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異世界一受けたい授業 一限目・術式師は転生者だった
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イグリードにより突如出現した教室の様な部屋に、王太子ウィルヘルムを含む六傑の皆が恐る恐るといった態で入り、それぞれ席に着いた。
どこかでチャイムが鳴っているのが聞こえる。
「は~い♪それじゃあみんな、わからない事があったらなんでも質問するように~☆」
教壇に立ち、イグリードが皆に声をかけた。
するとまず、シスター・ウルフがおずおずお手を挙げて質問をする。
「……あなたが……「先生と呼びましょう☆」
シスターが話そうとするも、言い始めをイグリード先生がそう言って遮った。
どうやら教師になりきりたいらしい。
「………先生がどこの何方なのか、まずは最初にお聞きしたいです」
シスターの発言に皆が「そうだそうだ」と頷いた。
するとイグリード先生は自身の立つ教壇の後ろにある黒板に、白チョークでデカデカと名前を書き出した。
その大きく書かれた文字を見て、
誰もが驚愕に満ちた顔をする。
「ハイ♪先生の名前はバルク=イグリードと言います。年は600ウン歳、この世界で大賢者やってま~す♡」
これ以上無理だろうというほど目を見開く者、
口をあんぐりと開けている者、
驚き過ぎて思わず後ろに仰反る者と
とにかく皆がそれぞれ、驚きのリアクションしている。
何もない空間に突如部屋を出現させたのを目の当たりにしたばかりなのだから、こいつが本物の大賢者なのかと疑うような者は居なかった。
イグリード先生は生徒(笑)たちに言う。
「ハイハイ、どんどん質問しましょうね!」
こうなりゃヤケだといった様子で、
ウィルヘルムが挙手をした。
「では先生、質問です。ツェリシアは一体どこに連れて行かれたのですか?」
「精霊界だよ」
「は?」
耳を疑うような答えに、ウィルヘルムは素っ頓狂な声を出した。
「精・霊・界でぇす☆」
「そ、そんな所に、人の身で行けるものなのですか?」
「精霊王の許しを得ればね♪
まぁアルトはもう僕みたいにいつでもどこにでも好きな時に行けるけど」
さも近所に、まるで親戚のおじさんにでも会いに行くような軽い口調で言うイグリード先生に、皆はどう反応して良いのか分からず困惑している。
バイヤージがコホンと一つ、咳払いをしてから挙手をした。
「先生」
次の生徒からの挙手に、イグリード先生は大ハリキリで指名する。
名前は知らないから身体的特徴で。
「ハイ!そこの長髪赤目のキミ!」
「……ではコルベール卿は何故、ツェリシアを精霊界に連れて行ったのですか?」
「それはね、10年前にキミたちに勝手に埋め込まれた異物を取り除くためにさ」
「異物、とは奈落の事ですか?」
「そうそう。でもそんなご大層な名で呼んでるけど、アレはただの胃袋の一部だからね?」
またもや出てきた驚愕の情報に、皆が固まる。
「……………………胃袋?」
「ウン」
「封印のための“器”と聞いていますが?」
「それはこの方法を考えた術式師がウソを吐いたからさ」
「嘘……?では術式師は最初からそれは器ではないとわかっていて当時の国王達を騙した、という訳ですか?」
「そうなるね」
「一体何のために?」
「そりゃ~国を救うためとはいえ、まさか国王に異界の悪魔と契約しました!なんて言えないからじゃない?悪魔との取り引きはこの世界では禁忌の一つとされているし」
「異界の……悪魔……?」
「ウン」
次から次へと出てくる思いも寄らないワードに、
皆が一様に頭を抱え出した。
その様子を教壇から見下ろしながらイグリード先生がイキイキと説明を続ける。
「更に正確に言うならば、この世界とはまた別のフェーズの異世界の悪魔だね。
僕たちが住むこの世界の悪魔とはちょっと違うんだ。そのとある悪魔の胃袋の一部が契約により召喚して、悪魔の魔力に耐えられる適合者の体に移植したんだ」
「それは……何という名の悪魔ですか……?」
「暴食の×××××だよ」
「え?今なんと仰いました?よく聞き取れなかったのですが……」
「あはは☆
悪魔たちの本当の名前は人間には言い表せない言語だからネ。その悪魔が存在する異世界の人間界では、ベルゼブブと呼ばれているらしい。その他にサタンとかルシファーとか呼ばれている悪魔も居るそうだよ」
「……我々はなんと呼べばいいのでしょう?」
「異世界の人間と同じ呼び方でいいんじゃない?
“暴食のベルゼブブ”、僕はブブちゃんと呼んでるよ☆」
頭痛を感じているのか、ミルソンがこめかみを押さえながらイグリード先生に質問した。
「……何故そんな異世界の悪魔をこの世界の術式師が知っていたのですか?」
「それはその術式師が異世界からの転生者だからだよ。この世界にはちょくちょく居るらしいんだ。異世界から転生して、聖女や勇者や悪役令嬢になって活躍している人間が♪」
「……先生はどうやってそれをお知りに?」
「件の術式師の遺骨から過去の記憶を読み取ったんだ。あ、言っとくけど墓荒らしなんかしてないよ?物質転移で遺骨を耳かき一杯分拝借しただけだよ?それもすぐに戻したし、ってアレ?これって墓荒らしになるのかな?」
「この際そこら辺は置いておきましょう。骨から過去の記憶がわかるのですか?」
「ウン。どんなものからでも読み取れるよ♪既に終わった過去のコトならね、でも未来の事は僕にも分からないな~」
「そうですか……しかし他国の事を何故、貴方様がそこまでしてお調べになったのですか?」
「確かに他国の問題までイチイチ首を突っ込んでたらキリがないからね☆ホントはずーっと不干渉を決め込むつもりだったんだけど、まぁ弟子入りの理由を聞かされて無視は出来ないでしょ?アルトはまだ子どもでそんな力が無かったしね。可愛い弟子の為にひと肌脱ぐのは師匠として当たり前じゃない?」
「なるほど……」
600年以上も生き、何を考えているのかわからない飄々としたこの賢者と呼ばれる男の、思いがけない愛情深い一面を見れた事に、皆は内心安堵していた。
「その術式師が何故、どうして悪魔と契約して封緘者なんて人物を用意したのかは……こちらの教科書に書いてあります☆」
そう言いながらイグリード先生が指をぱちんと鳴らすと、
皆の机の上にいきなり教科書と書かれた本が現れた。
「ハイハーイ、教科書の63ページを開いて下さ~い♪そして各自勝手に読んで下さ~い♪」
なんと投げやりな教師だ。
そう思いながら皆が言う通りに63ページを開くと、【転生先で魔力無限の村人になった件について ~家族の為に出来る事~】という物語のタイトルが目に飛び込んで来た。
簡単に内容を要約すると、
元の世界でトラックという大型の獣に襲われた術式師が、気がつけばこちらの世界に魔力を持って転生していた時から物語は始まっている。
そして転生先のこの世界で家族を持ち幸せに暮らしていたところに、アブラス王国では数十年に一度大災害を齎す厄災という現象が起きる事を知る。
大切な家族を守る為、術式師は自分が元居た世界の“暴食”の悪魔を利用する事を思い付いたのだ。
何らかの方法で異界の悪魔の元へと辿り着いた術式師が悪魔の胃の一部を譲り受け、術式化して持ち帰る。
そして特殊な魔力の影響に耐えられる適合者の体を探し出し、術式を用いて具現化して移植させた。
厄災を引き起こすエネルギーの噴出が始まれば、その適合者を通して悪魔の胃袋に全ての魔力を喰らわせる。
そして器である適合者を殺し、術を解いて悪魔に胃袋の一部を変換するのだ。
そうする事により、悪魔は大量の魔力という食事にありつけ、国は厄災を防げて民の命は助かる。
封緘者となって殺される運命の適合者以外は、皆が助かる方法だった。
家族を守る為に、術式師は見知らぬ他人の命を迷う事なく差し出したのだ。
国に話を持ちかけ、実際に厄災が封緘されて事無きを得るまで見届けて、術式師は悪魔との対価を払うために命を差し出した。
術式師が死んでも、術式が存在する限り契約は続行される。
術式化した悪魔の胃袋の一部……奈落と名付けたソレを召喚出来るのだ。
そしてまた数十年後の厄災の前に術式を用いて召喚し、適合者の体に仕込めばよい。
これで自分の子々孫々、無事に暮らしてゆけると、術式師は安堵しながら悪魔に魂ごと喰われたという。
これが150年前に存在した、術式師の物語だった。
「な……なんという……悪魔との契約とは……」
「奈落と称する封緘の“器”は実は術ではなく異界の悪魔の胃袋の一部だったなんて……」
「確かにそれ以降は厄災を防いで来たが……しかし……」
教科書を読み終わり、それぞれショックを隠しきれない様子だった。
イグリード先生が生徒たちに言った。
「みんな内容は理解した?全くトンデモナイよね。悪魔にとってこんな美味しいハナシはないよ。自分の胃袋の一部が数十年に一度出張して行って、満腹になって帰って来るんだからさ」
「あの…先生。思ったのですが、適合者を殺さないで悪魔の胃袋を取り出す事は出来ないのですか?」
「出来ないよ。体に入れた瞬間に癒着して引き剥がす事など不可能だ。無理に除去しようとすれば、それこそ適合者は命を落としてしまう」
「では胃袋を体内に入れたまま、生きてゆけば……」
「それも無理だね~。
悪魔は術を解いて胃袋を自分の元に戻さないと魔力を喰らった事にならないもんね。体内から適合者を殺して胃袋を取り戻そうとするだろうね」
「そんなっ……ではどうすればっ……」
八方塞がりとはこの事か。
六傑の面々が頭を抱えて項垂れる。
それを見ながらイグリード先生は淡々と話し続けた。
「自分たちに理解出来ない力を使用するとどうなるか、人間は知らなければならないね。まぁ僕の与り知らないコトだけどね☆」
教室の中が暗く思い空気に包まれる。
しかし唐突に、イグリード先生はパンッ!と手を叩いて場を引き締めた。
「ハイハイ、暗くならないで!
キミ達はラッキーだよ!その後始末を僕の弟子が買って出てくれたんだからね!」
「……コルベール卿が……?」
「まぁツェリーちゃんの為にという下ゴコロ丸出しだけどネ☆じゃあ二時限目はアルトが片目を失った経緯とツェリーちゃんがどうなるかを教えようね♪」
「え?二時限目……?」
その時、ふいにチャイムの音が聞こえた。
「ハーイ♪じゃあみんな、オヤツの時間にしよっか♡」
……どうやら休み時間に突入したようだ。
イグリード先生が嬉々としてオヤツの用意を始めた。
どこかでチャイムが鳴っているのが聞こえる。
「は~い♪それじゃあみんな、わからない事があったらなんでも質問するように~☆」
教壇に立ち、イグリードが皆に声をかけた。
するとまず、シスター・ウルフがおずおずお手を挙げて質問をする。
「……あなたが……「先生と呼びましょう☆」
シスターが話そうとするも、言い始めをイグリード先生がそう言って遮った。
どうやら教師になりきりたいらしい。
「………先生がどこの何方なのか、まずは最初にお聞きしたいです」
シスターの発言に皆が「そうだそうだ」と頷いた。
するとイグリード先生は自身の立つ教壇の後ろにある黒板に、白チョークでデカデカと名前を書き出した。
その大きく書かれた文字を見て、
誰もが驚愕に満ちた顔をする。
「ハイ♪先生の名前はバルク=イグリードと言います。年は600ウン歳、この世界で大賢者やってま~す♡」
これ以上無理だろうというほど目を見開く者、
口をあんぐりと開けている者、
驚き過ぎて思わず後ろに仰反る者と
とにかく皆がそれぞれ、驚きのリアクションしている。
何もない空間に突如部屋を出現させたのを目の当たりにしたばかりなのだから、こいつが本物の大賢者なのかと疑うような者は居なかった。
イグリード先生は生徒(笑)たちに言う。
「ハイハイ、どんどん質問しましょうね!」
こうなりゃヤケだといった様子で、
ウィルヘルムが挙手をした。
「では先生、質問です。ツェリシアは一体どこに連れて行かれたのですか?」
「精霊界だよ」
「は?」
耳を疑うような答えに、ウィルヘルムは素っ頓狂な声を出した。
「精・霊・界でぇす☆」
「そ、そんな所に、人の身で行けるものなのですか?」
「精霊王の許しを得ればね♪
まぁアルトはもう僕みたいにいつでもどこにでも好きな時に行けるけど」
さも近所に、まるで親戚のおじさんにでも会いに行くような軽い口調で言うイグリード先生に、皆はどう反応して良いのか分からず困惑している。
バイヤージがコホンと一つ、咳払いをしてから挙手をした。
「先生」
次の生徒からの挙手に、イグリード先生は大ハリキリで指名する。
名前は知らないから身体的特徴で。
「ハイ!そこの長髪赤目のキミ!」
「……ではコルベール卿は何故、ツェリシアを精霊界に連れて行ったのですか?」
「それはね、10年前にキミたちに勝手に埋め込まれた異物を取り除くためにさ」
「異物、とは奈落の事ですか?」
「そうそう。でもそんなご大層な名で呼んでるけど、アレはただの胃袋の一部だからね?」
またもや出てきた驚愕の情報に、皆が固まる。
「……………………胃袋?」
「ウン」
「封印のための“器”と聞いていますが?」
「それはこの方法を考えた術式師がウソを吐いたからさ」
「嘘……?では術式師は最初からそれは器ではないとわかっていて当時の国王達を騙した、という訳ですか?」
「そうなるね」
「一体何のために?」
「そりゃ~国を救うためとはいえ、まさか国王に異界の悪魔と契約しました!なんて言えないからじゃない?悪魔との取り引きはこの世界では禁忌の一つとされているし」
「異界の……悪魔……?」
「ウン」
次から次へと出てくる思いも寄らないワードに、
皆が一様に頭を抱え出した。
その様子を教壇から見下ろしながらイグリード先生がイキイキと説明を続ける。
「更に正確に言うならば、この世界とはまた別のフェーズの異世界の悪魔だね。
僕たちが住むこの世界の悪魔とはちょっと違うんだ。そのとある悪魔の胃袋の一部が契約により召喚して、悪魔の魔力に耐えられる適合者の体に移植したんだ」
「それは……何という名の悪魔ですか……?」
「暴食の×××××だよ」
「え?今なんと仰いました?よく聞き取れなかったのですが……」
「あはは☆
悪魔たちの本当の名前は人間には言い表せない言語だからネ。その悪魔が存在する異世界の人間界では、ベルゼブブと呼ばれているらしい。その他にサタンとかルシファーとか呼ばれている悪魔も居るそうだよ」
「……我々はなんと呼べばいいのでしょう?」
「異世界の人間と同じ呼び方でいいんじゃない?
“暴食のベルゼブブ”、僕はブブちゃんと呼んでるよ☆」
頭痛を感じているのか、ミルソンがこめかみを押さえながらイグリード先生に質問した。
「……何故そんな異世界の悪魔をこの世界の術式師が知っていたのですか?」
「それはその術式師が異世界からの転生者だからだよ。この世界にはちょくちょく居るらしいんだ。異世界から転生して、聖女や勇者や悪役令嬢になって活躍している人間が♪」
「……先生はどうやってそれをお知りに?」
「件の術式師の遺骨から過去の記憶を読み取ったんだ。あ、言っとくけど墓荒らしなんかしてないよ?物質転移で遺骨を耳かき一杯分拝借しただけだよ?それもすぐに戻したし、ってアレ?これって墓荒らしになるのかな?」
「この際そこら辺は置いておきましょう。骨から過去の記憶がわかるのですか?」
「ウン。どんなものからでも読み取れるよ♪既に終わった過去のコトならね、でも未来の事は僕にも分からないな~」
「そうですか……しかし他国の事を何故、貴方様がそこまでしてお調べになったのですか?」
「確かに他国の問題までイチイチ首を突っ込んでたらキリがないからね☆ホントはずーっと不干渉を決め込むつもりだったんだけど、まぁ弟子入りの理由を聞かされて無視は出来ないでしょ?アルトはまだ子どもでそんな力が無かったしね。可愛い弟子の為にひと肌脱ぐのは師匠として当たり前じゃない?」
「なるほど……」
600年以上も生き、何を考えているのかわからない飄々としたこの賢者と呼ばれる男の、思いがけない愛情深い一面を見れた事に、皆は内心安堵していた。
「その術式師が何故、どうして悪魔と契約して封緘者なんて人物を用意したのかは……こちらの教科書に書いてあります☆」
そう言いながらイグリード先生が指をぱちんと鳴らすと、
皆の机の上にいきなり教科書と書かれた本が現れた。
「ハイハーイ、教科書の63ページを開いて下さ~い♪そして各自勝手に読んで下さ~い♪」
なんと投げやりな教師だ。
そう思いながら皆が言う通りに63ページを開くと、【転生先で魔力無限の村人になった件について ~家族の為に出来る事~】という物語のタイトルが目に飛び込んで来た。
簡単に内容を要約すると、
元の世界でトラックという大型の獣に襲われた術式師が、気がつけばこちらの世界に魔力を持って転生していた時から物語は始まっている。
そして転生先のこの世界で家族を持ち幸せに暮らしていたところに、アブラス王国では数十年に一度大災害を齎す厄災という現象が起きる事を知る。
大切な家族を守る為、術式師は自分が元居た世界の“暴食”の悪魔を利用する事を思い付いたのだ。
何らかの方法で異界の悪魔の元へと辿り着いた術式師が悪魔の胃の一部を譲り受け、術式化して持ち帰る。
そして特殊な魔力の影響に耐えられる適合者の体を探し出し、術式を用いて具現化して移植させた。
厄災を引き起こすエネルギーの噴出が始まれば、その適合者を通して悪魔の胃袋に全ての魔力を喰らわせる。
そして器である適合者を殺し、術を解いて悪魔に胃袋の一部を変換するのだ。
そうする事により、悪魔は大量の魔力という食事にありつけ、国は厄災を防げて民の命は助かる。
封緘者となって殺される運命の適合者以外は、皆が助かる方法だった。
家族を守る為に、術式師は見知らぬ他人の命を迷う事なく差し出したのだ。
国に話を持ちかけ、実際に厄災が封緘されて事無きを得るまで見届けて、術式師は悪魔との対価を払うために命を差し出した。
術式師が死んでも、術式が存在する限り契約は続行される。
術式化した悪魔の胃袋の一部……奈落と名付けたソレを召喚出来るのだ。
そしてまた数十年後の厄災の前に術式を用いて召喚し、適合者の体に仕込めばよい。
これで自分の子々孫々、無事に暮らしてゆけると、術式師は安堵しながら悪魔に魂ごと喰われたという。
これが150年前に存在した、術式師の物語だった。
「な……なんという……悪魔との契約とは……」
「奈落と称する封緘の“器”は実は術ではなく異界の悪魔の胃袋の一部だったなんて……」
「確かにそれ以降は厄災を防いで来たが……しかし……」
教科書を読み終わり、それぞれショックを隠しきれない様子だった。
イグリード先生が生徒たちに言った。
「みんな内容は理解した?全くトンデモナイよね。悪魔にとってこんな美味しいハナシはないよ。自分の胃袋の一部が数十年に一度出張して行って、満腹になって帰って来るんだからさ」
「あの…先生。思ったのですが、適合者を殺さないで悪魔の胃袋を取り出す事は出来ないのですか?」
「出来ないよ。体に入れた瞬間に癒着して引き剥がす事など不可能だ。無理に除去しようとすれば、それこそ適合者は命を落としてしまう」
「では胃袋を体内に入れたまま、生きてゆけば……」
「それも無理だね~。
悪魔は術を解いて胃袋を自分の元に戻さないと魔力を喰らった事にならないもんね。体内から適合者を殺して胃袋を取り戻そうとするだろうね」
「そんなっ……ではどうすればっ……」
八方塞がりとはこの事か。
六傑の面々が頭を抱えて項垂れる。
それを見ながらイグリード先生は淡々と話し続けた。
「自分たちに理解出来ない力を使用するとどうなるか、人間は知らなければならないね。まぁ僕の与り知らないコトだけどね☆」
教室の中が暗く思い空気に包まれる。
しかし唐突に、イグリード先生はパンッ!と手を叩いて場を引き締めた。
「ハイハイ、暗くならないで!
キミ達はラッキーだよ!その後始末を僕の弟子が買って出てくれたんだからね!」
「……コルベール卿が……?」
「まぁツェリーちゃんの為にという下ゴコロ丸出しだけどネ☆じゃあ二時限目はアルトが片目を失った経緯とツェリーちゃんがどうなるかを教えようね♪」
「え?二時限目……?」
その時、ふいにチャイムの音が聞こえた。
「ハーイ♪じゃあみんな、オヤツの時間にしよっか♡」
……どうやら休み時間に突入したようだ。
イグリード先生が嬉々としてオヤツの用意を始めた。
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