眼の美しい女性が彼に寄り添うように立っていたんです。
これはもう大問題でしょう?
私ね、耳がいいんですよ。
昔から天井裏の子ネズミの寝息を聞き取るほど、天啓と言ってもいいくらい耳が良いんです。
だからこっそり、自分の席から後方を窺って聴き耳を立てました。
え?マナー違反?そんなの知りませんよ、こちとら下町育ちの平民なんですから。
そうしたらばっちり、セオノアたちのやり取りが聞こえてきました。
セオノアがミナリラお嬢様なるご令嬢にこう言ったんです。
「お嬢様がどうしても存在を証明しろと、そしてこの店に連れて来いと仰いましたので連れて参りました」
ミナリラお嬢様はセオノアの隣りに寄り添い立つ女性に視線を向け、遠目でもわかりやすいほどに顔を引き攣らせています。
「嘘ではなかったのね……本当に居たのね」
「嘘を吐いてどうするのですか」
「だって……貴方が私との身分差を気にして嘘を告げて誤魔化しているのだと思うじゃないっ……?」
「仕事上以外で身分差を気にする必要はありませんよ。ご紹介します、私の婚約者のルディアです」
「「っ……!!」」(私とお嬢様)
セオノアがミナリラお嬢様へ向けて告げた言葉が、ダイレクトに私の耳に届きました。
コンヤクシャ……?
婚約者……?
え?婚約、者……?
一人離れた場所で唖然とする私を他所に、セオノアに紹介されたルディアさんという女性がミナリラお嬢様に向かって挨拶をしました。
「はじめまして、ブノア男爵令嬢ミナリラ様。ルディア・ロダンと申します。父はミナリラ様のお父様と同じく男爵位を賜っておりますの。セオノアとは母方の従姉弟同士でして、この度その縁で婚約する運びとなりましたのよ」
なんと……ルディア様も貴族令嬢なのね。
しかもセオノアの従姉弟?
親戚に貴族が居るなんて初耳だわ……。
私と同じくらい分かりやすく狼狽えているミナリラお嬢様がルディア様に言いました。
「そ、そう…なの……同列の爵位なのね……それに、とてもお綺麗な方だこと……」
それを聞き、セオノアはとても嬉しそうにそして誇らしげに答えました。
「そうなんです。ルディアは昔から美しく聡明で、私の憧れの存在でした。彼女と婚約を結べて、こんなに嬉しいことはございません」
「「うっ……」」
セオノアの嬉しそうな笑顔がとても眩しいです。
私もミナリラお嬢様も直視できません。そして互いに泣き出しそうです。
「……そう……お幸せそうで何よりだわ」
「はい。なので事前にお知らせしていたように、予定通り私は婚姻を機に男爵家を辞めて故郷に帰ります。ですからお嬢様の専属執事となり、一生お側で仕える……というお話は辞退させて頂きます。今度こそご了承くださいますね?」
「っ……わかったわ……ずっと私の側にいて欲しかったのだけど……仕方ないわねっ……」
「ご理解頂き、誠にありがとうございます」
セオノアがそう言うと、隣りに立つ美しきルディア様も花の顔を綻ばせた。
「ミナリラ様、もちろん、そのお言葉通り私たちを祝福してくださいますわよね?」
「も、もちろんですわっ……」
祝福……私もしなくてはいけない側の人間なのだと、その時思い知らされました。
だけどとてもじゃないけどそんな気持ちにはなれません。
私は茫然自失のまま席を立ち、セオノア達に気付かれないように会計をして店を出ました。
え?パンケーキですか……そりゃ全部食べましたよ。
「食べたんかいっ」って絶妙なツッコミをありがとうございます……だけどあんなに美味しかったのに、味が分からなくなってしまいましたけどね。
それでも残さず全部食べました。
だって食べ物に罪はありませんし、作ってくれた方に失礼でしょう?
だけど食べ終わった後、胸焼けしましたけどね。
胸が苦しくて鉛を呑み込んだように体が重く感じたのはやっぱり大柄な男性の顔より大きなパンケーキを食べたせいでしょう。
それとも恋人が私の知らない間に婚約していたという事実のせい……?
ふふ、そうですね、両方だったんだと思います。
私は家に帰るなり、トイレに駆け込む羽目になってしまいました。
───────────────────
次の投稿は明日の夜です。
私の大好きな恋人の声がふいに耳に届いたんです。
え?まさか……と思って私は声のした方へと視線を巡らせました。
するとやはりそこには……私が座っている席からわりと離れた後方の席に座る、見ただけで貴族のご令嬢だとわかるお方の前に立つセオノアが居たのです。
そしてその貴族と思しき女性に向かってセオノアはこう言いました。
「ミナリラお嬢様。お待たせしてしまい申し訳ございません」
それは仕事口調の抑揚のない生真面目な声でした。
私はセオノアが「ミナリラお嬢様」と呼んだ方が彼が勤める男爵家のご令嬢であるとすぐにわかりました。
問題はなぜ、私との約束をキャンセルしてまでそのカフェでご令嬢と会っているのか。
お待たせしましたと謝罪を口にするという事はご令嬢と待ち合わせをしていたという事ですよね?
それに、ご令嬢の席の側に立つセオノアの隣には、私が知らない金髪碧眼の美しい女性が彼に寄り添うように立っていたんです。
これはもう大問題でしょう?
私ね、耳がいいんですよ。
昔から天井裏の子ネズミの寝息を聞き取るほど、天啓と言ってもいいくらい耳が良いんです。
だからこっそり、自分の席から後方を窺って聴き耳を立てました。
え?マナー違反?そんなの知りませんよ、こちとら下町育ちの平民なんですから。
そうしたらばっちり、セオノアたちのやり取りが聞こえてきました。
セオノアがミナリラお嬢様なるご令嬢にこう言ったんです。
「お嬢様がどうしても存在を証明しろと、そしてこの店に連れて来いと仰いましたので連れて参りました」
ミナリラお嬢様はセオノアの隣りに寄り添い立つ女性に視線を向け、遠目でもわかりやすいほどに顔を引き攣らせています。
「嘘ではなかったのね……本当に居たのね」
「嘘を吐いてどうするのですか」
「だって……貴方が私との身分差を気にして嘘を告げて誤魔化しているのだと思うじゃないっ……?」
「仕事上以外で身分差を気にする必要はありませんよ。ご紹介します、私の婚約者のルディアです」
「「っ……!!」」(私とお嬢様)
セオノアがミナリラお嬢様へ向けて告げた言葉が、ダイレクトに私の耳に届きました。
コンヤクシャ……?
婚約者……?
え?婚約、者……?
一人離れた場所で唖然とする私を他所に、セオノアに紹介されたルディアさんという女性がミナリラお嬢様に向かって挨拶をしました。
「はじめまして、ブノア男爵令嬢ミナリラ様。ルディア・ロダンと申します。父はミナリラ様のお父様と同じく男爵位を賜っておりますの。セオノアとは母方の従姉弟同士でして、この度その縁で婚約する運びとなりましたのよ」
なんと……ルディア様も貴族令嬢なのね。
しかもセオノアの従姉弟?
親戚に貴族が居るなんて初耳だわ……。
私と同じくらい分かりやすく狼狽えているミナリラお嬢様がルディア様に言いました。
「そ、そう…なの……同列の爵位なのね……それに、とてもお綺麗な方だこと……」
それを聞き、セオノアはとても嬉しそうにそして誇らしげに答えました。
「そうなんです。ルディアは昔から美しく聡明で、私の憧れの存在でした。彼女と婚約を結べて、こんなに嬉しいことはございません」
「「うっ……」」
セオノアの嬉しそうな笑顔がとても眩しいです。
私もミナリラお嬢様も直視できません。そして互いに泣き出しそうです。
「……そう……お幸せそうで何よりだわ」
「はい。なので事前にお知らせしていたように、予定通り私は婚姻を機に男爵家を辞めて故郷に帰ります。ですからお嬢様の専属執事となり、一生お側で仕える……というお話は辞退させて頂きます。今度こそご了承くださいますね?」
「っ……わかったわ……ずっと私の側にいて欲しかったのだけど……仕方ないわねっ……」
「ご理解頂き、誠にありがとうございます」
セオノアがそう言うと、隣りに立つ美しきルディア様も花の顔を綻ばせた。
「ミナリラ様、もちろん、そのお言葉通り私たちを祝福してくださいますわよね?」
「も、もちろんですわっ……」
祝福……私もしなくてはいけない側の人間なのだと、その時思い知らされました。
だけどとてもじゃないけどそんな気持ちにはなれません。
私は茫然自失のまま席を立ち、セオノア達に気付かれないように会計をして店を出ました。
え?パンケーキですか……そりゃ全部食べましたよ。
「食べたんかいっ」って絶妙なツッコミをありがとうございます……だけどあんなに美味しかったのに、味が分からなくなってしまいましたけどね。
それでも残さず全部食べました。
だって食べ物に罪はありませんし、作ってくれた方に失礼でしょう?
だけど食べ終わった後、胸焼けしましたけどね。
胸が苦しくて鉛を呑み込んだように体が重く感じたのはやっぱり大柄な男性の顔より大きなパンケーキを食べたせいでしょう。
それとも恋人が私の知らない間に婚約していたという事実のせい……?
ふふ、そうですね、両方だったんだと思います。
私は家に帰るなり、トイレに駆け込む羽目になってしまいました。
───────────────────
次の投稿は明日の夜です。
あなたにおすすめの小説
私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―
喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。
そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。
二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。
最初は手紙も返ってきていたのに、
いつからか音信不通に。
あんなにうっとうしいほど構ってきた男が――
なぜ突然、私を無視するの?
不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、
突然ルイスが帰還した。
ボロボロの身体。
そして隣には――見知らぬ女。
勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、
私の中で何かが壊れた。
混乱、絶望、そして……再起。
すがりつく女は、みっともないだけ。
私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。
「私を簡単に捨てられるとでも?
――君が望んでも、離さない」
呪いを自ら解き放ち、
彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。
すれ違い、誤解、呪い、執着、
そして狂おしいほどの愛――
二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。
過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
【完結】私の愛する人は、あなただけなのだから
よどら文鳥
恋愛
私ヒマリ=ファールドとレン=ジェイムスは、小さい頃から仲が良かった。
五年前からは恋仲になり、その後両親をなんとか説得して婚約まで発展した。
私たちは相思相愛で理想のカップルと言えるほど良い関係だと思っていた。
だが、レンからいきなり婚約破棄して欲しいと言われてしまう。
「俺には最愛の女性がいる。その人の幸せを第一に考えている」
この言葉を聞いて涙を流しながらその場を去る。
あれほど酷いことを言われってしまったのに、私はそれでもレンのことばかり考えてしまっている。
婚約破棄された当日、ギャレット=メルトラ第二王子殿下から縁談の話が来ていることをお父様から聞く。
両親は恋人ごっこなど終わりにして王子と結婚しろと強く言われてしまう。
だが、それでも私の心の中には……。
※冒頭はざまぁっぽいですが、ざまぁがメインではありません。
※第一話投稿の段階で完結まで全て書き終えていますので、途中で更新が止まることはありませんのでご安心ください。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。