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王子、リネン室の中心で愛を叫ぶ
王妃様のティータイムのテーブルに敷くための
テーブルクロスを選んで来て欲しいと
メレ姉さんに頼まれたわたしは、
王妃宮の中のリネン室へと足を運んでいた。
ここにはわたしが今探しているテーブルクロスからティーマット、ピローケースやシーツに
コンフォーターと、王妃様がお使いになる布関係の
ありとあらゆる物が保管されている部屋だ。
さすがは一国の王妃の持ち物。
たかがリネンと侮る事なかれ、
希少な手法で紡がれた布で作られた物や、美術品のような美しい布で作られた物まで多種多様なラインナップなのだ。
そういえば、
マグロ漁船に乗り込んだお父さまから
魔力念写付きの手紙が来たんだった。
元気に楽しくやってると書いてあった、
荒くれ漁師たちに揉まれて苦労してるんじゃないかと心配していけど、元気そうで良かった。
……そういえば昨今のマグロ漁船って、
凄くオシャレな感じになってるのね。
なんだかクルーズ船みないな感じの所で念写した魔力念写だったな。
まぁ職場環境が良い所で本当に安心したわ。
わたしもお仕事、頑張らないと!
わたしは今日のお天気や
ティータイムのスイーツの内容から
数枚のテーブルクロスを選んでゆく。
3枚ほどピックアップして、筆頭侍女の
エラさんに選んで貰おう。
エラさんに選んで貰う……なんちゃって!ぷぷっ!
でもその時、
一人で吹き出すわたしの後ろから突然
声が聞こえた。
「何を一人で笑ってるんだ?」
「ぎゃーーーっ!」
完全に一人っきりだと油断していたところに
声を掛けられたものだから、
わたしは驚きすぎて悲鳴をあげてしまった。
「しーっ!ハグ、俺だよ」
わたしを驚かせた張本人が
わたしの口を押さえて黙らせようとする。
「ふぃ、ふぃんへんほへんは……!」
(訳:ヴィ、ヴィンセント殿下……!)
「驚かせて悪かった、大丈夫か?」
殿下はわたしの口を押さえたまま話しかけて来る。
わたしはぶんぶんと首を縦に振って返事をする。
「久しぶりだな、ハグ。元気にしてたか?
体調に変わりはないか?」
「ほひはひふひへふへんは、ほはへははへへんひひひゃっへほひはふ」
(訳:お久しぶりです殿下、おかげさまで元気にやっております)
ま、わたしが避けまくっていたから
久しぶりなんだけどネ。
「ちょっと痩せたんじゃないか?
いやそれとも太ったか?どっちだ?」
「ふほっははんへ!はんへほほひふんへるはっ……っへ、ひひはへんへほははひへふへはへんは?」
(訳:太ったなんて!なんて失礼な事を仰るんですかっ……って、いい加減手を離して頂けませんか?)
「あぁ、すまない。
ちょっと堪能し過ぎた」
凄い、わたしが言った事ちゃんと伝わってる。
……ん?堪能って何を?
「殿下、なぜこのような所に?
第二王子と王妃宮のリネン室だなんて一番結びつかないシチュエーションだと思いますが?」
「……だって王妃宮でないとハグを捕まえられないだろう?そしてリネン室なら、誰にも邪魔されずに話が出来る……」
「お話?わたしに?」
誰にも聞かれたくない話といえば
あれしかないけど……。
あれはただの一夜の過ち…というやつで、
わたしの方から
なかった事にと言ったのに、
まだ何を話す事があるというのかしら。
わたしはとりあえず
持っていたテーブルクロスを台に置く。
「一体、何のお話があると言うのですか?……っ!」
そう言いながら殿下に向き合った途端にわたしは
息を飲んだ。
だって殿下があまりにも切なげな目で
わたしの事を見つめていたから。
ヴィンス様?
「殿下……?」
ど、どうしたの?
「どうしたんですか……?」
なぜ、そんな悲しげな顔で……
「なぜ……」
気がつけばわたしは殿下の頬に手を伸ばしていた。
だって、
今にも泣きそうな顔をしているんだもの。
そういえば昔の殿下は泣き虫だった。
些細な事とかで、しょっ中泣いていたな。
幼いわたしもこうやって、
よく泣いている殿下の頬に手を添えていた。
すると殿下の顔に触れているわたしの手の上から
自身の手を添えられる。
殿下の手はとても温かかった。
「殿下……」
「ハグ…………俺を……」
殿下はぎゅっと目を瞑る。
まるで何かを恐れているような。
何かを見るのを恐れているような。
なあに?
「俺を……」
殿下、どうしたの?
「俺をっ…………捨てないでくれっ!!」
……………………は?
そう言ってヴィンセント殿下は
ずるずると力なく跪き、わたしに縋り付いてきた。
ちょっ……何っ!?
「俺はっ、ハグに捨てられたらもう生きては
いけないっ……!だからお願いだハグっ、
俺をもう終わった男カテゴリーに入れないでくれっ!!」
そう言いながら殿下は
ますますわたしに強く絡みつくように縋ってくる。
え?この人ホントにヴィンセント殿下!?
別人みたいなんですけど!?
いや違うな、
昔の殿下に戻ったみたいな感じなんですけど!?
「な、なんですか!?
どうしたんですかっ急にっ!?」
「急にどうしたはお前だ!
急に俺を避け出して、急に俺から距離を取る!
まるで俺の人生から自分の存在をフェードアウト
して行くようではないかっ!」
「……だって……フェードアウトしようと思ってましたもの」
「っどうして!?何故だっ!?」
「候補者でもなんでもなくなったのに殿下と
あんな事になってしまって……殿下といずれ正式に
決まる婚約者の方に申し訳なくて……
それで殿下の前から消えようと決めました」
まぁ実際は仕事があるから王宮から
消え去る事が出来なかったけど。
わたしのその言葉を聞き、
殿下は半ば叫ぶように言った。
「ハグは婚約者候補から外れてない!
というか一瞬たりとも外れた事はない!
俺の妃になるのはハグ、お前だけだっ!」
「………え?」
「門閥貴族のパワーバランスへの配慮から、
どうしても各派閥から候補者を立てないといけなかったが、俺の中では10歳の頃からハグを妃に迎える事は決まっていたんだ」
「……ウソっ」
「嘘じゃない、
あの夜の事だって、俺はむしろ催淫魔法に
感謝してるくらいだ。ようやく愛する
お前を自分のものに出来たのだから」
「アイスルオマエ……」
殿下は……
さっきから何を言っているの……?
わたしを揶揄っているの……?
それじゃあまるで、
「ハグリット、
俺はあの夜の事をなかった事にはしたくない。
それどころからこれから先も何度でもお前と
夜を共にしたい。この意味、わかるな?」
「……それじゃあまるで、
愛の告白みたいじゃないですかっ……」
殿下はいつの間にか立ち上がっていた。
そして殿下の額をわたしの額に
押し当てる。
「そうだよハグ……これは愛の告白だ。
俺の初恋、俺の唯一、俺の最愛。
頼むよハグ…どうか一生、俺の傍にいてくれ……」
愛の告白?
誰が?ヴィンセント殿下が?
誰に?わ、わたしに?
あの夜の事をなかった事にしたくない、
とそう言ったのよね……?
初恋って言った?
それじゃあ全くわたしと一緒じゃないの。
でも、でもやっぱりダメだ。
だってわたしには……
「……我が家には多額の借金があります。
負債を抱えて嫁入りする王子妃なんて、
あってはなりません」
わたしがそう言うと、
殿下は少し気まずそうにしながら応えた。
「………借金は、ない。
発覚時に直ぐに返済してある」
「はぁ!?」
「だ、黙っていたのは悪かった、
カロル伯爵が騙された詐欺自体が門閥貴族の謀略だったんだ、解決するまではハグリットが候補者から外れたとカモフラージュをして犯人を油断させたかった、お前に危害を加えさせないように」
「な、な、な…あっ!ちょっと待って!
どうしましょう!お父さまをマグロ漁船に
放り込んじゃったわ!」
狼狽えるわたしを宥めるように
殿下がわたしの手を握る。
「カロル伯爵はマグロ漁船には乗っていない。
現在、他国へのクルージング旅行に行って貰っている」
「へ……?え…えーー……」
それじゃあの念写は
マグロ漁船の船上ではなくクルーズ船の船上
だったわけね。
えっと、それじゃあどういうこと?
お父さまが引っかかった詐欺は詐欺じゃなくて、
借金は既に無くて、
お父さまもマグロ漁船に乗っていない……
そういう事?
わたしはなんだか力が抜けてしまって
その場に倒れ込みそうになった。
「っ!ハグ!」
殿下が慌てて抱き止めてくれる。
「……仕方ないとはいえ……もう少し早く
話して欲しかったです」
わたしが少々恨みがましく言うと、
殿下が困ったように謝られた。
「すまない。
白状すると、実はまだ解決したわけじゃないんだ。今、リュシル嬢を唆し…ゴホン、リュシル嬢を通してモロー辺境伯の動向を探ってる。本当ならまだ
ハグには内緒にしてる筈だったんだ……」
まだ黙ってるつもりだったんですか?
「でもこのまま何も告げずにいたら、
ハグに捨てられてしまうと怖くなって告げたんだ。
だからもうしばらくハグは何も知らないフリをして母上の元で働いていて欲しい」
「王妃様もこの事は……」
「もちろんご存知だ。ハグを側付きにして
身の安全を確保するのを決められたのは母上
だからな。因みに新人侍女のメレイヤ、アイツは俺の直属の部下だ」
「ええぇ~~……!」
なんなの、もう、わたしってば完全に
殿下の手の平の上でコロコロ転がっていただけじゃないの……。
もう……ホントにもう……
どうしよう、嬉しい、かも。
わたしは今も殿下の婚約者候補で、
しかも殿下の初恋の相手で、
妃はわたしじゃなきゃイヤだと殿下は言う。
おまけに借金はもう無く、
(犯人から奪い返さねば)
お父さまはマグロ漁船に乗ってない。
そして今、
目の前には必死になって
わたしに愛を乞う殿下がいて……
こんなの嬉しくないわけがない。
でもいいの?
「ホントにわたしが妃でいいの?」
「ハグがいい。ハグじゃないとイヤだ」
「有力な後ろ盾なんかいないわよ?」
「後ろ盾なんかいらない。実力で黙らせるさ」
「持参金もないのよ?」
「逆に俺の個人資産をハグにくれてやる」
「絶世の美女でもないし」
「なにを言う、ハグが世界で一番美人だ」
「っ~~~~ヴィンス様っ!」
わたしはとうとう泣き出した。
そして支えてくれていた殿下の首に両手を回して
抱きついた。
「っハグ!」
殿下が強く抱き締め返してくれる。
だって、だってこんな奇跡が
起こるなんて、
リネン室に入る時には想像も
付かなかった……!
「うっ、うっ……嬉し"い"て"す"っ、
ヴィンス様ぁぁっ」
「あぁ……ハグリット……!」
※ここからは内なるヴィンセントの脳内の声が副音声として流れます。
爆音注意。
『うぉぉぉぉぉ…っ!!
やった!やったぞーーっ!!
ただもう必死で自分を曝け出して良かったぁぁ!!ナイス俺っ!グッジョブ俺つ!!』
「わたしはもうてっきりリュシル様が
選ばれるのかと思ってました……」
「そうだよな、誤解させてすまなかった」
『お前以外を選ぶわけがないっつーのっ!!
ていうかもうあのピンク、モロー領に投げ捨てたい!』
「わたしのために色々と動いてくれてありがとうございます」
「当然だろう」
『ハグが礼をっ……!ハグに感謝されたぞーっ!
やったぁぁぁっ!!
今までの苦労なんて一瞬で宇宙の彼方に吹き飛んだぞーーーっ!!いやっ!お前のためならどんな事でもお茶の子サイサイだっ!!」
「ヴィンス様」
「ん?」
『うおっなんだ!?その可愛い上目遣いはっ!?
悶絶ものだなっ!!いつの間にか昔のように
呼んでくれてるしっ!!最高かっ!!』
「わたしも……ヴィンス様の事を
あ…愛してします」
「…………」
『○☆※◎◇△%$\……!!』
「わたしは……ホントは子どもの頃からヴィンス様のお嫁さんになるのが夢だったんです……だから……嬉しい……」
「『ハグリットぉぉぉっ!!』」
その後わたしは殿下の激しいキスの嵐に
翻弄された。
次の日
少し唇が腫れてしまったわたしを見て、
王妃様が自前の一番大きな扇子で
ヴィンス様の頭を叩かれていた。
だけど幸せに浸っていられたのは
ほんの僅かな時間だった。
王命により
第二王子の婚約者候補の筆頭に、
パトリシア=ヤスミン公爵令嬢の名が
加わる事が決定した。
我が国の筆頭公爵家からの婚約の打診、
それは事実上の婚約者確定と同義だった。
テーブルクロスを選んで来て欲しいと
メレ姉さんに頼まれたわたしは、
王妃宮の中のリネン室へと足を運んでいた。
ここにはわたしが今探しているテーブルクロスからティーマット、ピローケースやシーツに
コンフォーターと、王妃様がお使いになる布関係の
ありとあらゆる物が保管されている部屋だ。
さすがは一国の王妃の持ち物。
たかがリネンと侮る事なかれ、
希少な手法で紡がれた布で作られた物や、美術品のような美しい布で作られた物まで多種多様なラインナップなのだ。
そういえば、
マグロ漁船に乗り込んだお父さまから
魔力念写付きの手紙が来たんだった。
元気に楽しくやってると書いてあった、
荒くれ漁師たちに揉まれて苦労してるんじゃないかと心配していけど、元気そうで良かった。
……そういえば昨今のマグロ漁船って、
凄くオシャレな感じになってるのね。
なんだかクルーズ船みないな感じの所で念写した魔力念写だったな。
まぁ職場環境が良い所で本当に安心したわ。
わたしもお仕事、頑張らないと!
わたしは今日のお天気や
ティータイムのスイーツの内容から
数枚のテーブルクロスを選んでゆく。
3枚ほどピックアップして、筆頭侍女の
エラさんに選んで貰おう。
エラさんに選んで貰う……なんちゃって!ぷぷっ!
でもその時、
一人で吹き出すわたしの後ろから突然
声が聞こえた。
「何を一人で笑ってるんだ?」
「ぎゃーーーっ!」
完全に一人っきりだと油断していたところに
声を掛けられたものだから、
わたしは驚きすぎて悲鳴をあげてしまった。
「しーっ!ハグ、俺だよ」
わたしを驚かせた張本人が
わたしの口を押さえて黙らせようとする。
「ふぃ、ふぃんへんほへんは……!」
(訳:ヴィ、ヴィンセント殿下……!)
「驚かせて悪かった、大丈夫か?」
殿下はわたしの口を押さえたまま話しかけて来る。
わたしはぶんぶんと首を縦に振って返事をする。
「久しぶりだな、ハグ。元気にしてたか?
体調に変わりはないか?」
「ほひはひふひへふへんは、ほはへははへへんひひひゃっへほひはふ」
(訳:お久しぶりです殿下、おかげさまで元気にやっております)
ま、わたしが避けまくっていたから
久しぶりなんだけどネ。
「ちょっと痩せたんじゃないか?
いやそれとも太ったか?どっちだ?」
「ふほっははんへ!はんへほほひふんへるはっ……っへ、ひひはへんへほははひへふへはへんは?」
(訳:太ったなんて!なんて失礼な事を仰るんですかっ……って、いい加減手を離して頂けませんか?)
「あぁ、すまない。
ちょっと堪能し過ぎた」
凄い、わたしが言った事ちゃんと伝わってる。
……ん?堪能って何を?
「殿下、なぜこのような所に?
第二王子と王妃宮のリネン室だなんて一番結びつかないシチュエーションだと思いますが?」
「……だって王妃宮でないとハグを捕まえられないだろう?そしてリネン室なら、誰にも邪魔されずに話が出来る……」
「お話?わたしに?」
誰にも聞かれたくない話といえば
あれしかないけど……。
あれはただの一夜の過ち…というやつで、
わたしの方から
なかった事にと言ったのに、
まだ何を話す事があるというのかしら。
わたしはとりあえず
持っていたテーブルクロスを台に置く。
「一体、何のお話があると言うのですか?……っ!」
そう言いながら殿下に向き合った途端にわたしは
息を飲んだ。
だって殿下があまりにも切なげな目で
わたしの事を見つめていたから。
ヴィンス様?
「殿下……?」
ど、どうしたの?
「どうしたんですか……?」
なぜ、そんな悲しげな顔で……
「なぜ……」
気がつけばわたしは殿下の頬に手を伸ばしていた。
だって、
今にも泣きそうな顔をしているんだもの。
そういえば昔の殿下は泣き虫だった。
些細な事とかで、しょっ中泣いていたな。
幼いわたしもこうやって、
よく泣いている殿下の頬に手を添えていた。
すると殿下の顔に触れているわたしの手の上から
自身の手を添えられる。
殿下の手はとても温かかった。
「殿下……」
「ハグ…………俺を……」
殿下はぎゅっと目を瞑る。
まるで何かを恐れているような。
何かを見るのを恐れているような。
なあに?
「俺を……」
殿下、どうしたの?
「俺をっ…………捨てないでくれっ!!」
……………………は?
そう言ってヴィンセント殿下は
ずるずると力なく跪き、わたしに縋り付いてきた。
ちょっ……何っ!?
「俺はっ、ハグに捨てられたらもう生きては
いけないっ……!だからお願いだハグっ、
俺をもう終わった男カテゴリーに入れないでくれっ!!」
そう言いながら殿下は
ますますわたしに強く絡みつくように縋ってくる。
え?この人ホントにヴィンセント殿下!?
別人みたいなんですけど!?
いや違うな、
昔の殿下に戻ったみたいな感じなんですけど!?
「な、なんですか!?
どうしたんですかっ急にっ!?」
「急にどうしたはお前だ!
急に俺を避け出して、急に俺から距離を取る!
まるで俺の人生から自分の存在をフェードアウト
して行くようではないかっ!」
「……だって……フェードアウトしようと思ってましたもの」
「っどうして!?何故だっ!?」
「候補者でもなんでもなくなったのに殿下と
あんな事になってしまって……殿下といずれ正式に
決まる婚約者の方に申し訳なくて……
それで殿下の前から消えようと決めました」
まぁ実際は仕事があるから王宮から
消え去る事が出来なかったけど。
わたしのその言葉を聞き、
殿下は半ば叫ぶように言った。
「ハグは婚約者候補から外れてない!
というか一瞬たりとも外れた事はない!
俺の妃になるのはハグ、お前だけだっ!」
「………え?」
「門閥貴族のパワーバランスへの配慮から、
どうしても各派閥から候補者を立てないといけなかったが、俺の中では10歳の頃からハグを妃に迎える事は決まっていたんだ」
「……ウソっ」
「嘘じゃない、
あの夜の事だって、俺はむしろ催淫魔法に
感謝してるくらいだ。ようやく愛する
お前を自分のものに出来たのだから」
「アイスルオマエ……」
殿下は……
さっきから何を言っているの……?
わたしを揶揄っているの……?
それじゃあまるで、
「ハグリット、
俺はあの夜の事をなかった事にはしたくない。
それどころからこれから先も何度でもお前と
夜を共にしたい。この意味、わかるな?」
「……それじゃあまるで、
愛の告白みたいじゃないですかっ……」
殿下はいつの間にか立ち上がっていた。
そして殿下の額をわたしの額に
押し当てる。
「そうだよハグ……これは愛の告白だ。
俺の初恋、俺の唯一、俺の最愛。
頼むよハグ…どうか一生、俺の傍にいてくれ……」
愛の告白?
誰が?ヴィンセント殿下が?
誰に?わ、わたしに?
あの夜の事をなかった事にしたくない、
とそう言ったのよね……?
初恋って言った?
それじゃあ全くわたしと一緒じゃないの。
でも、でもやっぱりダメだ。
だってわたしには……
「……我が家には多額の借金があります。
負債を抱えて嫁入りする王子妃なんて、
あってはなりません」
わたしがそう言うと、
殿下は少し気まずそうにしながら応えた。
「………借金は、ない。
発覚時に直ぐに返済してある」
「はぁ!?」
「だ、黙っていたのは悪かった、
カロル伯爵が騙された詐欺自体が門閥貴族の謀略だったんだ、解決するまではハグリットが候補者から外れたとカモフラージュをして犯人を油断させたかった、お前に危害を加えさせないように」
「な、な、な…あっ!ちょっと待って!
どうしましょう!お父さまをマグロ漁船に
放り込んじゃったわ!」
狼狽えるわたしを宥めるように
殿下がわたしの手を握る。
「カロル伯爵はマグロ漁船には乗っていない。
現在、他国へのクルージング旅行に行って貰っている」
「へ……?え…えーー……」
それじゃあの念写は
マグロ漁船の船上ではなくクルーズ船の船上
だったわけね。
えっと、それじゃあどういうこと?
お父さまが引っかかった詐欺は詐欺じゃなくて、
借金は既に無くて、
お父さまもマグロ漁船に乗っていない……
そういう事?
わたしはなんだか力が抜けてしまって
その場に倒れ込みそうになった。
「っ!ハグ!」
殿下が慌てて抱き止めてくれる。
「……仕方ないとはいえ……もう少し早く
話して欲しかったです」
わたしが少々恨みがましく言うと、
殿下が困ったように謝られた。
「すまない。
白状すると、実はまだ解決したわけじゃないんだ。今、リュシル嬢を唆し…ゴホン、リュシル嬢を通してモロー辺境伯の動向を探ってる。本当ならまだ
ハグには内緒にしてる筈だったんだ……」
まだ黙ってるつもりだったんですか?
「でもこのまま何も告げずにいたら、
ハグに捨てられてしまうと怖くなって告げたんだ。
だからもうしばらくハグは何も知らないフリをして母上の元で働いていて欲しい」
「王妃様もこの事は……」
「もちろんご存知だ。ハグを側付きにして
身の安全を確保するのを決められたのは母上
だからな。因みに新人侍女のメレイヤ、アイツは俺の直属の部下だ」
「ええぇ~~……!」
なんなの、もう、わたしってば完全に
殿下の手の平の上でコロコロ転がっていただけじゃないの……。
もう……ホントにもう……
どうしよう、嬉しい、かも。
わたしは今も殿下の婚約者候補で、
しかも殿下の初恋の相手で、
妃はわたしじゃなきゃイヤだと殿下は言う。
おまけに借金はもう無く、
(犯人から奪い返さねば)
お父さまはマグロ漁船に乗ってない。
そして今、
目の前には必死になって
わたしに愛を乞う殿下がいて……
こんなの嬉しくないわけがない。
でもいいの?
「ホントにわたしが妃でいいの?」
「ハグがいい。ハグじゃないとイヤだ」
「有力な後ろ盾なんかいないわよ?」
「後ろ盾なんかいらない。実力で黙らせるさ」
「持参金もないのよ?」
「逆に俺の個人資産をハグにくれてやる」
「絶世の美女でもないし」
「なにを言う、ハグが世界で一番美人だ」
「っ~~~~ヴィンス様っ!」
わたしはとうとう泣き出した。
そして支えてくれていた殿下の首に両手を回して
抱きついた。
「っハグ!」
殿下が強く抱き締め返してくれる。
だって、だってこんな奇跡が
起こるなんて、
リネン室に入る時には想像も
付かなかった……!
「うっ、うっ……嬉し"い"て"す"っ、
ヴィンス様ぁぁっ」
「あぁ……ハグリット……!」
※ここからは内なるヴィンセントの脳内の声が副音声として流れます。
爆音注意。
『うぉぉぉぉぉ…っ!!
やった!やったぞーーっ!!
ただもう必死で自分を曝け出して良かったぁぁ!!ナイス俺っ!グッジョブ俺つ!!』
「わたしはもうてっきりリュシル様が
選ばれるのかと思ってました……」
「そうだよな、誤解させてすまなかった」
『お前以外を選ぶわけがないっつーのっ!!
ていうかもうあのピンク、モロー領に投げ捨てたい!』
「わたしのために色々と動いてくれてありがとうございます」
「当然だろう」
『ハグが礼をっ……!ハグに感謝されたぞーっ!
やったぁぁぁっ!!
今までの苦労なんて一瞬で宇宙の彼方に吹き飛んだぞーーーっ!!いやっ!お前のためならどんな事でもお茶の子サイサイだっ!!」
「ヴィンス様」
「ん?」
『うおっなんだ!?その可愛い上目遣いはっ!?
悶絶ものだなっ!!いつの間にか昔のように
呼んでくれてるしっ!!最高かっ!!』
「わたしも……ヴィンス様の事を
あ…愛してします」
「…………」
『○☆※◎◇△%$\……!!』
「わたしは……ホントは子どもの頃からヴィンス様のお嫁さんになるのが夢だったんです……だから……嬉しい……」
「『ハグリットぉぉぉっ!!』」
その後わたしは殿下の激しいキスの嵐に
翻弄された。
次の日
少し唇が腫れてしまったわたしを見て、
王妃様が自前の一番大きな扇子で
ヴィンス様の頭を叩かれていた。
だけど幸せに浸っていられたのは
ほんの僅かな時間だった。
王命により
第二王子の婚約者候補の筆頭に、
パトリシア=ヤスミン公爵令嬢の名が
加わる事が決定した。
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アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた