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嘘コク&賭けコク
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朝、ロンドが馬車で迎えに来てくれたその日の放課後。
わたしは入学当初から日銭稼ぎのためにバイトしてる東方魔法薬学の教授の研究室で手伝いをしていた。
魔法学校の教授はお抱えの研究生の他、わたしのような貧しい奨学生のために有償の手伝いをさせてくれるのだ。
わたしは基本、アパート近くの食堂で給仕のバイトをしているので、こちらは週に二度程度のお手伝い。
でも東方魔法薬学の勉強になるし、教授にお茶を淹れる時についでにご相伴に預かれる上に日銭も稼げる。
オマケに研究室にある鎮痛剤や腹痛用の魔法薬などは許可を得れば持ち帰れるのだ。
節約のため病気になっても極力病院に行きたくないわたしはとても助かっている。
余った食材を頂ける食堂のバイトと併せて、わたしの生活を支えてくれるバイトだ。
………まぁ東方魔法薬学のツキシマ教授(♀・52)の人使いはなかなか容赦ないけどネ。
「アニ子、この西方魔法学の本をブライトン教授の研究室に返してきて頂戴」
わたしはデスクに積み重ねられた分厚くて重たい数冊の本をジト目で睨めつけながらツキシマ教授に言った。
「これ絶対重いヤツぅ~……マックが来たら彼に言いつけてくださいよ~」
ちなみにマックとはわたしと同じクラスで同じく奨学生としてこの研究室でバイトしてる仲間だ。
「マック=ロナルドは今日は来ないよ。でもいい加減に本を返却せねばならんのだよ。アニ子は若いんだし根性があるから大丈夫。ホラさっさと返して来て」
「え~……いやですぅー重たくて持てませ~ん」
一応女子っぽく無理さをアピールしてみる。
だって絶対重いもの。
ロンドが研究生候補として出入りするブライトン教授の西方魔法薬学の研究室はここから遠いもの。
「今日の日給を1000エーン(西、東両大陸統一通貨)上げるよ」
「行ってきます」
日給アップと聞き、わたしは即決でこの案件を引き受けた。
お金、大事。
とはいうものの、
「やっぱり重い~」
わたしは数分前の自分を呪いながら本を両手で抱え、ブライトン教授の研究室へと向かう。
そして歩きながらふと考えた。
ん?ちょっと待って?
両手に本を持ってたらドアをノックできないんじゃない?
こんな重い本、片手で持つなんて絶対に無理だし。
こうなったら部屋の外から大きな声で「たのもう」と言うしかないかと考えていると、ようやく研究室へと辿り着いた。
よく見ると研究室のドアが少し開いている。
誰かがちゃんと閉めなかったのだろう、ラッキーだ。
じゃあちょっとお行儀が悪いけど足を引っ掛けてドアを開けさせて貰おう。
そう思ってドアの前に立ったその時、中から聞き覚えのある名前がわたしの耳孔に届いた。
「しかしハミルトンの奴、まさかホントに告るとはな」
「ブライトン教授の命令だ、そりゃ逆らえんだろ」
ハミルトン……ロンド=ハミルトンが教授の命で嘘コクした事よね。
あらま、わたしにも関わりのある話だわ。
しかし立ち聞きはダメだと思い、やはり外からまず声を掛けようと思ったら、またまた勝手に彼らの会話が耳に飛び込んできた。
「知ってるか?アレ、賭けコクなんだとよ」
「賭けコク?」
「そ、ハミルトンがツキシマ教授の秘蔵っ子に告ってOKして貰えるかどうかの賭け」
「ツキシマ教授の秘蔵っ子ってあの奨学生のか?彼女、身持ちが固そうじゃないか」
「だから賭けになるんじゃないか。全く恋愛事に興味が無さそうな女子生徒も、ハミルトンのような男に告られたらOKするかどうかを賭けようって教授が言ったそうなんだ」
…………えっとぉ………それってどう判断したらいいの?
ロンドの嘘コクは更に賭けコクでもあった、っていう事?
「………」
へー………そうだったんだぁ………。
賭けのために告白を……
ロンドはどっちに賭けたのかしら?
やっぱりわたしがOKする方?
自分の容姿に自信があるだろうし、やっぱりそっちよね。
………こんな話を聞いた後じゃ部屋に入り辛いな。
くっそ重いけど仕方ない、引き返そう。
ツキシマ教授には誰も居なかったと言い訳をすればいい。
そう考え、踵を返して来た道を戻った。
重い重い本を両手に抱え、とぼとぼと歩く。
重いのは本か心か。
わたしは……柄にもなく傷付いているようだ。
ただの嘘コクでなく、賭けの対象にまでされていた事に。
なにそれ。
わたし、そんな事されるほど彼らに何かしたかな?
貧乏だから?地味だから?
彼らよりも地頭がよくて成績が上だから?
オマケに魔力を高くて教授たちの覚えめでたい優等生だから?
頭の中の内なるアニーが「←そういうところだぞ」と言ったけど、それにしてもこれは酷い。
酷いと思う。
もう、ロンドが「嘘コクだった」と白状する前に、
こちらから終わらせようか。
嘘コクによる精神的被害を食費に換算するようなわたしだけど、
だからといって傷付かないわけじゃない。
わたしにだって心はある。
ロンドの嘘コクを受け入れた事によりブライトン教授の研究室の奴らがほれみろと笑ってるなんて思うと悔しいもの。
次にロンドに会ったら、嘘の彼女なんてやめるって言ってやろう。
次に会ったら………
「あれ?アニー?」
……なんですぐに会っちゃうかなぁ……
東方魔法薬学研究室に向かって歩いていたわたしに、
渡り廊下の向こう側からロンドが声を掛けてきた。
わたしは入学当初から日銭稼ぎのためにバイトしてる東方魔法薬学の教授の研究室で手伝いをしていた。
魔法学校の教授はお抱えの研究生の他、わたしのような貧しい奨学生のために有償の手伝いをさせてくれるのだ。
わたしは基本、アパート近くの食堂で給仕のバイトをしているので、こちらは週に二度程度のお手伝い。
でも東方魔法薬学の勉強になるし、教授にお茶を淹れる時についでにご相伴に預かれる上に日銭も稼げる。
オマケに研究室にある鎮痛剤や腹痛用の魔法薬などは許可を得れば持ち帰れるのだ。
節約のため病気になっても極力病院に行きたくないわたしはとても助かっている。
余った食材を頂ける食堂のバイトと併せて、わたしの生活を支えてくれるバイトだ。
………まぁ東方魔法薬学のツキシマ教授(♀・52)の人使いはなかなか容赦ないけどネ。
「アニ子、この西方魔法学の本をブライトン教授の研究室に返してきて頂戴」
わたしはデスクに積み重ねられた分厚くて重たい数冊の本をジト目で睨めつけながらツキシマ教授に言った。
「これ絶対重いヤツぅ~……マックが来たら彼に言いつけてくださいよ~」
ちなみにマックとはわたしと同じクラスで同じく奨学生としてこの研究室でバイトしてる仲間だ。
「マック=ロナルドは今日は来ないよ。でもいい加減に本を返却せねばならんのだよ。アニ子は若いんだし根性があるから大丈夫。ホラさっさと返して来て」
「え~……いやですぅー重たくて持てませ~ん」
一応女子っぽく無理さをアピールしてみる。
だって絶対重いもの。
ロンドが研究生候補として出入りするブライトン教授の西方魔法薬学の研究室はここから遠いもの。
「今日の日給を1000エーン(西、東両大陸統一通貨)上げるよ」
「行ってきます」
日給アップと聞き、わたしは即決でこの案件を引き受けた。
お金、大事。
とはいうものの、
「やっぱり重い~」
わたしは数分前の自分を呪いながら本を両手で抱え、ブライトン教授の研究室へと向かう。
そして歩きながらふと考えた。
ん?ちょっと待って?
両手に本を持ってたらドアをノックできないんじゃない?
こんな重い本、片手で持つなんて絶対に無理だし。
こうなったら部屋の外から大きな声で「たのもう」と言うしかないかと考えていると、ようやく研究室へと辿り着いた。
よく見ると研究室のドアが少し開いている。
誰かがちゃんと閉めなかったのだろう、ラッキーだ。
じゃあちょっとお行儀が悪いけど足を引っ掛けてドアを開けさせて貰おう。
そう思ってドアの前に立ったその時、中から聞き覚えのある名前がわたしの耳孔に届いた。
「しかしハミルトンの奴、まさかホントに告るとはな」
「ブライトン教授の命令だ、そりゃ逆らえんだろ」
ハミルトン……ロンド=ハミルトンが教授の命で嘘コクした事よね。
あらま、わたしにも関わりのある話だわ。
しかし立ち聞きはダメだと思い、やはり外からまず声を掛けようと思ったら、またまた勝手に彼らの会話が耳に飛び込んできた。
「知ってるか?アレ、賭けコクなんだとよ」
「賭けコク?」
「そ、ハミルトンがツキシマ教授の秘蔵っ子に告ってOKして貰えるかどうかの賭け」
「ツキシマ教授の秘蔵っ子ってあの奨学生のか?彼女、身持ちが固そうじゃないか」
「だから賭けになるんじゃないか。全く恋愛事に興味が無さそうな女子生徒も、ハミルトンのような男に告られたらOKするかどうかを賭けようって教授が言ったそうなんだ」
…………えっとぉ………それってどう判断したらいいの?
ロンドの嘘コクは更に賭けコクでもあった、っていう事?
「………」
へー………そうだったんだぁ………。
賭けのために告白を……
ロンドはどっちに賭けたのかしら?
やっぱりわたしがOKする方?
自分の容姿に自信があるだろうし、やっぱりそっちよね。
………こんな話を聞いた後じゃ部屋に入り辛いな。
くっそ重いけど仕方ない、引き返そう。
ツキシマ教授には誰も居なかったと言い訳をすればいい。
そう考え、踵を返して来た道を戻った。
重い重い本を両手に抱え、とぼとぼと歩く。
重いのは本か心か。
わたしは……柄にもなく傷付いているようだ。
ただの嘘コクでなく、賭けの対象にまでされていた事に。
なにそれ。
わたし、そんな事されるほど彼らに何かしたかな?
貧乏だから?地味だから?
彼らよりも地頭がよくて成績が上だから?
オマケに魔力を高くて教授たちの覚えめでたい優等生だから?
頭の中の内なるアニーが「←そういうところだぞ」と言ったけど、それにしてもこれは酷い。
酷いと思う。
もう、ロンドが「嘘コクだった」と白状する前に、
こちらから終わらせようか。
嘘コクによる精神的被害を食費に換算するようなわたしだけど、
だからといって傷付かないわけじゃない。
わたしにだって心はある。
ロンドの嘘コクを受け入れた事によりブライトン教授の研究室の奴らがほれみろと笑ってるなんて思うと悔しいもの。
次にロンドに会ったら、嘘の彼女なんてやめるって言ってやろう。
次に会ったら………
「あれ?アニー?」
……なんですぐに会っちゃうかなぁ……
東方魔法薬学研究室に向かって歩いていたわたしに、
渡り廊下の向こう側からロンドが声を掛けてきた。
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